第44話「巣立つ雛鳥」

「ただいま~、ヴィヴィオ来てたんだ。」

 大人ヴィヴィオ達の話を聞き終えて部屋から出たところでアリシアが帰ってきた。隣で手を繋いでいたチェントがヴィヴィオを見て一瞬眉を細め手を離してプレシアの部屋へと駆け込んでしまった。その様子に2人揃って笑う。

「おかえり、アリシア。」 
「平気?」
「うん、なんとか…。それよりフェイトママから話聞いたよ、コラード先生の研修受けるんだって?」

 
 今朝フェイトから話を聞いて驚いた。管理局や教会の関係もあるけれど、何より彼女は魔力コアが無いと魔法が使えない。それなのにどうして高ランク魔導師の研修を受ける事になったのか彼女に聞いたけれど

「ヴィヴィオもそうだけど、アリシアもね…知らなくちゃいけないから」

 そう答えるだけだった。

「…うん、ヴィヴィオがあっちに行ってる間に話したよ。優しそうに見えて厳しそうな先生だね。」

 彼女が何を知らなくちゃいけないのだろう?

「あっちの私達は?」
「中にいるよ。向こうから持って帰ったデータを調べてる。プレシアさんも一緒」
「そう…」

 彼女はそう答えると部屋に向かうが中に入る前に立ち止まってしまった。
その様子を見て

「ねぇ、少し外でお話しよ♪」

 彼女の手をとって外へ駆け出した。


「わぁ~♪ まだ暑いね。でも風が気持ちいい~♪」

 私達がやって来たのは少し歩いた所にある丘。夏が終わり日を追って涼しくなっていくけれどまだ風が無いと汗がしたたりそうだ。

「そうだね~♪」

 隣で彼女も目を瞑り気持ちよさそうに髪を風に梳かしている。
 ここで私は彼女に背中を押して貰った。
 今度は私が背中を押す番…

「ねぇ、フェイトママかアリシアさんに何か言われた?」

 彼女の顔が一瞬強ばる。

「…どうして? …フェイトから聞いた?」
「ううん、さっき研究所でプレシアさんの部屋に入らなかったでしょ。いつもなら『先にただいま~』って言ってるんじゃない? 中にアリシアさんが居たからじゃないかなって。それに、私がフェイトママって言った時ちょっとビックリっていうか、何か怖がった様に見えた。」

 そう言うと彼女はハァーと深く息をついて

「気付かれないって思ったんだけど、バレバレだったんだ。ねぇヴィヴィオ…私達って何なのかな?」

 そう言ってアリシアは話し始めた。

 ブレイブデュエルの世界から戻ってフェイトに連れられてコラードに会った事、その後で彼女に言われた事、そして異世界のアリシアと話した事…
 アリシアは1つ1つ静かに話してくれた。

「私は何を知らなくちゃいけないのかな? 私…あっちの私みたいに何かあってヴィヴィオが行くとき行ってらっしゃいって手を振って送り出すのが正しいのかわかんない…ヴィヴィオはどう思う?」

 彼女の話を聞いて少し考える。でもその答えは変わらず

「わかんない」

 舌をペロッと出して答えるとアリシアは思いっきりこけた。

「ヴィ~ヴィ~オ~~っ!」
「だってアリシアは私じゃないでしょ、それにあっちのアリシアさんでもない。私ね、さっきプレシアさんに言われたの。『異世界について私が考えて私の意思でどうしたいのかを考えなさい』って。私達、今までいっぱい色んな時間や世界に行った。でも絶対にしなきゃいけない事がまだ残ってる。」
「しなきゃいけない事?」

 彼女の顔を見る。

「アリシアとプレシアさんを助けて私の時間に連れて行く。私とアリシアがクラスメイトから友達、親友になる為に…それだけは絶対にしなきゃいけない。出来なくなったら多分私達も消えちゃう…」
「あ……」
「それまでにもっと色んな事を知って学ばなきゃいけないし、何があっても絶対に帰って来なくちゃいけない。」
「フェイトママはきっとブレイブデュエルの世界で練習したあの剣を見て思ったんじゃないかな…アリシアさんも…あっちの私が思いっきり動ける様に考えてるんだと思う。」
「でもそれってアリシアさんの考えた結果だし、フェイトママが心配しているだけでアリシアがどうしたいのかっていうのとは違うでしょ。」
「だから私にはわからない。アリシアはアリシアで、私は私で考えなくちゃいけない。きっとこれからも…子供だけど、子供だからって言い訳できないでしょ♪」

