第19話「Tanuki fight」

 トレディアのラボでレリック完全体No14は見つかった。早速戻ってとヴィヴィオは席を立って入り口に向かう。しかし端末を触っていたアリシアが

「もう少し調べていい? 面白い物が見つけちゃった♪」

 何を見つけたのだろうと思いつつ空間転移で再びヴァイゼンに戻るには残りの魔力じゃ心許ない。一応洞窟の周りにセンサーを仕掛けてラボに戻り手近な机の上の埃をこれも手近にあった布で拭き寝転んで瞼を閉じた。

「お待たせ。ヴィヴィオ起きて」

 再び瞼を開いたのはアリシアから呼ばれた時だった。起き上がると結構身体が楽になっている。
「…ん…どれ位寝てた?」
「う~ん…1日と少し?」

 ん~っと伸びをしながら聞く。
 日が昇っているのか夜なのか判らない場所。かなり時間かかったのとその間に管理局が来なかったのは予想外だった。

「それで面白い物って何だったの?」
「これ♪ 研究中だったみたいだからついでにレポートも読んじゃった。」

 そう言って見せたのは蒼い宝石…

「これってジュエルシードっ!?」
「トレディア・グラーゼって人はマリアージュの研究をする中で幾つかのロストロギアにも手を出してたみたい。ジュエルシードって純粋な願いを叶える力があるって言われてたから構成を詳しく調べようとしていたんじゃないかな。」
「じゃあ、これで特務6課でレリック片を見つければ私達の用事はおしまいだね。」

 目的の物がここで見つかると思わなかった。良いタイミングで見つかったのに素直に喜ぶ。しかしアリシアはキョトンとした眼差しで

「ん? これ偽物よ。見た目はそっくりだけど器だけ、中に魔力は空っぽのイミテーション。だって私が作ったんだもの、ここで。」
「偽物?」
「そう偽物。刻印ナンバーあるでしょ【10】って」

 渡されてよく見ると刻印ナンバーが刻まれている。 

「じゃあ…まさか…」

 偽物をわざわざ作ると言うことは…付き合いの長い私には次に何をするつもりなのか判った。

「魔力もそれなりに戻ったでしょ。行くよ、時間は私達が聖王のゆりかごを動かした日、出来ればヴィヴィオが倒れてゆりかごに戻った後あたり。場所は本局の遺失物管理部の保管庫。場所も調査済み♪」

 聖王のゆりかごの中に居れば時間軸の干渉はある程度抑えられる。聖王のゆりかごを動かした私達が中にいる時ならみんなの目がそっちに向いている。本局の保管庫は間違い無く手薄になっているからまさか侵入されると思っていないだろう。

 ルールを無視すれば彼女ほど怖い存在は居ない…そう思いながらもその時間が最適だと思い刻の魔導書にイメージを送り詩編を口にした。


  
「っと、到着。」

 再び私達が特務6課に来たのはトレディアのラボから飛んだ翌日だった。
 何も言ってなかったから流石に出迎えもなく、そのまま隊舎に入る。

「スバルさ~ん、こんにちは~♪、八神部隊長はいらっしゃいますか?」
「ええっ!? フェイトさん…じゃなくて またっ!」

 訓練を終えた後なのか始まる前なのかは判らないが訓練服で歩いていたスバルを見つけてアリシアが声をかけた。いきなり声をかけられたスバルは滅茶苦茶驚いている。

(スバルさん…本当にすみません…)

 ヴィヴィオは心の中で謝った。

「特務6課にようこそ…って流石に昨日の今日で許可は下りんよ。それより『思い出の地』に行って何か収穫あった?」

 部隊長室に案内されるとはやてに出迎えられた。前より刺々しい感じは無くなっている。

「おかげさまで、トレディア・グラーゼの隠し研究室がありました。一応これが詳細です。研究室はまだ生きてるので局員を向かわせた方が良いですよ。」
「隠し研究室! ありがとな、そっちの目的の物はあった?」
「私達の方は空振りでした。代わりのジュエルシードがあればって思って行ったんですが、研究レポートしか見つかりませんでした。ですからジュエルシードは私達の世界にもあるのでそっちを使います。レリック片はどうですか?」
「手続きは進んでるよ。あと3~4日ってところとちゃうかな。」
「そうですか…じゃあ3~4日したらまた来ます。ヴィヴィオ、行こう」

