第67話「「ヴィヴィオとなのは ~2~」」

「ディバィイインバスターッ!」
「ハアアッ!!」

 なのはを追随している時に放たれた砲撃魔法を魔力を集めた拳で思いっきり殴って方向を変えそのまま彼女に迫る。近づいたところでパンチとキックを連続で繰り出すが全部デバイスの杖部分で受け流された。同時に数カ所に拘束魔法を仕掛けられるが文字通り力業で拘束を壊して再び迫る。
 魔法戦闘には使える魔法の総容量よりも大切な事が幾つもある。状況毎に的確な魔法を選べるバリエーションとその戦術、冷静な状況判断、そしてそれらを繰り返し行う事で培われる戦闘経験。
(ヴィータさん達やフェイトママみたいには無理か…)

 混戦になっていた時とは違って彼女の意識はこっちに向いてしまっている。

(魔力とバリエーションと経験…私が勝てそうなの…魔力位しかない…狙える…ううん狙うんだ!)
「タァァァアアアアッ!」

 再びヴィヴィオは動き出す。 


 その様子を静まりかえった聖王のゆりかごの中でアリシア達は見つめていた。
 2人の戦闘は熾烈を極めていた。中長距離砲撃主体のなのはに対してヴィヴィオは積極的に近接戦を仕掛けている。

「ヴィヴィオ…どうして…」

 空中での中長距離戦が得意ななのは相手に同じ中長距離戦で勝負に挑むのは分が悪いから彼女が近接戦を選んだのは判る…でも文字通り2人が接触する機会が増えて、いくら覚悟を決めたヴィヴィオでも世界が違っても母親を直接殴ったり彼女が苦痛で顔を歪ませたら…。
 それだったら中長距離の砲撃戦をした方が…と思った。
 しかし同じ画面を見ていた大人ヴィヴィオだけはその真意に気付いていた。

「本当に…優しすぎるんだよ…」

 なのはを狙っているように見えるけれど、彼女の攻撃はレイジングハートに向かっている。そして彼女に息をつかせない連続攻撃をしかけることで彼女の魔力を消耗させながら自己増幅魔法『ブラスター』を使わせない様にしている。
 今の『ブラスター1』だけなら兎も角、更なる『ブラスター2』とそれ以上の自己増幅を使った場合酷い後遺症が残るのを知っている。だから使わせずにデバイスにダメージを与えて戦闘不能に持ち込もうとしている。
 例えそれがどれだけ辛くて難しい道だとわかっていても…。


(ヴィヴィオ、ここまでするなんて…)

 一方でなのはもヴィヴィオを最小のダメージで落とす方法を思案していた。
 最初に現れたのが大きいヴィヴィオだったということは、彼女は聖王のゆりかごを動かしていない。レリックを持っている目の前のヴィヴィオが聖王のゆりかごを動かしていた。それは彼女が現れた直後に聖王のゆりかごの動きが止まった事からも間違いない。
 …その上で彼女はデアボリック・エミッションで周囲に結界を作り、瞬間移動とも思える移動速度でフォートレスとストライクカノンを破壊、フェイトとヴィータ、ザフィーラ達を倒している。幾らオーバーSランクでも魔力運用が無茶苦茶すぎる。仮に魔力があったとしても体がついてこない。リンカーコアの激しい消耗か著しい身体への負担で倒れるか、最悪は2度と魔法が使えない可能性すらある。2度と飛べないという不安を世界が違っても娘にさせたくない。

(ブレイカーは使えないしあの移動を止めないと)

 魔力ダメージに絞ったスターライトブレイカーは魔力集束の時間がかかる、彼女の動きを止められたら良いが仕掛けた拘束魔法は全部壊されているから仮に撃てたとして避けられる。それに攻撃パターンから見てブラスターを使わせず、レイジングハートにだけダメージを蓄積させている。
 高速移動か瞬間移動かは判らないけれどフェイトの認識を越えた移動魔法、拘束系魔法が効かない中で彼女の動きを止める方法を探さなければならない。

