第19話「船上での駆け引き」

「…ん……あれ?」

 ヴィヴィオが瞼を開くと、そこは何処かの病室だった。管理局本局の感じは無い。身体を起こすと

「気がついた?」

 近くに居たアリシアが振り向いた。

「アリシア、ここ…っ!?」

 ここはどこ? 聞こうとした時、彼女の姿を見て驚いた。

「ああ、これ? はやてさんが持って来てくれたの。昔使ってたのだって、動かすの結構難しいね。撮影の時沢山練習したんでしょ~♪」
 彼女が座っていたのは車椅子。器用に振り向くと膝と足首に包帯が巻かれていた。

「…足…。車のベッドで怪我隠してるのは気づいてたけど…」
「足? 回復魔法でもう殆ど直ってるから立って歩けるんだけど、もうすこしこのままがいいそうだから。大丈夫、元通りになるってシャマルさんも言ってたから」

 それを聞いてヴィヴィオは大きなため息をついた。

「歩けなくなったとか言われたらどうしようって思っちゃったよ。でも、帰ったらプレシアさんに言って看て貰うからね。」
「は~い」

 無事なのに一安心して途中で止めた話を続ける。

「それより、ここは?」
「ここは…」
「管理局が用意した指揮船の中や。ヴィヴィオちゃんもアリシアちゃんも本局で治療して貰った方がいいと思ったんやけどクロノ君からここで様子を見てからって連れてきたんよ。シャマルは魔力と体力使って疲れてるだけやから休んだら治るって。」

 流石に本局に行くのはまずい。その辺はクロノが気を利かせてくれたのだろう。

「私が気を失った後のこと教えて。なにがあったの?」

 はやてはアリシアと顔を見合わせて2人がそれぞれ話してくれた。



 ヴィヴィオ達の攻撃の後、ユーリは意識を取り戻した。
 その時彼女に近づいたシュテル、レヴィ、ディアーチェのことを名前で呼んだらしい。昔何があったのかを知らせようと夜天の書の紙片を渡そうとした時イリスが背後から腹を刺して連れて消えた。
 それからイリスによって負傷したアミティエとキリエ、戦闘で怪我をしたなのはとフェイトが本局で治療とデバイスの改修に行っていて、捜査班がイリスの隠れ先を探している間他のみんなはここで休んでいるらしい。

「ああ、そうやこれ返すの忘れるとこやった。フェイトちゃんから預かってた。壊してごめんなさい…それと守ってくれてありがとうって」

 アリシアははやてからバルディッシュを受け取る。

「…アミタさんとキリエさんからイリスのこと、もっと詳しく教えて欲しかったんだけど…」

 ユーリを操り動かしていたのはU-Dとは根本的に違う気がする。
 ここまでで判らないのはイリスの存在。
 アミティエとキリエに怪我をさせる位なのだから相当強い、本当に人工知能なのか?
 彼女が事件の真ん中に居る気がする。
 今まで行ったどの世界でもイリスとは会っていない。だから余計にキリエやアミタから話を聞いておきたかった。

「急いでも仕方ないよ。ヴィヴィオも疲れてるんだし、最後…魔力取られたよね…大丈夫?」
「えっ!? ヴィヴィオちゃん、そうなん?」
「うん…」

 ユーリに放ったスターライトブレイカー、周囲の魔力を集めたのが仇になっていた。なのはがエクシードブレイカーを使っていなかったらと思うとゾッとする。

「大丈夫♪ あっちまでは取られてないし。魄翼より強かったから何とかしないとだね。」
「無理しないでね…って今の私が言っても説得力全然ないけど」
「わかってる。その為には私達が知らない事件の事を知らなくちゃ。」

