第14話「ヴィヴィオ出撃」

『そうだ、大切なことがもう1つ。キリエさんが『イリス』って名前を呼んでいたんですがお知り合いでしょうか?』

 大部屋から洗面所に戻ろうとしたところ、ヴィヴィオ達の前に2つのウィンドウが現れフェイトとアミタが映し出された。
 リンディが見えるようにしてくれたらしい。
 そう、ヴィヴィオ達が知らない人がこの事件にはいる。
 
『はぁ、遺跡版の人工知能ですかね。キリエが調査に使っていました。』
『遺跡版?』
『こちらの世界で言うコンピューターみたいなものでこれですね。小型の端末を持ち出したのでしょう。キリエにとっては子供の頃からの友達みたいな存在でしたから。はやてさんを襲った車もその人工知能が操作していたのだと思います。』
 ウィンドウに石版状の物が映る。これがキリエが使っている端末でこの中にイリスがいるらしい。
 それからも暫くフェイトの聴取は続いた。
 その時、ヴィヴィオの背筋にゾクッと悪寒が走った。
 慌てて周囲を見るが、アリシア以外誰も居ないし結界が作られた形跡もない。

「どうしたの?」
「ううん、何でも無い。」

 何だったんだろうと思いながらも2人の会話に耳を傾ける。   

「フェイトの方がこういう時に話を聞き出すのは得意みたい。私じゃあんな風に話せないよ。」

 話を聞きながらアリシアが溢す。

「それでいいんじゃない? アリシアにはフェイトにない良いところもいっぱいあるんだし。フェイトはフェイト、ママはママ、アリシアはアリシア、でしょ♪」
「うん…ありがと。」

 ある程度話が進んでくるとフェイトとアミタの距離が近くなったのか雑談も混じるようになってきた。その時

「ヴィヴィオさん、アリシアさん…ちょっと」

 洗面所のドアが開いてリンディが手招きする。

「はい?」
「クロノから連絡があったわ。大きな魔力反応が3つとキリエさんが動きだしたって。進路方向からこちらに向かっているそうよ。」
「「!!」」

 2人が息を呑む。

(さっきの寒気はこれだったのかな…)
「ここにも結界を作る準備をしているわ。でもその前に桃子さんやアリサさん、すずかさんとご両親に自宅に避難するように伝えて貰えないかしら?みんな1階上に居るから。」
「わかりました。」

 この状況でここが戦闘になれば結界を作ってもみんなにも被害が出るかも知れない。その前にオールストン・シーから出て貰った方が良い。

「フェイトの聴取もそろそろ切り上げて私達も動くわ。何かあったらこれで連絡して」

 ブレスレット状になった小型端末を見せた。 

「わかりました。」

 そう言うとヴィヴィオはアリシアと1フロア上に居るアリサ達の所へと向かった。

 

 それから少し時間が経った頃 

「出撃各員、現在のチームで装備を受け取り追跡を開始。フェイトも…」

 新宿にある管理局日本支部の屋上でクロノ達と武装局員が整列していた。全員バリアジャケットを纏っている。

『もう出撃しています!』

 キリエと現れた大型魔力反応の目的地がオールストン・シー方向だと判った時点でフェイト達のオールストン・シーの局員と共に挟撃作戦をとるつもりだった。
 最悪現地での戦闘になっても民間人や建物に被害を出すわけにはいかない。リンディは数名の局員と共に戦闘エリアの結界を作り始めている。


 その頃、ヴィヴィオとアリシアはアリサ達の避難を手伝っていた。
 すずかの父が乗ってきた車ははやて襲撃時に壊されていたが桃子の乗ってきた車があるそうで桃子とアリサの父が車を持ってくる間に1階へ荷物を運んでいた。

「ねぇ、ヴィヴィオ…あなたもなのはみたいに魔法が使えるんでしょ?」

 唐突にアリサから話しかけられる。

「うん…」
「私達はいいから、なのはを…助けて。」
「なのはを助ける?」

 どういう意味かがわからない。

「さっきなのは、辛そうな…思い詰めた顔してたんだ。」

そう言って昔の彼女のことを教えてくれた。1年の頃にケンカをした後も時々今みたいな顔をしてる時があって、何か急に何処かへ飛んでいきそうな感じがあったらしい…。

「最近、フェイトやはやてが来てから見なくなってたんだけど…私とすずかは頑張ってって送り出すしか出来ない。でもヴィヴィオはもっと近くに居られるのよね? だったらお願い。なのはを助けて。」

