第34話「見守る者」

【Master.Call me】

 相棒の声にヴィヴィオは強く頷く。

「うん、いくよレイジングハート、セェエエットアーップ!!」

 右手を天に掲げ叫んだ直後ヴィヴィオの身体は虹色の光に包まれた。



「博士…ヴィヴィオのジャケットが変わりました。名前は…えっ? セイクリッド?」
「名称は同じですが、セイクリッドとは細部が違います。」
「そうだね似ているが…エクセリオンの上位派生か?…これは一体…」
 エクセリオンのアバタージャケットからセイクリッドへ、しかし彼女のセイクリッドは細部が違っている。
 ユーリとシュテル・グランツはヴィヴィオのアバタージャケットの数値と突然現れた2人に目を移す。彼女達はシミュレーターの中の様子に満足げな笑みを浮かべてマイクで話す。

「ヴィヴィオ~っ、あなたが強くなったみたいにRHdも凄く強くなってるよ、今までと同じだと思って使うと振り回されるからね。」
『はいっ!』
「なのはさん、マリエルさんから伝言預かっています。【RHd単体でのテストは終わっていますがヴィヴィオに合わせたイニシャライズはまだなのでフォローして下さい。】です。」
『了解、2人ともありがとう。ヴィヴィオ、このままデュエルをしながらRHdのイニシャライズとテスト出来る?』
『うん♪』

 2人の会話を聞いて満面の笑みを浮かべた。
 なのはがヴィヴィオに指示を出すのを見て小さく頷く。
 教導隊に所属している彼女はイニシャライズとテストは何度も経験している。これでもう安心だ。通信を切った後、大人ヴィヴィオと大人アリシアは頷き合ってグランツ達の方を向き直る。

「君達は?」

 突然やって来ていきなりヴィヴィオ達と話したいからマイクを貸してと言われたら誰もが訝しげに思うだろう。グランツは勿論、ユーリやレヴィは驚いているしシュテルにいたってはあからさまに不審者を見る目だ。
 止めなかったのは私達を知っているあっちのアリシアとフェイトが居たからだろう。

「え~っと…何て言えば良いのかな? 私達もヴィヴィオとアリシアです。2人から見て数年後の異世界のって…感じ?」
「私がチェントのお姉ちゃんって言った方が判りやすいですね。もうホント大変だったよ。RHdを直すパーツ集めて修理して、ここに来るの。アリシアありがとね♪」
「え?…あっ!」

 ウィンクして言う大人アリシアにアリシアはグランツにさっき話したことが繋がったのだと気づいた。

「ヴィヴィオが動きます。えっ! スキル起動なしでアクセルシューターっ!?」
「スキルカードの起動…ありません。どうして?」
「スキルカードじゃい?…アリシアの高速移動と同じ?」

 狼狽するユーリとシュテルがその様子を見る。隠していても仕方ないし慌てるのを見るつもりはないので横から教える。

「多分違うと思います。ブレイブデュエルについては私達もチェントから少し聞いただけで初めて見るからそうだって言えませんけどこのゲームでの魔法の動力源ってレリック…これ位の赤い宝石なんでしょ? だったらヴィヴィオも同じ物を持ってます。ヴィヴィオに適合した完全体レリックとレリック片から生まれたRHdのコアとして♪」
「RHdのインテリジェントシステムも変わってます。制御が難しい魔法、クロスファイアシュートは無理だけどインパクトキャノンやセイクリッドクラスター程度ならデバイスだけでも出せます。母さんがバルディッシュからの改良だって。バリアジャケットも今までのも使えるけど抑えて動かなきゃいけない時の為でベースは騎士甲冑になってるからジャケットが壊れるのを気にしなくても良い。マリエルさんと母さん、リインさんとアギトさん…みんなの力が集まって生まれ変わったんだから♪」
「凄い…それって無茶苦茶性能上がってるんじゃ…」

 アリシアが声を震わせて呟く。
 魔力コア専用デバイス、バルディッシュだからこそ出来たプログラムの自動起動。それがRHdに組み込まれている。しかもその力の源となるものは…魔力コアと比較にならない位大きな力を持つ結晶体。

「そこまで…どうして」

 彼女と同じ様に震わせた声で呟いたのはフェイトだった。
 修理やメンテナンスレベルじゃない。前のRHdでも規格外だったのに…。
 大人ヴィヴィオがフェイトの疑問に答える。

「マリエルさんが言ってました。『ヴィヴィオのユニゾンは管理局では危険すぎる』って。私達でも3人揃わないとオーバーSになれないのに、ヴィヴィオは1人でセンサーを振り切っちゃう。知られたら間違い無く制限される位危険な状態だって。」
「何かあってもユニゾンせずにヴィヴィオとデバイスだけ対処出来る様に、デバイス…RHdのスペックを管理局の制限ギリギリまで上げたって。」

 デバイスの性能を上げることでヴィヴィオの最終手段であるレリックとのユニゾンを抑制する。それは彼女が今後何かあっても最後の手段を取らなくても良い様に考えた1つの答え。
 
「いくよRHd」
【Yes master.Armored module Full Drive Startup】

 ジャケットが騎士甲冑に切り替わる。見た目は前と同じなのに奥から力が溢れ出してくる。両手を開いたり閉じたりして感触を確かめる。
 そう、ここはブレイブデュエルのゲームの中、なのに纏っている騎士甲冑。今までは意識しないと作れなかったのに、それに多分…今までよりも動けそうな感じがする。

