第25話「空の上の決戦」

 グランツ研究所でブレイブデュエルを見ていたヴィヴィオはある事に気づいた。

(同時に魔法使える子…結構居るんじゃ…)

 デュエルでは相手にバインドをかけて砲撃したデュエリストが居た。しかし砲撃を受けたデュエリストは2重に防御魔法を使い相乗効果もあってか完全に防いでいた。

「ユーリ、みんな複数の魔法使えるようになってるの?」
「そうですね、ミドルレベル以上のデュエリスト2つ、エースレベルになると3つ使える人も居ますね。シュテル達も4つまで使える様になってます。」
「みんな凄いね。それであのジャケットなんだ。」

 スキル1つを代わりにして新たなジャケット。戦略的に弱くなる場合もある。
「そうです。あっ、アリシアが出ますよ。」

 メインモニタを切り替えて彼女が映された。

『遂に今回の優勝候補アリシアちゃんが登場です。最初の相手は…! T&Hのショッププレイヤーアリサが相手だっ!』

 アリシア対アリサ、私達が初めてこの世界に来た時以来だ。

(アリシア、頑張れ)

『最初はアリサか…久しぶりっ♪』
『全くいきなり来て帰って、今度も勝たせて貰うわよ。』

 アリサの赤いジャケットから青に切り替わる。それを見てアリシアはフルモードのブレイズモードじゃなくてソニックフォームに切り替わった。でも自身のデバイスはアックスフォームのままだ。

『ヴィヴィオの記録塗り替えるつもりだから時間かけられない。速攻でいくよ。』
『デュエル、スタート』
『ブリザードチェイン!!』

 開始直後アリサが左手に剣を持ち右手に槍を持ち横薙ぎにした。その直後ブリザードが周囲を包んだ。広範囲攻撃でアリシアの動きを止めるつもりらしい。

(アリサ凄い、でも…)
『遅いよ、アリサ。』
『!?』  

 上空からスティンガーブレイドを数本放った後、その中の2本を持って連撃を与えた。その瞬間、アリサのライフポイントは0になった。

「開始5秒で終わり…アリシア、いつ上空に?」
「スタートって言われた直後。アリサが横薙ぎにした時にはもう真上に居たよ、一瞬で倒しちゃわないようにブリザードチェインが起きるのを待ってた。」

 思った以上に強くなってる。あっちのヴィヴィオを倒してるのだからここで今度も勝てるだろうか?と思いながら心の中でワクワク感が止まらなかった。

 その後もアリシアは他のプレイヤーの追撃をを許さない強さを見せつけた。5戦終わってデュエル時間が1分も経っていない。
 ヴィヴィオの時と比べても半分以下の時間だ。

「これは…ヴィヴィオを意識してるのでしょうね。」
「うん…多分、初めてデュエルする子は難しいんじゃないかな。あっちで私が勝てないって思った子と戦って勝ってる。私でも勝てるか…わかんない」
「そんなレベルですか!?」
「そんなことよりこのままじゃ…アリシアどうして…」

 モニタ上の彼女をジッとみていると通信が届く。

『ユーリ、アリシアのレベルが違いすぎています。6戦目…7戦目から私達が出られませんか?』
『ユーリ、私がアリシアとデュエルする。このままじゃ負けた子が楽しめてない。』
『あやつを止めねばイベントが失敗するぞ。我らも出る。アミタ、博士にヴィヴィオが出られないか聞いてくれ。』

 シュテル、フェイト、ディアーチェからだった。
 3人も私と同じ様に気づいたらしい。
 ショッププレイヤーはブレイブデュエルのイベントを盛り上げようとしている。レコードタイムより対戦者がどれだけ楽しめたか? 何かを得られるデュエルだったか? を大切にしている。
 前にヴィヴィオが同じイベントに参加した時も対戦者と同じスタイルでデュエルを挑み、その長所と短所が判って貰える様にしながらデュエルした。
 でも今の彼女は相手がデュエルを意識する前に勝負を決めている。対戦相手は突然ライフポイントが無くなり何が起きたのか気づかないまま負けている。楽しめるとかそういうレベルじゃない。
 そんなデュエルをショッププレイヤーは見逃す筈がない。
 ユーリがキーを高速で叩き

