第02話「継がれていくもの」

「…全く…あんた達って秘密にするのも大概にしなさいよね。すずかも気づいてたなら教えてくれてもいいじゃない。」

 アリサが大きいため息をつきながらぼやいた。それを見ていたヴィヴィオはアワアワと狼狽える。彼女の心の導火線に火が点こうものなら烈火の如く怒られるのは目に見えている。
 その様子を近くで何度も見て来た。その矛先が私に向こうものなら…

「でも、先に教えてくれたり私が覚えていたらそっちの方が大変だったわね…なのはがヴィヴィオと会う前に『さっきあなたの子供とお姉さんに会ったわよ』なんてなのはとフェイトに言っちゃったらここにヴィヴィオもアリシアも居なかったかも知れないんだから。すずかみたいに秘密にしておくなんて出来ないもの。」
 そう言うと彼女は目の前に来て私の頭を撫でた。

「ありがと、教えてくれて。色んなモヤモヤがスッキリしたわ♪ プレシアさん、アリシア、チェント、これからもよろしくおねがいします。」
「あっ、でもはやては後でちょっと来なさい。話があるから。」
「ええ~っ! 私だけ~っ?」

 悲鳴に近い声をあげるはやてに全員が笑うのだった。
 その中でヴィヴィオはホッと息をついていた。



 楽しかった夕食が終わり、アリサは今夜泊まる部屋に戻るとすぐドアがノックされてはやてが入ってきた。
 さっき少しお酒を飲んでいたから少しだけ足がふらついている。

「アリサちゃん、何~? まさかさっきの話が嘘とか思ってる?」
「そんなのヴィヴィオやすずかの顔を見れば嘘か本当かなんてすぐに判るわよ。それに2人で話をするようなことじゃないでしょ。」
「じゃあ何やろ…まさか頼んでた資産運用で大赤字を出して身売りしてくれ…とか?」

 暫く通信やメッセージでしかやりとりしていない間に色々変わってしまったらしい…無論だらしなくなって酒癖の悪さが加わっている…ここで矯正できるか後ですずかと相談しようと決めた。

「…はやての酒癖が悪いのはよ~くわかったわ。そんな下手を私達がする訳ないでしょ。昨日、私の家に手紙が届いててその中にこれがあった。はやて宛よ。あとこれは一緒に入ってたその人から私宛の手紙。」

 バッグに入れていた封がされたままの手紙と折りたたまれた紙を渡す。
 ラブレターかな~とか言っていたが、紙を広げて読んだ瞬間表情が変わり肩が震えた。 
 彼女に渡したのはアリサ宛ての手紙の中に入れられていたものだ。
 自分へのメッセージについては読んでいた。

「そろそろヴィータ達が来る頃よね。あの子達を含めて暫くは私達が相手してるから落ち着いたら戻って来なさい。」

 肩を震わせながらも静かに頷くのを見てアリサは部屋を出て行った。
  

 
「気持ちいい~。」

 その頃ヴィヴィオはアリシアと一緒にお風呂に来ていた。思っていたより大きなお風呂で驚く。
露天風呂とかの開放感は無いけれど、凄く落ち着ける雰囲気が好きだった。

「一緒に入ってもいいかしら?」

 湯船でまったりしていると入り口の方からアリサの声が聞こえた。

「は~い♪」
「おじゃましま~す」

 そう言って入ってきたのは声の主のアリサとすずかだった。はやても一緒に来るかと思っていたけれど…

「あれ? はやてさんは一緒じゃないんですか?」
「はやては私の部屋で休ませているわ。結構お酒飲んでいたから、シャワーなら兎も角風呂の中で倒れたら大変でしょ。」
「それでママも一緒に来なかったんだ。」

