第29話「Vivio's Report」

 休日なのも相まってグランツ研究所には多くのデュエリストが集まり始めていた。
 グランツは所長室の窓からその様子を眺めていた。
「走らないでくださ~い」と遠くからアミタの声が聞こえる。
面倒見も良く皆を纏めてくれるから助かっている。
 このままブレイブデュエルが広がっていってくれたらと顔をほころばせる。

「さて…」

 だが笑ってばかりもいられない。自席の端末を広げる。
 そこにはスタッフから1通のメッセージが届いていた。先日ヴィヴィオがプロトタイプシミュレーターでスキルが使えなかった時のデータ調査が終わったらしい。
 添付されたレポートを見る。
「フム…ユーリが言っていた様にスキルカードのプログラムは実行されている…しかし、コアには命令は届いていない。通信記録にもプロトタイプから外にはデータは送られていないか…」

 スキルカードを使うとブレイブデュエルのシステムにスキル効果を発動させる命令が送られる。
 通常その命令はコアに送られコアから応答が返ってきたタイミングでスキルカードが発動する。しかしヴィヴィオのスキルはプロトタイプシミュレーター内では実行確認されているが、そこから外に出ていない。
 カードデータはデータから複製したとは言え通常のスキルカードでテスト用のジャケットを使わせたがスキルの起動は変わっていない。頼んだスタッフもそこに疑問点を持っていることも書かれていた。
 レポートの続きに目を通す。

 続けてプロトタイプシミュレーター内のヴィヴィオがスキルを使おうとした時の履歴情報をその時の映像と併せて書かれていた。
 スキル起動直後、コンマ数秒にも満たない時間に不可解なデータ記録されていた。マーキングされたデータを見つめる。

「ん? これは?」

 2回目にヴィヴィオが使おうとした時、その時も同じ様に起動直後に同じデータが流れている。
スタッフはそれを見つけ、今までデュエルやシュテル達のテストプレイのデータを探したところ似たものを見つけ比較していた。それはどれもがヴィヴィオのデュエル時のデータだった。グランプリやシュテル達とのデュエル…その中で全く同じデータがあった。
 先日のWeeklyイベントでヴィヴィオがアリシアを倒した時のものだ。

「原因はこれか…」

 これは一体何なのか? 調べた方がいいものか…
 思案していると

【コンコン】
「博士、少しよろしいでしょうか?」

 シュテルとレヴィ、ディアーチェ、ユーリが入ってきた。

「どうしたんだい?」
「あの…プロトタイプシミュレーターでマスターモードを使わせてもらえないでしょうか?」
「マスターモードを?」
「うん」

 マスターモードとはブレイブデュエル内で重大な問題が起きた時に備えて強制制圧出来る様に組み込んだモードだ。管理者権限の利用が出来る以外に通常モードより全ての動作が強化される反面でその強化状態が使用者にフィードバックされてしまい、通常以上に動けば後遺症が出る。
 後遺症と言っても筋肉痛っぽい症状や頭がフワフワして思考がまとまらなくなる程度らしいが…。
 以前ジェイル・スカリエッティがグランツ研究所に不正アクセスをした時シュテル達が使いその反動を受けていた。あれから時間は経っていないのに…と思いながらも4人揃って来たので理由もわかった。

「なのはさんとフェイトさんの練習に参加する為だね?」
「昨日2人が練習しているのを見てわかりました。今の私達では練習相手にすらなりません。今日・明日すぐに私達が強くなれる訳でもありません。ですがマスターモードで同じ高みに…少しでも近づけたら違う…ヴィヴィオ達の世界が見えるかも知れません。」

 昨日のWeeklyイベントでのアリシアとヴィヴィオのデュエルを見て気づいたのだろう。 
 最初来た時は兎も角、その後と昨日…ショッププレイヤー全員がヴィヴィオだけでなくアリシアにすら全力で挑まれたら勝てないことを。

