第56話「その日、ミッドチルダ(ヴィヴィオ達の計画)」

「わかっているな?」
「判ってます。私達の任務は聖王のゆりかごの都市部侵入阻止。」

シグナムに念を押されてなのはは頷く。
 ヴォルフラムの転移ゲートからミッドチルダ地上本部を経由しそのまま上空へと飛んだ。
 JS事件と違って首都クラナガンを含めミッドチルダに被害は出ていない。でも先のアリシア・テスタロッサの放送はなのは達も驚かされたがこれで何が理由かがはっきりした。
 今の自分達ではゆりかごを落とすことは出来ない。
 出来るのは進行を止める事だけ…
 それでももう1度、話をする機会はある筈。
(ヴィヴィオ…)

 何が出来るか判らないけれど、今は止めるしかない。

「シグナムさん、私が先行します。」



「…裏に居ったんは大人のアリシアか…」

 はやてはヴォルフラムの中で苦虫を噛み潰した様な顔で映像を見ていた。
 異世界からやって来た大人のヴィヴィオが居たのだからアリシアが居る可能性もあった。その状況で彼女が2人と一緒に居なかったのに気付かなければいけなかった。
 彼女がもし今回の筋書きを考えたのであれば侮れない。
 自身が名を開かしメディアに出る事でプレシア・テスタロッサが起こしたPT事件や人造魔導師計画という言葉が真実味を帯びる。それだけでなく関係者であり特務6課のフォワードメンバーでもあるフェイトの動揺を誘える。この状況では彼女は出撃を許可されないだろう。更に特務6課のフォワードメンバーにも動揺が広がるのは間違い無い。
 今まで潜伏していたフッケバイン一味がヴォルフラムの起動に合わせて来たのも予め特務6課の動きを計算していた。ECウィルスとヴァンディンの情報は彼女達の陽動、仮に先に判っていても捨て置けない情報を与えこっちの戦力を分散・低下を誘う。
 目的に対して何でも利用する剛胆さ、フッケバイン一味と共闘とも取れる動きを見せる強かさ。
 彼女達を甘く見過ぎていた。
 こっちが動けるのはレティの発令が解除される迄
 ヴォルフラムは駆動部を攻撃され暫くは動けず、フォワードメンバーを転送するしか出来ない。

「あの子ら…ここまで…」

 だが同時に彼女達の目的がここまでしなければいけない程のものだとも気付いてしまった。
それははやての判断を鈍らせるに十分過ぎた。

 
 
「計画の第2段階進行中、あとは第3段階。みんな、あと少しだから頑張って」
「はいっ」

 アリシアの言葉にヴィヴィオは強く頷いた。



「今から私が考えた計画を説明するよ。目的は管理世界に住む全員にラプターの事を知って貰う事、それで間違いないね?」

 昨夜の事を思い出す。
 ほぼ修復を終えた聖王のゆりかご、玉座の間でアリシアはこれからの計画を話し始めた。

「計画は全部で3つ、1つ目はヴィヴィオ、アリシア、チェントに聖王のゆりかごを見つけて起動準備をして貰って、私達はその間にECウィルスの情報を集めて管理局に渡す。私達の方は終わったしゆりかごももうすぐ動きそうだから予定通り。」
「ECウィルスの情報を渡す?」

 プレシアから預かった情報を渡すのだろうか? ヴィヴィオは小首を傾げて聞き返す。

「母さんから貰った抗ウィルスと製法を渡すの。どうしてかも後で言うから全部話させて。」
「2つ目は聖王のゆりかごをクラナガン上空、2つの月が見えるポイントまで動かしてみんなを驚かせる。こっちからは迎撃は最小限でこっちからは攻撃しない、JS事件みたいにガジェットドローンも無いしね。驚かすだけで占領とか人質とかは考えてない。クラナガン近くまで行けばメディアのヘリやカメラが集中するからその上でラプターの情報をメディアを通じて全管理世界へ向けて送る。子供のヴィヴィオはゆりかごの制御、アリシアとチェントでフォローお願いね。ラプターについては私が送る方法を考えてる。」

