第20話「一緒に歩くために」

 指揮船でヴィヴィオとディアーチェ達の間で険悪な空気が流れていた頃、フェイトはなのはを連れて本局に来ていた。
 嫌がるなのはを半ば無理矢理にでも診察して貰うのと自身も怪我をしていたから治療、そして…
なのはが治療を受けている間にマリエルからバルディッシュの能力を教わり、シャーリーからレイジングハートとなのはが行った強化プランについて聞いた。
 彼女はアミタ達の世界の技術『フォーミュラー』を取り込んで強化したらしい。

『フェイトさん、すみません…私達が勝手に動いちゃって…』
「ううん、シャーリーを責めてるんじゃないよ。なのはのジャケットとデバイスについて教えて欲しかっただけだから、教えてくれてありがとう。」

 
 謝るシャーリーをフォローしながら通信を切った。

「やっぱり…なのははもぅ…」

 診察室の前で呆れ半分、感心のため息をつく。思った通り無茶をしていた。なのはを連れてきて正解だった。

「フェイトさん」

 リンディにシャーリーから聞いたことをまとめてメッセージを書いていると、近くをアミタが通りかかった。連れてこられた時は酷いダメージを受けていた筈。思わず駆け寄る。

「アミタさん、もう大丈夫なんですか?」
「はい♪ 頑丈ですので。それより、イリスを止められず申し訳ないです。」
「いいえ、そんな…」

 アミタとキリエがイリスをあの場から離してくれたから魔力を取られただけで済んだ。答えた時さっき聞いたシャーリーの話を思い出す。
 なのはが使う事が出来るなら、私にも使えるんじゃないか?

「それよりもこれは個人的なお願いなんですが、なのはに渡したフォーミュラー…私にも分けて貰うことは出来ませんか?」

 次にユーリやイリスと戦わなくちゃ行けない時、なのはにばかり頼ることは出来ない。それに…

(体内に入れるナノマシン…なのはに何かあれば…)

 フォーミュラーはミッドチルダ・管理局にとって未知の技術。
 もしなのはに何かあっても彼女だけでは症例が足りなさすぎる。1人でも多ければ…。でもそんな人体実験みたいなことを言えば彼女は断るだろう。だから本心を隠して言う。 

「戦力外になるのは嫌ですから。」
「…ご協力したいんですが、フォーミュラーの運用には血液に乗せて体内を巡らせるナノマシンが必要なんです。私の持ち出せた残りのナノマシンはあと僅か…残り全部をお渡ししてもなのはさん程の出力を出すには…」
「そうですか…あれ?」
「はい?」

 落胆する。けれど、彼女の言った言葉が引っかかり頭の中で反芻する。

(アミタさんが持ち出せたナノマシン…)
「アミタさん、キリエさんもナノマシンを持って来ていたりしないんでしょうか?」
「キリエですか? ええ…そうですね。こちらに来る準備をしていたので持って来ていたでしょうし…」

 ナノマシン、アミタの物が残り僅かでもキリエが持っていたら…

「ですが、怪我の治療で全部使ってしまっているかも知れません…」

 キリエも酷い怪我を負って治療中、もし残っていたら…

「ありがとうございます。急いでキリエさんに聞いてきます。なのはが出てきたら待っていてと伝えて下さい。」

 そう言うとキリエが治療を受けている処置室へと駆けだした。

「ええ…はい…」

 その姿にアミタは答えられず、キョトンとしながら背を目で追いかけていた。


 
 それから数分後

「ありがとうございました。」
「お大事に」

 診察室を出てきたなのはは通路で立っているアミタを見つけた。

「アミタさん♪ もう動いて大丈夫なんですか?」

 聞くと彼女はクスッと笑って

「はい、頑丈ですので♪」

 答える。

「なのはさん、その杖…」

 両腕でついている杖と足の包帯を見る。

「踏ん張った時にちょっと捻っちゃって、でも大丈夫です♪ アミタさん、フェイトちゃんを見ませんでしたか? 外で待ってるってメッセージを貰っていたので」
「フェイトさんならキリエの…」
「なのはっ♪」

 フェイトが走ってきた。

「ごめん、待った?」
「ううん今出てきたところ」
「アミタさん、キリエさんからこれを貰いました。キリエさんの持っていたものもこれだけだそうです。残りアミタさんのものと合わせたらって…これで出来ますか?」

 フェイトが何かの容器をアミタに渡す。アミタはそれを開いて中を見る。

「…はい、これだけあれば…なのはさんや皆さんの装備改修と一緒に出来ます。」
「アミタさん、それは何ですか?」
「内緒♪」
「…はい、内緒です。それでは行きましょう。」
「はい」

 アミタに聞くとフェイトとアミタはクスッと笑った後、歩き出した。 

「ええ~っ、ずるーい!」

 なのははそう言いながら2人を追いかけた。



 一方、日本の関東エリア、上空ではリンディがユーノを含む結界魔導師と共に結界の展開を進めていた。幾つかの起点に関東全域を覆う計画だ。
 そこにメッセージが届く。

(フェイト?)

