第16話「旅路の起点」

 ヴィヴィオとアリシアはオルセアの丘陵地帯にある洞窟に来ていた。
 特務6課に行った後、アリシアははやてにティアナと一緒に軌道拘置所に行きたいと言った。
 何をするつもりなのか判らず首を傾げたヴィヴィオ達に

「ルネッサ・マグナス元執務官補と面会させて貰えませんか? 聞くのは1つだけなので5分もあれば…」

 と言い唐突に出てきた彼女の名前にその場に居た全員は驚いた。
 その後、面会は直ぐ許可が下りないが通信で良ければと言われてティアナに通信を繋いで貰った。
 そこでアリシアは本当に1つだけを聞いた。

「ルネッサさん、ルネッサさんが『思い出の地』って言われたら何処を思い出しますか?」
 唐突に聞かれたルネッサは半ば目を点にしながらも

『…オルセアの洞窟でしょうか…私が幼い頃育った。』

 それを聞いた直後ヴィヴィオの腕を取って

「ありがとうございます。じゃあまた来ますから欠片の件お願いします。」

 そう言うと何時仕掛けたのか転移魔方陣を作って飛んだ。



「いきなりどうしたの? 母さん達絶対不審に思ってるよ。」

 飛んだのは特務6課から少し離れた市街地。アリシアの魔力ならこの辺が限界なのは知ってるけど…

「すぐに飛ぶよ、さっき言ってたオルセアに。フェイト達が先に動いたらややこしくなる。」
「えっ?」 
「いいからっ! アーカイブに情報あった。オルセアの丘陵地帯北部の洞窟。座標は…」
「アーカイブ?」

 ヴィヴィオはまだ話についていけていない。でも急いでいるのはわかったし、転移魔法だと無理だけど空間転移なら魔力も持つだろうと考えて刻の魔導書を広げてイメージを送って言葉を紡いだ。


「薄暗いし、なんか変な臭いもするし…嫌な感じもする。アリシア、ここで合ってるの?」

 鼻をつまみながら洞窟の中を見る。全く人気はない…寧ろ何か違うものが出てきそうな感じだ。

「こっちの管理局のデータが正しいならここで合ってるよ。ヴィヴィオが話してる間にアーカイブに繋いで確認したから。ヴィヴィオ、フォワードなんだから早く行って」

 レリック片の話をしている間に何をしていたかと思えば…

「それってまた怒られるんじゃ…」
「フェイトのパーソナルコード使ってるけど閲覧しただけだからバレないって。」 

 いつそんなものを入手したのかとか色々突っ込みたいところはあるが聞かない方がいいと思い直して深い溜息をついた後前に進む。

「ここからはヴィヴィオが頼りなんだから。さっき言ってたイヤ~な感じがする方に行って。」
「え~っ! 話が全然わかんないだけど…虐めてる?」
「だから違うって、後で理由も話すから。」

 そう言われて渋々嫌な感じがする方へと足を進めた。
 洞窟は入り口が少し狭かったがある程度中に進むと次第に大きくなっていて2人が並んで歩いても十分な広さになっていた。そして…