「きっかけを見つけなくちゃ…、レイジングハートもう少し頑張ろう」
【Allright】

 幾つかのアクセルシューターを放ち今度はなのはが攻勢に出た。



 一方、時と場所が変わって元世界の高町家では

「…………」
「クスッ♪、母さん」

 髪を拭いながらリビングに入ってきたフェイトが頬を緩めて指さしながらプレシアを呼ぶ。

「何かしら?…クスッ」

 なのはと一緒に洗い物をしていたプレシアも見て頬を緩ませた。
 2人の視線の先に居たのはチェント、食事の片付けをしている間待たせていたのだけれど途中で眠ってしまったらしい。お絵かき中に微睡みが襲ってきたらしくペンを持って座ったまま眠っていた。

「あらら…チェントちゃん寝ちゃったんですね。今日は泊まっていきませんか?前の部屋そのままですし」
「そうね、そうさせて貰おうかしら。チェントお部屋に行きましょう」

 プレシアは答えると濡れた手を拭って彼女を抱き上げる。少し目が覚めたみたいだが目の前に居るのが母だと気づいて彼女は再び微睡みに落ちた。それを見てプレシアは静かにリビングを出て行った。

「昔のヴィヴィオみたい…」

 2人を見送りながらなのはは事件が終わって家に戻ってきた時もこんな感じだったなと思い出しながら彼女が使っていたお絵かきセットを片付ける。
 厚めの紙には家の前にプレシアとアリシア、そしてフェイトと…

「私とヴィヴィオ…かな?」

 2人の出会いを思えば1年位でチェントがここまで心を許したのは凄いと思う。アリシアが頑張って忌み嫌っていた彼女の心を解きほぐしたのだろう。
 ヴィヴィオが帰って来た時に聞いたら喜ぶかな思っていると、紙の裏にも何か描かれていた。それを見て思わず息を呑む

「!?」
「なのは?」
「フェイトちゃん…これ…」
「なに…!」

 彼女も気づく。
 2人は紙いっぱいに描かれた巨大な金色の船、聖王のゆりかごを目の当たりにして背筋に寒気を覚えるのだった。



『あら、こんな時にどうしたの?』

 再び時と場所は変わって聖王のゆりかご付近でヴィヴィオがなのはと激戦を繰り広げていた時

「こんな時ですから連絡しました。リンディ統括官、」

 出撃準備の命令の後、何時出撃命令に変わるのかを待っていたクロノ・ハラオウンはアリシアの映像を見た直後に出撃の発令は無いと判断し艦橋から艦長室に移動し映像について解析を進める一方で管理局の動向に目を光らせていた。
 聖王のゆりかごは現れたがその後都市部を含むミッドチルダへの被害報告は無く、ECウィルスとラプターに関する情報も確度のあるものだと確認した。そして管理局上層部の足の鈍さ…
 それらからクロノにも上層部の思考が読めた。

「統括官、このまま彼女達を見捨てるつもりですか?」
『……見捨てる? 彼女達? 何の事かしら?』 

 瞳をパチクリさせながら小首を傾げるリンディ。状況が状況だけに普段冷静なクロノも苛立ちを隠せない。

「特務6課です、フェイトやなのは、はやて達…放っておいてはどうなるか統括官も判っている筈です。」

 そこまで言うと何の事か判ったらしく手をポンっとついてから笑みを見せる。

『ああ、その事ね。聖王のゆりかごと現れたベルカ聖王によって出撃していたミッドチルダ首都航空隊と教導隊は壊滅…』

壊滅という言葉を聞いて歯ぎしりをする。

『と言っても負傷してヴォルフラムに飛ばされたそうよ、フェイトやヴィータさん達も含めて…現状で負傷者は出ているけれど死者はなし、クラナガンに避難命令は出ているけれど被害はないわ。中に居るのはなのはさんとシグナムさんだけ。AECは全て破壊されてそれ以上の状況は不明。』

 戦況がどうなっているのか気になるところだが、人的にも首都にも被害が出ていないというのを聞いて胸をなで下ろす。

『ここまで被害が少ないとあちら側がそうしているとしか思えないでしょう?。だからこちらから部隊を投入して被害を拡大させるのはいかがなものか…という方向に進んでいるわ。勿論この後でクラナガンに何かあればミッドチルダの全部隊が動く、次元航行部隊を含めて出撃することになるわね。』
「あえて事態の推移を見守っていると?」
『それもあるわ…でも、事件がこのまま終わればラプターの開発に関わっていた特務6課の解散は避けられない。今レティが猛獣になってその尻尾を捕まえようとしているところよ。』

