第17話「目覚める闇」

 なのはとシュテル、フェイトとレヴィの勝敗がついた頃、アリシアは鉱物が展示されているフロアへと向かっていた。

「近くまで来てる筈なんだけど…」

 暗くて案内板もよく見えなくて辺りを見回していると…

「「「グァアアアアアアッ!」」」

 悲鳴が聞こえた。それも1人じゃなくて複数人のものだ。
 声の聞こえた方へと駆け出す。。見えた時、倒れた局員の向こうに見知らぬ女性がいた。
 咄嗟に柱の陰に隠れる。



 
(あれがイリス? 端末じゃないの?)

 武装局員数名から木の枝が伸びるように何がが出ていて、それが集まった所に彼女がいる。

(何かを奪った?…魔力…だけじゃない?)

 倒れている局員の中で1人だけデバイスで身体を支えている者が居た。

(クロノさん!)

 クロノは苦悶の表情を浮かべながらイリスを睨み付けている。彼女に何かを奪われているのか?
 幸い彼女はまだ私に気づいていない。近くに倒れた局員のデバイスが転がっている。イリスはキリエと何か言い合いをしている。

(仲間…じゃないの?)

 状況がいまいち読めないけれど誰もこっちに気づいていないのを見てそっとデバイスを引き寄せ近くにあった何かの破片を手に取った。
 そして

「ハアアアッ!」

 ペンダントに入っていた魔力コアを使い自己強化魔法をかけてイリスめがけて飛び出した。

「!?」
「っ!? フェイト!?」

 イリスは急に現れた私とフェイトと間違えて驚いている。
 手すりに飛び乗りそのままジャンプしてイリスの上空に飛びそのままデバイスを振り下ろす。

【ガキッ】
「!?」

 全力の一振りを片腕で防がれた。人とも金属とも違う感触。

【イリスは危険】

 アリシアは今の状況・状態で戦えないと即座に判断し、回避行動に移る。
 そのまま身体を捻って大型結晶反対側の手すりに飛び乗り再びジャンプする。

「ハッ!」

 今度は横薙ぎにしてイリスの顔を狙う。気づかれているから意表を突いた攻撃は出来ない。
 再び片腕で受け止められる、だがしかしそれも計算の内。
 受け止められた時点でデバイスを手放し来た方向から少しずれた所にいるクロノの前へ飛ぶ。

「き、きみは…」
「クロノさん、動かないでっ」

 まだ意識がある。彼女が攻撃する前にさっき拾った何かの欠片を彼女の目に向けて投げた。
 その欠片は予想外だったのか彼女の顔を掠めた。

「よくもっ!」

 怒り出す前に私は彼を担いでそのまま結晶体の部屋から飛び出した。
 

 
 一方ではやてと戦闘中だったディアーチェもシュテルとレヴィが敗れたのを感じ取っていた。2人の救出もしなければならないが、それよりも…
 レヴィの戦っていた近くから途轍もない魔力量を感知する。

「何だ…この胸騒ぎは…」

 何かが起きようとしている。

「王様、待って~っ! アレは何なんっ? 」
「ええぃ!貴様に話す道理があるかっ! ついてくるな」
(この感覚…我は知っている。この力の持ち主をっ!)

 追いかけてくるはやてを一瞥し、更に速度を上げて森林エリアから水族館エリアへと向かう。   



 少し時間は遡って、なのはとシュテルの戦闘が終わった後、ヴィヴィオは救急車の中で2人の治療に付き合っていた。2人とも怪我は殆どなかったけれど魔力消耗は酷く、シュテルは担架ベッドに寝かされていた。魔力ダメージのみに絞っていたとは言え、無防備なところになのはのACSの直撃を受けたのだから無理もなかった。
 ユーノがなのはの腕の傷を治しているのを眺めていると

「あなたは…何者ですか? 私達の砲撃を消すなんて…」

 シュテルが聞いてきた。ユーノとなのはも気になるのか私の方を向く  

「秘密…って言っても気になるよね。異世界から来た関係者ってところかな。シュテル、あなた達はどうしてここに来たの?」
「…我が主の願い。ここに眠る永遠結晶を目覚めさせ更なる力を得る為です。」
「永遠結晶?」

 なのはが聞き返すと彼女は静かに頷いた。

(夜天の書の中じゃなくてここにあるんだ…永遠結晶。)

 砕け得ぬ闇事件では永遠結晶ははやての持っていた夜天の書の中にあった。キリエに奪われた時から彼女が目覚めさせるだろうと考えていた。
 大型機動外殻は壊したけれどなのは達とシュテル達の戦闘になるべく関わらなかったのは自身の魔力を温存してもう1人の少女が現れた時、彼女と対峙しなければならないと思っていた。

「シュテル、永遠結晶は何処にあるの?」
「この付近にあるということしか…細かな位置まではわかりません。なのは達を倒した後探すつもりでした。それももう出来ませんが…」

 顔を逸らして答える。
 通信端末に目を回したレヴィが映っている。彼女も無事保護されたらしい。
 だが直後、通信が届いた。

『クロノ執務官と武装局員16名・民間協力者1名が重傷、対象キリエ・フローリアンは確保しましたが対象イリスは上空へと逃走。』
(民間協力者…ってまさかっ!?)

