第55話「その日、ミッドチルダ(ヴィヴィオの戦い)」

「アリシアからメッセージが来てる『作戦成功、学院医務室でお休み中 AT』だって。」

 大人アリシアから聞いたヴィヴィオはホッと息をつきながらも医務室に居ると言うことは何かしたのだろう。と言っても彼女が無事で良かったと思う。

「そのまま次の作戦に移るって。」

 ここからが作戦の本番だ。
「アリシアさん、ゆりかごがクラナガン上空で2つの月の魔力を得られるのはどれ位ですか?」
「今の速度だとあと3時間ってとこ、クラナガンには2時間もすれば着くけど月が見えるまで時間がある。」
「1つだけでも十分なので少し速度を上げます。首都航空隊やきっとママ達も来る筈だから。」

 ミッドチルダの首都クラナガンの上空に行けば艦船での手出しは難しくなる。出来ればヴォルフラムや次元航行部隊、ミッドチルダ配備の艦船とは戦いたくない。そもそも戦うのが目的じゃない。

「ニュースはどうですか?」
「さっきから全メディアのカメラがこっちに向いてる。ここまで大々的にしちゃったら報道管制も出来ない位。こっちは上々♪ あっ、首都航空隊が動き出した。警備艇が来る」

 意識を集中させゆりかごの周りに視界を向ける。前方と左右に艦船が上昇してくる。何か言っているらしいがまぁ『止まりなさい』とか『応答しなさい』とかだろう。

「速度を上げながら上昇します。攻撃があったときは…」
「シールドとアレで対応ね。きちんと海に落とすから安心して。ヴィヴィオ、そっちもいい?」

 アリシアが端末を通して声をかけると大人ヴィヴィオがモニタに出た。

『準備出来た…けど、おかしくない?』

 彼女の姿を見て思わず立ち上がって声が出そうになるが、我に返って玉座に座り直す。

「似合ってるよヴィヴィオ」
「うん、バッチリ。艦艇や集団はこっちで対応するから陽動とかをお願い。2時間は動き続けなくちゃいけないから魔力温存でね。」
『了解っ♪、指揮お願いね。』
 

 
「聖王のゆりかごがっ?」

 ミッドチルダに聖王のゆりかごが現れたという情報は本局にいたフェイトやティアナにも届いていた。同時にヴァイゼンから特務6課がヴォルフラムで出撃しようとしたタイミングでフッケバインの強襲に遭っている事も…
 フェイトは戸惑いながらも砲撃戦に長けたウェンディとディエチ、彼女達の支援としてチンクにヴォルフラムに戻る指示を出して、ティアナと一緒にミッドチルダへ飛んだ。

「誰が何の為に…」

 ティアナの呟きに

「わからない…でも…」

 誰が動かしているのかという意味ではフェイトは気づいていた。
 異世界から来た2人のヴィヴィオ、彼女達に違い無い。でもその理由がわからない。

「もしフッケバインの襲撃と聖王のゆりかごの出現が何か関係していたら…私達は陽動に引っかかった?」
「そうかも知れない…でも、陽動にしては情報をが凄すぎる。」

 ヴァンデインのECウィルス開発とハーディスの関与そして対ECウィルス…どれもが陽動にしてはオーバー過ぎる。陽動だと判っていても捨て置けるものじゃない。

「ティアナ、私は現場に着いたら首都航空隊に合流する。ティアナはナカジマ三佐の指示を聞いて。」

 特務6課設立で何人かを連れ出したのが徒になった。
 もし今ガジェットドローンが現れたら…単独で対抗できるのはノーヴェと教会の3人だけ。  
 目的が判らない以上手出しができない。
 そう考えていると手元の映像で聖王のゆりかごに接近した警備艇がアンカーを撃ち出した。
 当たるかと思った瞬間アンカーは虹色の光に弾かれ、逆に警備艇に少し明るい光が差し込むとそのまま下に降りていった。

「何? 攻撃?」

 爆発もせずそのまま落ちていく警備艇を他の警備艇が追いかけアンカーを使い下ろしていく。
 何をされたのか判らない以上、手出しするのが難しくなった。



「命中、これは…確かにオーバーテクノロジーだね。」

 端末を操作するアリシアは驚いた。
 JS事件で聖王のゆりかごの内部に潜入出来たのはなのは達、オーバーSランクが居ただけでなく、聖王のゆりかご本体も完全に動いていなかったらしい。
 聖王の鎧に似たシールドと放った光を浴びただけで対象の魔力運用をすべて無効化してしまう。これでは魔力兵器や質量兵器でも到底適わない。古代ベルカでも絶大な力を誇ったに違いない。

