第04話「私の可能性VerV」

「人気者は大変だね~♪」

 ヴィヴィオは息を整え少し乱れた髪を直しながら自分の席にバッグを置いてアリシア達の所へ行く。

「ねぇ…最近また増えてない?」

 1番多かったのは映像が公開されて1週間位経った頃。私はジュエルシード事件の映像でアリシアに集まる生徒達を見ていたけれど私が演じたはやてさんの出番は多くても魔法も戦闘シーンも少なかったし、またアリシアがもみくちゃにされるのかなと思っていた。
…まさか闇の書と戦ってたところを管理局が公開してるとはその時は欠片も考えてなかった。
 結局その映像も相まって私に集まってくる子が増えた。そうはいっても皆Stヒルデ学院初等科の生徒、ストーカーとかそう言うのではなく「ごきげんよう」とか挨拶をしたり少しお話する位…それが10人程度であれば新しい友達が増えると喜んでするのだけれど1桁増えればそういう訳にもいかない。でも相手も挨拶やお話したくて来てくれてる訳でおざなりに挨拶するのも悪い。
 おかげで笑顔を作る事を覚えてしまった…

「そう? 私はあんまり変わってないけど?」

 何でも無いような親友の返事に彼女の精神的な強さが羨ましくなる。でも続いてコロナが言った言葉に私は現実に引き戻された。

「そろそろだからじゃない、新しい生徒会長を決めるの」
「「えっ!?」」

 Stヒルデ学院は聖王教会系列の学院で幼等科、初等科、中等科みたいに複数の学院が同じ地域に集まっている。なので祭事やイベントで生徒を代表する役として生徒会長を決めている。
 と言っても初等科の生徒会長だからそんなに責任ある役をする訳ではなく、入学式や卒業式、聖誕祭での生徒代表的なこと位だと思う。
 今まで生徒会長を選ぶということはしていないからどうやって決めているのか興味も無くて知らない…でも…人気投票とかで決めていたら…。

「後で先生に聞いてみよう…」
「そうだね…」

 オリヴィエを複製母体とする私が聖誕祭で生徒代表…カリムさんやシャッハさんが困った顔をするのは間違いない…はやてさんは笑ってそうだけど。
 親友と2人深く頷いた。


 そうこう話していると先生が入ってきて授業が始まる。
 最初の授業は魔導学。ミッドチルダ式やベルカ式の術式の組成を教わる。
 ミッドチルダ式と新生ベルカ式。使える魔法体系で覚える事も少し違ってくるけれど同じ魔法だから共通点もある。中等科に進めばそれぞれの術式を選択出来るらしい。
 この科目はアリシアが得意だ。私もそれなりには勉強しているけれど半分感覚で魔法を作ってしまうので実際覚えたものが何かの役に立つというのはあまりない。
 以前先生に聞いたけれど古代ベルカ式を使う生徒は初等科では私だけで中等部に1~2人いる位だそうだ。
 その話を思い出して1人は思い当たるけれどもう1人って誰なんだろう? と少し気になった。


 午前の授業が終われば楽しみなお昼休憩。
 最近私が色々料理に挑戦するのでママも凝ってきて何が入っているか楽しみだったりする。
 お弁当箱を開けるとサンドイッチとサラダだった。色々な具が挟んである。
 1口食べる。美味しくて自然と笑みを浮かんだ。

「へぇ~ツナサンド、珍しいね。」

 アリシアが見て言う。彼女が知っているということは日本の料理らしい。

「うん、ママの手作り。」
「ヴィヴィオ、私のと交換しない?」
「いいよ♪」
「私もいい?」
「わたしも~♪」

 アリシアとリオとコロナと私は真ん中にお弁当箱を集めてそれぞれ食べあった。サンドイッチの具が4つずつ違うものになっていたのはママもこうなるって予想していたみたい。
 そんな最中

「し、失礼しますっ! テスタロッサさんは…」
「アリシア~」

 廊下に近い席で食べていたクラスメイトがアリシアを呼んだ。

「今日は私か…私の分残しておいてね。は~い♪ 君は…」

 席から立ち上がって廊下に出て行った。

「ヴィヴィオもそうだけど、アリシアも人気凄いよね」
「面倒見も良いよね~、私だったら2~3日したら無視するか何処かに隠れるよ。」
「その気持ちもわからなくはないんだけど、他の教室に行くのって少し緊張するでしょ、下級生が上級生のクラスに行くのなんて凄く勇気が要ると思うの。朝みたいにいっぱい来られたら大変だけど毎日1人か2人位なら…ね♪」
「そう考えられるのは凄いよね~」

 そんな事を話していると、アリシアと話していた少女はペコリと頭を下げて走って行った。  (私もアリシアに言われて気づいたんだけどね~)
 私は自分の事しか考えられなかったのに、彼女がそこまで考えていたのに驚きながらも彼女の優しさを感じた。