「博士、我らもヴィヴィオのことは聞いているしシャマルからの話も2人が何の為にプロトタイプを使っているのか、アリシアが先日何故あんなことをしたのかも知っている。」

 誰から聞いたのかと少し驚くとユーリが申し訳なさそうに言う

「ごめんなさい、昨日はやてから聞きました。きっとなのはさんやフェイトさんはヴィヴィオが心配で気が気じゃないと思うんです。私もレヴィやディアーチェ、シュテルに何かあったら凄く心配して治す方法をいっぱい調べます。」
「だからボク達も手伝いたいの。」
「博士」

思案する。

「…わかった。但し、最長でも1回10分迄、その後はしっかり休むこと。全員が入らず誰かがチェックし…なのはさんとフェイトさんにも話があるから僕が行こう。先に行って準備をたのめるかい?」
「あ、ありがとうございますっ。」

 滅多に見られない位の4人の笑顔を見て

「ヴィヴィオ君にも来て貰う前に話しておこう」

 さっきまで見ていたレポートをプリントして部屋を出た。

  

「えっ? スキルカード使えるようになったの?」

 スバル達とのデュエルが終わって、アリシアはヴィヴィオと一緒に途中から来たすずかやアリサとカフェエリアで話をしているとエイミィがやって来た。
 ブレイブデュエル内でヴィヴィオがスキルを使えなかった原因がわかったらしい。

「うん、でもいきなりブレイブデュエルだと何かあると大変だから先にプロトタイプシミュレーターでチェックしたいんだって。悪いけどこれからグランツ研究所に行ってくれないかな?」

 申し訳なさそうに言われたけれどグランツが調べてくれたのだから断る理由もなく

「はい♪ アリシア、行こう」
「うん」

 ヴィヴィオの誘いを受けてそのままグランツ研究所へ向かった。


(昨日の今日でいきなりか…焚きつけちゃったかな)

 見るからに嬉しそうなヴィヴィオと違いアリシアは複雑な心境だった。
 プロトタイプシミュレーターの所に行くという事はなのはたちと鉢合わせする。
 グランツも理由を知ってるのだからそこに来て欲しいというのは…そういうことなのだろう。
 ヴィヴィオの様子を見ている限り魔法が使えない理由に苦悩している様な雰囲気はない、隠そうとする素振りもないから本当に気づいていないんじゃないか?
 もう少し時間が欲しいところだけれど時間があれば何か変わる訳でもない。

(私達…間違えてる? 次の方法考えておいたほうがいいかも…)
「何か間違えてるのかな…」
「間違えるって何を?」

 隣で歩いているヴィヴィオに聞かれて思わずドキっとなる。
 考えていた事が口に出ていたらしい。

「ん、…そう、さっきのデュエルもう少しで勝てたから何処で間違えたのかなって」
「そうだよね。もう少しっ…ミントのカードがゲット出来てたら勝てたよね。やっぱりRHdがないと何か抜けた感じがするよ~。」

 苦笑いする彼女に意を決して話す

「ヴィヴィオ、もし…魔法が使えなくなったら…どうする?」
「魔法が? そうだね…もしこのまま使えなくなったら…困るだろうしもう1度使えるようになるにはどうすればいいかっていっぱい練習したり、色々調べると思う。」
「…でも…その原因がヴィヴィオの…自分の中にあったら?」
「私の中? だったらその原因を何とかして解決できないかって色々試すと思う。」
「でっ、でもっ、例えばヴィヴィオの…聖王の力、魔力を無効にする力がヴィヴィオの魔力を止めようとしてたらっ?」

 ……止められていたけれど遂に口にしてしまった。
 
 私の様子をキョトンとした眼で見る。そして笑顔で答える。

「それは無いよ♪ でも…もし聖王の力が私の魔法を止めようとしてたなら…何か理由がある筈だから、もしそうなったら私はそれを見つけるよ、絶対。」

 力強く言う彼女に私もそれを信じたいと心の中から思った。  
  


「ようこそヴィヴィオ、アリシア。待っていました」

グランツ研究所が見える所まできたところでシュテルが待っていた。わざわざ待って貰わなくてもと思っていると

「プロトタイプで博士が待っています。」

 そう言って歩き始めた。
 知らない場所じゃないのにどうして彼女が待っていたのか首を傾げるアリシアとヴィヴィオだったが、アリシアは気づいてシュテルに駆け寄って小声で聞く。

