第45話「特務6課潜入作戦(前)」

 -飛空艇フッケバイン追撃戦から数日が経過-

 第3管理世界ヴァイゼン、特務6課の駐留所の1室で端末を動かす人影があった

 -その構成員の足取りは依然掴めず捜査は膠着していたが
 -特務本部のEC対策と装備、対応人員の強化は確実に進行していた。-

 そして…小さな朗報が1つ…

 
 先程、親友であり上司でもある彼女のメッセージと『心配をかけた』と1文だけ送ってきた彼女のメッセージを開き頬を緩める。

「こらーっ! 休んでるんじゃねーっ! まだ準備運動だぞ!!」

 外から聞こえてきてその人影-フェイトは窓の方に視線を移す。
 事件で6課で預かる事になったトーマ・アイシス・リリィの教導中らしい。どんな状況かが声か想像出来る。

 その時

【コンコン】
「フェイトちゃん、少しいい?」

 ドアのノック音がしてからなのはが顔を出した。ヴィータに教導を任せてきたらしい。

「うん、いらっしゃい。」

そう言って彼女を部屋に迎え入れる。  

「じゃあ少しだけ。」

そう言って中に入ってきた。その足取りから

「何かいい事あった?」

「うん♪ ヴィヴィオがこっちに来るんだって。」

 嬉しそうに言う彼女を見てフェイトも頬を綻ばせる。

「ヴィヴィオ元気だった?」
「メッセージだったけど、元気みたい。お昼前位にこっちに着くんだって、私達やはやてちゃんに大切なお話があるって。何だろうね?」

 フェイトとなのはだけでなくはやてにも大切な話? 

「う~ん、何だろうね。午後からチンクと出かけるからそれまでに来るといいな。」

 フッケバイン追撃戦の後に発生した彼女達によるヴァンデインコーポレーションの襲撃事件。
 その報を耳にして逮捕出来なかった責任の重さを痛感した。
 ECにも関係している可能性もある為、聴取に赴くが事件現場を目にすると気分が重くなる。出来ればその前に彼女に会いたいと思う。

「わかった。はやてちゃんも少しなら時間作れるって言ってたから、お昼前に来られるか聞いてみるね。」
「じゃあ教導中だからまた後でね」
「うん、また後で。」

 手を振って小走りで部屋を出て行った。



 それから小一時間後、訓練場になのはとフェイト、そして特務6課司令、八神はやての姿はあった。いつ頃来るのかを聞くと再度のメッセージで早めに行くから訓練場で待っていてと書かれていたからだった。
 内容に訝しげに思いながらも彼女が来れば理由もわかると思いメッセージに従った。
 待つ事数分、3人の前に淡い光球が現れて 

「なのはママ、フェイトママ、はやてさん…こんにちは。」

 ヴィヴィオが降り立った。

「「「………」」」
「……」
「……ヴィヴィオ?」

 目の前に現れた彼女を見て3人は驚きの余り言葉を失う、見た目も声もヴィヴィオなのだけれど…姿が知っている彼女じゃなくて幼い感じがする。それに…彼女は転移魔法を使えない。
 ヴィヴィオに違いないのだけれど…誰?

「あっ! もしかして…昔遊びに来た…異世界のヴィヴィオ?」

 思い当たったのは数年前にやってきた異世界のヴィヴィオ。恐る恐る彼女に聞く

「!!」
「あっ!!」

 フェイトとはやても思い出したらしい。

「うん、久しぶり。偽物だって思われないかビクビクしちゃった。」

 ニコリと笑って答える彼女を見てなのは達はここに呼ばれた事に納得した。
 流石に彼女がそのまま正面ゲートから来たら大騒動になりかねない…



「メッセージを送ったのはヴィヴィオ? どうして家の端末から?」

 なのはに聞かれて頷いて答える。

「ヴィヴィオ…こっちの私にスペアの端末を借りたの。こっちじゃデバイス使えないから。それよりメッセージにも書いてた大切なお話があるの。少しだけいい?」
「大切な話って何?」
「ヴィヴィオがこっちに来たんと関係あるん?」