 後ろから「猛獣とは失礼ね!」と怒る声が聞こえた。近くか通信にレティ・ロウランが居るらしい。

『だからハラオウン提督はそのまま待機していて頂戴。後で口添えをお願いするけれどそれまでは暴発しそうな局員を抑えて♪』 

 そう言うと向こうが通信を切ってしまった。

「全く…人騒がせな人だ。」

 ぼやきながら椅子の背に体を預けた。
 リンディとレティは既に状況を掴んでいて更に相手の思考を読んでいる。その上で特務6課を助ける方法を探っていた。冷静に考えれば当然だ、彼女達も半ば母親の様にフェイトやなのは、はやて達と家族同然として付き合ってきたのだからただ見ている訳がない。

(俺もまだまだだな…)

 そう思い直して席を立ち、次に打てる役目を見つけ自ら動き始めた。
 イレギュラーがあれば彼女達に伝えるという役目を…



「う~ん…ねぇシュテルん、ヴィヴィオの弱点って見つかった?」

 更に時と場所が変わってヴィヴィオ達が遊びに来ていたブレイブデュエルの世界、グランツ研究所でシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリのDMS全員がグランプリのデュエル映像を見て作戦会議をしていた。別名王さま特製のお菓子を食べる会(レヴィ命名)なのだが…

「アリシアは…ある程度判りましたが、ヴィヴィオは…本当に弱点があるのでしょうか?。」

口の中で甘くとろけるクリームと適度な甘酸っぱさを主張するイチゴの組み合わせに自然と笑みを浮かべながら答えた。とても真剣に考えている様に見えないのだけれど誰もその事に突っ込まない。
 頭を回転させるには甘い物は必要…と全員がそんな言い訳で納得しているからでもある。

 そもそも何故弱点を探しているのかというと理由は10数日前に起きた事に遡る。


 件の博士の暴走で延び延びになってしまった『未来から来ていたヴィヴィオとアインハルト』を何とか送り出し全員がホッとしていた時、ホビーショップT&Hに新たなプレイヤーが現れた。
【高町恭也と高町美由希】
 2人がブレイブデュエルを始めたのだ。
 T&Hで遊ぶプレイヤーは小中学生が多い為か時々子供達に混ざってスキルの使い方を教わったり妹でもあるT&Hショッププレイヤーのなのはとデュエルする程度で当初は誰もが【高町なのはの仲の良い兄と姉】という風にしか思っていなかった。
 しかしある日、ブレイブデュエル全員の目の前で実力が示される。
 スカリエッティ研究所のトーレとドゥーエ、クアットロがセクレタリーとして襲撃したのだ。奇しくもその日は土曜日でも海聖小学校の社会見学でT&Hエレメンツ全員不在という大ピンチ。
 見るに見かねたシュテルとレヴィ、偶々店番をしていたシグナムが助けに行こうとした時トーレ達の前に2人は臨時ガーディアンとして現れ文字通り3人を瞬殺した。しかも使ったのは自分のパーソナルカードとキリエのN+カード【ヴァリアントザッパー】だけ…。
 見ていた全員が呆然としている中で美由希が「驚かせてごめんね」とだけ言って消えてしまった。

 3人が全く反応出来ない状態で2人は数10回攻撃しライフポイントを全て奪っていてその移動方法は

「アリシアが使った技です。でも…動きと速さが全然違います…」

 ユーリが映像を調べて声を震わせながら言ったの聞いて

(高町家の人達は本当に人間ですか?)

