第54話「その日、ミッドチルダ(撃vs速)」

 その日の朝、ミッドチルダの高町家ではヴィヴィオが朝のトレーニングを終えて着替えStヒルデ学院に登校した。朝の最初の授業も終わり、次の授業の用意をしていた時。シスターが慌てて駆け込んできて

「皆さん、これからの授業は自習です。決して外に出ないでください。」

 それだけ言うと彼女は部屋を出て行った。

「なに?」

 ヴィヴィオはリオやコロナと顔を見合わせ廊下を覗くとさっきの彼女が1部屋ずつ回っている。
 そこに校内放送が流れる。彼女が言ったのと同じ話だ。
 直後教室で

「大変っ!!ミッドチルダ全域に警報だって」

 クラスメイトがデバイスを使ってニュースを見たらしい。
 ヴィヴィオもクリスに頼んで何が起きているのかとモニタを出して見て…固まってしまった

「…………」
「ヴィヴィオ……?」
「…これ…聖王のゆりかご?」  

 コロナが『聖王のゆりかご』と言ったのを聞いて我に返って。

「わ、私行ってくる。」

 教室を飛び出した。
 あれは間違い無く聖王のゆりかご、ここで動かせるのは…彼女しか居ない。

「話を聞かなくちゃ…」

 何故あんな物を動かしたのか? 何をするつもりなのか?
 本人に聞かなくちゃいけない。走って行くのがもどかしい一気に飛んで

「クリスっ、セットアップ!」

 教室棟から外に出てバリアジャケットを纏って飛ぼうとした時

「行かせないっ!!」
【バキッ】

横から飛び込んできた影にぶつかってそのまま地面に叩きつけられそうになり慌てて姿勢を立て直す。

「誰っ! アリシア!?」

 目の前に居たのは以前異世界のヴィヴィオと一緒に遊びに来ていたアリシアだった。彼女はバリアジャケット姿で両手に剣を持っている。

「今、ヴィヴィオを行かせる訳にはいかない。」
「!! 何をするつもりっ?」
「ヴィヴィオは知らなくて良い。ううん、知っちゃいけない。ここは攻撃しないから教室で待ってて…それでも行くって言うなら…私が止める。」

 アリシアは静かにそう言って構えた。

「アリシア…」

 彼女の目は真剣だった。



『ヴォルフラム浮上開始、目標ミッドチルダ』

一方、特務6課はヴォルフラムに本局出向中の者以外のフォワードメンバーを乗せて飛び立とうとしていた。
 聖王のゆりかごはミッドチルダ北部から首都クラナガンへまっすぐ向かっている。
 しかも高度を上げながらだ。常に月の魔力を得られる位置まで来られたらクラナガン、ミッドチルダの民間人が危険に晒される。
 それまでには止めなければいけない。
 兆候も無かった為、首都航空隊は兎も角次元航行部隊はまだ出撃準備中で即座に動けない。
 そこで苦肉の策としてレティは特務6課に最優先として出撃命令を出した。
 JS事件で特務6課の前身の機動6課は聖王のゆりかごに入り動力を破壊し無力化させている。
 はやてもその意を察し、命令通りヴォルフラムを稼働させ転移しようとした時、

【ドォォオオオオン!!】

 大きな音と共に船体が衝撃で揺れた。艦長席から落ちそうになったのを何とか踏ん張る。

「何? 何が起きた?」
「甲板に衝撃、上空からの攻撃です。上空に艦あり、飛空艇フッケバイン!!」

 モニタには艦首から狙う少女が持った銃口をこちらに向けていた。

「シールド展開、迎撃っ!」

 この状況でこのタイミング。一体誰がとはやては歯ぎしりをした。



「船は壊しても良いけど、負傷者を出しちゃだめよ~♪」

 フッケバインの中でカレンは笑みを浮かべ小瓶を弄びながら呟く

 先日、アジトに突然彼女はやって来た。
 藍色の長い髪をなびかせながら他の面々に目を向けずカレンの目の前にズカズカと。
 手を動かせば彼女の命なんて直ぐに奪えるという位置で彼女は取引したいと言ってきたのだ。
 暇つぶしにはいいかと思い彼女の話を聞く。
 彼女は最初に胸元から取り出した小瓶を渡し

「その中にはECウィルスを無効化するウィルスが入っている。もしあなた達が適合者ならこれを使えば元に戻れる。戻るつもりが無いなら対抗方法を探した方がいいよ。管理局にも同じ物を渡してるから。」 