「7戦目からショッププレイヤーが出られるようにしました。フェイトお願いします。8戦目以降はレヴィ、シュテル、ディアーチェお願いします。」

 そこにグランツの声が聞こえた。  

『調査で手伝えなくてすまない。ヴィヴィオ君のデュエル参加は許可出来ない。デュエル時に魔法が使えない原因が判らない状態で行けば何が起こるかわからない。調査が終わるまでまってくれないか』
「博士、スキル…魔法を使わなければいいんですね? 少しだけプロトタイプ借りていいですか? ユーリ、ジャケットだけど前のエクセリオンだけ使える様にできる? スキル全部外していいから」
『…それはそうだが…』
「出来ますが…何を?」
「間に合うなら私が行きます。それまでお願い、みんなで時間を作って」

 そう言ってオペレーションルームから駆け出た。
 その直後

『グランツ研究所、オペレーションルームの方聞こえますか? 八神堂のチェントです。お願いします。私とお姉ちゃん、アリシアをデュエルさせてくださいっ!』

 八神堂からの通信が入ってきた。



「ごめんね…これで5連勝。あと半分だけど…」

 アリシアは仮想空間の空を見上げながら呟く。そろそろショッププレイヤーが出てくるかも知れない。足下の岩場が消えた。次のステージに変わる

「次は空か…」
『アリシアの目にも止まらない電光石火の進撃はブレイブデュエル史上最速タイムを次々とあげてます。この進撃を止める者は居ないのか~っ!』

 ほぼ瞬殺に近いデュエルを続けたから流石に注目されている。相手が現れる。

「おね…アリシア…」
「チェント…そういうことか」

 紫のセイクリッドを纏った姿を見て何を考えたかわかった。

「さすが…本当にイヤラシいシステムだわ」

 自虐気味に呟く。

「どうしてこんな事するのっ? これってゲームだよ?」
「ゲームの中だから出来るのよ。違う?」
「…わかった。私じゃ勝てるかわかんないけど…いくよっ」
『デュエルスタートっ』


 デュエル開始直後アリシアの姿が消えた。
 チェントはすかさず体を丸める様にして防御態勢を取る。すると彼女の左横に現れ

「ハァアアッ!」

 ファランクスシフトでの連撃を放つ。
 強烈な衝撃をチェントを襲う。しかし堅牢な防御力を誇るセイクリッド、防御態勢を取ると連撃でもほぼダメージを与えられない。それを見てアリシアは舌打ちしつつ再び距離を取った後姿を消した。

『今はアリシアに勝つのは難しい。それはチェントの経験が足りないから。私からアドバイス出来るのは悪寒がしたら全力で防御して。ヴィヴィオはそれでアリシアの攻撃を防いだ。アリシアの疲労が先かチェントのライフポイントが無くなるのが先か…しかないと思う』
 
 なのはが言っていた悪寒というのがどう言うのかまだ判らない。
 防御主体で反撃しながらライフポイントを削られないようにするしかない。
 パイロシューターを除けばあと1つしかスキルカードは無い。
 そう思っていると右から何か変な感じがした。

「こっち?」

 移動しながら防御する。しかし背後から衝撃が襲った。その感じじゃないらしい…防御態勢だったが集中させていなかったから僅かに減る。 

『チェント、あなたはヴィヴィオ、アリシア、2人の背中をずっと見てきました。彼女達の長所と短所を、ですから長所を考え得られれば2人よりも早く習得する事も可能でしょう。』
「素早く考えて素早く動く…何か出来る事はある筈っ」


「彼女も同じ作戦を考えたのですね。」

 シュテルは2人のデュエルを見つめる。
 一方的にやられている様に見えるけれど、セイクリッドのシールドを破る攻撃が出来ていない。きっと出来るのは彼女がジェットザンバーを使った時だけ、彼女のジャケットならそれを持っている。
 その時にカウンターを使えるかが勝負の決め手となる。
 だけどそれまで緊張した状態で精神力が持つだろうか?