 アリシアが思わず納得する。プレシアも少しお酒を貰って飲んでいた。 

「それよりも…はやて、あんなに酒癖悪いの? あれじゃ絡み酒よ、向こうでも色々起こしてるんじゃない?」

 アリサは体を洗った後で湯船に入ってきてヴィヴィオの隣に座る。
  
「絡み酒?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げると反対隣に居たアリシアが背後に回って… 

「ヴィ~ヴィ~オ…あなた、まだ本当にぺったんこだね~…あっちのヴィヴィオとチェントは良い体してたわよ~」

思いっきり私の胸を鷲づかみにした。

「っ!? 何するのっ! 私だって…ちょっとは…」
「っていうのが絡み酒。ごめん、ぺったんこじゃないから大丈夫よ♪」

 舌をペロって出して謝られる。

「…ま、まぁ…普通、そこまでしたら色々大事だけど…間違ってはいないわね。」
「………凄く理解しました。」
「プライベートならいいけど、公の場所でしたら大変でしょ? お酒のせいで管理局クビにになりましたってなんて笑えないわ。」
「確かに…そういえば、はやてさん…一緒に食事してもお酒飲んでるところ見ないような…。ママ達の方が凄いです。」

 以前、アリシアの家にお泊まりをしたことがあるのだけれど、夜に課題を忘れたのを思い出して家に取りに戻ったことがある。
 その時…リビングにはお酒の瓶が沢山あって、ソファーにぐだ~っとなって飲んでいる姿が廊下から見えた。
 普段はしっかりしているのでこういう気を緩ませる日もあって良いと思い、2人には声をかけずにレイジングハートバルディッシュにもRHdを通して内緒にして貰いそっと空間転移でテスタロッサ家に戻った。
 
「一応隠してるつもり…みたいなんですが…」
「そっちもか…」
「なのはちゃんもフェイトちゃんも大変な仕事だから…だよね…」

 ため息をつくアリシアと半分フォローになっていないフォローをするすずかに苦笑する。

「すずか。なのは達がこっちに居る間に飲みましょ。ブレーキかけられてるか見ておかなくちゃ。」
「そうね。なんだか凄く楽しそう♪ 色々用意しておくね。」

 主役不在の中で勝手に決められていく様子を見て

(友達っていいな…私も将来アリシアやリオやコロナとこんな風に出来るのかな…)

少し羨ましくなった。 



 丁度その頃、はやては月村家の家から出た所にある庭園で1人椅子に座って空を眺めていた。時折風が彼女の髪を揺らす。
 そんな時、近くに魔方陣が現れ、中からシグナムとシャマルがやって来た。

「…はやてちゃん?」
「遅くなりました。我が主。」
「………」

 普段、「おかえり~」とか「おつかれさん」とか声をかけてくれるのだが今日の彼女はこちらも向かずに空を見上げたまま。
 2人が顔を見合わせて歩み寄る。

「その様な薄着では風邪をひいてしまいます。中に入りましょう。」
「…うん…でも…空を見上げてたら思い出してな…昔のことを色々と…」

 シグナム達も空を仰ぐ。晴れていて星は見えるが街の明かりが目映くて満天の星空とは言えない。 一体何があったのかと怪訝そうにしているとはやてがテーブルに置かれていた紙を差し出した。
 折り目から手紙らしい…。 
 手に取って一読するとシャマルに渡した。彼女も「ウソ…」と小声で驚いている。   

「私達は…直接話す機会はありませんでした。ですが…願い…意思は感じています、我が主から」
「はい、以前の蟠りが消えたなんて言えないけれど…今は感謝しています。」
「そうか…そうやね。」

 そこへ再びミッドチルダの魔方陣が現れて

「ごめん、遅れた。リインが土産買いに行きたなんて言うから。」
「リインじゃないです! アギトが…」
「私のせいにすんじゃね~!」
「静かにしろ…周りの迷惑になる。」

 4人…正確には1人と2機と1匹が現れた。

「もう…せっかくいい雰囲気だったのに…」

 頬を膨らませるシャマルにはやてはクスッと笑い2人に言う

「これも八神家の一面や、そうやろ」
「…そうですね。アギト、土産なら昨日我等が来た時に持って来ている。」
「ち~が~う! 私のっ! マスター達は何度も来てるからいいけど、私は初めてなんだから。最初にきちんと挨拶しないと。お世話になってる人や…先代の祝福の風に…明日だったよな?」