 出た所で3~4日後に飛べばいい。踵を返して部屋を後にしようとした時

「ちょっと待って。そっちのヴィヴィオに頼みがあるんよ。」
「私に?」

 呼び止められて部屋を出るのを待った。



「私達がはやてさんのお願いを聞く義理はないんですが…」

 ムスッとした顔で答えるアリシア

「そうやね~レリック譲渡の代わりやとって思って。」
「前の小包で十分だと思うんですけど?」
「アレは何処の誰さんかから送られたもので、アリシア達から貰った証拠は無いよ。魔力コアの設計図は小さいアリシアから貰ったけどあんたとちゃうって昨日言ったやろ? 私らだけ頼み受けるのもな~♪」

 ニヤリと笑うはやて
 彼女は判って言っている。

「それは…そうですけど。」
「無理なお願いをするつもりは無いよ。どっちかって言うと前の事件での被害者の救済を頼みたいんや。心の怪我のな。」
「心の怪我?」

 流石にそう聞いては立ち去る訳にはいかなかった。


 心に傷を負った者というのはこの世界の高町ヴィヴィオだった。
 聖王のゆりかごが突然現れ、事情を聞こうとした時に小さいアリシアに止められて気を失ったらしい。気がつくと既に戦いは終わっていて特務6課のフォワードチームは敗れたと聞いた。
 それから家の周りにメディアが沢山来てノーヴェの家で暮らしている。
 以降学院でもトレーニング中でも元気が無いらしい。

「本当ならなのはちゃんとフェイトちゃんに帰って貰ってフォロー出来たらいいんやけど、特務6課は前のフッケバインの襲撃でヴォルフラムは修理中、隊員は皆戻ってるけど運用出来る状態とちゃう。そんな時にフォワード陣の隊長に抜けられると色々支障がでる。だからなのはちゃんとフェイトちゃんの代わりに行って来て。悩みが解決する頃には渡せると思うよ♪」
「…それって、解決しなきゃ渡さないって言ってるのと同じじゃないんですか?」
「さぁ~どうやろ?」

 ニヤリと笑みを浮かべるはやてに眉をひくつかせながらアリシアが言う。

(はやてさんの本気を見た気がする…)   

 この前は事件絡みということで部隊長という立場で自由に動けなかった。 しかし今度はそういう制約はない。ルール無視という制約がない状態ならはやてもアリシアと同じ立場になる。あとは場数の勝負…。
 見る限りはやては一瞬でアリシアを負かしてしまった。

「アリシア、解決できるかわからないけど行ってみよう。私達のせいで悩んでるのならなんとかしなきゃ。」
「ヴィヴィオがそう言うなら…はやてさん、許可が下りたらこっちのヴィヴィオに通信送って下さい。取りに来ますから。」
「頼むな♪ あっ、これ管理局のゲストパス、こことミッドチルダ地上本部の直通ゲートは自由に使える様にしてあるよ。ここなら兎も角あっちで魔法使ったら色々まずいからな。名前とかは適当やからそれ答えてな。生活で要る分あったらそれで買って。身の回りの物位なら経費で落とせるようにしてるから。」

 そう言ってカードを手渡された。
 頬を膨らませあからさまに不機嫌なアリシアを見てクスッと笑う。完全に彼女の方が何枚も上手だ。   

「わかりました。じゃあお言葉に甘えてアリシア行こう。」

 彼女の手を取って部隊長室を出た。


 
「滅茶苦茶悔しい…完全にやられた…」

 特務6課からヴァイゼンの地上本部に向かう間アリシアはずっと呟いていた。

「いいじゃない。頼んだ物は貰えるんだし。転移魔法使わなくても移動出来るようになったし。隠れて動かなくていいし買い物も出来る様になったし♪ あとは名前だけ注意すればいいんだから。私がオリヴィエでアリシアがエレミアって本当に思いっきり適当に付けたね~…」

 笑って言う

「それだけじゃないでしょ。聖王のゆりかご、動かしたのは私達じゃないってはやてさん、特務6課が証明してるんだよ。私達がこのままミッドチルダに行けば絶対間違われるでしょ。でも特務6課が発行したパスを見せて『私はオリヴィエです、エレミアです』って言えば疑いはかからない。直接戦った相手が証明するなんてありえないから。ヴィヴィオは悔しくないの?」

 なるほど、そういう考え方もできるんだと感心する。

「全然、大切なのは過程じゃなくて結果だから。ラプター計画は止まって魔力コアの研究が始まってる。あっちのアリシアから渡されたなら魔力コアの意味はこっちのフェイト母さんに伝わっている。だからあの計画はおしまい。魔導書からも文字は消えたし今はアフターケアみたいなものでしょ。」

 そう言うとアリシアはハァ~っと息をついて苦笑した。

「ヴィヴィオは凄いよ、全部が見渡せてるんだから…そうね、アフターケア頑張りましょう。私がエレミアか~…名前間違わないように気をつけなきゃ。」
 渡されたパスを見ながら言うのを見て思わずヴィヴィオも笑った。