「防御だけじゃ勝てないの判ってるよね?」

 40秒程経過した時、アリシアが姿を現す。

「…わ、わかってる。おね…アリシア、何をするつもりなのかわかるけどみんなを巻き込んじゃダメだよっ。」

 流石異世界でも妹といったところか。折角レコードタイムを作ってたのにこれで振り出しに戻る。「…凄いね。私の考えてる事わかっちゃうんだ。だったら邪魔しないでっ!!」
 ソニックフォームの最高速度でチェントに迫る。近接距離で防御態勢を崩せばライフポイントを奪える。そう思った直後、一瞬背筋に悪寒が走った。

「ディザスタァアフレアッ!」

 チェントがデバイスを手放して両手から炎を発した。
 彼女はシュテルと同じセイクリッド、元世界でも彼女から指導を受けていたら炎熱系を使う可能性はあった。

「!? でもそれだけじゃっ!」 

 攻撃中は防御は出来ない。アリシアにとってこの距離での攻撃は十分すぎた。

「戻ったら伝えて…」
「!?」
「タァアアアッ!」

 4連を2回、合計8回切ってチェントのライフポイントを一気に奪いデュエルを終わらせた。

「…お姉ちゃん…」
「ごめんね…でも止まれないから。」

 呟いた後弾けるように消えた妹の姿を目で追いながら謝った。



「至近距離で…次のフェイトでも」

 オペレーションルームで愕然となるユーリ、実際の運動能力がより強く反映させた為にアリシアの剣術は大幅に強化されている。セイクリッドだからこそ出来た戦い方。同じストライクタイプのフェイトだとこの方法は使えない。

『ユーリ、次お願い。』

 T&Hからの通信でフェイトが言うがユーリは迷っていた。その時

『ハァッハアッ…お待たせしました。わ、私とアリシアをデュエルさせて下さい。』

 デュエルスペースからヴィヴィオの声が聞こえた。


『チェントちゃんの快進撃は止まらない~!、クリアタイムのレコード更新は難しくなったけど、ノンダメージレコードはまだ続いているっ。次の対戦相手は…えっ!?』

 ブレイブデュエルの中で起きている事を知りながらも不安にさせない為にアリシアは司会として奮闘していた。アリシアのデュエルはユーリが制御している。次も間違い無くショッププレイヤーが出てくるだろう。
 対戦エリアに切り替わる。
 海岸エリア。アリシアの前に現れたのは、騎士甲冑-エクセリオンモードのヴィヴィオだった。

『ヴィヴィオちゃん!?』
『すみません~見てたらやっぱり参加したくなって…久しぶりだけど頑張りますっ!』
『ぜ、前回のグランプリ決勝戦と同じカード、優勝者と準優勝者のデュエルです。熱いデュエルになるのは間違い無しっ!2人とも頑張れ~っ!』

 
「ヴィヴィオ…」

 なのはは彼女の姿を見て驚く。グランツから話を聞いていて、イベントが始まる前に応援していると言っていたから彼女が出てくるのは予想外だった。

「なのはさん、フェイトさんっ」
「チェント、上手くアドバイス出来なくてごめんね。でも頑張ってたのわかったよ。」
「うん、いい模擬戦…じゃなかったデュエルだった。」

 落ち込む彼女を慰めようと言ったが彼女は大きく顔を振って 

「そうじゃないんです。お姉ちゃんからなのはさんとフェイトさんに伝えてって…って、あとはやてさんにデュエルしたプレイヤーがもう1回チャレンジ出来る様にお願いしてって。」
「「!?」」

 それを聞いたなのはは2人の振り返ってメインモニタを見つめるのだった。


「ねぇ…私がどうして来たのか判ってるよね?」
「私とデュエルしたいから…って言いたいとこだけどね…ちがうよね、やっぱり」

 ヴィヴィオはアリシアをジッと見る。

「デュエルしたいなら後でいっぱいしよう、私もつきあうから。ここでみんなに迷惑かけちゃダメだよ。」
「う~ん…やっぱりまだ…そうだよね。ねぇヴィヴィオ、ここなら本気の模擬戦出来るよね? デュエルじゃなくて。もう1回しない?」
「えっ?」
「勝った方の言うことを聞く、それでどう? ヴィヴィオが勝ったら私に聞けばいい。」 