 朝に聖王のゆりかごを見たらみんな驚くに違い無い。

「あとここのヴィヴィオが聖王のゆりかごに来るのを止める、出来れば聖王教会か管理局、学院…何処かでヴィヴィオと他に誰かが居る場所に居て貰う。理由は私達の計画とは無関係だって証明しなくちゃいけないから。ヴィヴィオ、力づくでも良いから止めてきて。」
「ストライクアーツのミッドチルダ代表選手だから結構強いよね。わかった、じゃあ朝から…。」
「それ、私がします。」

 大人ヴィヴィオが苦笑いしながら頷いた時、アリシアが1歩前に出て言っgた。  

「ここのヴィヴィオは私が止める。彼女は私がここに居るのを知らないから私が行けば動揺する、彼女は聖王の鎧を無くしちゃってるから魔力も弱い。」
「えっ?」
「アリシア?」
「………」

 驚くヴィヴィオ、でも大人アリシアは彼女の顔を見るだけだった。 

「ストライクアーツなら私でも何とかできる。彼女を止めたら泊まっていた部屋で待ってるから。ヴィヴィオは2人共ゆりかごに居た方がいい。何かあってもすぐ動ける様に」
「……確かにそっちの方がいいね。チェント、ヴィヴィオのフォローお願い。アリシアはここのヴィヴィオを止めて。だけど私達の事は話しちゃ駄目。彼女は計画そのものを知らない方が良いから。止めた後でラプターのデータを送って、方法は後で教える。」
「うん、わかった。」
「アリシア…大丈夫?無理してない?」

 ゆりかごが修復中の為玉座に座ったまま話を聞いていたヴィヴィオはアリシアに聞く

「大丈夫♪ きっと私がここに来た理由はこれだと思うから。任せて。」
  
「それと聖王のゆりかごを動かした後、管理局がやって来る。ラプターの情報が広まれば動きは鈍る筈だけどそれ迄は攻撃もある筈。」
「管理局…そうだよね。ママ達…特務6課、ヴォルフラムも来るよね。」

 聖王のゆりかごを動かしたら管理局の艦船が来る。その中でも前回、JS事件で聖王のゆりかご内に入ったメンバーが揃っている特務6課がヴォルフラムに乗って来る可能性は高い。
 ヴィヴィオから攻撃するつもりはないけど、迎撃しなくちゃいけなくなったら…都市部上空は勿論、ヴォルフラムにはお世話になった人も沢山居るから戦いたくない。

「そこは大丈夫、知り合い…っていうか利害が似た人に足止めをお願いしてる。ヴィヴィオ」
「うん、足止めだけはしてくれる筈…多分。ちょっと怖そうな人も居たから不安だけど、代表が約束したから」

 自信無さそうに言う大人ヴィヴィオの返事を聞いて、溜息をつく大人アリシア。ヴィヴィオとアリシアは何をしたのか全く判らず首を傾げている。
 チェントだけは引きつった笑みを浮かべ溜息をついていた。

「計画の2つ目が始まったら後は情報が広がる時間を作らなきゃいけない。広まっても目印のゆりかごが落ちたら終息しちゃうからね。時間は3時間…早くて2時間位だと考えてる。管理局の動きが鈍る迄…その時間ゆりかごを守らなきゃいけない。私達だけで。」

 伝えても管理局が有耶無耶にする可能性もあるのだ。
 ゴクリと唾をのむ。

「それで最後の…3つ目は…。その理由は…」

 彼女の言葉に驚きながらもその理由を聞いて頷かざるえなかった。



「…あと1時間…」
「あと30分位でクラナガンに入る。でも…その前に正面右下」

 アリシアに言われてヴィヴィオは我に返って意識を外に向ける。
 高速で近づく光が2つ。桜色と赤色の魔法色、見ただけで誰が来たのか判った。
アリシアが端末を操作して光を拡大する。第2段階途中で管理局の動きは鈍っていない。
 艦船が近づかないのは警備艇や首都航空隊が落とされた理由が判らないからだろう。その中でヴィータが既に来ていてそこに2人も来た。

「やっぱり来ちゃった…」
「なのはさんとシグナムさん…」

 そこに映った姿を見てチェントが呟く。

(なのはママ…)
「聞こえる? そっちになのはさんとシグナムさんが接近中。あと30分抑えられそう?」
『ええーっ!? ヴィータさんだけでも大変なのにっ!』 

通信で聞こえてきた大人ヴィヴィオの声は焦っていた。主立った首都航空隊の魔導師は聖王のゆりかごから放った光で散開して近づかず砲撃魔法で攻撃している。だがその光は全て聖王のゆりかごのシールドを破れずにいた。
 大人ヴィヴィオは時折それらの魔導師を牽制しながらシールドを破って追撃される可能性が1番高いヴィータと激戦を繰り広げている。
 幾ら彼女でもヴィータを相手にするのはかなり大変らしい。 
 そこに急速に近づくなのはとシグナム、しかもなのはの姿は…