 彼女の涙が頬を伝う。さっきアリシアが気づいたものをアリサも感じていたのだ。  

「わかった、RHdいくよっ!」

 ここで…この世界で起きた砕け得ぬ闇事件と似た事件…その結末がどうなるかはまだ判らない。でも、しなくちゃいけないことはある。
 なのはを…ここのみんなを助ける事。それがアリサやすずかの笑顔に繋がっていく。

「アリシア~っ! 後で通信送るからバックアップよろしくね♪」
「えっ? ヴィヴィオっ!?」

 すずかと一緒に階段で荷物を持って下りてきたアリシアに声をかける。 

「任せてアリサ。事件が終わったらみんなでオールストン・シーで遊ぼう♪」

 そう言うとホテルから飛び立った。


 
『シグナム班、上空に注意して下さい。大型の質量反応が上空からっ!』

 オールストン・シーの海側で警戒していたシグナムとフェイト、武装局員に通信が入る。
 上空から蒼い光を放つ巨大な物体がオールストン・シーに向かって墜ちてきていた。


 同時刻、別の場所でも

「そっちに行くんじゃねぇえええっ!」

 ヴィータがカートリッジを使いグラーフ・アイゼンを巨大化させ海上に突如現れた大型機動外殻に対して攻撃を始めていた。


 そして…

「貴様が闇の書の主か…」

 はやての前には1人の少女が現れていた。

「夜天の書の主、八神はやてです。」
「我が名はディアーチェ。失われた力を取り戻す為に蘇った王の魂。我が力を取り戻すには貴様等は目障りだとかでな。」
「キリエさん…イリスの差し金やねっ!」
「答える必要は無いなっ!ドゥームブリンガーッ!」

 はやての周囲に幾つもの魔方陣が現れはやてに対し攻撃を始めた。



「やっぱり来たね。ディアーチェ、レヴィ、シュテル…」

 ヴィヴィオはオールストン・シー中央にある城の屋根上に下りて3方からの攻撃を確認する。

「何が目的かはわかんないけど、ここはみんなを消耗させないようにしなくちゃ。」
「アリシア聞こえる? クロノさんに連絡して。露払いは私がするからみんなはオールストン・シーを守るようにって。」
『わかった。3人の相手はそれぞれだね。』
「そういうこと♪」

 そう言うと屋根から飛び降りて虹の光の中に消えた。       
      
  
  
 クロノからなのは、フェイト、はやてに連絡が入る。

「えっ? 魔導師を私達だけで?」
『そうだ、アリシアからたっての頼みだ。その代わりヴィヴィオが露払いをするそうだ。』
「露払いっていっても…!」

 ヴィータの攻撃が全く効いていない。
 海上から大きな物体がゆっくりと動き出す。射程上に入った目標に対しなのははパイルスマッシャーのバッテリーを接続し起動させる。
 パイルスマッシャーを放つが全く効いていない。
 ヴィータが再びギガントシュラークを使おうとした時、何者かが彼女を狙った。
 フォートレスに換装しシールドで彼女を守る。
 発射点を見るとそこには赤いジャケットを纏ったなのはそっくりの少女が居た。
 
 
 同時刻、シグナムとフェイトも目の前に現れた少女と対面していた。
 シグナムが落ちてくる物体に先制攻撃をしたが巨大な隕石は大型機動外殻に変わった。直後、彼女が現れる。彼女もフェイトそっくりだったからだ。。


「そうは言うてももう…」

 2人が遭遇していた時、既にはやてはディアーチェとの戦闘に入っていた。
 彼女が引き連れて来た大型機動外殻を見る。リインと2人で何とかなるのか…

「これは…露払いに期待やね」

 そう言って彼女へと向かう。  



 高町班、シグナム班とはやてはなのは、フェイト、はやてがそれぞれの魔導師を相手し始めていた。その間にも大型機動外殻は迫ってくる。ヴィータ、シグナム達を先頭に先行する2体に攻撃を始めるが効いていない。