 ニコリと笑うアリシア、でも眼差しからはもの凄い気迫が伝わってくる。遊びレベルじゃない。

「判った…手加減しないよ、いい?」
「もちろん♪ そうこなくっちゃ。」
『なんだか2人とも凄く本気みたいだけど…アリシアちゃんとヴィヴィオちゃん準備はいい? ブレイブデュエルレディゴーッ!』
 

「ヴィヴィオ、スキル全部外してるのにどうやって戦うつもり…!!」

 ユーリはモニタで見つめながらヴィヴィオが何をしようとしているのかわからなかった。
 デュエル開始直後、アリシアの姿が消える。
 次の瞬間ヴィヴィオが左腕を思いっきり横に振った。ドンッという衝撃の後アリシアが現れた。アリシアのライフポイントが1割程減っている。左拳がアリシアを捉えたのだ。

「えっ?」


「あれは…何ですか?」
「スキル…なのか?」
「ヴィヴィオ凄い…」
「あのスピード…見えてる?」

 シュテルとディアーチェ、レヴィが、T&Hでフェイトが驚く。4人ともアリシアとデュエルするなら高速で動いて周囲全てへの広範囲攻撃でライフポイントを削るかチェントの様に完全防御でカウンターを狙おうと考えていたからだ。

「目に終えない速さで動いているアリシア君にカウンターを…凄いね。」

 グランツは自室で頭を掻きながら苦笑いする。
 

「すごい、わかるんだ。」
「手加減しないって言ったでしょ。本気で来ないなら終わらせるよ。」

 驚くアリシアに冷たく言い放つ。
 再び彼女が消える。しかしヴィヴィオは左足で砂を後ろに蹴り上げた後軸足にして右足を思いっきり振った。

【ドゴッ】

 そのキックはアリシアの腹部に思いっきりめり込んだ。そのまま足を振り抜いて彼女を吹き飛ばす。アリシアはそのまま飛ばされて海に落ちた。海面に水柱が生まれる。
 ライフポイントが半分近くまで減った。しかし飛ばされた彼女は既に消えていた。ヴィヴィオは構えて右横に思いっきりパンチを繰り出す。

【ドンッ】

 鈍い音と共にアリシアが現れ、手を守っていたジャケットが割れて彼女も数メートル飛ばされた。 

「イタタタ…ったくもう、全部当てるって非常識なんだからっ! ライフポイントのレコードも潰されたしっ!」
「………」
「…そうだよね。本気でって言ったよね。わかった。私も必殺技でいく。」

 そう言うと表情から笑みが消え、両手に魔力で出来た水色の剣を握った。

(スティンガーブレイド…)

 スティンガーブレイドエクスキューションシフト、本来は魔力で作った大量の剣を相手めがけて放つ魔法。消費魔力もかなり大きい為なのかアリシアは両手の短剣と切り替えて使っているらしい。重心を下げ弓を引く様に右手の剣を下げる。高速で放つ突きだ。

「ハァアアアアッ!」

 予想通り猛スピードで突撃してきた。間近に迫った時、右手の剣が前に繰り出された。

「ジャケットパージっ! 紫電…一閃っ!」

 その一瞬を狙って自らのジャケットを爆発させて手先から延びた白い光で彼女のライフポイントを水色の刃ごと切った。

 

「…魔法が使えなくても聖王の力は使えるみたいだね。」

 なのははモニタを見つめながら呟く。

「それに、ヴィヴィオ…すごく強くなってる。姉さんはわかってたんだ。」

 隣のフェイトも頷く。チェントを通してアリシアから伝えられたのは

『本気になったヴィヴィオをしっかり見てて』

 だった。アリシアにとって親友を騙したくない…かといって何もせずには居られないし、アリシア自身が当事者じゃない。それが判っているからきっかけを見つける為にした苦肉の作戦。

