第20話「鎹の役割」

「…ん? ここは?」

 私が目覚めるとそこはベッドの上だった。
 朝からぼんやりして熱っぽかったからベッドで本の続きを読もうとして…その後は…覚えてない。見慣れた部屋の筈なのに何処か違和感がある。

「?」

 ベッドから起き上がる、体が今朝と比べて軽い。熱っぽさもなくなっていた。
 熟睡して楽になったと思った時、ガチャッとドアが開く音が聞こえて

「あっ、起きたんだ。おはよヴィヴィオ。」
 私が入ってきた。


「私っ? えっ!? 何? 夢?」
「そうじゃなくて、私はあっちの世界のチェント。ヴィヴィオが倒れたって聞いて慌てて来たの。その様子じゃもう平気みたいだね。」

 彼女がここに居る理由はわかったけれど、なぜこっちに? それよりも

「そうなんだ~私が倒れた?」
「ちょっと待ってて、なのはさんとフェイトさん呼んでくるから。」

 そう言うと部屋を出ていった。見送ってからベッドを下りようとした時階段を駆け上がる音が聞こえて

「「「ヴィヴィオっ!!」」」

 ドアが壁にぶつかる程の音を立ててなのはとフェイト、アリシアが駆け込んできた。

(ママ? アリシア?)

 何故アリシアが? それよりもどうしてみんなこんなにと思う間もなくなのはが思いっきり抱きついてきた。

「良かった…本当に…良かった。ごめんね、ヴィヴィオの為に来たのに私達が…」

 肩をふるわせて泣いている。

「ママ…、ごめんね。もう大丈夫だから…それより、苦しいよ~」
「あっごめん」

 そう言うと涙をぬぐいながら離れた。

「もう大丈夫…じゃないでしょ、倒れたって聞いてみんな凄く心配したんだよ。」

 全くもうっといった顔で言うアリシア

「ちょっと熱が出ただけで大袈裟だよ。もう元気♪ でも何か変な感じがする。」

 確かにベッドで眠った記憶は無いけれどそこまで大事にしなくてもと思って答えるが、それを聞いてなのはとフェイト、アリシア、チェントは全員神妙な顔つきで頷いた。

「当たり前よ。ここ、ブレイブデュエルの世界なんだから。」

 ブレイブデュエル…ブレイブデュエルって…

「ぶれいぶでゅえるっ!?」

感じた違和感の原因がわかる前に何故ここに居るのか判らず思いっきり叫んでしまった。



「本当にヴィヴィオに話さなくていいの?」

 ヴィヴィオが目覚める少し前、高町家のリビングでアリシアはなのはとフェイトに聞いた。ヴィヴィオ以外の者が初めて悠久の書を使うのに不安もあったけれど間違わずに来られた。八神堂やグランツ研究所・T&Hだと騒ぎが大きくなって彼女を休ませられない。そう考えてアリシアは翠屋に行って士郎と桃子に事情を話し、ここのなのはには桃子から電話して貰って高町家の鍵を借りてヴィヴィオをなのはの部屋のベッドで寝かせた。
 事情が事情だけになのはにも話さないようにお願いしてある。
 苦しそうな様子だったヴィヴィオはこっちに来るなり楽になったのか規則正しい寝息が聞こえてきて全員はホッと息をついた。
 そして今、チェントにヴィヴィオを見て貰ってる間に3人で状況確認をしていた。
 ヴィヴィオのリンカーコアは治っているけれど聖王の力を使って自身の魔力を無効化し続けている。ここに来た直後から彼女が苦しまなくなった事でプレシアの仮説が証明されてしまった。この世界には魔力が無いから無効化する対象が存在しない。無効化させる必要も無くなるから聖王の力を使わなくてよくなったのだろうと。
 しかし逆に言えば問題が解決しない限りこの世界から出られない。出れば数日で彼女は倒れてしまう。アリシアはヴィヴィオが目覚めたら何が起きたのかを全部話した方がいいと考えた。彼女自身が無意識にしているなら意識させて魔法を使わせるか聖王の力を使わないようにするしかない。しかしなのはとフェイトは首を縦に振らなかった。

「無意識に止めているなら言った方がもっと意識しちゃうんじゃないかな…」
「私のせいで心配かけたって思って余計に何とかしようとして頑張ると思う、ヴィヴィオそういうところなのはとそっくりだから…でも心の問題だから頑張っても空回りする。」
「それじゃあどうするの?このままここにずっと居る訳にもいかないんだよ。」
「うん…」
「それも…わかってる。姉さん、言わなきゃいけない時は私達が言うよ。それまでヴィヴィオ…誰にも話さないで。」 
「判った…でも、そんなに時間が無いのも忘れないで。」

 幾らアリシアが言ってもヴィヴィオの家族はなのは達、2人がそういうならと食い下がらずに引いた。その時ドアを開けてチェントが顔を出した。

「ヴィヴィオ、起きたよ。」



「どうしてブレイブデュエルの世界に来たの?」

 どうも寝ている間に元世界のなのはの部屋からブレイブデュエルのなのはの部屋に移動したらしい。気づかなかった私自身にも驚いたけれどそれ以上に何故ここに来たのかが判らない。