(あれは…フォートレスとストライクカノン…)

 ゴクリと唾を飲む。

『これはね今私達が開発テストしている試作型のデバイスなんだ。名前はフォートレスとストライクカノン。AMFの中でも運用出来る魔力駆動の兵器。』

 彼女が持つストライクカノンと追随する3つのシールド。アレが同じものなら……AMFは通じない。戦力と呼べるものがゆりかごで彼女を先頭に内部に来られると防ぎきれない。

「アリシアさん私が出ます。チェント聖王ゆりかごの操縦代わって。ここに座って進みたい方へ意識を集中すれば動く、もう魔力を使わなくても月の魔力だけで動くから。お願いっ」
「ええっ! 私!?」
「…わかった。私達の目的を覚えてるよね?」
「はいっ!」
「お、お姉ちゃん!?」

 驚くチェントの横でアリシアが頷くのを見てヴィヴィオは悠久の書を取り出しその場から消えた。



「!? わわっ本当に来たっ!!3人同時って無茶苦茶だって!!」
「余所見してんじゃねぇええええっ!」

 大人ヴィヴィオはヴィータとの戦闘中に視界になのはとシグナムを捉えたがヴィータの声でシールドを使って打点をずらす。
「あ、危なかった…」

 彼女1人でも大変なのにオーバーSランクが2人来るなんてそう思っていると

『後ろに下がって』
「!?」

 ヴィータがグラーフ・アイゼンを振り上げた瞬間念話が届き一気に下がる。
直後

【バキッ!】
【ドゴッ!】

 何かがぶつかる音と鈍い音が聞こえたかと思うと、力を失ったヴィータを抱える少女が居た。

「ヴィータさん…ごめんなさい。」
「ヴィヴィオ?」

彼女のジャケットは前に見たジャケットではなく今着ている古代ベルカの騎士甲冑に似ている。
髪も後ろに束ねられ…まるで本物のオリヴィエ。

「私がなのはママを押さえる。シグナムさんをお願い。」

そう言って虹の光を作り出し気絶したヴィータをその中へと入れた。

「ヴォルフラムに飛ばしただけだから安心して。行こう」 

2人のヴィヴィオはそう言って首都航空隊の集団へと向かった。



 一方、聖王のゆりかごの中ではヴィヴィオが玉座を離れ出てしまった為なのかアラートが鳴り響いていた。

「出力低下!? チェント玉座に座って。こんな場所で落としたら街が滅茶苦茶になる」
「う、うん!」

アリシアを手伝っていたチェントが玉座に向かう。だが実際に玉座を前にしたところで立ち止まっていた。

「……」

 彼女が躊躇する理由はわかっている。彼女も聖王のゆりかごを動かした者がどうなるか知っているからだ。

「お願いっ、私じゃ座っても動かせない」

しかしその時玉座前に虹色の光が出現した。

『貴方達に全てを任せてすみません。私にはこれ位しか手伝えませんが…貴方達の目的を貫いて下さい』

 そう言って彼女が玉座に腰を下ろすと、アラートは全て鳴り止んだ。

「あなたは…?」
「やっぱりあなただったんですね。最初から私達を見ていたのは」

 玉座の間にアリシアの声が響いた。


~コメント~
 色々フラグを回収しながら進行中です。
 参謀役の能力が発揮された回&ヴィヴィオSの戦闘開始です。
 大人ヴィヴィオと一緒に大人アリシアを登場させようと考えた時、彼女の役割的なものって何だろう?って考えました。
 計算能力が高く、後方で情報収集や解析を得意にしているのは以前の話で書いていましたのでそれを更に昇華させて参謀役としてあくどい…目的の為なら冷酷非情な…目的を最優先する彼女にはヴィヴィオでも敵わないと思ったのではないでしょうか。
 ヴィヴィオがフォートレス・ストライクカノンを知っているのは開発中の武装だと1章でなのは本人から聞いているからなのですが…

 
 
 

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