第22話「繋がる世界」

「ユーリ、こんにちは~」
「はーい、えっ!? ヴィヴィオっ!?」
「あーっ! ヴィヴィオだ、アリシアもいるっ!」

 グランツ研究所の前まで来るとユーリが花壇に水をあげているのを見つけて声をかけた。
 彼女の声に近くに居たのかレヴィと一緒に駆け寄ってきた。

「今日はもう1人のヴィヴィオは居ないんですか?」
「うん。こっちには来てるんだけど八神堂に行ってるよ。いきなり帰っちゃって何も話せなかったでしょ。だから」
「よし、じゃあデュエルしよっ! あれからいっぱい練習して強くなったんだ。もう負けないよ~っ!」
 元気いっぱいのレヴィを見ているとこっちまで元気になる気がする。
でもデュエルと聞いて思い出す。

「あっ! ホルダーとカートリッジ家に置いて来ちゃった…。アリシアは持って来た?」
「私も…忘れてた」

 着替えすら持ってくるのを忘れているのだし、そもそもここに来る予定は全く無かったからブレイブホルダーもデータカートリッジも部屋の机の中にしまってある。

「え~っ!! デュエルしに来たんじゃないので~っ!」
「だから前の話をしに来たんだって。博士やみんなは?」
「研究所に居ますよ。午後からのイベントの準備をしています。どうぞ~♪」

 そう言って研究所に入るユーリの後ろを追いかけた。



 それからヴィヴィオ達はグランツやシュテル、ディアーチェ、アミティエ、キリエと会いリビングで異世界であった事を話した。
 丁度八神堂になのはとフェイト、チェントが着いて居たらしくグランツ研究所と八神堂を繋いで貰った。

「…驚くよりも…想像が追いつかないね。」

 話を聞いた後全員が驚く中、グランツはそう言いながらコーヒーカップを手に取る。

「現実に魔法が使えれば素敵な世界になると思っていましたが、現実に魔法があるとその様な事もあるのですね…」

 ユーリが表情を曇らせる。

「博士、ブレイブデュエルを通した時間移動した技術…封印すべきだと思うが。時間軸や未来への干渉…我らでは扱えぬ。」
「そうですね。私達には過ぎた技術かも知れません。」
「そうだね。彼にもあれは封印すべきだと言っておこう。…どこまで止めてくれるか判らないがここに争いの火種を作りはしないだろう。ヴィヴィオ君、アリシア君わざわざ話に来てくれてありがとう。こちらの時間移動の技術は暫く封印するよ。もっと私達が成長するまで…」
「はい」

 前に来ていたもう1人のヴィヴィオ、彼女はブレイブデュエルの技術を使ってこの世界の未来から来ていた。ここには私とは違う時空転移のきっかけが眠っている。
 安易に使われない様にするには私達の話は意味があったらしい。

「話はわかりましたが、これからあなた達はどうするんです?」

 話題を変えようとシュテルが聞いてきた。

「うん…私その事件でちょっと怪我しちゃって…治るまでここに居ようかなって。」 
『『「「「「怪我っ!?」」」」』』

 全員が前のめりになる。画面向こうに居たはやてとリインフォースまで画面いっぱいに顔を近づけている

「酷いの? 痛いの?」
「何処を一体…?」

 口々に聞かれそうになって慌てて付け加える。

「怪我って言ってもそんな酷いものじゃくて、何日かゆっくりしてたら治るって聞いてるから心配しないで」

 そう言うと皆がホッと息をついた。

「ではブレイブデュエルで遊べるのですね。雪辱戦です、勝ち逃げは許しませんよ♪」

 シュテルの目がキラッと光る。しかし…

「それが…2人ともホルダーとカートリッジを置いて来ちゃったそうで…」
「ごめん、急に来ちゃったから」
「…勿体ない…一体何をしに来たのですか?」

 だから魔法が使えるようになるまで休む為に来たと言ったのだけれど…勝負に燃える彼女達には通じないのかと心の中で突っ込みを入れる。

「まぁ無い物を言っても仕方なかろう。そうだユーリ、確かシュテルとレヴィのテスト用ホルダーが余ってるのではないか?」

 ディアーチェがユーリに聞くと彼女は手をポンと叩いて

「はい、テスト用の予備があります。カードはバックアップがありますから組み合わせれば使えますね。」
「そんなの…いいの? 私たちが使っちゃって?」
「良いも悪いも前のを持っていないのだろう。わざわざ取りに帰って来いと言える距離でもない。所属はグランツ研究所になってしまうが、スタイルは前のホルダーに合わせられる。」
『八神堂もそれでええよ~♪ 何か聞かれたらテスト中って話せばええし』
「それじゃあプロトタイプのところに行きましょう。ちょっと癖が強いジャケットなので慣れてからデュエルした方がいいですね。」

 癖があるジャケットという言葉に引っかかりを覚えたが折角の好意を受ける事にした。ソファーから立ち上がってユーリの後を追いかける。

「ヴィヴィオ、先に行ってて。少し博士に相談があるから…」
「相談?」
「うん、ブレイブデュエルで使ってた剣で教えて貰いたいの。」
「わかった、じゃあ先に行ってるね。」