 ここに居る民間協力者と言えば、ヴィヴィオとアリシア、アリサやすずか、桃子達しか居ない。
 桃子達は車でオールストン・シーから離れている筈だから…

「ごめん、行ってくる!」
「ヴィヴィオちゃんっ!」

 呼ぶ声も聞かず、走り出した。            
 
 

「アリシアっ!!」

 水族館エリア近くの臨時救護所へと飛んだヴィヴィオは近くにあった救急車の中に向かって叫んだ。だがそこには寝かされた局員が2名居ただけだ。
 更に近くにある救急車へと駆け寄って

「アリシアっ!」

 中を見るがそこにも包帯が巻かれた局員2名が寝かされていた。 

「どこに…」

 辺りを見回していると

「ヴィヴィオ~こっちこっち♪」

 ワゴン車の方から声が聞こえた。

「アリシアっ!」
「ちょっとぶり♪ 大型起動外殻の破壊お疲れ様。」

 後部座席が倒されて簡易ベッドになった所にアリシアとクロノが居た。彼女は頬にガーゼとテープが貼られ、両手には包帯が巻かれていて治癒魔法がかけられていた。

「ちょっと怪我しちゃった。局員さんがまとめて言っちゃったから慌てて来たんでしょ。心配かけてゴメン。」
「そんなに怪我して…バルディッシュも無いのに…バカッ!!」

 半分涙目になって怒る。   

「ごめん…」
「アリシアを責めないでくれ。彼女が居なければ僕も救急車に乗っている局員達と同じになっていた。彼女を負傷させたのは僕の判断ミスだ。」

 頭や腕、上半身に包帯を巻いたクロノが頭を下げて謝る。

「いや、そんな…怪我をしたのは私のせいなんですからクロノさん、謝らないでください」

 顔を少し赤らめて照れる彼女を見てホッとする。

「もう…これ以上無理しないでよ。帰ったらママ達に言うからね。」
「は~い…じゃなかった。そんなことはどうでもいいの。ヴィヴィオ、あの子…イリスは危険だよ。周りの魔力とか色んな力を無理矢理奪える。私が行った時にはクロノさん以外はみんな…」

 その時

『クロノ君!』

 エイミィから叫びが聞こえ、ウィンドウが開いた。
 イリスとディアーチェ、レヴィ、シュテルを取り囲むようにシャマルやヴィータ、ザフィーラと武装局員が包囲しようと向かっている。だがイリスの横に見知らぬ物体

「これ…何? 盾…フォートレスに似てるけど…5つもある。何かのデバイス?」

 ヴィヴィオが呟くとアリシアはガバッとウィンドウを見て

「これ…水族館の結晶の中にあった…っ! ヴィヴィオ行って、エイミィさん、みんなを下がらせてっ! あれはっ! 魄翼がっ!」

 さっきまでの余裕は消えて慌てるアリシア

「行ってって…ばくよく? 魄翼…結晶の中にあった…っ!」

 彼女に言われて思いだした。忘れてはいけなかったものを、【彼女】が持っていた【能力】を。

「わかったっ!!」

 バリアジャケットを纏って飛び立つ。
 空間転移で行って伝えたいがあの場に飛ぶのは危険過ぎる。
 転移前にその魔力を喰われたら空間転移すら壊されかねない。

「RHdっ!」
【StandbyReady Setup. Armored module Startup】

 バリアジャケットが弾け騎士甲冑がヴィヴィオの体を包み込み、そのスピードは更に増した。 
   


「…本当に彼女に伝えなくてよかったのか?」

 ヴィヴィオが飛んで行くのを見送るアリシア、距離を取って包囲するようにとクロノが指示を出した後アリシアに問いかける。

「…はい、今のヴィヴィオに伝えたら私がもっと怒られちゃいます。」

 アリシアは笑顔でそう言って振り返るが途中で顔を歪ませる。

「言うほど軽い傷じゃないんだ。無理しないほうが良い。」
「ありがとうございます。私は一旦舞台から降りてサポートに回ります。こんな体じゃ踊れません♪」

 小柄なアリシアと成長したクロノでは体格差があった。
 そんな彼を自己強化魔法をかけて担いで動くだけでも大変なのに、そこにイリスの追撃も避けなければいけなかった。バルディッシュがあれば何とかなったけれど、フェイトに貸したのはアリシア自身の判断。
 クロノを守ろうとして禁じられた技を使ってしまった。
 結果、両膝の筋肉と筋を痛めて、更にイリスの放った攻撃は腹部を貫通していた。
 倒れた彼女をクロノは抱えて体を引きずりながらも外に連れ出し、応急処置が行われたところでエイミィから報告を出して貰った。
 クロノが居なければアリシアはここに居られなかった。
 足にかけられていた毛布をめくると両足には腕以上に治癒魔法がかかった包帯が巻かれていて痛々しい。
 強化魔法と練習のおかげか治療が早かったおかげか判らないけれど治らない怪我ではなかったのにホッとする。