 私とアリシアは残っていたお弁当を食べて職員室へと向かった。
 朝聞いた「生徒会長をどうやって選ぶのか?」を教えて貰うためだ。
 担任の先生から生徒会を担当する先生を聞いて教わる。

「ありがとうございます。確認していいですか、立候補は受け付けるけれど居ない場合は全員で誰が良いかを選ぶんじゃなくて今の生徒会が候補者から推薦して選ぶんですね。」 
     
 先生が頷くのを見てホッと息をつく。誰が良いかを全員で決める訳ではないらしい。
 私が自分で立候補しない限り生徒会長にはならなくていい。ここ数年間色んな事件に巻き込まれ過ぎていたから今度も…という気がしていた。

「高町さんが生徒会に入りたいのでしたら立候補してくださいね。」
「は、はい。考えさせて下さい。」 

 先生にニコッと笑って言われる。どうやら顔に出ていた様だ。

「? 先生、私は?」
「テスタロッサさんはもう候補者の1人ですよ。」
「えっ!? うそっ!」
「嘘ではありませんよ。学院祭の実行委員は生徒会の候補者です。2年前の生徒会長は前年の学院祭実行委員です。催しを通して学院運営を経験した生徒として含まれます。それと…言葉使い気をつけて下さい。」
「すみません。気をつけます。辞退は…出来ませんか?」
「今まで辞退した生徒はいません。転校や病気や怪我、管理局・聖王教会の依頼で長期登校出来なくなった時は生徒会内で交替します。人数が多ければ候補になった生徒が途中から参加します」

 学院祭を楽しみたいと実行委員になったのが仇となっていた。
 祭事での経験という意味で生徒会の活動の1部を経験した生徒は選ばれる側になる…なるほどと納得する。

「アリシア、その時はその時じゃない?」

 私は彼女を宥めることしか出来ず、彼女と一緒に職員室を出た。


「アリシア…どうするの?」
「う~ん、まだ時間あるし考えてみる。選ばれるって決まった訳じゃないし。」

 流石に気落ちした彼女に聞く。突然自分の頭をポカポカと叩くのに少し驚く。かなり混乱しているらしい。

「どうしたの? 大丈夫?」
「平気、お昼休みもまだあるし教室に…」
【PiPiPi…】

 彼女が言いかけた時、胸元から音が鳴った。         

「バルディッシュ?」
「はい、どちらさまですか?」
【アリシア、ちょっとぶりや♪】
「「はやてさんっ!?」」

 現れたウィンドウにはやてさんが手を振って笑っていた。



「お待たせしました。ヴィヴィオも居ますよ、代わります?」
『ちゃうちゃう、今日はアリシアに用があるんよ。チンクからナンバーを教えて貰った。』

 彼女なら私のデバイス-RHdの連絡先も知っているし、緊急コール用のナンバーも知っている。
 私への用事ではないけれどアリシアに何かあるのだろうか?

『教室に戻ってるから後で聞いた方がいい?』とジェスチャーを送ると『一緒に来て』と返事があったので屋上に来た。寒いけどここなら話していても誰も聞いていない。 
「別にいいですけど…私に?」    
  
 はやてさんの話は魔力コアについて管理局のこれからの方針についてだった。
 なのはママやヴィータさん達、戦技教導隊の試験も終わりフェイトママやクロノさん達のデバイスにも魔力コアの配備は進んでいる。併行して専用デバイスの開発も動いていてアリシアや撮影でなのはママを演じた子のデバイスはそ2人とも魔力資質が弱かったから魔力コアを組み込んだ試験機になっている。
 既に魔力資質がある者についてはこれまで通り、魔力コア付きの既存デバイスを使えば良いけれど魔力資質が無い者の場合は募集をする前にリンカーコア以外をどういう風にテストして集めるのかを先に決めなくちゃいけない。
そもそも決めるデータもまだ集めている最中だろう。
 何故なら管理局の前線やデバイスを使う部署には魔力資質が強い者しか居ないからだ。

『今まで魔法が使えなかった子が使える様になると新しい発想も生まれてくる。とりあえずは魔導理論―新しい魔法を研究を発表する大会と魔導行使―実際に魔法を使って競う大会を予定してる。』
「はぁ…それが私に関係が?」
『ん~? まだわからん? その大会にアリシアも参加したら面白いやろ♪』
「「ハァッ!?」」

