第21話「刻の主を支える者として」

 私とアリシアがノーヴェと話していると【コンコン】とドアがノックされる音が聞こえた後少女がカップを持って入ってきた。
 ここに来た時、最初に会った少女だ。

「紹介するよ、アルバイトのチーフリーダーのユミナ、DSAAでセコンドもしてくれてる。こっちは私の知り合い、オリヴィエとエレミア…ってなってるけどまぁ見たとおりだ。」

 ここで彼女に嘘をついても仕方ない。

「高町ヴィヴィオです。」
「アリシア・テスタロッサです。」
「ユミナ・アンクレイヴです。…お2人はやっぱり…」
 ジーッと見られる。あからさまに色々疑われている。まぁ、あれだけの事をすればそうもなるかと苦笑する。

「その辺は詮索しないでやってくれ。あの後ヴィヴィオが何か悩んでるって相談してたら2人をここに寄越してくれたんだ。そろそろヴィヴィオも来る頃だよな。」
「ヴィヴィオ達はさっき来ました。フーカと交代する前にと思って」
「ありがと。呼んできてくれる? ヴィヴィオだけ。」
「わかりました。」

 そう言うと3人の前にカップを置いた後ユミナは出て行った。

「話して解決出来るもんじゃないと思ってるけど…一応な」

 少しして再びドアがノックされ

「失礼しまーす。ノー…じゃなかった会長、何ですか~ !?」

 入ってきて私達の顔を見た瞬間思いっきり固まってしまった。

「ヴィヴィオ…アリシア…」
 


「最近元気ないだろ? 学院でも時々空見て考えてるって言うし。タイトルマッチが近いのに気が抜けてたら怪我の元だからな、それで2人に来て貰ったんだ。」
「ちなみに私達は小さい私達とは別人ね。」

 ノーヴェの話に付け加える。

「来て貰ったって半分騙されたみたいなものだけどね…」

 横でアリシアが小声で言うのを聞いてクスッと笑いかけた。

「おかげでこっちの私に会えたんだからいいじゃない♪」

 そう答えてこっちの私を見る。

(格闘系のスポーツをしているからかな身体は凄いね。)

 ガッチリした筋肉質というのではなく、柔軟性を併せ持った感じだろうか。
 あっちの私が魔法無しなら勝てないと言ってたのを思い出す。

「ノーヴェありがとう、その…大人の私もありがとうございます。何でも無いです。U15もあと少ししか出られないしどうすればチャンピオンになれるかなって考えてただけなんです。タイトルマッチは全力全開で勝ちに行きますから見てて下さい♪」

 そう答える彼女だったが私にもそれは空元気だというのが直ぐにわかったし

「嘘だな」

 ノーヴェにもあっさり見破られていた。

「タイトルマッチなんて何度も見て来たし、決勝で戦った事もあるだろ? それなのに今更考えてるなんてありえない。何を隠してるんだ? 私に聞かれたくない話だったら外に出てるよ」
「………」
「…………」
「………」

 部屋の中が静まりかえる。彼女が言うか言うまいかを逡巡している…

「私達はヴィヴィオを責める為に来たんじゃないよ。ヴィヴィオが元気にストライクアーツで頑張ってるのを見たいって思ったから来たの。何か悩んでるなら聞かせて、私の方が少しは大人だから…」

 そう言って促すと彼女はポツリポツリと話し始めた。

「…私って…どうしてここに居るんだろうって…思っちゃったんです。聖王のゆりかごが出てきたのを聞いてヴィヴィオが動かしてるのは判りました。…話を聞かなくちゃって行こうとしたらアリシアが来て気絶させられちゃって…後でノーヴェに話を聞いてどうしてあんな事をしたのかわかって…わかったけどだったら私も何か出来たんじゃないかって。」
「私はもう聖王の鎧も出せないし、魔力もあっちの私みたいに強くない。それに大人の私やあっちの私みたいに時間移動も出来ない。それでもここは私が居る時間なんです。それなのに何も出来ず何も知らない間に終わって…そんな事を考えたらわかんなくなっちゃって。」

