第15話「通り過ぎる記憶」

 雫達の練習に少しつきあった後、ヴィヴィオはフェイトと一緒に家に戻ると誰も居らずダイニングに2人分の朝食が用意されていた。

「なのはママ?」
「なのは、休みの間だけ翠屋を手伝いたいんだって。桃子さんと士郎さん、なのはのお母さんとお父さんだから親孝行したいんじゃないかな。ヴィヴィオいいよね?」
(そう言えば昨日来た時から凄く嬉しそうだった。)
「うん♪ フェイトママが一緒だもん」

 ヴィヴィオは笑顔で答えた。

 その後、2人で少し遅めの朝食を食べた後

「少し散歩しよっか」
 彼女の誘いに頷いて答え、2人で海鳴市を見て回ることにした。

「懐かしい…ここはね。なのはとアリサとすずかとね…」
「…ここにあったんだけど無くなっちゃったんだ…」

 時々足を止めてフェイトが指さす方を見ながら耳を傾ける。
 時空転移が使える様になって、他の時間軸に行ける様になって思う時がある。
 私は何処の何時に居るのか? と
 フェイト達が懐かしむ様に思い出のある場所もいっぱいある。でもその場所は他の時間軸や何時の場所なのだろうと…
 歩いている最中、見覚えのあるを見つけた。

「図書館♪」

 見知った場所を見つけて建物に向かって駆け出す。でも入り口まで来るとドアは閉ざされシートが貼られていた。

「古くなったから図書館は別の場所に移って、ここは壊されるんだって」
「壊されちゃうんだ…」

 好きだった場所が消えていく。
 時空転移が使えなかったらきっとこの建物が図書館だと言うのも知らなかっただろう、過去に行ったからここが好きな場所になった。

(周りだけどんどん時間が進んじゃってる…)
「新しい図書館行ってみる?」
「ううん、いい…」

 そこには本が沢山あってその場所が好きになった人も居るだろう。でも闇の書事件の時に会ったはやてやすずかとの思い出はここにしか無い。
 ここを残して欲しいと思うのはヴィヴィオの我が儘でしかない。そう思うと何とも言えない気持ちになった。

「ヴィヴィオ…、私のとっておきの場所連れてってあげる♪」
「フェイトママっ!?」

 突然手を引っ張られて私は走り出した。



「ハァッハアッ…フェイトママ速いよ…っ」
「ごめん、早く行きたいって思ったから。」

 息を整えながら連れてこられた場所を見る。

「臨海公園?」
「うん、ここは私がなのはと友達になった場所。ヴィヴィオが居なかったら私はきっとなのはに向き合えてなかった。」
「…ううん、私が居なくても…」
「居なくても会ってたかも知れないけど私はヴィヴィオが居たからなのはと向き合えたんだ。だからここは私にとって大切な場所。」
「さっき図書館を見て少し寂しそうな顔してたでしょ。私も何となくわかるんだ…色んな世界、色んな時間を見てそこで好きな場所が出来てもここじゃ違う場所になってるって感じ…私もすずかやはやてと一緒に図書館に行っていたから、壊されるって思ったらちょっとだけ寂しくなった。」
「ママも?」
「うん、でもね思い出は私達の心の中に残ってる。新しくなった図書館も昔の私達みたいな子達が来て図書館を好きになってる。そんな風にして町は少しずつ変わっていくから…ここも私が居た時と少し違うけど、なのはと会った大切な場所なのは変わらない。」

 海から流れてきた風が髪を掬っていく。前にこんな風を感じた事がある…

「この風は…そっか。」

 目を瞑って思い出す。異世界の闇の書のマテリアル達と戦った後、クロノが彼女達を連れて行こうとしたのを止めた時…。
 世界は違ってもその場所が何処かにあるなら、それは私の大切な記憶で思い出なんだ。

「今度はなのはと一緒に来ようね。」 
「うんっ♪」

 ヴィヴィオは満面の笑みで頷くのだった。


「ええ昨日少し話しました。特に気にしていない様です。ですがセンサーは全く動きませんでした。」

 同じ頃、エイミィ・ハラオウンは子供2人が登校するのを見送ってから家事をしていると通信が来たのを受けた。相手はリンディだ。
 昨日高町家に行った時、クロノに言われてセンサーを持っていったのだがヴィヴィオにはピクリとも反応しなかった。大抵ここまで魔法力が無ければ体調にも影響する筈で彼女はなのはやフェイト、みんなに心配かけないように我慢しているのかも。そう思ってリエラにそれとなく聞くように頼んでいたが後で本当に何でもなさそうだと聞いてエイミィ自身も首を傾げていた。
 気にはなるけれど3人が海鳴市に戻って来た理由も聞いていたし半分退職したような立場上詳しく聞くのも憚られた。
 近況ついでにリンディにだけメッセージを送っていたら通信が届いたのだ。