「もしかして…RHdが作ってくれてるの。ありがと。私も頑張らなきゃね…負けないように」

 そう言った瞬間、体内で何かが弾けた感じがして体の隅々まで何かが漲ってくる。リンカーコアの強い鼓動を感じた。

「これ…魔法も…使えるの?」



「ヴィヴィオ…」

 ヴィヴィオの中で何かが変わった。なのはは肌で感じていた。
 デュエル中に気づいたのはヴィヴィオが1人でスキルカードを使っていたこと。
 勿論彼女のデバイスは異世界で修理中だったから当然なのだけれど、彼女はなのはやフェイトを傷つける恐れではなく、彼女自身が自分の魔力で暴走しない様に無意識に止めていたのではないかと。だから自らの聖王の力で魔力を無効化した。そしてそれを抑えられるもの、彼女のデバイスが届いたことで枷は取り払われた。
 だけれど…

「……最初に抑え方を教えなきゃだね。」

 ブレイブデュエルの中なのにこれだけの威圧感を感じるのだから元の世界に戻れば間違いなくオーバーSレベルだろう。あっちの2人の話からだと今までのヴィヴィオでも振り回されるかも知れない程のスペックを持っている。
 隊長に知られたら今までより強く入隊を薦められるに違い無い。

「本当に無茶するんだから」

 そう言いながらも思い出す。なのはもフェイトもはやても昔からデバイスを壊しかねないカートリッジシステム始めマリエルには無理難題を沢山お願いしてきていた。
 困った風に言いながらもその顔には安心と喜びの笑みが浮かんでいた。

「ヴィヴィオ、テストペース上げるよっ! セットアップ、フォートレス」

フォートレスの大型シールドから桜色の光を放った。



 それから少し時間が経って日が傾き始めた頃

「ありがとうございました~♪。フゥ…」

 喫茶翠屋で出て行く客を見送ってチェントは息をついた。

「チェントちゃんご苦労様。疲れたでしょ」

ポンと美由希に肩を叩かれる。

「初めてでいっぱい失敗しちゃいました…」
「あんなの全然失敗に入らないわよ。私が手伝った時なんて注文間違えたりお皿割りかけたんだから。」

 話を聞いていたのか奥で士郎が苦笑いして頷いている。私を励ます為じゃなくてどうやら本当だったらしい…

「ハハハ…」

チェントも微妙に頬を引きつらせて笑みを浮かべた。
その時、ドアが開いた。

「いらっしゃいませ~、ヴィヴィオっお姉ちゃん♪」

 入ってきたのはヴィヴィオとアリシアだった。駆け寄ろうとした時2人に引っ張られる様に

「わ~、こっちの翠屋も同じだ♪」
「ホント、懐かしい~♪ エプロン似合ってる、チェント」
「お、お姉ちゃん!?」

 思わず声が裏返ってしまった。  
 その声を聞いて士郎や桃子も顔を覗かせて2人を見て

「「!?」」 

唖然としていた。


 
「そっか、時空転移であっちのヴィヴィオの所に行って、そこから虹の橋で悠久の書がある世界に来たんだ…」

 ヴィヴィオ自身も異世界のアインハルトから呼ばれなければ使えなかった魔法なのだから彼女達が知らなかったとしてもおかしくない。寧ろ初めて使ってイメージした場所に飛べている方が凄いと思う。

「それでも誤差で未来に飛んじゃって、未来のグランツ博士達に送って貰ったんだ。」
「アリシアが博士に話してくれてたから本当に助かったよ。魔法も使えない世界だから帰れなくなるところだったわよ。」

 大人ヴィヴィオと大人アリシアが口々に言う。

「あっ、それ私じゃなくてチェント」
「えっ?、私?」

 いきなり名前が出たチェントが驚いた。

「電話してくれたでしょ。大人の私達が未来に来ちゃった時の対処、私がそれを博士に伝えて博士が覚えていてくれた訳。過去に飛んじゃってたら帰る方法が無かったから本当に良かったよ。」
「「そ…そんなに危ない世界なんだ…」」

 ため息交じりに言うアリシアに大人の2人が引いていた。


 
 そんな彼女達の会話を聞くように少し離れたテーブルでなのはとフェイトは座っていた。

「ヴィヴィオちゃん、もう大丈夫そうだな。昨日まで何か気にしていたみたいだけど、それも無いし。」

 士郎に聞かれる。デバイスの話とかはしていないのに何となく気づいていたらしい。

「うん、あっちのヴィヴィオ達が持って来てくれたおかげ。」
「私達もまだまだだって…ずっと一緒に居てもヴィヴィオの事全然わかってなかった。」

 フェイトの呟きになのはも頷く

「そう思える様になったのは、ヴィヴィオちゃんが大人に1歩近づいたからじゃないか?」
「えっ?」
「学校や社会で自分の世界を作って飛び立っていく…恭也も美由希も…なのはも…」

 答えた彼の表情は笑顔の中に寂しさが見えた気がした。

~コメント~
 生まれ変わった新デバイスを使うヴィヴィオ、その真価は?

 

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