「フェイトちゃん、グランツ研究所へ行こう。」
「うん!」

 2人は八神堂を出てグランツ研究所へと向かった。
 


 Weeklyデュエルでは10勝すればその週の勝利者となる。
 アリシアに勝ったヴィヴィオは残り9戦勝てばその権利を得られるが、逆に言えばショッププレイヤーを含めてあと9人が彼女とデュエルしなくてはいけない。レベルの違うデュエルを目の当たりにして勝ち目の無いデュエルをしなければならない可能性を感じたのかT&H・八神堂は勿論、グランツ研究所でも空気が重くなっていた。
 でもヴィヴィオの

『飛び入り参加だったので、棄権しま~す♪』

 デュエルとは打って変わった和やかな笑顔でそう言うとホッとしたのか、再び活気が戻って来た。それ程ヴィヴィオのデュエルが他のデュエリストと比べてレベルが違っていたのだ。それからはWeeklyデュエルはそれ以上のトラブルも起こらず賑わいを取り戻した。

 一方、デュエルを終えたヴィヴィオとアリシアはイベント中にも関わらずグランツの部屋に居た。

「一体どういうつもりなんですかっ! あんなデュエルをすれば対戦したデュエリストはもう1度遊ぼうって気をなくしていたかも知れないんですよっ。」

 デュエル直後、アミティエにここに連れてこられて雷が落ちていた。

「ブレイブデュエルはゲームです。スカイデュエルは対戦ですから勝敗がついてしまいます。勝った人は勿論負けた人も楽しんで欲しいと私達が頑張っているのにどうしてあんな事をしたんですかっ!」

 アミティエの剣幕はヴィヴィオとグランツが口を挟めない位凄かった。グランツやスタッフが設計して家族や友達と一緒に盛り上げてきたのにそれをアリシアは台無しにしかけたのだ。
 不幸中の幸いはイベント中で他のみんなはそっちを手伝っている。そうじゃなかったらディアーチェやシュテル、ユーリからも集中砲火を浴びていたに違い無い。

「…それは、レコードタイムを塗り替えられるかなって…」
「それだけの為に相手と力量の差がわかっていてあんな事をしたんですか? ヴィヴィオさんが入ってくれましたし、アリサさんを含めて先の6名はもう1度参加出来る様にしましたが…どれだけ大変な事をしたのかわかっていますか?」
「それは…」

 私の方を見る。助けてと思ってるならヴィヴィオはその希望を叶えるつもりはない。あんなデュエルをしたのは応援してる私を引きだそうとしたからだろう。かといってアミティエが言っていた様にみんなの迷惑になるような事をするのは別問題。

「そうだアリシア、勝った方が何でも言うことを聞くって話だったよね? 私が勝ったから私の希望を言うね。」
「…わかった。」
「私のお願いは『何でも言うことを聞く回数を100回にする』。1000回とかでも良いけど最後の1回でまた増やせばいいし…」
「ええっ!? 1回に決まってるでしょそんなのっ!」
「誰が何時、1回って決めたの? そんな約束してないよ? 私が約束したのはアリシアとデュエルして勝った方が言うこと聞くって約束だけだよ。『2つめの約束としてグランツ博士やアミタさんやシュテルさんたち、アリサ、はやて、チェントの言うことを聞く』っていうのもあるけど?」
「いいね♪」
「それはいいですね。私も回数増やしましょうか♪」

 グランツとアミティエも話に乗ってきた。まさかそういう風に来るとは思ってなかったらしく、慌てるアリシア。

「1回っ! ヴィヴィオからのお願いを1回だけ聞くっ!」

 人差し指を立てて言う彼女に

「じゃあ正直に答えて、どうしてあんな事をしたの?」

 アリシアに迫る。ここまで言えばはぐらかせない。

「わかった…私が話せる事だけ言う。」

 一瞬頬を膨らませたが、私が何も言わずジッと見つめるのを見て観念したのか話し出した。

「デュエルの時も言ったけどヴィヴィオと本気でデュエルをしたかっただけ、今プロトタイプでデュエルしたらヴィヴィオが思う本気にはなってくれても、心の底から…っていうのは無理でしょ。もしかしたらスキルカードが使えないっていうのも本気になったら使えるんじゃないかなって…そう思ったの。」
「呆れました…そんな事の為に…あれだけの…」