 私は思わずアリシアと一緒に聞き返した。

「どうして私なんですかっ! ヴィータさんとシグナムさんに教わって少しは魔法を使えますけど…その程度ですよ? 私よりヴィヴィオの方がずっと凄いです。」

 アリシアが言うとはやてさんは困り顔で頬をポリポリと掻きながら

『ヴィヴィオの方が凄いのは私も知ってるよ。もう私よりも強いし模擬戦をしたらシグナムやヴィータ、なのはちゃん、フェイトちゃんとも良い勝負すると思う。そうやね…ヴィヴィオもなのはちゃんと模擬戦…模範戦みたいなのをしてくれたら面白いな。ヴィヴィオのデバイスも魔力コアとはちゃうけど似た機能持ってるし…』
  
 はやてさんが自分より強いと言って驚くアリシアに苦笑いして頷く。
 はやてさんの持っている総合SSランクは魔力量と使える魔法の多さに秀でた魔導師のランクであってその魔法が戦技魔法とは限らない。
 私やなのはママの持っている空戦ランクは空中戦での戦技魔法・技術・能力から評価されたランク、ランクレベルで下でも模擬戦や実戦になればその差は大きい。

『そんなエースオブエースと互角に戦える子が大会に出たらどうなると思う? そもそもこの大会は魔力資質が弱い子でも優秀やって知って欲しいって目的があるから、ロストロギアクラスのデバイスを持った王様なんか入られたら企画が終わってしまう。そうやろ?』

 アリシアが頷く。この大会の目的だと私には参加資格がない。

『でもアリシアは違う、寧ろアリシアみたいに魔法資質が弱くてもプログラムが得意な子、運動が得意な子を集めていきたいんよ。』
「でも…」
『アリシアに宣伝役になって欲しいんよ。ジュエルシード事件と闇の書事件の映像は今でも凄い人気ある。なのは役の子にも声をかけたけど、あっちは大会の宣伝なら受けるけど実戦はダメって言われてな…。』

 確かに彼女もアリシアと一緒にヴィータさん達に教わって魔法を覚えているし魔力コア専用デバイスも持っている。そして撮影にも参加していたけれど、管理局や聖王教会系ではない民間人。
 そんな彼女に試合に出て欲しいだろうけど、彼女のお仕事的にしないだろう。
 はやてさんのきっぱりと断られない様に畳み掛けられてアリシアも彼女の話に乗せられている。

「………」
『アインハルトとミウラ…この前会わせた子も出る予定やし、主要世界の武術系の道場にも声をかける予定や。本局と各地上本部の広報も動くし聖王教会も協力してくれる。』 
「アインハルトさんとミウラさんも?」
(はやてさんの話でアリシア迷ってる。…でも…これって…)

 始まった時期とか内容は少し違うけれど、似た物を私は知っていた。

(これって…ストライクアーツ?)

 異世界の私やアインハルトさん、リオ、コロナ、ミウラさん達がしていたスポーツ格闘技…
 ストライクアーツを知ってこっちに戻って来てから調べたけれど、ここにはストライクアーツそのものが無かった。
 何かが違って競技そのものが生まれなかったのだろうか?

(アインハルトさんとミウラさんも出るんだ…ちょっと羨ましいな)

 昔ならどうかわかんないけど、今の私じゃ多分相当魔力や力を抑えないと出られない。そういう意味では一緒に競えるアリシアが少し羨ましくなった。  

「…私だけじゃ決められないから、今夜ママに相談します。返事はそれからでいいですか?」
『うん、ありがとうな。詳しく知りたいって言ったら説明に行くから遠慮無く言って。』
「もう、あっちもこっちも…」

 通信が切れた後、アリシアはため息をつきながら言う。

「アリシア、私…はやてさんの話が気になるんだけど…あれって」
「わっ! もうこんな時間。着替えなくちゃ!」

 時間を見て次の授業まで10分しかないのに気づいて慌てて教室へと向かった。

~コメント~
 すごく遅くなってしまいました。すみません。
 以降もですが巷の病気が落ち着くまで更新が相当滞ります。
 春のコミックマーケットですがスペースを頂く事ができました。
(昨年夏コミ以降色々コミックマーケット準備会様にはご迷惑おかけしているので本当ありがとうございます。)
 本来なら次の話を進めていって文庫本として出したいところだったのですが、こちらも見送る形となります。
 静奈君が何か動いている様なのでお楽しみにしてください。

 今話は3話のアリシア視点話のヴィヴィオバージョンになります。
 ASシリーズのアリシアとヴィヴィオの違いって妹の存在もあるのかな?というところから下級生に向けた視線の違い等を書いてみました。
 

~新型コロナについて~
 昨日からようやくマスクの転売禁止が法令になって緩やかに普及していくと思います(ただ、毎日消費する物なので生産>需要になるのが何時になるか…製造者さん頑張って!)
 イベントが中止になったり、色々経済的に窮屈になって日々厳しいと思います。春なので何か息抜きに出来るものを探したり気分転換するのも良いですね。


 
 

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