 メッセージはフェイトからだった。
 そこにはアミタとキリエの協力でなのはと同じフォーミュラーを取り入れる事への許可が欲しいということと、なのはの診察結果を見ておいて欲しい事が書かれていた。
 そして最後に

『無理しないでね、母さん』

 通信でもいいのにメッセージで送ってくるのはまだ恥ずかしいのだろう。だがフォーミュラーを取り入れる未知の危険性に眉をひそめる。
 どうしても心配なのは後々の後遺症、本当に大丈夫なのかとか考えてしまう。けれど彼女の気持ちを考えた時、わざわざ許可を貰うメッセージを送ったのか少し理解出来た。

「仕方ないわね」

 そう呟くと返事を書いて送るのだった。

  

 それから暫く経った頃、キリエは処置が終わりベッドで横になっていた。
医師によれば負傷もそうだが、アミタと比べて筋肉や各部の器官に相当な衰弱が見られるらしい。
 きっとこれが限界を超えたオーバーブーストの影響なのだろう。でも元々強化されていたことと、負傷後に補給したナノマシンの効果もあって少し休めば動けるらしい。
 だけど、すぐには治せそうにない傷があった。父さんの病気のことだけじゃなくて母さんの病気だってことを…

「………」

 何度目かわからないため息をついた時、

「お邪魔します」

 そう言ってアミタが入ってきた。

「キリエ…大丈夫ですか?」

 ここに追いかけてくるだけでも相当な無理をしている筈、そこに私に打たれ、イリスに叩きのめされたというのにまだ心配してくれる。それが嬉しくて瞼が熱くなる。

「お姉ちゃん…ごめんなさい。もっとお姉ちゃんの言うこともっと聞いておけばよかった…。この星のみんなに酷い迷惑をかけて、どんな風に償ったらいいか…」
「わたしももっとちゃんと伝えるべきでした。私の責任でもあるんです。」
「でも…」
「だけどねキリエ、私は何も諦めてなんかいないんですよ。父さんのことも、母さんのことも…故郷のことだって…父さんと母さんが元気になって、みんなの夢、エルトリアをもう1度蘇らせること。父さんと母さんに見て貰うんです。昔私達に話してくれたように…花いっぱいのエルトリアを…」

 アミタの顔を見る。彼女は全部を知っていても何も諦めていなかったのだ。      

「失敗は取り戻せば良い、自分を責めすぎても出来ることが減っていくだけです。被害を食い止めてユーリを止めてイリスに話を聞く…空を見上げれば背筋も伸びます。ほら、ちゃんとして。」

 笑顔で頷くアミタにキリエは涙を拭って笑みを浮かべた。

「…さっきから気になってるんですが…あれは何ですか? それに、この香り…」

 病室の隅に置かれたものを指さす。ベッドより少し小さい位の箱状のもので、病室に戻ってきた後でスタッフが持って来た、

「『足りないなら遠慮無く言って下さい』って言ってたけど…何かしら?」

 アミタが箱に近づく。キリエもベッドから降りて彼女の横に行く。
 スライド式に開けるとそこには、6段に横区切りされた棚がありその上には色んな料理が並んでいた。開けた途端部屋の中を漂う美味しそうな香りにお腹が鳴る。

「こっちに来てから携帯食しか食べてない…」
「そうですね。私もお腹がペコペコです。折角のご厚意、頂きましょう♪」

 傷の治療にも体力回復にも対価が伴う。それは食料という形で供給されるのだけれど…

「キリエ、これさっき食べましたがとても美味しいですよ。」
「ありがとうお姉ちゃん、あっじゃあこれを…」

 和気藹々と話しながら食べる2人。でも料理が消えていくスピードは半端なく…

「キリエさん、お加減は…」
「……ふぇ~…」

 すずかとアリサと話した後で寄ったフェイトとなのははその様子に驚き

「「お邪魔しました~」」

 小声で言うと早々に立ち去った。
 そして2人ははやてから通信があるまで猛然と食べまくり、後に医局から届いた請求書を見てレティが呆れるのだけれどそれはまた別の話。

~コメント~
 今話はフェイトとキリエ主点の話です。
 フェイトはなのはと歩く為、キリエはアミタと歩く為に何をすればいいかをかんがえる回でした。
 アリシアからバルディッシュを借りて守られたことでフェイトの負傷は軽くなっていて、なのはもヴィヴィオとの共闘で負担は減っています。
 少しずつ2人の影響で本来の事件からずれてきているので、その辺も楽しんで頂ければと思います。
 
 Detonationと台詞や言い回しが少し違っているのはご容赦を(メモをしていたのですが、全部書き切れませんでした。)
 

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