 何の冗談かと思って小瓶をテーブルに置きながら

「これが交換条件? そっちの条件は何かしら?。」
「2日後、特務6課がヴォルフラムでミッドチルダへ向かう。それを止めて欲しい。負傷者は…仕方ないけど、殺人なしで。」
「私達を何だと思っているのかしら?」

嘗められたものだ。彼女を睨むが意に介さない様に答える。

「もし誰かを殺したら…私はあなた達を全員消す。これが証拠」

 そう言って1枚の写真を見せた。そこには昔幼少時の自分と思われる姿が映っていた。

「これが? 只の写真じゃない」
「時間移動魔法…撮った時間と場所も言おうか?」

 酷く不貞不貞しい態度にヴェイロンとサイファーが席を立って彼女に掴みかかろうとする。しかし彼女はそれにも眉ひとつ動かさず 

「止めておいた方が良い。あなた達もそこにあった樽みたいになりたくないなら」

 そう言って指さした先にはヴェイロンが置いていた筈の酒樽が消えていた。

「奪ったからここにある。襲われなければここにはない。私は取引をしに来ただけ。するの? しないの?」

 表情を変えず淡々と話す彼女。どんな魔法かは知らないけれど、カレンは少し興味を覚えた。

「いいわ、足止めした後は? 私達も口封じする?」
「好きにすればいい。私はこの時間の人たちとこれ以上関わるつもりもないから。」

 そう言うと彼女は虹色の光を発して消えてしまった。
 

 奇妙な女だったと思いながらも事前にこれを知っていたから足止め役を頼んだのであれば面白い。
 何かの為なら善悪を気にしない性格は特に気に入った。

「急いでミッドチルダに戻るつもりだったみたいだけど、恨まないでね♪」

ミッドチルダからのニュースを聞きながら特務6課に一泡吹かせられた満足からかいつにもなく上機嫌だった。



「ヴィヴィオ…大丈夫?」
「大丈夫。」

 ヴィヴィオは玉座に座りながら魔法力の出力を制御していた。
 聖王のゆりかごは古代ベルカでもオーバーテクノロジーの塊、エレミアの書では聖王のゆりかごを動かすと鍵となった人の自我が消え数年で命を落とすと書かれていた。
 ヴィヴィオは座った途端自分の中にある魔力が一気に吸われていくのを感じてその理由が判った。
 玉座に座った適合者は鍵であり聖王のゆりかごの動力となる為に魔力源、だからスカリエッティはヴィヴィオを作りレリックを無理矢理埋め込んだ。
 でも…完全適合した完全体レリックとレリック片をコアにしたデバイスを持ったヴィヴィオにとって立てない、意識を保てない程ではなく魔力消耗は酷いけれど2日間の間に何とか抑える方法を覚えた。
 そもそも聖王のゆりかごも各部の修復でヴィヴィオの魔力を使っただけでその後飛び上がってしまったらそれ程消耗していない。
 むしろ上空の月から魔力を受けられる状態になっている。少しずつだけれど魔力が戻って来ている感じがした。
 今はどちらかと言えば初めて飛ばして調整をどうすれば良いのか試行錯誤していた。

「アリシアさん、どうしてこれが海の中にあるって判ったんです?」

 近くで操作パネルを色々触っているアリシアに聞く。

「あるかどうかは賭けだったんだ。」
「この船はね、ヴィヴィオが時空転移に目覚めていたらチェントの事件の時にヴィヴィオが沈めてた筈だったの。」
「「「え?」」」

 2人のヴィヴィオとチェントが彼女の方を向く 

「私も昔のニュース映像でしか見てないんだけど、JS事件でゆりかごが後からもう1隻飛び上がってきて、途中で虹色の光が中から出て沈んじゃったでしょ。覚えてない?」

 言われてみれば…
 チェントを追いかけていた時、幼いヴィヴィオとなのはを残し、彼女を連れて別のゆりかごに飛んで…スターライトブレイカーで駆動用の結晶もろともぶっ飛ばしたような…

「ここってヴィヴィオが時空転移使えないからチェントも居ないでしょ。だったら大昔のゆりかごが残ってるんじゃないかなって。アリシアにここのJS事件の資料集めて貰って私の記憶と合わせて大体の場所を絞り込んで…」