(気づかずに終われば良いんだけど、ヴィヴィオ…こういうとこよく見てるし…) 
「治癒魔法と痛み止めのおかげで随分楽になりました。本当は足手まといになるから避難した方が良いんでしょうけど、あの子がどう動くかわからないから…」

 今は自分よりもヴィヴィオと彼女の方が気になってしまう。

「あの子?」

 クロノの問いかけに軽く頷きながらもヴィヴィオの行った先から目が離せないでいた。



(どうしてこんな大事なこと忘れてたっ!?)

 ヴィヴィオは自分を責めていた。

『いつまで寝てるの? 起きなさいっ!!』

 イリスが5枚羽を叩くと光り出し、直後通信から苦悶の声が響いてきた。ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ユーノ、はやて…知っている彼女達の声も聞こえて来る。
 5枚羽が広がり中から現れた少女、彼女を見て私は致命的な失敗に気づいてしまった。
 遅れていたシグナムとフェイトが彼女に向かって攻撃をしかける。

『フェイト、シグナムさんっ! 逃げてっ!』

 だけどその場所で戦うのは分が悪すぎる。だが、通信や念話で叫んでも既に2人は彼女の領域に入っていて一方的にやられてしまった。

「みんな…ごめんなさいっ!」

 謝りながらもスピードを上げる。



『現実は絵本とは違うの。1人じゃ何にも出来ない女の子は大人になってもそのままだし、どんな夢でも叶う指輪なんて絵空事。願いは叶わないし、悲しい物語は悲しいまま終わる。だからあなたには引けないわ、そのトリガーを』

 イリスの冷めた声とキリエの嗚咽が聞こえる。 

『あなたはそうやって色んなことを諦めてきたんですね。だとしたら可哀想です…あなたはとても…』
(誰?…アミタさん?)

 魔導師が1歩でも入れば彼女によって無力化される領域、そこで動けるのは2人だけ…。管理局から飛んで来たのか? 映像が見えない今、音を頼りにするしかない。

『アミティエ…』

 彼女の領域が見えたっ。

『ヴィヴィオ、ワンツーコンビネーション。合わせるよっ!』

 念話が届く。
 なのはからだ。領域を挟んでヴィヴィオの来た方向と反対方向に桜色の光が見えた。
アミティエとキリエによって彼女も気づかれていない。

『わかった!』
「RHd!!」
【Allright】

 領域にフェイトとシグナムが捕らわれた楔を切り捨てまっすぐイリスの元へと向かう。彼女はアミタ達に少女をけしかけようとしていた。  

「ハァアアアアッ!」
【Fire】

 その前に入り込んで居合いの様に虹色の刃を振り上げた。 

「「!!」」

 2枚の羽を切ってそのままアミタ達の前でシールドを広げる。直後桜色の砲撃がイリス達を襲う。

【ドォオオオオオオオン】
(ストライクスターズっ!?)

 魔力と物理攻撃を防いでいるのに間近で受けた衝撃がヴィヴィオにも伝わってくる。スターライトブレイカーとは根本的に違う威力だ。  

【System drive.Formula mode】
「フォーミュラーカノン、フルバァァァストッ!」

 続けざまに2斉射目が放たれる。

「アミタさん、キリエさんっ!」

 半ば2人を突き飛ばしながらシールドを維持する。

【ドォォオオオオオオオオン!!】

 1射目よりも強力で片腕では維持出来ず両手でシールドを押さえ込んだ。



「ユーリ…」

 爆風が収まって少女が姿を現す。羽を壊してなのはの直撃を2度も受けたにも関わらず、傷1つ負っていなかった。その力に一瞬ゾクリと寒気が走る。

 紫天の盟主
 砕け得ぬ闇
 星の命すら操れるという永遠結晶エグザミアの守護者…。

 彼女の強さは予想通り…ううん、予想以上…

(それでも…負けられない!)

 泣いている少女を助ける為に…

「いくよ、ユーリ」

 両手の拳に光を集めヴィヴィオはユーリに向かって突撃した。

~コメント~
 ヴィヴィオがもしなのはRefrectionの世界に来たら?
 ようやくユーリ復活です。

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