「空気が変わった?」

 じめっぽくてカビの様な臭いが無くなってきた気がする。その理由は直ぐにわかった。

「ここで行き止まり…みたい。上から光が見えるし空気がここだけ流れてるんだ」
「嫌な感じはする?」

 聞かれて小首を傾げつつ

「…う~ん…何となくなんだけど、この奥から」

 そう答えたらアリシアは指さした方の岩壁をあちこち触り始めて…

「…あった。」

 そう言うと【ガコッ】っと重い音がして岩が動いて岩だと思っていた場所に扉が現れた。
明らかに人造のものだ。隙間を開けて端末を出してセンサーを入れて…

「空気はあるし有害毒素系は無い、入ろう。」

 部屋に入った。ヴィヴィオも後に続く。

「ここは…何?」

 部屋に入った後魔法球で光を作って辺りを見回す。外の岩ばかりの場所全く違う光景に驚く。何かの研究室か? 洞窟はこれを隠す為のカモフラージュだったらしい。

「大当たり♪ ヴィヴィオの勘が鋭くて助かった。まだシステムも生きてる。」

 そう言うと近くにあったコンソールらしきものを触りはじめる。

「いいかげん、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? 秘密にするものでもないでしょ」
「……見つけたっ♪ ごめんね、先に話すと嫌がられるかなって思って。ここはオルセアの活動家トレディア・グラーゼのアジト…ラボって言った方が良いかな。トレディア・グラーゼはさっき会ったルネッサ・マグナスの家族みたいな人で既に死んじゃってる。ルネッサは…言わなくても知ってるよね?」
「知らない。誰?」

 即答するとアリシアは思いっきりこけた。

「昔調べたでしょ! マリアージュ事件。その容疑者よ。私達の世界じゃ裁判も終わってるけど」

 言われてみて思い出す。初等科の頃調べた様な…

「私達の世界とあっちのヴィヴィオの世界、ここは違う時間軸。でもこれを作り出したのは多分あっちのヴィヴィオじゃないかって思ってる。これは判るわよね? 3つの世界が分かれたのはここ30年以内。私が魔導炉暴走に巻き込まれて死ぬ前からヴィヴィオに助けられたのが最初。ということは私達に直接関係しないものは残ってる。2隻目の聖王のゆりかごがあった様に。」
「それならここにもこれがある。」

【ピッ】っと音が鳴って彼女の手元が開き見知ったものが上がってきた。

「ウソ…それは……」
「そう、完全体レリックNo14。あっちのヴィヴィオが持っていたもの。」

 トレディア・グラーゼのラボ、こんな物が見つかれば管理局は間違いなく隅々まで調査する。ティアナだけではなくはやても話を聞いていたから管理局を通してここに来るのは時間の問題。
 そしてラボに残された完全体レリック…。私の『嫌な感じ』がセンサー代わりだったのだ。
 ここに来ると言った時から彼女はこれも狙っていた。

「これで直せる…ううん、生まれ変われる物は揃った…あの子の、ヴィヴィオの本当のデバイスが」

 赤い結晶体を持ちながらニヤリと笑う彼女は何をしたかったのか全て理解した。
 


 一方、少し時間が戻って特務6課の部隊長室。
 話を聞いた直後、ヴィヴィオとアリシアが転移魔法で消えてしまって

「「「「………」」」」

 なのは、フェイト、はやてとティアナは何がどうなっているのか全く判らず2人の消えた方を見ていた。

『何か、悪い話をしたでしょうか?』

 そう聞いたのは通話端末向こうのルネッサだった、近くに居た拘置所の局員も状況が判らいからか口を挟めずにいる。

「ルネッサ、そこには何があるの?」
『昔私が身を潜めていた場所です。当時は多くの武器を隠していましたが局員になった後に見に行くと何もありませんでした。持ち出されたのか保護した局員が回収したのかは知りません。裁判でも関連性が無いと思い話しませんでしたが…問題だったでしょうか?』
「い、いや、大丈夫。ティアナ、ルネッサもありがとな。久しぶりに話すんやからプライベートで話してきていいよ。通信終わったら教えて。」
「『はい…』」

 まぁそういう反応になるだろうと思いながらティアナは通信を一旦保留にして部屋から出て行った。

「予想だけどアリシアは何かを探しにきていて…そのヒントがルネッサの『思い出の地』だったんじゃないかな。その場所が判って2人で探しに行った…管理局が調べに行く前に何かを見つける為に」

 フェイトが会話を思い出しながら言う。はやても頷く。会話からするとその可能性が高いだろう。

「でも、さっき武器は全部無くなってるって言ってたよね。ヴィヴィオ達が探しに行ったのも持ち出されてるんじゃないのかな?」
「うん、私も最初それを考えた。でもヴィヴィオは時間移動できるなら場所さえ判れば持ち出される前にそれを見つけて手に入れられるでしょ。」
「あっ!」
「その方法を取られたら私らに止める方法は無いよ。今度来た時に聞いてみよう。それでな話は戻すけど。2人から頼まれた物…どうしたらいいと思う? 私はジュエルシードは兎も角、レリック片は渡してもいいと思ってる。」
「えっ?」
「どうして?」

