第27話「ヴィヴィオの帰還」

「レヴィ、みんな逃げてっ!!」

 アリシアが叫ぶ。突然現れた男に指揮船の管制室でも動揺が走った。
 只でさえユーリとの激戦が終えて魔力が消耗した状態のレヴィ達の前に現れた彼は未知数。
しかしアリシアの声が届く前に男はとんでもない速度で4人に迫る。それにレヴィやディアーチェ、ユーリは反応が出来ていない。
 唯一シュテルが身構える。  

「シールド?」

 シュテル達と男の動きが止まった。
 切られると思ったシュテルの前にシールドが現れ男の攻撃を防いでいたのだ。

「フォートレス?」

 局員の誰かが呟く。しかしフォートレスを持っているなのはとはやてはオールストン・シーで警戒任務についている。
「ううん、あれはっ! アイギスっ!!」

 アリシアはそのシールドを知っていた。
 驚きと笑みが混ざった顔で言う。それはヴィヴィオのイージスシールド。

「ハァアアアアッ!」

 直後声と共に現れたのはヴィヴィオ、直上に現れ彼に向かって上段から虹色の刃を振り下ろす。
 彼は避けると海水が爆発し割れて海底が見えた。刃の威力が桁違いに上がっている。

「ヴィヴィオっ!」

 異世界に行っていたヴィヴィオが戻って来たのだ。



「シュテルさん、レヴィさん、ディアーチェさん、ユーリさん。色々ありがとうございました。」

 時間軸の異なる管理局本局、その中で4人が暮らす居住区を大人ヴィヴィオは訪れていた。ヴィヴィオの特訓を終えて戻って来たのだ。
 既に向こう側では事件は一先ず解決しているのだけれど、数時間前に彼女はここから帰っていったばかり。勿論彼女やアリシアを含めヴィヴィオ自身も事件の顛末は知らない。知ればこちらにも影響しかねないからあえて情報を止めており、終わったという事しか知らない。
 こういうのが時空転移魔法の複雑なところだ。それはさておき、戻って来たシュテル達はリビングで寛いでいた。

「私達もいい経験になりました。後でなのはとヴィータにも礼を言って下さい。私達の任務を全部代わって受けてくれたのです。フェイトとティアナも管理している無人惑星の中からセンサーが止められているあの惑星を探して申請してくれました。」
「不本意だがはやてにもだな…。訓練中の衣食住の手配はヤツがしていた。我の予定メニューを全部予測しおって…全く」
「ユーノ司書長にもお願いしますね。私の調査依頼を全部対応してくれました。」

 3人からそれぞれ家族と友人の名前が出てくる。
 思っていた以上に方々へ迷惑をかけていたらしい…。お礼の品は後で財布と相談しようと考える。

「それで…どうでした?」

 1番聞きたかったのは特訓の成果、もう1人の私がどうなったかである。

「既にしっかりとした素地はありました。あちらのなのは達が教えたのでしょう。まだ付け焼き刃で危ないところもありますが後は彼女とRHd次第ですね。」
「貴様達が修理したあのデバイスは化け物だな。あの年で振り回されなかっただけでも十分だ。」
「エグザミアが目覚めた状態でのアンブレイカブルダークを相手にするにはまだ心許ないが、そこは向こうの我等との協力するしかなかろう。」
「そんなのが来れば私達でも無理です…」
「クスッ、私達でも難しいですね」

 私の苦笑いにシュテルが笑う。
 アンブレイカブルダーク状態のユーリの攻撃を受けただけでも酷いダメージあったのに、エグザミアが目覚めた状態で相手なんて…ハハハと笑うが頬が引きつっていた。

「アハハハ、ヴィヴィオなら大丈夫ですよ。もうあの時の私でも敵わないですね。きっとあっちのみんなとも仲良くなっていますよ。」
「そうですね。この様に周りが見えなくなっていなければ大丈夫でしょう。」

 笑顔のヴィヴィオ達4人が何も言わない彼女を見る。

「モグモグ…ん? なにふぁいっら?(何か言った?)」

 レヴィは私達の会話に入らず持って来たホールケーキを頬張っていた。
 甘い物好きで特訓の後だからと彼女には3人とは別にケーキを持ってきた。勿論管理外世界に居る家族の特製ケーキだ。母さん達から先に「レヴィが大好きだから」と聞いておいて良かったと思う。
 財布の中身に多少のダメージはあったけれど…。