 アリシアに笑って頷きながらも決意を新たにする。

「そこは…あの子が残したこれが頼りやね。」

 そう言うとはやてはケースに入った紙切れを見せた。

「これは?」
「ユーリが残してくれた鍵。中のデータは生きてるみたいやから、王様やったら直せるかなって今から行くけど一緒に行く?」

 ヴィヴィオとアリシアは直ぐに頷いた。



「3人ともお疲れ様や」
「こんにちは」

 はやてと部屋を出た所であったリインと一緒にある部屋に入った。そこには

「フェイト!…あれ? なんか違う?」
「似ていますが…別人ですね」

 シュテルとレヴィ、ディアーチェが居た。

「さっきは挨拶もなかったね。私はヴィヴィオ、彼女はアリシア。」
「こんな感じになっちゃってるからヴィヴィオのサポート役ってことで」

 車椅子に乗ったままアリシアが足をポンポンと叩いた。

「…貴様か…」

 ディアーチェがヴィヴィオを見るが、何も言わずにはやてに視線を移す。

「うん、これなんやけど…」
「ユーリが渡そうとした紙片か」
「破損してるけど中のデータはまだ生きてる。王様達やったら復旧出来るんとちゃうかなって」

 はやてがケースから紙片を取り出してディアーチェに渡す。手に取った紙片の方向を変えて見て

「レヴィ、この中身を直せるか?」
「やってみる」
「頑張って下さい」

 紙片を受け取ったレヴィが何らかのプログラムを起動して紙片を動かし始めた。 



「ヴィヴィオ、少しいいですか?」

 レヴィが「これをこうやって~…あ~もうっ!」と修復に悪戦苦闘しているのを一緒に見ているとシュテルが私の袖をクイクイっと引っ張り小声で呼んだ。
 ここで話すとレヴィの邪魔になるので

『アリシア、何かあったら呼んで』
『うん』

 念話で彼女に頼むとシュテルはディアーチェとはやてが話している所へと移動した。私も彼女を追いかける。

「ディアーチェ、連れてきました。」
「うむ、レヴィの邪魔をしたくなかったのでな。ヴィヴィオ、貴様は我等やユーリ、アミタ、キリエを知っているな?」
「ヴィヴィオちゃん、そうなん!?」

 はやては驚く

「我が僕を倒した時、貴様は我が名を口にしていた。あの時点で我の名を知っていたのは我等とキリエ、イリスの5人だけだ。」
「それは…偶然…」  
「私となのはとの戦闘でもヴィヴィオは介入しましたね。あのタイミングで止められたのは偶然では説明がつきません。」
「何となくシュテルはそう動くんじゃないかなって…」
「そうやね…私を助けてくれた時もいきなり名前呼ばれたし、アミタさんが来た時もアミタさんが名乗る前に名前言ってた…。」
「あ…それも…」

 ディアーチェ、シュテル、はやての3人から集中砲火を浴びる。 

「そこへ先の戦闘だ。魔力を奪われるあの場で戦えたのは貴様となのはの2人だった。なのははアミタのフォーミュラーを受けた様だが…」
「ヴィヴィオは予め備えていたとしか思えません。」
「助けなきゃって思って必死になったら偶々上手くいった…」
「偶然は何度も続けて起きないから偶然と言うのです。違いますか?」
「…それは…そうだけど…」

 完全に逃げ場を防がれた。   
 さっきディアーチェが私を見て視線を外したのはこの機会を作る用意をしていたからだろう。

「我等の目的は大いなる力です。それがユーリに関係しているのは間違いありません。」
「此奴達が邪魔をせぬなら我等も邪魔をするつもりはない。だが…ヴィヴィオ、貴様の目的は何だ? 返答によっては管理局との共闘を取りやめレヴィを連れここを出て我等は我等で動く。次に会った時は貴様達も敵と見なす。」
「ちょっ!?」
「ちょっと待って下さい!!」

 はやてとリインが慌てる。

「共闘するには互いの信頼が不可欠です。はやてやなのは達は信じても良いと思いますが…私もヴィヴィオには疑念を持っています。あなた達もそうではありませんか?」
「それは…」
「………」
「どうなのですか?」

 ここで話してしまえば疑念は消えるだろうが、この状況を更に混乱させるのは間違い無い。かといって言わなければここで3人は離れ再び敵対する。  

(どうすれば…)

 考えていると

『ヴィヴィオ、ヴィヴィオ。逆、逆に考えて』

 レヴィの横で修復を見ていたアリシアが念話を送ってきた。彼女を見ると視線はずっとレヴィの方を向いているが手でVサインで合図している。
 
(逆? 逆に考えて…? あっそうか!)