「シュテルも知ってるの?」
「ユーリから聞きました。ユーリははやてから協力を依頼されたそうです。」
「そう…じゃあ…」
「そういうことです。ヴィヴィオ行きますよ。」
「は、はい!」

 慌てて私達に駆け寄るヴィヴィオを見ながら頭の中はフル回転していた。



「ヴィヴィオ~♪」
「なのはママ、フェイトママ」

 プロトタイプシミュレータールームに入るとなのはとフェイトが居た。思わず駆け寄る

「どうしてママ達が…あっ、シュテル達への特訓?」

 この前来た時、なのはとフェイトはシュテル達に教えていた。いきなり帰ったから続きを教えていたのだろうか。

「うん、それもあるんだけどこっちじゃお父さん達やお母さんも手伝ってるから私達も何か出来ないかなって。」
「私達は魔法…じゃなかったスキルカードをどうすればもっと良く使えるか一緒に考えてるんだ。」
「そうなんだ、私も手伝う…って…スキルカード使えないんだった。」
「原因の1つだと思えるものは見つかったから上手くいけばスキルが使えるかも知れないね。早速で悪いが入ってくれるかい?」
「やった! はーい♪」
「ブレイブデュエル スタンバイ、カードドライブ リライズアーップ!」

 早速ポッドから仮想世界へと飛び込んだ。



「ここって…グランプリの決勝で使ったステージ…だよね?」

 ヴィヴィオが下りた場所はグランプリでシュテルやアリシアとデュエルしたステージに似ていた。同じステージじゃなくて似ていると思ったのは光景があまりにも違ったから。
 中央のステージは1部を残して粉々になっていて、草原には大きな穴が複数…市街地と思われる場所も廃棄都市区画かと思う位ボロボロ…まるで激しい戦闘があった後みたいな…。

「先程まで練習していたステージステージを再構成する必要はないと思ったのでそのままにしています。」
「ううん、別に…わっ!?」

シュテルの声が聞こえて振り返り更に驚いた。

「シュテルとレヴィ…だよね?」
「はい」
「格好いいだろ~♪」

 ヴィヴィオが驚いたのは2人の姿だった。背はスラリと伸びてスタイルだけでなくなのはやフェイトの様に凜々しさもある。

「うん…凄く格好いい、ブレイブデュエルでも大人モードがあるんだ。」
「これはマスターモードと言います。これから行うヴィヴィオのテストが失敗し何かあった時、シミュレーターの外から対処出来ない場合の備えです。」
「えっ? …そんなに危険なの?」

 ただ単に言われたとおりスキルを使って上手くいけばいいし、駄目だったらまた原因を調べて貰えば良いと軽い考えで来たから流石に声が震える。

『こらこら、ヴィヴィオ君を怯えさせてどうするんだ。ヴィヴィオ君、危険はないからいつもの様に気軽に遊ぶ感じでテストして貰えるかな。シュテルとレヴィがそこに居るのは続けて行って貰うテストデュエルの為なんだ。』

 空からグランツの声が聞こえた。

「は~い、怒られちゃった♪」
「そうですね、博士が言われた様に私達はテストデュエルを行う為に居ます。通常モードですとヴィヴィオの全力を受けきれませんので、いわゆるズルですね」

 ニコリと笑って言うシュテルにホッと息をつく。

『そういう事だから早速テストを始めるよ。』
「はい♪」



 同じ頃、少し離れた場所の喫茶翠屋。
 今日は休日なこともあってか来客が途切れることはなかった。

「美由希、これ3番さんに、ヴィヴィ…じゃなかった、チェントちゃん。こっちのトレイとグラスお願い~」
「はいっ!」

お店の中の仕事も流れがある。
 注文を受けて士郎か桃子に伝えた後、その料理を持って行って食べ終わったらレジでお金を貰って、最後にテーブルを拭いて料理があったトレイやグラスを回収して洗い場に持っていく。
 料理の詳しいものはわからないけれど割り当てと行程さえ理解出来ればあとは、いかに効率良く、次の客を案内して迅速に料理を運べるか?だ。
 最初は戸惑っていたが美由希の動きを真似てそこから彼女が次に何をしようしているかを予想出来れば即席のウェイトレスが出来上がった。
 朝の往来が落ち着いてフゥっと息をついた時