ヴィヴィオも頭の中からすっぽり抜け落ちていた。そんな物まで頭に入れて作戦を考えている彼女を凄いと感心する。

「地上も管理局も大騒ぎになってると思うけど、これからどうするの?」
「子供のヴィヴィオが頑張ってるんだから、次は大人のあなたが頑張る番♪ …それよりも…アリシア、ヴィヴィオを止められてるかな。」

 聖王のゆりかごを見た時点で誰が動かしているのかと真っ先に正体に気づくのはここのヴィヴィオ、アリシアは1人で彼女を止めに行った。彼女がこっちに来ると事態は予想出来なくなる。

「アリシア…」

 ここで今動けるのは彼女だけ。ヴィヴィオは彼女の無事を願うのだった。



「ハァアアッ!!」
その頃アリシアは戦っていた。
 バリアジャケットを纏ったヴィヴィオは大人モードで大きくなっていてリーチが長い。更にアリシアの連撃を当たる寸前で避けている。

(何か変だ…)

 一方のヴィヴィオもアリシアの変則的な動きにまだ合わせられてなかった。それは彼女が聖王のゆりかごを見て焦り、アリシアよりもそっちの方に意識が向いていたからなのだけれど…

(これ…まさかヴィヴィオも?)

 1回転して勢いのまま刃を打ち付ける。だがそれも直前に力点から避けられてしまう。
 その動きを見て似た動きを思い出す。だとすると…本気でいかないと倒される。

『…神の剣は守る為の剣、守りたい人の為に振るう剣。』
『負けたら守れなくなる、振るう時はそれを覚悟しなくちゃいけない。』

 恭也と美由希とのキャンプで聞いた言葉。その時のアリシアは守るという意味がよくわからなかったから漠然と聞いていた。
でも今ならよくわかる。

「私が負けたらヴィヴィオを守れなくなる…。バルディッシュ、アシストフルブーストでお願い。ここでヴィヴィオを行かせる訳にはいかないの。」
【Yes.Sir】

 思いっきり後ろにジャンプし、重心を下げ右手のバルディッシュを前にかざし左のそれを弓を引く様に絞る様に構える。
 ゲームの中でしか使ってないし、そもそも練習もしていない。だけど…

「ハァァアアアアアアッ!!」

前に向かって思いっきり飛ぶ、更にSonicMoveを使って高速移動したまま彼女の目前で着地。だがそこでヴィヴィオはこっちに気づいていた。予想通り彼女もこの世界は見えるらしい、だけどそんな事を考えている時間はない。
 ヴィヴィオがカウンター狙いで拳を振り下ろす。しかしアリシアは更に横にジャンプし軌道を変える。
 視界が一瞬モノクロームの世界になったところで再び突撃。そのまま振り下ろして無防備になったお腹目がけて思いっきり突きを打ち込んだ。

「!?」
【ドゴッ】

 鈍い音を聞いてそのまま身体を折ったところで右手の束で顎を強打し、そのまま彼女を軸に身体を回して勢いのまま思いっきり後頭部を蹴った。鈍い音が2回聞こえた。

「………」

 蹴った反動で距離を取って着地した直後ヴィヴィオはそのままドサッと倒れ、横に意識を失ったクリスが現れると中等科の制服に戻った。

「ハァッハァッ…勝った…」

 クリスがサポートしているヴィヴィオにアリシアの魔力では到底敵わない。そこでヴィヴィオもクリスも予想していない動きからの攻撃で1撃を入れるのに集中した。
 入った瞬間の隙を突いて顎と反対側の後頭部を連続で強打して脳しんとうを起こさせた。多分暫く起きられないだろうし、起きても頭痛で動けない筈だ。

「ハァッハァッ…イタタタ…」

アリシアもジャケットを解除する。ちょっと膝に無理をさせたらしい。着地後に方向転換させた右足が痛い。

「ヴィヴィオーっ!」
 
 リオの声が聞こえる。丁度いいタイミング。

「ごめんね、ヴィヴィオ。バイバイ」

 そう言ってアリシアは少し足をかばいながら小走りで学院を後にした。

~コメント~
 動き始めたヴィヴィオ達、一方でアリシアはこの時間のヴィヴィオを止めに行きます。
 アリシアがブレイブデュエルで使っていて、Vividでヴィヴィオが使い始めたのを読んでぶつかるなら1度やってみたいと考えてました。

 ヴィヴィオが乗っている聖王のゆりかごについてですが、AgainSTStory第26話「ファイナルリミット」で登場しています。当時はいつかヴィヴィオが乗られたらいいな~とか思いながら思いっきり壊してしまってるのですが…(苦笑)

 

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