 普段冷静なシュテルも思わず口に出しそうになって慌てて止めた程だった。
 
 同じ映像を見たレヴィはその足でT&Hへと飛び出して行った、けれど1時間もしない内にションボリして帰って来た。
 彼女がT&Hに着いた時にはシグナムと三月が既に居て2人もデュエルを申し込んでいた。しかし…

『なのはに頼まれて入っただけなんです。』
『あれは見せるものじゃない…普通にデュエルで遊ぶなら受ける。』

 レヴィも恭也と美由希にそう言われて引き下がるしか無かったらしい。

 その夜グランツにその話をしたところ彼も相当驚いていた。その後で

「ご家族全員を招待したいと思うんだがどうだろう?」

 早速ユーリがなのはを通じて話をして、定休日だったらと言うことで翌月曜日に朝から士郎と桃子が、夕方になって恭也・美由希・なのはとなのはがユーノを連れてグランツ研究所の招待を受けた。
 シュテル達も学校が終わったらすぐに研究所に戻ってきてユーリから話を聞いた。

「あの剣は見せてもらえませんでしたが十分過ぎるデータを頂きました♪」

 嬉しそうに言う彼女と、プロトタイプに入っている恭也と美由希、なのはと先に帰っていたらアミタとキリエがデュエルしている中で、そのデータを見るスタッフの気迫的なモノを見てシュテル達も笑顔で答えた。

 最後にディアーチェが今日のお礼と言うことで腕を振るって、5人と1匹の帰りを見送った時、

「ユーリちゃんにみんなのグランプリの映像を見せて貰ったよ。ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんは確かに強い、見ただけであれだけ出来るのは凄いと思うし俺達にあこまでの応用力は無い。でも…絶対勝てないって訳じゃない。アリシアちゃんは決勝でヴィヴィオちゃんが教えてくれているし、ヴィヴィオちゃんもブレイブデュエルの中でならシュテルちゃんがきっかけを見つけている。頑張れ」
「はい・・・?」 

 ユーリが相談していたらしいけれど士郎に言われてどういう意味だろうと思いながら頷いた。



「アリシアはなのはのお父様の言われた通りヴィヴィオとの決勝戦で攻略方法は見つかりました。彼女の剣は警戒しなくてはいけませんがそれよりもより注意しなければいけないのはデュエル中の駆け引きです。戦略と言いますか勝つ為の方法、相手の心情変化を予想・利用してその上で動いています。」

 アリシアのデュエルは常に相手がどう動くかを予想しているシーンが多い。逆に言えばそう思わせておいて…という心理戦に持ち込むか彼女の誘導に乗らずにあの剣に対処すればいい。
 シュテルはレヴィにフェイト、トーレがアリシアとデュエルしたシーンを見せて話した。

「この辺りの対策ははやてに教わるのがいいでしょう。彼女も何を考えているか判らない節があります。」
「うん、ありがとシュテルん♪ それでヴィヴィオは?」
「ヴィヴィオですが…ブレイブデュエルの中でならという言葉がずっと引っかかっています。彼女はアリシアと違ってゲーム以外の…本当の魔法戦を経験しているのでしょうか?」

 ゲームとは違う魔法を使った戦い。彼女たちと一緒に来た大人のなのはとフェイトがシュテル達のデュエルを1目見ただけで見つける洞察力…彼女もそのレベル居るのなら勝つ方法すら見つからない。それでも士郎はブレイブデュエルの中でならと言っていた。その違いを見つけたら勝てるのだろうか?

「わかんない…グランプリはデュエルして楽しかった。でも…コアベースの時は凄く怖かった…」

 コアベースでヴィヴィオと大きいヴィヴィオが戦い始めた時、3ショップ合同チームを組んで挑んだがレヴィはシグナム、アミタ・キリエとまとめて一瞬で倒されていた。あの気迫が魔法戦だったら…。

「あっ!…でも…こんな方法は違います。」
「?」」

 思いついた方法だったがシュテルは頭を振ってそれを吹き飛ばし

「もう少し対策を考えましょう。」

 首を傾げるレヴィを気にせず、再びモニタの映像に視線を戻すのだった。

~コメント~
 4月に入って新入生・新社会人になられた方おめでとうございます。迎える立場の方は心機一転の気持ちで切り替えていきましょう。
 今話はヴィヴィオVSなのはの話と久しぶりのブレイブデュエル世界の話でした。
 イノセントのコミカライズではヴィヴィオとアインハルトが帰れなくて~で終わっていたので後日談も踏まえています。
 ブレイブデュエルの中で本気で戦うシグナムと恭也…ちょっと見てみたい気もします。



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