 聞いて私にはなんとなく気持ちがわかった。
 私も似た気持ちを持った事がある。
 異世界のヴィヴィオが来てシュテル達やユーリと戦ったのを知ったのは彼女達が教えてくれた後だった。
 本当なら私の時間だから行ってなきゃいけないのにフォローしか出来なかった。何の為の時間移動魔法なのかと考えた事もあった。
 頭の中でモヤモヤしていた時、時間は枝葉の様に分かれていくものだろ知って元の自身…ルーツ、最初に時空転移を使って複数の時間軸を作り出したヴィヴィオの存在を知って自身や家族・友人、世界…いや時間軸そのものがそこから分岐したコピーされた世界だということに頭では理解出来ても気持ち敵に納得出来るまで少し時間がかかった。
 それでもまだ私は良い方だと思う。
 時空転移が使えて一緒に考えてくれる親友や家族が居るし彼女と会ってフォローや一緒に戦う事が出来た。
 でも…ここの私は時空転移の資質もなければ聖王の鎧も失っている。その上で聖王関係の事件が起きていたのに何も知らされず、気絶させられて起きたら事件は終わっていたとなったら…。
 聖王関係の事件が起きていてその影響を自分も受けるのに、事件の詳細は一切知らされずに寧ろ邪魔者扱いされたと考えたかも知れない。
 でも逆に考えればここの私は何処から分かれたのかは判らないけれど、ベルカ聖王の資質を失っている。それは時間移動や時間軸移動している私達にとって望んでも得られない未知の可能性だ。
 どう言えば彼女を慰められるかと考えているとアリシアが膝に手を置いた。

「ノーヴェさん、ちょっとだけヴィヴィオと模擬戦したいんですけどいいですか? 勿論砲撃魔法とかそういうのなしで」
「あ、ああ。」
「は、はい」 

ノーヴェとヴィヴィオは何をするつもりか判らず頷く。

「じゃあ先に行って待ってて下さい。準備してから行きます。ヴィヴィオも先に行ってて」

 そう笑顔で言ったけれど

(アリシア…)

 一瞬背筋に寒いものが走った気がした。



 1階のジムの奥にあったリングの前にいると数分も経たずにアリシアが来た

「お待たせ~」
「アリシアっ?」

 でもその姿は…

「どうして小さく?」

 姿が小さく…幼くなっていた。あっちのアリシアと殆ど同じ位。その状態でソニックフォームらしきジャケットを着ている。

「変身魔法の応用。ヴィヴィオ…何も言わないで見ててね。」

 そう言うと驚いてこっちを見ているヴィヴィオやリオ、コロナの方へ向かって行き

「腕試しみたいなものだから、ヴィヴィオもジャケット着て大人モードにもなっていいから。」

 準備運動をしながら言った。

「アリシア…」

 私は彼女の背を見送った



「あの…ヴィヴィオさん、ですよね?」

 様子を見ているとアインハルトが寄ってきた。隣にユミナともう1人見慣れない女性が居る。

「うん、あっちの私とは別人だけどね。」
「アリシアさん…彼女ももう1人の彼女と同じ剣を使うのですか?」
「ううん、普通のトレーニングはしてるけどあこまで実戦向きなのはしてないよ。それより…」
「それより?」
「………」

 何故あんな事を言ったのだろう? それに…

(何を…?)

 何をするつもりなのか私には判らなかった。

 
【カーン!】

 アインハルトのデバイス、ティオが鳴らした音でヴィヴィオがアリシアに距離を詰める。
 アリシアは構えているが武装デバイスは持っていない。それを見て警戒したのかヴィヴィオも有るところ迄は近づいたがそこからはステップを踏みながら距離を測っている。

「来ないの? じゃあ行くよ」

 アリシアがそう言うと、数歩ダッシュしてから屈んで足払いをかける。ヴィヴィオはそれを見て数歩引くがそのまま腕でジャンプし足の間に自らの左足を入れて身体を回しバランスを崩させる。
 ふらついた所でそのまま右足でジャンプしその勢いを使って差し込んでいた足を上げた。
 後方に下がった勢いと開いた足の影響でヴィヴィオは大きく背を反り左足を上げた形になってしまった。

【ドゴッ】

 その状態でアリシアは上げていた足を思いっきり振り下ろし鳩尾に食い込んだ。重い音が響きヴィヴィオの顔が歪み支えていた足から崩れ悶え苦しむ。

「まだ始まったばかりで何もしてないよ?」
「まだまだですっ!」

 膝を震わせながら立ち上がり構えるヴィヴィオを見て笑みを浮かべながら

「そうこなくちゃ♪ 続けていくよっ!」

 今度はヴィヴィオが鞭の様なパンチをギリギリで避ける。腕が伸びた瞬間を狙って両手で肘を固めしゃがんだ後右側に大きくジャンプし。開いた左脇を思いっきり蹴った。
 再び苦痛に歪むヴィヴィオを目にしながらも落ちた右腕でガードが緩んだ鳩尾に膝蹴りを入れくの字に曲がった所を両手を振り下ろして背中から強打した。

「この中は特殊な魔方陣で痛みはあっても怪我とかしないんでしょ。ストライクアーツのミッドチルダ代表って聞いてたからもっと強いと思ってたのにがっかりだわ。あっちのアリシア、私なんかより全然強いわよ。」