 そう言われて他の全員が驚く。
 アギトはJS事件で保護された古代ベルカの融合騎。彼女がアインスの最後は聞き知っているかも知れないが何時だったかまでは…。

「…ありがとうな。アギト。」

 礼を言われて赤くなる小さな家族を見ても誰も笑う者は居なかった。




「あれ? みんな着いたんだ~♪」

 お風呂から出た時、外が光って騒がしくなったのが気になってヴィヴィオが出て行くと八神家の全員が揃っていた。

「ああ、さっき着いた。」
「じゃあ先にお風呂に行ってて下さい。その間に夕食お願いしてきます。」

 クルッと回ってすずかの部屋へ向かおうとした時シャマルに呼び止められた。

「待ってヴィヴィオ。はやてちゃんが話があるって。はやてちゃん、例のもの許可貰ってきました。」
「ありがとうな、中にファリンさんかすずかちゃんがいるから声かけて。夕食もあるよ。」
「了解です。」

 そう言うとヴィヴィオとはやてを残して全員家の中に入っていった。

「はやてさん、私に話って?」
「あ…えっとな、海鳴…日本にはクリスマスイブにプレゼントを贈る風習があるんよ。良い子にしてたら子供はクリスマスの夜にサンタさんがプレゼントを持って来てくれるってな。」
「サンタさん? …海鳴図書館で読みました。えーっと…悪魔の王様…だったかな?」

 思い出しながら言うとはやてが椅子から滑り堕ちていた。 

「だ、大丈夫?」
「それとちゃう! サタンやなくてサンタ、サンタクロース。聞いたことない?」

 地球独特の風習はあまり良く判らず小さく頭を振る。

「話がずれてしもた。はい、ヴィヴィオにプレゼント。」

 ポケットに入る位の小さな箱だけれどかわいいリボンと綺麗な包装に包まれている。

「ありがとう、開けてもいい?」
「うん。」

 リボンをほどいて包装された箱を丁寧に開けるとそこには1枚のメモリディスクが入っていた。

「メモリディスク?」
「RHdに読ませてみて」

 言われた通りデバイスを起動して読み込ませる。

「このプログラム…魔法? …何これ…凄く大きい…」

 古代ベルカ式の魔法。しかしそれはヴィヴィオの持つ魔法と比べても異常に大きくて複雑だった。
 RHdが読み込んだ後、魔方陣展開準備の為にチェックを始める。RHdはかなり高性能なデバイスなのに、チェックもすぐ終わらない。

「何の魔法? この大きさからだと…戦技魔法?」
「私がアインスから貰った魔法の1つ。そのオリジナルコピー。」
「魔法名はフレースヴェルグ、私が使える魔法の中で1番の長距離砲撃と範囲攻撃が出来る魔法。物騒なプレゼントやけど受け取って」

 フレースヴェルグ、聞いたことがある。JS事件時に彼女が使った魔法。

「え…でも…古代ベルカ式って使うのに個人的な資質があるから…」

 ミッドチルダ式の魔法と違ってベルカ式は資質が必要な魔法が多い、特に古代ベルカ式は使える者も限られていて更に細かな条件があるから余計に難しい。
 故に古代ベルカの魔法は騎士固有の資質で他の者には使えないと言われている。

「私もそう思ってた。でもな…ヴィヴィオはその魔法を使えたと思う? デアボリックエミッション、ミストルティン系の石化魔法…どれも私とアインスしか使えない魔法やろ?」
「それは…私がブレイブデュエルで覚えられたから…」 
「20点、答えになってないな。」

 即座に返されてしまい再び考える。
 何故使えたのか…ヴィヴィオ自身偶然使えたと思っていたからそこに理由があるとは考えもしていなかった。

「これ以上虐めたらなのはちゃんに怒られるな。戦技披露会の後で精密検査されたのは覚えてる? ヴィヴィオの魔力資質のチェック。」
「はい…無理したから後遺症が出ないかだけ調べるって…」

 戦技披露会が終わった翌日、ヴィヴィオはなのはに連れられて本局の医療班へと行って彼女と一緒に検査を受けた。どうやらその時精密検査と一緒にチェックされていたらしい。
   
「そこでなヴィヴィオの中に私と同じ…夜天の魔導書に通じる資質があることがわかったんよ。これは極秘でレティ提督と私、シャマルしか知らん。」
「うそ…!?」
「私ほど強くは出てないし、事情を知ってないと気づかない位弱い。けれど資質はあった。それが目覚め始めてる。きっかけは…多分撮影で私のプログラムを渡した時。」
「え…」
「私があの子になった時、ディアーチェ達が作った結界は闇の書の主と聖王の鎧を持つ者以外は魔法が使えんかったんやろ? 気を失った時、何でヴィヴィオは無事やったん? あの鎧のおかげとも言えるけど…それだけで片付かんこともあった」