「クスッ、仲良しなのはいいことですって話ですよ~♪」
「そうですね。」

 そんな時   
 
【PiPi…】

 端末が鳴る。アリシアからだ。

「は~い、ヴィヴィオです。」
『うん、今日レヴィさん達の所に行くって聞いてたから』
「今来てるよ。」
「ええ、皆揃っています。」

 ソファーの隣に座っていたシュテルが端末を覗き込む。

『良かった♪ 私もバルディッシュの修理終わって片付けたところだったんで、次の計画について協力して貰おうと思いまして。特にユーリさんとヴィヴィオには今からでも。後でシュテルさん、レヴィさん、ディアーチェさんも引き続きお手伝いお願いしますね。』
「今から?」
「私とヴィヴィオということは…また無限書庫で調査ですか?」
               
 ウィンドウがクルッと動いてユーリの前で止まる。 

「流石ユーリさん♪ 話が早いです。」
「待て待て、これ以上は流石に我等も動けぬぞ。只でさえ皆に無理を言っているのだ。」
「途中で教導任務から外れてしまいました。」

 急遽3日も空けてしまったのだ。ここから更に動くのは難しい   

『ユーリさんとヴィヴィオの調査結果が出次第、休暇申請を出して下さい。そうしたら何も言われずに許可が下りる筈なので、私達も含めてね♪ ヴィヴィオのは私と一緒に教会騎士団に出しますし、ユーリさんの分はユーノさんに既にお願いしています。』
「「「「「ハァッ!?」」」」」

 ヴィヴィオを含む全員が聞き返す。
 ヴィヴィオとアリシアは兎も角、シュテル・レヴィ・ディアーチェはベテランの教導官でユーリも無限書庫司書長の1人だ。そんな簡単に休暇なんて取れる訳がない。4人…アリシアを含めて6人まとめてって…。
 シュテルやディアーチェも判っているのか渋い顔をする。

『まだ調整中なんですけど、聖王教会から遺跡調査と研究所でデバイスのテストをして貰うって話になっていて名目上は休暇扱いにしています。母さんとカリムさんの許可は取っていて明日あたりにはやてさんを通して本局の上の方に話が行く手筈になっています。さっきはやてさんに話したら「最優先で処理させるから任せとき!」って言ってました。』

 プレシアだけでなく聖王教会やミッドチルダ地上本部司令のはやても巻き込んだらしい。

「貴様…何を考えている?」
『こっちもまだ調べ始めたばっかりなんですけど…』

 そう言って彼女は計画を話始めた。
 それは私を含めて4人も呆れかえる計画で…

「…どうやら狸娘の名ははやてから彼女に継がれた様ですね。」

 シュテルはため息をつきながら溢すのだった。
 ただ彼女の本気度も伝わってきて、ユーリとヴィヴィオは早速無限書庫へと向かった。 

          

 一方、戻って来たヴィヴィオはいきなり戦闘に飛び込んできた。

「ヴィヴィオ!?」

 驚くシュテル達に構わずフィルの前に入る。しかし

「フッ」

 笑みを浮かべた後、鋭い回し蹴りがヴィヴィオを襲った。

「っ!」

 ヴィヴィオとすぐ後ろに居たシュテルが巻き込まれ一緒に蹴り落とされ水柱が立ち上る。
 次の標的になったのはレヴィだった。息つく間もなくレヴィの目の前に現れたフィル

「…!」

 ユーリを庇う様に抱きしめる。しかしそこに再びヴィヴィオが現れた。横から飛び込んで。

「紫電…一閃っ!」

 不安定な体制で虹色の刃で横薙ぎにしようとする。

「!!」

 それを見て彼の顔から一瞬余裕が消えた。

「レヴィ、ディアーチェっ!逃げてっ!」

 叫びながら彼のからレヴィへの攻撃をアイギスで止めるが今度は持っていた剣を振り回されレヴィとユーリ、3人まとめて何度か海面に叩き付けられた後橋脚にめり込んだ。

「このっ!!」

 残ったディアーチェは状況が読めないながらも攻撃をしかける。しかし彼はそれを軽く避けて剣を振り下ろす。
 しかし2人の間が虹色に光ったの同時にまたもやヴィヴィオが現れ弾いた。