 頬を崩して答える。
 考えるのと悩むのとは違う。考えながら前を向いて進めば良い。

「ヴィヴィオはやっぱり凄いね。うん、だったら私も考えなきゃね。」

 そう言って笑顔で答えるアリシアはいつもの彼女に戻った気がした。



 それから数日間、ヴィヴィオは普段の生活に戻った。
 必死になって1日で課題を全て仕上げて提出したり、学院祭にヴィヴィオが来ていた事をリオとコロナから教えて貰ってアリシアが黙っていたのを知ってジト目で見たりと色々学院の中であって…

「そうね、2人揃ったなら丁度良いわ。10分間の間に1撃与えてみなさい」
「先生、あまり無理されない方が…」
「私が代わりに…」
 
 コラード先生の研修を一緒に受け始めて…
 
「アリシア、決勝のアレでっ!」
「いくよっヴィヴィオ♪」  
  
偶々空いていた教導隊の訓練施設で
 近接距離でアリシアがコラードを引きつけている間に上空から2人の居る場所目がけて

「まだ治りきってないからかなり弱めだけどっ!スタァアライトっブレイカァァアア!」
「!?」
「こっちなら魔法だけでっ、バルディッシュ!!」
【SonicMove】
 
 ヴィヴィオの拡散集束砲の中を彼女の鎧に守られてアリシアが高速移動魔法で彼女に迫り4連撃を全てヒットさせる。
 爆風が消えた後に残ったのはコラードの脇に短剣状のバルディッシュを入れたアリシアの姿。

「魔力使ってないから1撃かは判りませんけど、代わりに4回当てちゃいました。」
「ええ、ジャケットで全て消えたわ。集束砲はカモフラージュで本命はアリシア…なのはとフェイトより見込みありそうね。いいコンビネーションよ。」

 降りてきたヴィヴィオとアリシアがハイタッチして喜ぶのをなのはとフェイトはヤレヤレと思いながら眺めていた。



 そして…

「うん、全快♪」

 魔力、体力共に完全に戻ったヴィヴィオは朝からプレシアの研究所を訪れていた。

「それじゃ、行きましょうか。」

 大人の私とアリシア、チェントと…

「ママ、チェント、行ってきます!」

 決意の表情でアリシアがプレシアとチェントに言う。

「ヴィヴィオ、アリシアを頼むわね。」
「はい♪」

 異世界に行く日が決まってからアリシアはプレシアに私と一緒に行きたいと話した。動揺したプレシアはフェイトと何故かリンディまで呼んで彼女を思いとどまらせようとしたけれど…

「私はヴィヴィオみたいに魔法が使えないからあっちで事件に巻き込まれたら無力どころか足手まといになるかも知れない。でも私だから出来る事も絶対ある。だから一緒に行きたい。行ったら無茶しない…って約束出来ないけど、絶対元気に帰ってくるって約束する。だからお願い。」
「プレシア、アリシアを信じましょう。」

 逆にリンディを味方につけて彼女の首を縦に振らせた。
 後から大人の私に聞いた私は驚くより呆れかえったのだけれど…


「いくよ、RHd」

 ジャケットを纏って悠久の書を取り出す。そして異世界…来た部屋を思い浮かべ

「行ってきます!」

4人を連れて一気に刻の中へと飛び立った。


~コメント~
 1週間掲載が遅れました。すみません。
 少し重い話が続いてましたが、無事にヴィヴィオ達も飛び立ち第4章も終わり次は新章です。
 今話の掲載が遅れたのはヴィヴィオとアリシアの課題についてでした。
 ASシリーズの主人公であるヴィヴィオは当然ですがアリシアも大切な登場人物の1人です。
 ヴィヴィオの窮地を身を挺して守ったり、行く道を示したり、時には暴走して本気で怒らせたりもしましたが彼女が居なければジュエルシード事件や以降の事件も大きく変わってしまい物語が崩壊していた事でしょう。
 4章ではヴィヴィオだけでなくアリシアも自分の居る意味について考えさせられています。
 その部分の会話が酷く理屈ばった話になってしまい、色々考えて本話に至りました。(これでもまだあんたら本当に子供か?と言われそうな話をしていますが…)

 次話より再びForce世界編です。飽きずに読んで頂けると幸いです。

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