「チェントちゃんお疲れ様」

 グラスに入ったジュースを渡される。

「あ、ありがとうございます。」
「初めてでびっくりしたでしょ、大丈夫だった?」
「最初は戸惑いましたが、美由希さんを見ていたら何となく…」
「ヴィヴィオちゃんは慣れてたみたいだけど、チェントちゃんも凄いわね。そっくりだけど…双子とか姉妹じゃないのよね?」

 桃子に聞かれて答えた方がいいか考える。

「双子じゃありませんが…凄く似てます。私のお姉ちゃんはアリシアお姉ちゃんです、私は一緒に来たヴィヴィオやお姉ちゃん達とはまた違う世界から来ました。」
「一緒に来たのにアリシアと違う世界なの?」

 美由希が聞いてくる。未来について話すとここの未来にも影響するかも知れないが、魔法文化や時空転移について話す位良いだろう。

「2人の近くに私も居ます。お姉ちゃん達がこの頃だから多分5歳位…ですね。」

 そう言えば何も言わずにこっちに来たから寂しがっていないだろうかと不安になる。

「チェントちゃんの世界のアリシアやヴィヴィオは20歳位なんだ…なんだか凄いね。」
「そうね、ここまで来たらヴィヴィオちゃん勢揃い!みたいなところ見てみたいわね。大人のなのはちゃんやフェイトちゃんが来てくれたんだから。みんなびっくりするわよ。」

 冗談とばかり笑って言う。

「私がこっちに来る方法使っちゃったからお姉ちゃん達が来るのは無理だと思います。出来ても時間を狙って…」

 そこまで言った時、頭の中を何かが掠めた。

「桃子さん、お姉ちゃん…ううん、こっちのなのはさんに連絡出来ますか?」



「フェイト、ヴィヴィオをここに呼んだのは準備出来たってこと?」

 アリシアはフェイトの横に行って聞く。2人ともシミュレーターの中にいるヴィヴィオから視線を離さない。

「ブレイブデュエル特有の癖みたいなのはわかったつもり、成功するかも知れないし、失敗するかも知れない…でも何もしなかったら進めないでしょ。ずっとここに居る訳にはいかないから、出来る事を1つでもしていかなくちゃ。」

「…なのはさんもですか?」
「うん、勝てるかはわかんない…ううん勝つのが目的じゃないから。全力で頑張るよ。」

 ニコッと笑って答えたなのはを見て今まで何度もヴィヴィオから感じた意思の強さみたいなものとおなじものを感じた。
 その時なのはから聞き慣れない音楽が聞こえた。ポケットから携帯を取り出して耳にあてる。

「翠屋からだ…。もしもし、なのはです。…うん、近くに居るよ。…わかった。アリシア、チェントからだって」
「私?」

 何だろうと思いながら首を傾げつつ携帯を手に取る。

「アリシアです。チェントどうしたの?」
『お姉ちゃん、あのね……起きるかはわかんないけど…』

 彼女から聞いた話にアリシアは息を呑んだ。可能性は0じゃないけど…その対応はしないといけない。

「わかった、ありがと。こっちで聞いてみる。」 

 グランツに駆け寄って

「博士、お願いがあるんですが…」

 妹から伝えられたことを話した。

「…それは誰にも話せないね。頑張ってみるよ。」


~コメント~
 2週間程更新が遅れてすみませんでした。
 話自体は年末にほぼ出来上がっていたのですがレポート「ブレイブデュエルでヴィヴィオが何故スキルが使えないのか?」に現実感が乏しくて四苦八苦した結果パソコンとかの知識に疎い私が考えても良くならない、いっそのことそちらに強い静奈さんにアドバイスを貰おうと相談していました。
(後で凄くわかりやすく説明して貰いました。ですが私にとっては殆ど異世界人の話にしか聞こえなかったのは内緒です。)
 生憎静奈さんが近年まれに見る程の忙しさで丁度私の年末年始休暇が重なったこともありここまで遅れてしまいました。
 
 
 

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