「桃子さんがなのはちゃんが帰ってきて凄く嬉しいみたいで、でも笑って迎えられる事情でもないので隠すのが大変そうでしたけど。」
『桃子達を時々ミッドチルダや管理局に連れて来られたらいいのだけど…』

 娘が遠い世界で頑張ってるとは聞いているけれどその場所に行けないのは辛い。
 以前なのはが大怪我をした時でさえ2人の渡航許可は下りなかったのだからこの壁はそう簡単に破れそうにはない。
 昔は兎も角今は子供が居るエイミィも桃子の心情は察していた。

「そうですね~、ヴィヴィオちゃんが魔法使えるようになったら時々遊びに来るように言いましょうか? 私から言うと気を遣わせるからリエラあたりから…」
『そうね、それが良いわね。ついでにお願い出来れば私の所にも遊びに来て欲しいんだけど…リエラは時々メッセージや写真送ってくれるんだけど、カレルは全然…あの無愛想っぷりは誰に似たのかしら?』
「年頃ですし、甘えるのが恥ずかしいだけですよ。それに似る人なんて1人しか…最近似てきたな~って思いますし。アレはアレで学校でも結構モテてるみたいですよ。リエラに2人の写真も送る様にそれとなく言っておきます。」

 苦笑しながら答える。

『ありがとう。何かあったら連絡お願いね。』

 リンディがそう言うと通信は切れた。それを見てエイミィはフゥっと息をついた後考える。

「…桃子さんの件は置いといて、本当に魔法力が無くなった違和感…感じてないのかな?」

 エイミィ自身なのはやフェイト、クロノ程魔法資質は無いけれどある程度はある。訓練時に魔力を使い切ってダウンした経験もあるからむしろ気になっていた。

「カレルとリエラに翠屋に寄って様子見てくる様に言った方がいいかな? フェイトちゃんにメール送っとこっと」

そう言って端末を広げた。



「美由希、雫が朝帰って来てからムスッとしてたんだけど理由知ってる?」
「アハハ…ヴィヴィオのせいですね。」

 同じ頃、なのはがクッキーをウィンドウに並べていると、ヴィヴィオの名前が聞こえてきて耳を傾ける。話をしているのは美由希と月村忍で、忍は昨日まで海外で仕事だったから今日は休みだそうだ。
 忙しそうなら手伝おうと来たのだけれど、なのはが手伝っているのを見て客として軽食を頼んでいた。

「ヴィヴィオ?」
「朝練で恭ちゃんに言われて雫、ヴィヴィオと軽く打ち合ったんです。恭ちゃん木刀…棒に柔らかい布が巻いたのを持って来てたからヴィヴィオが来るの知ってたのかも…」 
「えっ! まさかそれで雫がボコボコにして恭也が怒った…とかはないか。されたならもっと燃えてる筈だし…」

 一瞬雫に怪我させたのかと思って2人を見る。

「練習だから最初は様子を見ながら動いてて2~3度は当たったんですけど、その後は全部ヴィヴィオに防がれちゃったんです。それで途中から熱が上がってきて…それなのに全然当たらなかったから。」
「私達の剣って結構変わった2刀流だけど1本の剣で防ぐのは相当な腕がないと出来ないので…私も驚きました。」
「へぇ~本当に強いのね。なのはちゃん、ヴィヴィオ向こうで何か練習してるの?」

 聞き耳を立てていたのに気づかれていたらしい。

「私達と魔法の練習はしてましたけど、アリシアがお姉ちゃん達と同じ剣練習してるからそれかも知れません。」

 そう言うと美由希が納得したようで

「それだね。忍さんそんな訳なので帰ったら雫に話して下さい。」
「うん」

 頷く忍。だがその翌朝、昨日の雪辱をと燃える雫とは別にヴィヴィオがフェイトと臨海公園付近でジョギングを始めて来なかった。
 逃げたと怒りに燃えた彼女が高町家に決闘しにやってきて美由希から聞いた忍が大激怒するのだけどそれはまた別の話。


~コメント~
 海鳴市でのヴィヴィオの生活話でした。
 子供の頃によく遊んだ場所を今見ると老朽化していたり、壊されて別の建物が建っていたりして、少し寂しい気持ちになる時があります。
 時間を行き来できるヴィヴィオならどうなのでしょうか。


 

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