「アリシアさん、拡散させちゃうと周りにも影響でちゃうのでなるべく絞って使ってください。」

 ヴィヴィオも様子がわかっているのか指示を出す。それを聞いて肝が据わっていると感心する。

「わかった。これで暫く手が出せない筈。そろそろこっちのも動き出す。でも…先に来ちゃったね。ヴィヴィオっ! 正面下方から首都航空隊、中にヴィータさんも居るから相手よろしく!」

 こっちに飛んでくる首都航空隊の中にヴィータを見つけた。



「やっぱり来たか…レイジングハート行くよ。」

 JS事件で聖王のゆりかごの中に入った事のある者は限られる。
 その中で今の状況で中に誰が居るのが知って突入してくる者が居たとしたら…それは彼女達しか居ないだろうと考えていた。ヴォルフラムを止めても転移魔法で動ける者が来る。

「あんまり足止め出来ないから早めに上がってよ」
『わかった』

そう言うと転移魔法陣を広げた。


 
 ミッドチルダから本局経由でヴァイゼンに戻る途中、聖王のゆりかごが現れたのを知ってヴィータは首都航空隊とともに迎撃に出た。
 その前に魔方陣が現れ、中から1人の女性が現れた。古代ベルカの騎士甲冑らしき鎧を纏っている。大人モードのヴィヴィオに似ているが雰囲気が違う。

「止まりなさい。貴方達に危害を加えるつもりはありません。」
「誰だお前…」

 ゆりかごを動かしたのがヴィヴィオじゃなかったの安心しながらも彼女を睨む。

「ここは間違った未来に進もうとしています。私は未来を戻そうとしているだけです。この船は民の目を向けさせる為のものです。」
「民の目って、全員を人質に取る脅迫だろうが!」
「…違うよ、鉄槌の騎士。私達は警鐘を鳴らしていたよ。聞く気がなかったのはそっち、小さな女の子がこんなことをするまで心を痛めていたのに…何も誰も気づかないなんて…。本当にわからないの? 変わっちゃったの?」
「お前…誰の事を?」

つり上がっていた眦が少し下がる。彼女の瞳から涙がこぼれる。だが次の瞬間、背後に居た首都航空隊に明るい光が差し込んだ直後

「!?」
「ワ、ワァァアアっ! 魔法が消えたっ!」
「たっ、助けてくれーっ!」

 光に照らされた20人程が真っ逆さまに落ちていった。運良く光に当たらなかった隊員が落ちていく局員を助けに降りていく。それを見て再び振り返る。

「てめぇ…」
「魔法を無効化しただけです。聖王ゆりかごには浮遊したアインヘリアルでも持って来ない限り落とせません。私は貴方達が何もしなければ危害を加えません。それでも…来るなら受けてたちます。」
「…おもしれぇ…ヴォルケンリッター鉄槌の騎士 ヴィータ。思いっきりぶちのめすっ!」

 そう言うとヴィータのグラーフアイゼンが戦いの幕を切った。



(あ~言葉を選ばなきゃ…あんな言い方したらヴィータさん怒るに決まってるじゃない。)

 アワワワと大人ヴィヴィオとヴィータがバトルを開始したのを見てヴィヴィオは思った。
 アリシアとチェントは「やっちゃった…」と苦笑している。
 それにしても…首都航空隊の警備艇と1部隊しか出てこないのが不思議だった。
もっと本局艦船や港湾部隊、各世界の配備部隊が押しかけると思っていたからだ。大部隊でこられたらいくら被害を抑えようとしても限界がある。
 JS事件の時と比べても静かすぎる。

「そろそろ効果でてきたかな。」

 ニヤリと笑うアリシアが何をしたのかはヴィヴィオは事件の後で知ることになる。


 
「彼女の目的はこれか…」

 次元航行部隊にエマージェンシーが流れ全艦船が出動可能になっていたが待機状態になっていた。クロノもその中に居たが命令を出せないでいた。
 ミッドチルダから全管理世界のメディアに対しある映像が送られたのだ。
 管理局本局を含む周囲の管理世界ではメディアを通してミッドチルダに聖王のゆりかごが現れたニュースが突然切り替わって1人の女性がモニタに映っていた。その映像を見てクロノは呆然となった。