 彼女の言いたかった意味がわかった。
 どう言えば良いかを頭をフル回転させて考える。
 こういう駆け引きはアリシアの方が得意だけれど今は関わるつもりはないらしい。

「…わかった。この事件が終わったら話す。それじゃ駄目?」
「ヴィヴィオちゃん…それは…」

 言った直後、ディアーチェとシュテルがヴィヴィオを睨む。
 彼女達の反応は当然だ。『話す』か『話さない』かを選べと言われているのに違う返事をしているのだから…。でもそれは私も判っていた。

「…貴様、我等を愚弄しているのか?」
「それで信じろと?」
「信じて貰うしかない。それで駄目なら…ディアーチェ達と一緒に戦えなくても仕方ないね。」

 そう言った後私は笑顔を消して2人の目をジッと見つめる。

「でも…私も次に会ったら手加減しない。ユーリを見つける前に戦って倒す。シュテル、レヴィ、ディアーチェより強いよ、私は。もし私が負けてもその後でユーリと戦えるだけ魔力が残ってると思う?」
「…………」
「貴様~っ」
「信頼してとは言わない。私も今はみんなと事件解決したいって思ってる。事件解決でディアーチェ達と一緒に戦えるならその時は私も手伝う。」
「敵か味方か…ディアーチェ、シュテル、どっちがいい? 私はどっちでもいいよ。」

 そう、アリシアが伝えた『逆』というのは、ヴィヴィオが選ぶのではなくディアーチェとシュテルに選ばせるように持っていけばいいと言う意味だった。
 大型機動外殻を一刀両断し、シュテルの集束砲を消し去り、ユーリと互角の戦闘を繰り広げた私をディアーチェ達は無視出来ない。
 そもそも私とアリシアはなのはとフェイト、はやてと一緒に動いているのだから私に敵対するということはなのはやはやてとも再び戦う可能性を考えなければいけなくなる。
 そうなったらユーリと会うことすら叶わない。
 この状況で敵対するのは悪手でしかないのはディアーチェとシュテルも判っていて、私に揺さぶりをかけるつもりだった。
 アリシアはヴィヴィオ達の会話を盗み聞きながらそれに気づいた。 

「…ディアーチェ…」

 シュテルは分が悪いと諦める。

「わかった。仕方ない。その代わり約束を忘れるな。」
「うん♪ ありがとう」

 不満げながらも退いてくれたディアーチェとシュテルにヴィヴィオは笑顔で礼を言った。



「ハァ~、ヴィヴィオちゃんはヒヤヒヤさせるんだから…。」

 ヴィヴィオ達の様子を近くの埠頭で見ていたエイミィはため息をつきながら言う。

「一触即発…にはならなかっただろうが、これで彼女達も協力してくれるだろう。」

 エイミィの近くで声だけ聞いていたクロノも険しかった眼差しが少しだけ柔らかくなる。ディアーチェ達の目的が判ればそれに沿う形で部隊を動かせば良い。
 それよりも驚いたのがヴィヴィオの思考と度胸だった。

(もうあんな考え方が出来るのか…)

 あの場で正体を明かすのは不安要素が増えるだけ、かといって敵対すれば欲しい情報も得られず潰し合いから悲惨な結果に繋がりかねない。
 そんな状況半ば脅しとも取れるディアーチェ達の言動に対してヴィヴィオは更に上を行った。

「末恐ろしい子達だ…」
「ん? 何か言った?」

 エイミィが首を傾げている。思わず口に出ていたらしい。

「何でもない。所長やユーノ達が結界を作っている。僕達も準備を急ごう。」

 あのデバイスを使うのは1年以来だが、出し惜しみ出来る状況じゃない。
 再び険しい表情に変わったクロノの様子がそれを物語っていた。

~コメント~
 ここまででヴィヴィオはディアーチェの連れてきた大型機動外殻を壊し、シュテルの集束砲を無効化していて2人にはよく思われておらず、警戒されています。
 こういう駆け引き出来る様になれば…クロノじゃないですが末恐ろしいです。

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