第62話「意思と覚悟」

「ったくもう、何でここまでっ!」

 大人ヴィヴィオはシグナムと戦いながら悪態をつく。
 彼女がそう言うのも仕方ないと言えば仕方なかった。
 小さいヴィヴィオは聞いてなかったデアボリック・エミッションを使い、更に過去に行った時に見た姉妹が現れ、そして地上で待っている筈のアリシアが転移してフェイトと戦い始めた
 これだけ周りが騒がしいと集中出来ない。

『ヴィヴィオ、シグナムさんに集中して。』

 アリシアから通信が届く。言われなくても判ってる…判っているけれど…
「あ~もうっ!」

 怒りながらもシグナムの一閃を紙一重で避ける。

「周りばかり気にしているとお前が墜ちるぞ。」
「判ってます!」

 彼女は形勢が変わりだしているのに気付いているらしい。眼差しに余裕を感じるのが余計に癪に障る。
 少し離れて構える。頬が熱く感じて手でこすってみると赤いものが付いた。さっきの攻防で切ったらしい。


 彼女を倒すのは容易じゃない。模擬戦だと1人では8割方勝ち目は無く、3人で良くて相打ちに出来るかどうかなのだ。そんな相手なのに集中しなければこっちが一瞬で墜とされる。
 しかしこのままズルズル引き延ばしたら…ヴィヴィオは兎も角小さい方のアリシアが危ない。

(母さん達もそこまで気を回して・・なんてあり得ないよね。)

 管理局、特務6課の運営に致命的と思える状態にしたのだからそんな気遣いしてくれる筈もない。

(だったら…)

 甘い考えを捨てる。目の前に居るのは友達じゃない、敵だと。

『アリシア、コアリンク一瞬切れるからフォローよろしく。』
『えっ? 何? 何するつもりよっ!! ねえってば!』

 通信向こうの彼女が驚くがあえて聞かない
 勝つしかない。敗北でも相打ちでもなく、彼女に勝つ。 
 フゥーっと息を吐いて構える。

「行きます。」

 シグナムがレヴァンティンを鞘に収め構える。紫電一閃の構え

「はぁああああっ!!」

 真っ直ぐ彼女に向かって飛び出した。



(何をするつもりよっ!) 

 アリシアは聖王のゆりかごの中で言われた通り対処の準備をする。
 『コアリンク』には弱点がある。ヴィヴィオとチェントのリンカーコア・デバイスを同期させている為2人の内どちらかに何かがあった時その生じた魔力の余波をもう1人が受けてしまう。
 強制切断時の安全機能はあるけれど再接続まで時間がかかる。それに通常空間なら兎も角聖王のゆりかごやデアボリック・エミッションの中で正常に接続出来る保証もない。だからこのまま同期を続けてヴィヴィオの言った瞬間だけこっちで魔力の余波を受けきり、再び繋がった時にそのまま同期させる。相当な荒技だ。

「チェント、ちょっときついけど…いい?」
「うん。」
『はぁあああああああっ!』

 チェントが頷いたのとほぼ同時、ヴィヴィオがシグナムに向かって飛び込んでいく。彼女は何をするつもりなのかと凝視する。そのまま彼女は進み

『紫電…』
『はぁぁあああっ!』
「ヴィヴィオっ!!」

 シグナムが高速でデバイスを振るが空を切った。同時にオーバーブーストが外れる

「っ!」
「!!」
『ぁあああああっ!』 
『ひとつっ!!』

 シグナムの真上に現れたヴィヴィオは足に込めた魔力で振り抜かれたレヴァンティンの刀身を蹴って折る。

『ふたつっ!』

 驚くシグナムが応戦しようと左手に持った鞘で迎撃しようとするがヴィヴィオは予測していた様に左拳から零距離発射し鞘を吹っ飛ばして

『みっつ!!』

 殴った反動のまま正面から回し蹴りを決めた。

『遅いっ!』

 しかしシグナムは僅かに後ろに下がってキックの威力を殺し鞘を吹っ飛ばされ空いた手で手刀にして離れたヴィヴィオに猛然と襲いかかる。

「ヴィヴィオっ!!」

その時コアリンクが復帰する。 

『よっつ!!』 

 目の前のシグナム目がけて右拳の魔力を砲撃魔法として放った。

【ドォォオオン!!】

 爆発音の後爆風と煙がヴィヴィオを襲う。



「ヴィヴィオっ! 返事して」

 コアリンクは生きている。無事だとは思うけど…

『…アリシア、チェント』

 声が聞こえてホッと息をつくが煙が晴れて目の前にシグナムが見える。上のジャケットとマントは千切れ髪をまとめていたリボンも無くなっている。

「あれを受けてまだ…」

 やっぱり強すぎる。そう思いながら手に汗を滲ませるが画面向こうのヴィヴィオは構えを解いて

『シグナムさん、私の勝ちでいいですよね?』

 笑顔で言う。

『そうだな、私の負けだ。』

 シグナムも構えを解きデバイスを待機状態に戻した。

『今から小さいアリシアの応援に行く。シグナムさん、何かあるならこれ使って下さい。』
『わかった』

 ヴィヴィオはアリシアへの通信デバイスを投げ渡して下の方で戦っている光に向かって飛んでいった。

「シグナムさんごめんなさい。私達は管理局と争うつもりはありません。だけど…言葉だけじゃ思いだけじゃ伝わらない…力を見せなきゃいけない事もあります。ラプターの開発に加わっていた特務6課のフォワードチーム…シグナムさん達に勝てば…」
『力を示す…か…お前達にはその先が見えているのだな』

 激突する光点を見ながら言う彼女の言葉がアリシアには重く感じ直ぐに頷けなかった。



(ヴィヴィオが勝った?)

 なのはの中距離砲撃を避けながらヴィヴィオは大人ヴィヴィオとシグナムの戦闘が終わったのに気付いた。そのまま彼女がアリシアの応援に向かっている。

『聖王ちゃん、大きい聖王ちゃんに伝えてくれる?【もう転移して戦っちゃ駄目】って』
「えっ? 転移して戦う?」
『気付いてない? ここの時間軸は不安定なのよ。私達が転移してきて大きい聖王ちゃんが転移してきて、聖王ちゃんが転移してきた。エグザミアの時と同じよね』

 エグザミアの時と同じ?…あっ! 

『すぐに時間軸同士がぶつかるかはわかりません。ですがあの戦い方は危険です。』

 キリエとアミティエから言われ気付いた。
 ここは砕け得ぬ闇事件と似た状況…しかもそれをヴィヴィオ自身が作り出してしまった。

【避けてっ!!】

 招いた結果に愕然と立ち尽くした所に桜色の光に視界が包み込まれた。

~コメント~
 大人ヴィヴィオVSシグナム戦が終了です。
 シグナムにとって家長であり家族であるはやてが悩みぬいて進めたラプター開発とラプターによって起きる事への警鐘を鳴らせるヴィヴィオ達
 どちらも理解出来る立場でもあえてはやてについて行くと決めました。
 でも本当の…心の中ではどちらが良いのかが見えていたのでしょうか?


 

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