 はやての案に驚くフェイトと聞き返すなのは

「さっき会話した時に感じたんやけどアリシアは相当頭が切れるよ。間違い無く聖王のゆりかごを動かしてあの映像を送った作戦は彼女が立ててる。フッケバイン一味を動かしてヴォルフラムを足止めしたのも、うちにECウィルスの物証と対ウィルス剤を送ったのも含めて。」
「その彼女が特務6課に来てレリック片が欲しいと言った。多分私らがどう動くかを見てる。」
「何の為に?」
「特務6課は本来の目的の1部を達成して次のヒントも貰った。ラプター計画から魔力コア計画に変わっただけで隊の運用に支障は出てないし、ヴォルフラムの運用責任とかミッドチルダでの敗退で責任追及されると思ってたけど逆に評価も上がってる。被害から見てもそうや、負傷者は出たけど重傷者は出てない、これだけの事件でそんなんあり得るとおもう?。」

 聖王医療院で小さいアリシアが全部予定通りだったと言ったのを思い出す。

「その後で私らに連絡してきた。逮捕される可能性もあるのに…アリシアからしたら『相応の対価としてレリック片とジュエルシードくらいくれ』って感じなんやと思う。」
「だから、それに答えるの?」
「うん、礼は言わんけど報酬くらいはあってもいいんちゃう? こっちのヴィヴィオが使う可能性があるんやったら断るけど、無いって断言してたしな。それに、私らが断ったら2人は次の手に出るよ。」
「次の手って?」
「保管庫に侵入して強奪。既に取られてるかも知れん、過去に移動して持ち帰ったら私らは止められへん。」

 さっきフェイトが言った方法がこちらでも通用する。

「それって完全に犯罪だよ?」
「そうや、だからそうなる前に止める。魔力コア研究で適当に理由付けて譲渡許可貰えばいいんやからメール何回かと紙1枚で済むなら簡単やろ♪」

 笑って言う。
 はやてはアリシアに会うまでは不快感を示していたが先程迄の会話で彼女が気に入った。
 事件の時は裏にコソコソ隠れて動いてるのが気に入らなかったけれど、敵意しかない場所に2人で正面から乗り込んできて、こちらの売り言葉を全部弾き、疑ってかかっていたはやて達を驚きで払拭し空気を変えてヴィヴィオに話させた。
 最後の詰めまで全て読んでその結果に向かって最良の道を見つける。

(フェイトちゃんにも素養あったらいいのにな…)

 相手から信用して貰って話を進めるフェイトとは正反対、だけど組織にはこういう者が必ず必要になる。
   
(こっちのヴィヴィオに資質があれば…か)

 魔力コアを作り出したプレシア・テスタロッサ。参謀格として十分な才能を見せたアリシア・テスタロッサ…ここは思った以上に大きなものを失っているのかも知れないと思うのだった。


~コメント~
 来週仕事で更新出来そうにないので連日更新です。
 本話より3章突入です。レリック完全体の在処の話でした。
 レリック完全体についてはAffectStory~刻の移り人第6話「ヴィヴィオへの贈り物」でヴィヴィオが手にしていて、これを見つけた話として短編集~輪廻~を書かせて頂きました。
 大人アリシアの評価については結構分かれると思います。ASシリーズでは計算高い部分が多く見られますが「もう少しバカっぽくてもいいんじゃない?」と思われる方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
 ASシリーズのアリシアはヴィヴィオの隣で歩きたいと思っていますが、フォワードで出たヴィヴィオが確実に帰って来られるようにバックアップに専念する為に全力を向けた結果なので危険な場所については先に調べたりしています。
 それら全てはヴィヴィオが安全確実に任務を進められるように考えた結果なのでそういう部分ではアリシアの性格は同じなのかなと思いました。
(そもそも、彼女達の世界には既にそういうキャラが1人エルトリアに行かずに残ってるので反面教師になっているかも知れませんね。)


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