第63話「目覚め」

【避けてっ!!】

 声が聞こえた時、それが私に対して言われているのだと気づけなかった。
 私自身が時間軸同士をぶつけてしまうかも知れないなんて…その時まで思っていなかったから。

「ヴィヴィオっ!」
「!!」

 ドンっと突き飛ばされた直後、我に返ると同時に何かの衝撃が襲った。

「…え…私?…!」

 目の前にあったのは大きな背中。それよりも
「…うそ…ヴィヴィオ!」

 アリシアの応援に向かっていたもう1人の私が居た。でもその姿は変わり果てていて
ジャケットとマントは無くなってアンダージャケットもあちこち破れている。髪をまとめていたリボンも外れて一瞬彼女がヴィヴィオだと判らなかった。
 力が抜けて落ちかけた彼女を抱きとめキッとなのはを睨む。

「ごめん、私が…なのはママ…ここまで…っ!」

 聖王の鎧が使える彼女にここまで酷いダメージを負わせられるのは…対AMFの攻撃が出来るなのはだけ。目の前で傷つけられては流石に黙っていられない。

【ヴィヴィオっ、それダメっ!!】

 心の中にある闇が大きくなっていく。

『ヴィヴィ…オ、大丈夫?』

 不意に念話が聞こえた。弱々しい声で誰か直ぐにわかった。

「私は平気、ヴィヴィオが守ってくれたから…しっかりして!」

 大人ヴィヴィオは少し頬を緩ませるが話せないらしい。

『あんまりよく聞こえないんだけど…対AMFの砲撃…滅茶苦茶痛いなー…』
『痛いって…そんな状態じゃ…』

 念話に切り替えて話そうとすると彼女が私の念話を無視して送り続けた。

『怒っちゃ…駄目だよヴィヴィ…オ、怒っちゃ…』
『未来が…判るからって私達が…必ず正しい訳じゃない。…望む未…来はみんなの…数だけあるんだから。…少し先に良くない未来があるなら…変えたいっていうのも私達の勝手な思い込み…って言われたら…そうなんだと思う。』
『でも…誰だって悲しまない…楽しい未来があれば良いって思う…よね…私達は少し…先まで見えてそんな未来…概ね平和な未来が選べるだけ…なんだ。』
『私…達が選んだ理由……忘れな…』

 そう言うと彼女から力が抜けもたれかかるように崩れ落ちた。

「ヴィヴィオ? …ヴィヴィオ!!」

 体を揺するが彼女は瞼を閉じたままピクリとも動かない。まさか…と思いながらもより強く動かす。

『落ち着いて。バイタルはあるから気を失っただけよ。』

 大人アリシアからの通信が届いて胸をなで下ろす。

『あとはヴィヴィオとアリシアにお願いするしかない。チェントがそっちに向かってる…でも、あの子は戦い慣れてないからサポートお願い。』

 彼女を支えながら顔を見る。瞼の涙と頬から滲み出る血をそっと拭う。

『…いいえ、ヴィヴィオの手当をお願いします。今そっちに送ります。』

 そう言うと虹色の魔法球を作ってその中へそっと入れる。

(ごめんね…ヴィヴィオ)

 悲しみに憂い瞼に浮かんだ涙を拭って振り返り睨む。視線の先にはストライクカノンを構えたままのなのはの姿。
 直撃したのを見て狼狽していたのか…待っていてくれたのか?
 そんな些細な事はもう私には関係無かった。

「判ってる…私達が正しい訳じゃない…私達が望む未来がみんなが望んでる訳じゃない…でも…それでも変えようって決めたんだ。」
『アリシアさん…あとどれ位でクラナガン上空に着きますか?』
『クラナガンの上空には入ってるよ。あと5分もあれば全域に光を送れる。』

 攻撃するつもりは無いけれど攻撃可能な場所に居るのと居ないのとでは意味が違ってくる。聖王のゆりかごが予定ポイントに着くのは時間の問題…あとは最後の仕上げだ。

『わかりました。アリシアさん、アリシアのサポートお願いします。5分だけ持たせて下さい。』
『5分?』
『その間に…なのはママ…高町空尉を倒します。』

 
「ヴィヴィオ…私、そんなつもりじゃ…」
「判ってるよ。ゆりかごに向けて撃っただけなんだよね。私が避けたら後ろにいたから…。『怒ってない?』って聞かれたらきっと私怒ってるって答えるよ。でもそれは防げなかった私と撃ったなのはに…。」