「ただいま~」

 その日、ノーヴェ・ナカジマは次のタイトルマッチの打ち合わせでフロンティアジムに行っていた。
 DSAA U15の公認イベントとしてミッドチルダのチャンピオンとランカーが所属している2ジムが共催する為である。共催とは言ってもナカジマジムにイベント主催経験は無く、参加している彼女達を除けばスポーツジムとしてのスタイルを取っているから名前を貸してノウハウを教わるのが目的だ。勿論ナカジマジムだけにメリットがある訳ではなく所属選手以外のU15ランカーが複数人参加するという意味でフロンティアジムにも利点はある。


「会長、お客様が部屋でお待ちです。」

 バイトリーダーのユミナが駆け寄ってくる。

「客? 今日は誰も来るって聞いてないけどな~誰? 名前くらい聞いただろ」
「それが…オリヴィエとエレミアって言ってて…見るからに凄く怪しいんです」
「はぁっ?」

 流石のノーヴェもその名前は知らない筈がなく、ユミナの方を向く。彼女も受付をしているのだからそんな不審人物を中で待たせるなんてしない。

「会って貰えばわかります。2人の事はアインハルトには話しましたけど他は誰も知りません。」

 彼女の顔を見ても何か考えて隠しているというより彼女自身もよくわからないといった様子だ。

「わかった。とりあえず会ってみるよ。」

 そう言って部屋へと向かった。

「お待たせしてすみません。ノーヴェ・ナカジマです。 っ!?」
「こんにちは、ノーヴェさん」
「こっちじゃはじめましてでしょ!」

 ソファーに座っていた2人が立ち上がって振り返る。その姿を見てノーヴェは声を詰まらせた。

「…お前ら…どうして…?」

 そこに居たのはヴィヴィオの成長後とフェイトそっくりの2人だったからだ。


「その様子じゃ連絡来てないですよね…思った通りだった。」

 ヴィヴィオそっくりな女性がため息をつきながらここに来た経緯を話した




「ったくもう、あの人は悪戯好きなんだから…」

 頭を掻きながら言うノーヴェにヴィヴィオも苦笑いする。
 先のゆりかごを動かしていた2人は特務6課の八神はやてから頼まれて落ち込んでいるヴィヴィオの相談相手として来た。
 私達の名前をミッドチルダで使うのは確かに目を引きやすい。かと言って管理局がゲスト用とは言え偽造パスを出すのもそうだけど、何もわざわざオリヴィエとエレミアなんて名前を使わなくても…と思う。その辺は彼女の悪戯だろう
 反面、特務6課が承認しているゲストパスだから幾ら怪しくても受付の少女の様に通してくれる。

「それで…こっちの私はどうしたんですか?」

 そう聞くと彼女は真剣な表情に変わった。

「ああ…家、私んちから学院に通ってるよ。小さいアリシアにやられたのも怪我っていう程のものじゃなかったし。ただ…」
「ただ?」
「時々悲しそうな顔で空を見上げてるんだって。私やフーカ、アインハルトが聞いても何にも教えてくれなくて…チンク姉になのはさんとフェイトさんに1度帰ってこられないか聞いてたんだ。」

 はやてはチンクから相談されたのだろう。

「空を見て…」

 聖王のゆりかごを使うと決めた時、彼女は来るのは予想していた。だから異世界のアリシアが彼女を力づくで止めさせた。でも…その後で彼女は何を悩んだのか…わからない。

「アリシア…前に来た小っこい方な、あいつからお前達が何をしたのかは聞いてるよ。私も…大声で賛成って言えないけど判ってる。だから頼む…ヴィヴィオの悩みを聞いてやってくれ。」
「ヴィヴィオ…」
「うん」

 アリシアと顔を見合わせ頷く。アフターケアだと言っていたけれど、彼女が悩みを抱えたままだと良い未来にもならない。

「わかりました。まだ何ができるかわかりませんけどヴィヴィオに会わせて下さい」
「ありがとう。」

 笑みを浮かべたノーヴェを見て彼女がかなり心配してくれていたのがわかって原因を作ったヴィヴィオは胸がチクリと痛んだ


~コメント~
 女性同士の取っ組み合いの事を「Cat Fight」と言いますが、彼女達の場合はこちらの方が合っているかなと思いました。
(狸はracoon dogと訳す場合は多いのですが、日本語の読み方通り「Tanuki」と呼ばれる事もあるそうです。)
 こういうはやては書いていて楽しいです

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