 膝を屈して大きく息を吐くヴィヴィオを見てこれで終わりだと言わんばかりにコーナーポストへと戻った。

「こんののおおおおっ!!」

 叫びながらダッシュしてきたヴィヴィオを一瞥し、パンチを避けて身体が伸びたところをジャンプし顎を膝蹴りした。
 その瞬間、ヴィヴィオは力なく崩れ落ちた。



「無茶苦茶じゃ…」
「いえ、アリシアさんは魔法も使っていませんしストライクアーツの範囲で動いています。レギュレーション違反はありません、ただ動く中で生まれた急所、身体が伸びきった瞬間をついています。身体で1番力の出しやすい足を使って…」
「うん…」 
「でもこんなのトレーニングじゃない。止めてくるっ!」

 痛そうだと呻くフーカと冷静に見ていたアインハルトがそれに答える。しかしユミナはをリングに上ってヴィヴィオに駆け寄る。一方的にやられたヴィヴィオにノーヴェもリングの中に入って駆け寄る。
 ヴィヴィオは意識があるようだが立ち上がれそうにない。 

「何のつもりだ。ここまで出来るならヴィヴィオの実力も判ってただろう」 
「何って、この子の甘ったれた性根を叩き直す為に決まってるじゃないですか。」

 そう言ってヴィヴィオを睨む。

「何が『私はどこにいるの?』よ。そんな事考えてる間は私達どころかあの子達になんて追いつけなんてしないわよ。」
「平和な中でフェイトやなのはさんみたいな優しい家族が居て、ノーヴェさんやフーカ、アインハルト達、一緒に競える友達が居て…ヴィヴィオ、あなたどれ程いい環境にいるのか判ってないわよ!」

 そう…さっき『何も言わないで見てて』と聞いた時、私は彼女が怒っているのに気づいていた。それも本気で…。

「私達も、あっちの私達もスポーツに熱中出来る時間なんて無かった。今の私の姿位の時から色んな事件に巻き込まれて、戦って怪我して…暫く魔法が使えない位まで消耗して…治ったらまた何かの事件が起きて…あと少し違ったら死んじゃってたって事も何度もあった。それでも私達は事件や戦いから逃げなかった。ここでもう少し、あと少し頑張れば良い未来になる、悲しまない未来が作れるって信じてたから。」
「ここもそう。ラプター…人が作った大量生産出来る代替人形が出来ると知ってゆりかごを使った。そのおかげでヴィヴィオは2人とも怪我したし、なのはさんやフェイト、特務6課にも負傷者が出た。それでも何の為って聞く? 決まってるじゃない。あなた達が不幸になる未来を変える為に決まっているじゃない。私はここの未来なんて私達と関係ないんだから放っておいてもいいって思ってた。でもヴィヴィオは2人ともここの未来を変えたいって言ったから手伝った。」
「それなのに何してる? 私はどこに居る? 巫山戯るんじゃないわよ! 何もかも抱え込んだ風にしちゃってそれで格好つけてるつもり? これだけ恵まれた場所に居て何が不満なのよ。」

 ヴィヴィオの悩みはあくまでヴィヴィオ個人の悩み、アリシアが言ったのは私達や異世界の私達が経験してきた事。アリシアから言わせたらそんな些細な迷いで周りを困らせるなと言いたかったのだろう。

「私達がどれだけあなたやみんなを巻き込まない様にしたかったのか先に考えなさい。」

 そう言うとポケットからバルディッシュを取り出してジャケットを解除し姿を戻して私の方に歩いてくる。

「ありがと、見ててくれて。」
「3~4日位はこっちに居るつもりだから再戦したいならチンクさん宛てに連絡してきて。その時は本気で相手してあげる。行こう」

そう言うと私の手を取ってジムを後にした。 



「ごめんっ! 話聞いてたら頭にきちゃって…」

 アリシアはジムを出るなり私に拝むように謝ってきた。

「ううん、びっくりした。いつも何が起きても慌ててる所を見なかったから…でもそんな風に見てくれてたんだって嬉しかった。」

 悪態もつくし何を考えてるのか判らない時も多いけれど、彼女の素直な感情が見られて嬉しかった。

「私達が勝手にやった事だしあの子にはまだ言っても難しいかも知れないけど、いつか判ってくれるんじゃないかな。とりあえず特務6課に戻って話して許可が出るまであっちで待とう。ベッドでゆっくり休みたいしね」
「そうね、こっちじゃ私達目立っちゃってるし、あっちでスパとかあるホテル探そう」

 照れ隠しなのか少し頬を赤らめながら抱きつく彼女が近くに感じた。

~コメント~
 ヴィヴィオ達の近くに居るアリシア達にとって今後を考えるとForce世界に関わる事はリスクの方が高い為出来れば関わりたくないものでした。しかしヴィヴィオ達の意思を尊重し彼女達をなるべく安全にかつ成功率の高い方法を考えたのが彼女でした。そんな彼女がヴィヴィオを見て何を思ったのかというのが今話です。 


 

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