「こいつ滅茶苦茶固ぇ…こんなのが上がってきたらここは…。」

 ヴィータが突っ込もうかとカートリッジをロードした瞬間、大型機動外殻はピタリと動くのを止めた。
 胴体に横一本の線が見えたかと思うと海に崩れ墜ちていく。
 崩れた機動外殻の向こうに見えたのはヴィヴィオ、彼女はなのはのジャケットに似たバリアジャケット姿で虹色に光った剣を持っていた。 

「アリシア、1個破壊完了。修復の兆候なし。」
『了解、次は水族館の…左の建物の方、こっちも出てきてフェイトが動いた。』
「わかった。」

 そこへヴィータがやってくる。

「お前、一体何を…」
「ヴィータさん、これ…もう動かないと思いますけど。何かあったら教えて下さい。」

 そう言うと霧散するように消えた。

「えっ!? 嘘だろ…」

      

「あの子…ヴィヴィオちゃん凄いよ。瞬間移動もそうだけど出てすぐに魔力の高い場所を見つけて切ってる。まだ全然余裕そう…。あっ、今2体目が沈黙。残りははやてちゃんの所だけ。」

 エイミィは感嘆混じりに言う。モニタ向こうに居た2体目の大型機動外殻が切られてそのまま海に落ちていった。

『頼もしい限りだ。露払いの言葉通り不測の事態に対応出来る様に全員の魔力消費を抑えてくれるつもりらしいな。』
「でも…なのはちゃんとフェイトちゃん、はやてちゃんの戦闘にはかからわないみたい。…高町班とシグナム班で余裕が出来たからフォロー体制も取れるよ?」
『いや、それは2人に任せよう。2人の名前や容姿も含めて何か関係しているのかも知れない。それよりも僕達は事件の首謀者を追いかける。』
「了解」
  
 
 少し時間が戻って水族館の方面を防衛していたのはシグナムを隊長とするチームだった。
 フェイトが彼女に似た少女を追いかけて水族館に入ってしまった。シグナムと武装局員達は海上に現れた大型機動外殻を相手にしていた。カートリッジをロードして刃に炎を纏わせ

「ハァァアアアアッ紫電一閃っ!!」

 叩き切ると動きは止まった。だが直ぐに切られた場所が修復して動き出した。
 消耗戦になっているのが判っていても有効な攻撃方法が見つからない。 

「何か弱点は…」

 このまま近づかせる訳にもいかず2発目のシュツルムファルケンの起動準備をする。しかしそこに

「ハァアアアッ、紫電…一閃っ!」

 機動外殻の上空に生まれた光からヴィヴィオが現れた。シグナムと同じ様に虹色の光剣で胴体を叩き切る。
 すると大型機動外殻はさっきは自動的修復していたのに左右に大きく2つに割れてそれ以上動かず海に沈んでしまった。

「お前は…」
「シグナムさん、動くのを止めてくれてありがとうございました。アリシア、2体目破壊完了、自動再生はこっちも止まった」
『了解、最後ははやてのところ。機動外殻と彼女をまとめて相手にしてるみたいだから急いで』
「わかった。シグナムさん、大丈夫だと思いますけど一応警戒お願いします。」

 そう言うと虹色の光の中に消えてしまった。

「紫電一閃で…あれを止めただと…」

 レヴァンティンと崩れ落ちていく大型機動外殻を見比べながら驚きを隠せないでいた。


 
 ヴィータやシグナムと同じく驚きを隠せなかったのは管理局本局の司令室も同じだった。
 レティを含め情報収集班は全員唖然としていた。
 武装局員の攻撃やパイルスマッシャーの一撃でも止められなかった大型機動外殻が少女1人の一振りによって次々に沈んでいるのだ。

「リンディ、あの子は誰?」

 我に返ったレティが通信端末でリンディに聞く。

『現地の協力者よ。それ以上は本人の希望で教えられないって。それとデバイスに周囲のデバイスが機能停止するカウンタープログラムが入ってるからデバイス情報を取らないで。だそうよ』