 闇の書の撮影で、ジュエルシードを発動させてしまったはやてが闇の書の管制人格に乗っ取られてしまった。彼女を助ける為に異世界の闇の書のマテリアル達に特殊な結界を作って貰いその中で戦った。しかし…あの時は何度も聖王の鎧が壊されていた。
 聖王の鎧は1度でも壊されたら直るまで暫く時間がかかる。しかしヴィヴィオはその間にも攻防を繰り返していた。
 
「それでイクスに頼んで聖王教会にある本を探して貰った。その結果を聞いて私は驚いたよ。」
「…イクスは…何て?」
「…イクスは…」
「……………」
「…『何にもわからなかった』って」

今度はヴィヴィオが思いっきりこけた。

「はやてさんっ!!」
「ゴメンゴメン、でもわからんかったのは本当や。」
「イクスが言ってたよ。資質を得るには私の様に生まれた時から持ってた場合除いたら先祖に闇の書の主になっても最後まで使わなかったか、取り込まれても自分の力で出てくるかしかないって。でもそんなこと書いてる歴史書は無いし、闇の書に取り込まれて自力で出てきた人なんてフェイトちゃん位で本当に珍しいそうや。更にその子孫なんて今居るかもわからん。」
(あの時に…)
 
 言われて私は思い当たった…。闇の書に取り込まれて…自力と言えるかは難しいけれど空間転移で出た事があった。その後あの撮影ではやてから貰ったプログラムで目覚めた。 

「…本当にリインフォースさん…アインスさんが力を貸してくれてたんだ…」
「? その資質が異世界でデアボリックエミッションを使った時に目覚めて活性化してる、私の魔法が全部使えるかはわからんよ、でも…ゲームの世界から持ち帰ってくれた魔法は夜天の書にあったけど失われてた魔法を覚えて私に教えてくれた。それが何よりの証拠やろ。」
「…はい…」

 半ば信じられないと思いながらも頷く。 

「それで色々考えた、ヴィヴィオは私らに出来ん魔法を色々持ってる。機動6課でなのはちゃんとフェイトちゃんが使ってたのを真似して覚えた魔法、ユーノ君と一緒に作ったベルカ式の検索魔法、去年使える様になったあの魔法、なのはちゃんのストライクスターズ…シグナムの紫電一閃にアインスの魔法…。」

 はやては1つ1つ指を折りながら言う。

「覚えていくのと一緒に色んな事件にも巻き込まれると思う。私らがそうやったからね。だからその時の為と思って…受け取って。」 
「でも使う場所は注意してな。継承するんは許可貰ってるけど、フレースヴェルグは殲滅系魔法…訓練所やクラナガン、本局でいきなり使ったら捕まるから注意してな。」
「えっ!? 」

 殲滅系と聞いて思いっきり引く。
 なのはのオーバーブーストをしたスターライトブレイカーでも集束系の砲撃魔法なのだ。殲滅系は同等かそれ以上の破壊力があるということ…。

「時間みつけてレクチャするよ。使うんは向こうに戻って場所見つけてからやね。クシュン…ずっと空見てたから体冷えてしもた。ヴィヴィオ、もう1回風呂に入ろ」

 照れ隠しのつもりなのかと思いながらも

「はい、折角暖まったのに寒くなっちゃいました。」

 そう言って彼女と一緒に家の中に戻るのだった。

~コメント~
 今話はタイトル通り「引き継がれていくもの」の話です。
 かの人の思いと意思ははやて達に受け継がれ、またはやて達の魔法もヴィヴィオに引き継がれていきます。
 ヴィヴィオの『資質』については本文にもあった様にAgainStory2の頃に考えていた話です。


 さて少し話は変わりまして、とらいあんぐるパーティ&リリカルマジカルに参加された皆様お疲れ様でした。
 AS0も出来上がるまで色々ありましたが無事に出せてホッとしています。
(1時間もあれば打ち合わせにいける距離が、飛行機乗らないといけないのが辛いです。それより辛いのが寒さだったりするのですが)

 
Tittwerを始めました。
 https://twitter.com/ami_suzukazedou
 SSについてとか活動についてとかを呟けたらいいなと思います。



 

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