 拳に魔力を集める。

「もう迷わない、迷った分だけ誰かが傷つくならっ!」

 そう言うとなのは目がけて突撃した。



「ヴィヴィオっ!」

 聖王のゆりかご、玉座の間に送られてきたヴィヴィオにチェントが駆け寄る。騎士甲冑の破損状況を見て一瞬たじろぐが直ぐに首筋と手首に手を当てる。
 険しい表情が幾分和らぐ。

「良かった…。レイジングハート、ジャケット強制解除。アンダーウェアまでで再構築」

 残されていたアンダージャケットが外れ昔の甲冑が一瞬出た後、下着姿になった。
 治癒魔法を使おうかと考えたが魔力はほぼ無くなり相当疲労している筈でその状況で治癒魔法を使っても効果が薄いと考え、デバイスからファーストエイドキットを取り出して傷口の処置を始めた。 

「手慣れていますね…。私にも何か出来ないかと考えていましたが。」
「私はヴィヴィオと違って魔法力が弱いから、昔彼女が怪我した時は私がしていたんです。チェントもそれを見てました。イクス様はゆりかごの制御をお願いします。ヴィヴィオが倒れた分戦況は不利になっています。最初はゆりかごを元の場所に沈めて帰る予定でしたがもうその方法は使えません。最悪はゆりかごを放棄するしか…」

 アリシアがイクスに答えるが彼女は静かに首を横に振って

「それには及びませんよ。」

 微笑みながらアリシアが映したモニタを指さした。

「…えっ? ヴィヴィオ…」

 アリシアは振り返ってモニタ向こうの彼女の戦闘を見て言葉を失った。



「クロスファイアァアアシュートッ!」

 ヴィヴィオの周囲にあった6つのシューターが高速回転して集束し正面のなのは目がけて進む
 フォートレスの小型シールドが中和フィールドを展開しその進行を遮ろうとする。

【ドォオオオン】

 だが展開直後、クロスファイアシュートが直撃する前に爆発した。

「!?」

 なのはは驚きながらもギリギリで避ける。


 ~元々私の魔法レパートリーは少ない。ママ達やシグナムさん、ティアナさんの魔法を幾つか練習して使える様になっただけ~


「ハァアアアッ!」

 今度は彼女の真上からインパクトキャノンを放つ。
 死角が殆どない彼女にとってこれも見えていた。中型シールドが砲撃で迎撃しようとした瞬間砲口部分で爆発しインパクトキャノンの直撃を受けて四散した。 

  
 ~他に使える魔法は悠久の書を使った転移魔法と本を探す為の検索魔法位。私より魔法が上手に使える人なんて沢山居る~
 

「いっけええええっっ!」

 彼女の右側面から再びクロスファイアシュートを放つ。
 右手の大型シールドがあるが先の2つのシールドが壊された原因が判らないなのはは防御、迎撃をせず弾道を見て左上に避けるがその直後ストライクカノンの砲身部分に1直線の軌跡が現れる。

「!?」
【ゴォオオオン!!】


 ~それでもゆずれないものはある。その為には~


 咄嗟に手放し大型シールドで爆風を凌ぐ。しかしその大型シールドにも同じ軌跡が現れた。

「フォートレスパージっ! シールドっ」

 ストライクカノンの爆風が収まらぬ中、大型シールドを投げ捨て全速で後方に下がり

【ドォォオオオオオンッ】
「っ!」

 直後に発生した爆発を凌いだ。



「なのはっ!」

 連続で起きた爆発にはフェイトも気付いた。
 シグナム達が居た付近から交戦の光は消えている。
 ザフィーラ達の戦闘はまだ続いている…この状況でここに留まっている余裕はない。

「よそ見する余裕あるのっ!」

 高速で来るアリシアを見て

「このっ!!」

 我を忘れた。

~コメント~
 大人ヴィヴィオの戦線離脱とヴィヴィオの本領発揮回です。 
 混戦模様に少しずつ決着がついていっています。
 今話で1番気になったのは大人と子供のヴィヴィオが居た時…互いに何て呼ぶのでしょうか? 

 

 

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