 既にこっちの手の先を読んでいるらしい。
 そのままその少女ははやての近くに現れ大型機動外殻を虹色の光剣で横薙ぎにして落としてしまった。



「キサマァアアアアッ!」

 上下真っ2つになった龍の様な機動外殻が崩れていく。
 突然現れた少女にディアーチェが怒りデバイスを構えるが

「3体とも破壊完了、フォローに入るね。」
『了解』
「またね、ディアーチェ♪」

 そう言うと現れた時と同じ様に虹色の光の中に消えた。    



「ヴィヴィオさん、あれ程の力を持っているのにどうしてなのはさん達を支援しないのかしら…。」

 リンディはヴィヴィオの動きとアリシアとの通信を聞きながら何かを考えていた。闇の書、夜天の書の力となのは、フェイト、はやてのパーソナルデータから生み出されたであろう3人に対してヴィヴィオは全く相手にしようとしていない。
 はやてと戦闘中だった少女がヴィヴィオに向かって行ったのに彼女は何も気にしていない様子だった。

「何か言っていたわね…ディアーチェ…彼女の名前…彼女を知ってる?」

その時、ヴィヴィオとアリシアの言葉を思い出す。

『異世界の10数年後から来ました。』
『私の名前は高町ヴィヴィオです』
『相手の魔導師はなのは、フェイト、はやてだけで対応お願いします。それ以外の敵が出てきたらヴィヴィオが露払いをします』
(…フェイトさん達と彼女達を戦わせようとしている?)
  

 
 大型機動外殻がヴィヴィオによってあっさりと壊されてしまった。

「全機撃墜…あの子…間違い無くSランクオーバーだよ…。」

 エイミィと通信するクロノ

「彼女のおかげでこちらの消耗も現地の被害も殆どない。それで彼女…ヴィヴィオは?」
「オールストン・シーの城の屋根に下りて様子を見てる…なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんを手伝うつもりはないみたい。今…結界内にさっきの反応入ってきた。水族館に侵入」
「わかった。それは僕達が確保する。」


 一方で大型機動外殻の沈黙によって戦闘区域が限られたことにより桃子達は移動しようとしていた。アリシアは車には乗らずヴィヴィオと通信しながら他の状況を確認している。 
 事件の進捗を見ながら考える。

(3人が出てきたのであれば【彼女】が何処かに居るはず…。ヴィヴィオも彼女を探している。何処にいるの?)
「永遠結晶エグザミア…こっちにもあるなら…どこにある?」
「永遠結晶?」

 すずかに聞かれる。考えていたことが口から出ていたらしい。

「あっ! えっと…フェイト達と戦ってる子が探してるものが近くにあるのかな~って。永遠結晶っていうんだけど」
「永遠結晶って名前じゃないけれど、大きな結晶なら水族館にあるわよ」

 アリシアが言う。  

「えっ? 大きな結晶?」
「うん、パパ達が海の中から見つけたのよ。これ」

 アリサが車から身を乗り出してスマートフォンで撮った写真を見せる。
 確かにここまで大きい物は見ない。これが永遠結晶?

「アリサ、それどこにあるのっ!?」
「水族館の水のトンネルを出たところ…この辺」

 ポケットに入っていたマップを見せる。

「ありがとっ! このマップ貸して。私は大丈夫だからみんなは避難してねっ」
「ちょっアリシア!?」
「アリシアちゃん!」

 そう言うと皆の制止も聞かずに水族館へと走り出した。

~コメント~
もしヴィヴィオがなのはRefrectionの世界に来たら?
ヴィヴィオとアリシアは砕け得ぬ闇事件(AffectStory~刻の移り人~参照)という類似した事件を体験しています。
ただ当時と違う所もあってどうすればいいのかまだ迷っていました。
でも、アリサからなのはを心配する言葉を聞き動く事を決意します。
前事件から成長したヴィヴィオの姿を感じて貰えると嬉しいです。
ヴォルケンズの出番思いっきり潰しちゃってますね。

Comments

かーな
ザ「ておぁだけでも叫ばせてくれ」

そう言えば、今回のフェイトは状況が状況だからか寝込みませんでしたね(笑)
2019/04/13 07:28 AM

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