「私はアリシア・テスタロッサ。アルハザードを目指し辿りついたプレシア・テスタロッサの娘」

 首都航空隊に合流しようとしていたフェイトと彼女を知る者はフェイト瓜二つのその姿を見て驚愕し、更にクロノやリンディ、エイミィといったPT事件を知る者は絶句する。

『私はミッドチルダに現れた船『聖王のゆりかご』を通して皆さんに映像を送っています。私は…』

 彼女が伝えたのはヴァンディンコーポレーションが行っていた違法な実験ウィルスの開発、管理局がカレドヴルフ・テクニクスと開発している自立作動型汎用端末【ラプター】の情報だった。
 ECウィルスの実験施設とラプターの製造過程と意思や人格を持った端末の末路が映像として流される。
それは誰もが目を覆いたくなるような映像だった。
 映像の中で彼女は話す。

『違法技術とされる人造魔導師計画や戦闘機人と意思や人格を持った彼らはどこが違うのでしょうか? 人格を持ったデバイスと彼らとは何が違うのでしょうか?』
(これでは…出撃命令は出せないっ)

 上層部もこの映像を見ているだろう。
 聖王のゆりかごが映像にあるアリシア・テスタロッサを関係しているならここでもし出撃し聖王のゆりかごを攻撃してしまった時、管理局はヴァンディンやラプターについて全て認めた事になってしまう。
 それは全管理世界からの信用を失い管理局が崩壊しかねない。人材不足とかそういうレベルの話じゃない。

「艦長、出撃命令はっ」

 操舵手から聞かれ答える。
「出撃命令があるまで現状を維持。わからないか? 今行けば管理局が非難の矛先になる。」

 クロノ自身、ラプター開発の噂は聞いていた。人造魔導師や戦闘機人にも繋がりかねないと思いつつ企業と上層部の圧力もあり局内の人材不足を解決出来るという話もあったからあえて黙認するしかなかった。特務6課が実験部隊になった時も彼女達なら悪い方向には向かわせないだろうと…
目の前のアリシアはそんな管理局の体制を抜きにして民間人に直接問いかけている。始めから管理局は眼中にない、彼女のメッセージは全管理世界の人に対し送られている。
 その中でECウィルスの実験状況とラプターの廃棄された映像は間違い無く見た者の心に残る。
 実際にミッドチルダにおける聖王のゆりかごから攻撃された情報は無く、クラナガンを含む人口密集地域から爆発の煙等はあがっていない。唯一被害を受けたのはアンカーを撃ち込もうとした警備艇だけ。
 これでJS事件の様に攻撃すれば管理局が責められる。情報の隠蔽ともたらされた映像の証明として…全メディアを通じてそれは伝わってしまう。

「この方法を考えた者は…管理局の弱点を知っている…」

 苦虫をかみつぶした様に呻いた。



『古き船を使いミッドチルダの皆さんに驚きと恐怖を与えてしまった事に深く謝罪します。ですがもう1度考えてください。何が間違っていて何が正しいのかを
 もう1度考えてください。未来の姿を』

「ア~ハハハハッ♪ これは傑作だわ」

 その映像は飛空挺フッケバインやヴォルフラムにも届いていた。
 戦闘中にも関わらず大笑いするカレン。
 ECウィルスの根源を潰し管理局を手玉に取った動き。これを考えた奴は間違い無く彼女達だ。
 これ程愉快な事はない。あんな証拠映像を流されてはもうヴォルフラムどころか管理局も動けない。

「約束は果たしたよ、後はがんばりなさい。ステラっ」

 これ以上手を貸す必要もない、報酬分は働いたとステラに引き上げる指示を出した。

 飛空挺フッケバインが遠ざかる中、ヴォルフラム内でも動揺が広がっていた。
 特にスバルやエリオ、チンクやウェンディ達は廃棄されるラプターの映像に自分を映さざるえなかった。ラプターの様に人の心を持とうとした物だけが廃棄される。即ち戦闘機人として心がある自分達は廃棄される対象なのかと。それはヴォルフラム内の戦意を著しく低下させていた。

しかし…その中からゲートを通じて飛び立つ2つの光があった。

~コメント~
 聖王のゆりかごを巡ってヴィヴィオ'S vs 管理局に進んでいます。
 
 
 

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