 アミティエが何か言おうとするのをグランツが手で制した。しかしその言葉にアリシアはアミタの方を向く。

「アミタさん、そんな事って言いますけどさっきの私のデュエルを見てどう思いました? スキルカードの強さとかが無くなってブレイブデュエルが無茶苦茶になるって思いましたよね?」
「現実世界であんな動きをしようとしたら足が壊れちゃいますけどブレイブデュエルなら出来るんです、アレが今の私の全力でしたけど士郎さんや恭也さん、美由希さんがブレイブデュエルに慣れたらもっと動ける筈です。これもブレイブデュエルの遊び方なんです。違いますか?」
「それは…」
「チェントが出てきた時、ランダムじゃなくて誰かがデュエルを操作してるって気づいてました。だからチェントにはアリサや私とデュエルした人にもう1回参加出来る様にしてあげてって伝えたんです。何も出来なくて負けた子にはごめんなさいとしか言えないけど。それでもヴィヴィオが出てきて本気で私に勝とうって思って貰わなくちゃいけなかったから。」

 グランツを見ると彼は頷いた。チェントから伝わって再び参加出来る様にしたのはアリシアが言った通りらしい。

「『スキルカードが使えなきゃ私には勝てないよ』ってヴィヴィオが思う位まで追い詰めたかったんだけど…全然敵わなかった。あの動きも全部見切られちゃうし、必殺技ごと切られちゃうし…ホント全然敵わない。あ~もう、完敗。これが私のしたかった事。これでいい?」

 アリシアは最後に自虐的に笑って言った。

「心配してくれてありがとう、とっても嬉しい。アリシアが恭也さん達からあの見えないのを教わったみたいに私も士郎さんから対策は教わってる…私には効かないよ。それと…どんな理由があっても私の為にみんなに迷惑かけちゃ駄目。ここが良い未来に進むなら応援するけど悪い未来に進みそうなら私は全力で止める。ここも私にとって大切な場所だから。」
「まぁ、ヴィヴィオ君もアリシア君もその辺で。イベントでは色々あったけれど悪い事ばかりじゃないんだよ。」

 険悪な雰囲気になったところでグランツがハハハと笑いながら間に入ってきた。私とアリシアは彼を見る。

「アリシア君が見せてくれたのは…そうだね、イメージ…思考で体を現実以上に動かすことが出来る可能性を見せてくれた。これを発展させればスポーツ選手がより効果的に体を動かす練習にも役に立つし、事故や病気、何らかの理由で体が動かせない人がブレイブデュエルの中で体を動かしたりリハビリや治療にも繋がる。とても素晴らしいことだよ。」
「ヴィヴィオ君のもそうだ。速すぎて見えないアリシア君とのデュエルで視覚や聴覚以外の感覚を使って的確にカウンターダメージを与えていた。それはブレイブデュエルで普通の人の感覚を越えたものをブレイブデュエルの中で感じた…数値化出来ていると言うことなんだ。詳しく調べれば新しい分野が開けるかも知れない。」
「2人とも凄いものを見せてくれたんだ。ただ…出来ればイベントではなくて細かなデータが取れるプロトタイプで行って欲しかったというのが所長としての僕の考えだ。ヴィヴィオ君のスキルカードが使えない原因を調べた後で協力してくれるかい?」

 アリシアと顔を見合わせる。そういう考え方…ううん、可能性があったんだと驚いた。
 
「「はいっ♪」」

 笑顔で頷いた。

~コメント~
 ブレイブデュエルのヴィヴィオvsアリシア編です。
 ヴィヴィオの考えとしてアリシアが使った某高速移動は万能じゃないというのをアリシア自身に気づかせる必要がありました。
 もしヴィヴィオが負けたら現実世界で練習しようとして歩けなくなるかも知れません。イベントの成功・失敗よりも前回(AdventStory)でのデュエルでは接戦になっていて、今回は更に昇華させてきたのを見て現実で使わせないように止めなくちゃいけないという気持ちがあったのかも知れません。

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