 ここで話していて他の誰かに見つかるよりさっさと動いた方がいい。そう考えて

「うん…それも含めて一緒に来て」
「えっ?」

 そう言うと悠久の書を取り出して球体を作り出し3人を連れて飛んだ。


「ヴィヴィオ、行ったみたい。私達も作戦開始するよ。」
「うん…」

 その様子を見て2人は動き出した。



「っと…」

 トンっと軽い音を立てて降りる。連れてこられたなのは達は辺りをキョロキョロと見回す。

「ここは?」
「ミッドチルダの何処かの街みたいだけど?」

 外の風景を見てフェイトが呟く

「ヴィヴィオの転移魔法?」
「うん、ここは私達が借りてる部屋。」
「「「私達?」」」

 3人声を揃えて聞く。その時

「はい、こちらでははじめまして。母さん、はやてさん」

 ドアが開いて大人ヴィヴィオが入ってきた。

「「「ヴィヴィオ!?」」」

 悲鳴に近い声をあげるなのは達。彼女達を驚かせるつもりは無かったけれど、説明する方がややこしいと考えて連れてきた。でも…

「やっぱり少し話した方が良かったかな」

 私達を見比べる3人を見て苦笑するしかなかった。



「あなたが異世界の数年前のヴィヴィオで…」
「あなたが異世界の数年後のヴィヴィオ…」
「で、ここには居ないけどここのヴィヴィオも居る…と」
「「うん」」

 とりあえず靴を脱いでもらってリビングに案内した。
お茶を飲んで落ち着いて貰う。
手に持ったカップはまだ震えてるけれど少しは落ち着いてくれたらしい。

「あっ! そっちの大きい方のヴィヴィオ、フッケバインの追撃でブレイカーをっ!」

 はやてが椅子から立ち上がって大人ヴィヴィオを睨む。彼女の言葉でなのはとフェイトも表情を険しくする。

「ごめんなさい。はやてさんが落とそうとした船の中にヴィヴィオ、彼女が居たから…。あの状況で説明する時間も余裕も無くて、私が作ったシールドも全部壊されて残った魔力で撃ったからあの後気絶して船から落ちちゃったんです。」

 転移した後で何かあったらしい。

「ヴィヴィオ、飛空艇の中で魔法使った?」
「うん…何だか凄い怖い感じがして…でも、一瞬でジャケットも魔法も壊されて私も気を失っちゃって。気がついたらここに居たの」
「……まぁいい、過ぎた事やし…。私はアレを直撃させて船を落とそうとしてたから中に居ったら怪我で済まん可能性はあった。あのタイミングで止める方法はアレしか無かった…。それに2人のシールドのおかげでヴォルフラムも落とされんで済んだかも知れん。」
「色々言いたい事はあるけど今になって言っても仕方ない…」

 あからさまな不快感と深い溜息をつきながらはやては再び腰を落とした。それを見て大人ヴィヴィオはホッと息をついた。



(凄い…アリシアさんの言った通りになっちゃった…)

 はやてや大人ヴィヴィオの会話を聞きながら昨夜の会話を思い出していた。


 昨夜ヴィヴィオは家で大人ヴィヴィオと一緒に転移後の行動について話し合った。

『最優先でしなきゃいけないのは特務6課のデータ確保。ラプターもそうだけどECウィルスや捜査状況、フッケバインの情報とか色々。とりあえずで取ってきてもデータの整理に時間がかかるだけだから私とチェントが特務6課に潜入する。』
「「潜入!?」」

 端末向こうで話す彼女に前のめりになって聞き返す。

『私達の方がデータ解析能力は高いし、変身魔法で何年後かになっちゃえばあっちのフェイトとヴィヴィオと見えるでしょ。その間ヴィヴィオにはフェイトとなのはさん、あと出来ればはやてさんを連れ出して欲しいかな。できる?』
「連れ出す? 6課の外に?」
『ううん、もっと遠く…そうだ!ミッドチルダのあの部屋に連れてきちゃって。1時間位あれば欲しいデータは取れるからそれまで引きつけて。』

 1時間…話すにしてはかなりの長時間。どんな話をすればいいかわからない。

「アリシア、魔導書の話とラプターの話しちゃうけどいいよね。ヴィヴィオが母さん達を連れてきたら私が途中で出ていって時間を作る。」
『そうだね、いつかは話さなきゃいけない話だし問題ないと思う。ヴィヴィオ、多分はやてさんから責められるからちゃんと謝ってね。言い返すと余計にややこしくなるし、謝ってから事情を話せば判ってくれるから。それとフェイト達の質問にもきちんと答えて、私達の目的はECウィルスを無くす事でもフッケバインを逮捕する事でもない。魔導書に書かれた言葉を解決する事なのを忘れないで。フェイト達に手伝って貰う時が来る可能性も考えなきゃ。』
『こっちのヴィヴィオ、あなたは聞かれたら答える位でいいよ。後はそっちのヴィヴィオがリードするから。』
「うん。」
『データが取れたらヴィヴィオにメッセージを送るから話を切り上げて3人を元の場所に返して、私達と合流。それで3人で部屋に戻る。もし見つかっちゃったら転移魔法で逃げるつもりだけど、私の魔法じゃ追いかけられちゃうからチェントが刻の魔導書を使って空間転移する。まぁこれは最終手段…だけどね。』

 チェントの表情が強ばるのを見てアリシアが彼女の頭を撫でて引き寄せる。

「うん、でも…ヴォルフラムにはティアナさんやシャーリーさんも居るんでしょ? 大丈夫?」
『なんとかなるんじゃない? エイミィさんやクロノさん、ユーノさんが相手だったら本気で考えなきゃだけど。』

 軽く答える彼女があの時は頼もしく思えたのだけれど…

(あっちの2人…大丈夫かな?)

 ヴィヴィオが不安そうに大人ヴィヴィオを見る。すると彼女はウィンクして

「大丈夫、私達の参謀が本気になったら凄いんだから♪ 私達は私達の役目に集中しよう。」

 小声で言う彼女に頷くのだった。

~コメント~
 新章突入&ようやく異世界組が本領発揮です。

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