「それは…」
「…えっと」

 なのはとフェイトが困った顔をした後互いの顔を見る。

「ヴィヴィオの治療にここが1番からでしょ。」

 ハァーっとため息をついたあとアリシアが言った。

「あっちの海鳴市に居ても魔法は使えちゃう。でもここはブレイブデュエルの中以外は魔法使えない。あっちの私達がRHdを修理するのに来てくれたからチェントに頼んでヴィヴィオを連れてきたの。事件が終わったら話すってここのみんなと約束してたでしょ。」

 言われて思い出す。あの時はチェントから大人の私とアリシアが危ないと聞かされて、理由も話せずに元世界に戻ってしまった。事件が終わった後、魔法が使えなくなってRHdがメンテナンス中になって魔力が戻ったら来るつもりだった。

「忘れてた?」
「ううん、急だったからびっくりしちゃって」
「だったら作戦成功♪ 丁度ヴィヴィオが寝てる間に行っちゃえって。そうだ、フェイトから調子悪いって聞いたけど…」
「もう平気、いっぱい寝たから。」
「じゃあ着替えて研究所に行こう。博士やみんなに話さなきゃ。…でもその前に着替えてきたら?」

 ブレイブデュエルでいっぱい迷惑かけたのはグランツ博士とシュテルやアミタ達だ。

「あっ! ママ、私のバッグはどこ?」
「「……あっ!」」

 どうやら2人とも忘れていたらしい。

「私の服で良ければ…」

 結局私はオズオズと手をあげたチェントの服を借りて着替える為、もう一度部屋に戻った。



「…あれでいい?」

 2人が部屋を出て階段を上がっていく音を聞きながら私はため息をついて2人を見る。

「ありがとう、姉さん」
「急だったから何て言えばいいか判らなくなっちゃった。」  
「これで少しは持つと思うよ。ヴィヴィオが着替え終わったら私は一緒にグランツ研究所に行ってくる。あの部屋に近づけさせないようにしないといけないし、レヴィとシュテルがデュエルを挑んでくると思うから博士だけでも理由を伝えなくちゃ…デュエルで何かあれば今夜話す。それでいい?」

 グランツ研究所の全員に話した方がいいと思うが、ヴィヴィオがいつ気づくか判らないから隠せる大人にだけは話した方がいいと考えた。

「うん、ありがとう。アリシア」
「私達もこっちの母さん達に…」
「隠すならまだ言わない方がいいよ。デュエルで何かあったりヴィヴィオが先に気づいちゃうかも知れない。それより…フェイト、先に八神堂に行ってきて。なのはさんも一緒に」
「八神堂?」
「どうして?」

 普段頭が回る2人もヴィヴィオの事で思考が止まったか空回りしているらしい。

(エースオブエースと敏腕執務官も娘の問題じゃこれか…)

 と深いため息をつきつつも家族の事になれば皆そうなるのかも知れない。死んだ娘を生き返らせる為に次元の狭間にある世界に行こうとした『家族』も居るのだから。

(ここは私がしっかりしなくちゃ!)

 何故一緒に行くように言ったのか判った気がした。

「心の問題…傷を治さなきゃ私達は帰れないんだよ? 長引けば私やチェントは消えちゃうかも知れない。でも私達じゃどうすればいいかわかんない、本で調べてとかしてるより詳しい人に相談しようよ。確かこっちのシャマルさんは医大生だった筈だから。はやてさんが一緒なら報告も出来るでしょ。こっちのママ達に言うのはその後。チェントは私達と一緒に行くとややこしくなるからフェイト達と一緒で。」
「「うん」」

 2人が頷いた少し後、再び階段を下りてくる音が聞こえて

「お待たせ~、グランツ研究所に行こう♪」
「みんながどれだけ強くなってるか楽しみだね♪」

 私は笑顔で頷きながら彼女に答えた。


~コメント~
「鎹(かすがい)」というのは「コ」の字型の釘みたいなもので木材建築で木同士を繋ぎ合わせたりずれるのを止める為の物です。
 3章ではヴィヴィオの事情を1番よく知っているアリシアが全員を繋いでいます。

 話は変わりましてリリカルマジカルに参加された皆様お疲れ様でした。
 AdventStoryは4巻も続いてしまい2巻と3巻の間が半年以上開いてしまったりと色々すみませんでした。
 そして…この度久しぶりに本文の入稿をしたのですが、大変なミスをしておりまして…

 イベント中に静奈さんからメッセージが届きました。
 私は仕事中でしたので見たのはイベント終了後で、内容はと言いますと
「後書き外したのページの都合?」

 ……静奈さんのあとがき思いっきり飛ばしてました。
(謝罪メッセージを送ったのですが応答はなく…青くなっていた次第です。)

冬コミ新刊を準備している方も多いと思いますが、最後に見直すのは大切です。



 

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