「お前はっ!」
「ディアーチェ、逃げてっ!」

 先程のヴィヴィオを見るが彼女はレヴィとユーリと一緒に叩き付けられてまだ起き上がっていない。

「何だそれはっ!」
「ガッ!!」

 苛ついた彼は回し蹴りをまともに受けてそのままディアーチェと共に埠頭に飛ばされた。

「…まぁいい、この子連れて行くよ。トラブル続きだがなに…最後に笑えばいいのさ」

 そういうとそのままレヴィと共に倒れていたユーリだけを抱きかかえると飛んでその場から消えてしまった。



「ヴィヴィオが3人?…ちょっと!! ヴィヴィオ、聞こえてたら返事して!!」

 アリシアは慌ててペンダントを掴み通信を試みた。
 何が起きているのかわからずモニタを凝視していると、通信が入った。

『アリシア聞こえる? ユーリの追跡をお願い、さっきセンサーを付けたから管理局のサーチャーで見つけられる筈だよ。』

 ヴィヴィオから直接通信ではなくリンディから貰った腕輪型デバイスから通信があった。局員がサーチャーを確認するとヴィヴィオ達の居た場所から東京へと動く光が見えた。なのはとフェイト、はやてに追跡指示が出る。

「ヴィヴィオ? 今の何? みんな大丈夫なの?」
『それは後で、今あっちの私達からのお土産送るね。中にメッセージが入ってるから読んで。この事件はユーリとイリスが鍵だから。私は今からレヴィとシュテルをディアーチェの所に連れていくから救護班をお願い。あと私が居ない間に何があったか教えて。』
「う、うん。」

 その時虹色の光が現れ中からバルディッシュが落ちてきた。
 床に落ちる前にキャッチする。起動してメッセージを開くとびっしりと書かれたテキストが入っている。

「ヴィヴィオは大丈夫なの?」
『騎士甲冑が少し壊れちゃった位、痛かったけど平気。さっきの…誰だかわかんないけどすっごく強くてびっくりしたよ。』
「びっくりって…いきなり分身して出てきたから私の方がびっくりの連続だったんだけど!それは置いておいてシャマルさんと救護班がそっちに向かってる。ユーリはフェイトとなのは、はやてが追いかけてる。」

 近くの局員からメッセージを受け取って見ながら答えた。

『わかった。見た通りそこは変わらなかったね。じゃあ私はシュテル達と一緒にユーリを助ける作戦立てる。何かあったら呼んで。大丈夫、次が3回目だから…全力で助けにいくよ!』

 見た通り? 何を見たの?

「えっ! ちょっとまって!」

 聞く前に通信が切れた。

「見た通り? 3回目?」

 どういう意味? 首を傾げながらも指揮船の中でヴィヴィオ達のいる埠頭の映像を見つめていた。       
    


「シュテル、レヴィ、ディアーチェ、大丈夫?」

 シュテルとレヴィを埠頭に運びそこに居たディアーチェと合流する。

「まだ目がぐるんぐるん回ってるけど…なんとか…」
「助かりました。庇って貰えなければどうなっていたか…」
「ああ…あやつはユーリは知っていたようだし我等も見覚えはあるのだが…思い出せん。何者だあれは?」

 レヴィと一緒に横蹴りされて飛ばされた時、海面に何度も叩き付けられながらだったから目を回したらしい。3人とも無事でホッとする。

「わかんない…ユーリはなのは達が追いかけてる。それより3人ともまだ戦える?」
「すまぬ…ユーリのフォーミュラーを焼き切るのに殆どの魔力を使ってしまった。」 
「…すみません、私も多くの魔力を使ってしまいました。もう一度フォーミュラーを…ユーリを縛っているプログラムを壊す程の魔法が使えるかどうか…。」
「ボクも…少し休めば出来るけど…時間ないよね。」

 ユーリを縛っているフォーミュラーを壊せば助けられる。

(連続攻撃でユーリを操ってる力が壊れるなら…シュテル達の作戦でいける!)

 ヴィヴィオは頷いた。

~コメント~
ヴィヴィオのアイギス-イージスシールドと言うのは短編集AS49話「女神の盾」で登場した装備部からヴィヴィオがテスト運用依頼された近接用ベルカ式のシールドユニットです。
ヴィヴィオが使うのはオリジナル設定になっていますが、以前からなのはシリーズをご存知の方は名前に聞き覚えがあるかも有るかも知れません。
 Detonationではシュテル達が全員酷いダメージを受けてしまったシーンですがヴィヴィオの参戦によって未来は少しずつ変わっていきます。

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