 そう言って私はリビングを出た。



「アリシア君、相談というのは?」

 ヴィヴィオ達が部屋から出て行ったのを見計らってグランツがアリシアに聞いてきた。通信を見るとリインフォースとはやても居て近くにシャマルの姿も見えた。

「私からじゃなくて…なのはさんからお願いします。」
『わかった…私達がここに来たのはさっきヴィヴィオが言っていた怪我が原因なんです。』

 なのはが言葉を選びながら話し出す。アリシアはそれに付け加えずに黙って聞いた。
 ヴィヴィオの魔力と彼女が生まれ持つ資質のこと、
 今彼女の中ではそれがぶつかり合っていて魔法が全く使えない状態になっていてその影響で元の世界で倒れてしまったこと、
 その原因がヴィヴィオが話した異世界でなのはとフェイトを倒した為に起きた心理的なものだと思われること…
 そしてそれらはヴィヴィオに伝えていないこと

「成る程、ここには【魔力】というものが存在しない。治るまでの時間を過ごすには最適だろう。しかし…」

 そう言うとポケットから携帯を取り出してボタンを数度押す

「ユーリ、アリシア君との話少しだけ長くなりそうなんだ。悪いけどそれまでヴィヴィオ君にはブレイブデュエルに入らず待っている様に頼めるかい? ホルダーの調整は始めてくれていいよ」
『わかりました』   

 その返事を聞いて携帯をポケットに戻した。

「今の話だとスカイデュエルにも影響が出ないとも限らないからね。なのはさん、フェイトさんは解決方法をご存知なのですか?」
『いえ、こちらでシャマルさんに相談しようかと考えていました。心の問題なので私達にもどうすればいいか…』
「そうですか…」

 少し目を瞑るグランツ。何を考えているのかとアリシアは彼の顔を覗き込む。

「私も心当たりのある専門家に相談してみます。ですが、私やシャマルさんは支援しか出来ません。お2人がどう向き合うかで全てが決まるのだと言うことだけは留め置いてください。」
『『はい…』』 

 画面向こうの2人の眼差しは厳しかった。

「アリシア君、僕達も行こうか。そろそろレヴィが…」

 通信を切って立ち上がった直後、足音が聞こえて

「博士~まだ~っ?」
「来る頃だったね。」

 予想通りの行動だったレヴィにクスッと笑い

「はい♪」

 アリシアも立ち上がった。



 一方八神堂では

「とりあえずグランツ博士とシャマルに今の話から良い対処法を調べて貰って、何かきっかけになる事が判ればするとして…これからどうします? ブレイブデュエルをするにしても3人ともブレイブホルダーとデータカートリッジ持ってないんですよね? うちにもT&Hの予備ホルダーとカートリッジはありますから使います?」

 はやてもシュテル同様に重くなった空気を払おう明るい声で話を変える。
 家族の問題だから立ち入らない方が良いとは思うが何も案が無い状態でむやみに動くのは返って危ない。なのはとフェイトの考えた通り専門家の話を聞いてからでも遅くはないと考えた。

「ブレイブデュエル?」
「ヴィヴィオちゃ…んとちゃう、チェントちゃんはブレイブデュエル初めてなん?」

 ヴィヴィオそっくりの少女、チェントが首を傾げる。

「はい…前に来たときは直ぐに戻ったから。あのカプセルに入るのですか?」
「そうだよ。ここは魔力が無くて魔法が使えなくて代わりにブレイブデュエルの中で持ってるカードの魔法が使えるの。」

 なのはが説明するがチェントは『カード?』と首を傾げている。

「話しててもわからんやろうし、リインフォース、チェントちゃんに遊び方教えてあげて。予備の…あったあった♪ なのはさん、フェイトさんのホルダーも頼むな。カードデータは八神堂にないので最初からになりますけど、要るカードあったら言って下さい。私の貸しますよ。」
「判りました、チェント、お2人もデュエルスペースへ」

 リインフォースが3人を連れて居間の階段を下りて行った。

「シャマル、何か判りそう?」

 リインフォースに3人を連れ出したのはシャマルが考えやすい様に遠ざける為でもあった。

「ヴィヴィオちゃんの心の問題ですからヴィヴィオちゃんが解決するしかないと思います。でも…どうすれば…というのは。ヴィヴィオちゃんに伝えていないのは正解かも知れません…意識してより悪化して取り返しがつかない事になる場合もあるから…」
「時間をかけたら治るっていうものでもないしな…」
「そうですね。はやてちゃん、今から大学に行ってきていいですか? 先生に相談してきます。」
「ええよ。店番してるから、頼むな♪」
 
 医大生の彼女でも躊躇するのが心の問題。
 シャマルが出て行った後で

「…でも、そんなに長い期間は引っ張れんやろうな…ヴィヴィオちゃんがいつ気づくか…」

 何かきっかけでもあればと思うはやてだった。



 八神家でそんな話がされているとは全く知らずにヴィヴィオはグランツ研究所のプロトタイプシミュレーターのある部屋に来ていた。

「これがテスト用のホルダー? 前のと同じに見えるんだけど?」

 ユーリから手渡されたブレイブホルダーを見ながら聞く。ブレイブホルダーのデザインはグランツ研究所スタイルだけれど描かれている魔方陣がヴィヴィオのがベルカ式でアリシアのがミッドチルダ式になっていた。

「見た目は殆ど同じですよ。ホルダーの中を見てください。そこに入っているカードがテスト用なんです。シュテルとレヴィの…って話すより見て貰った方がいいですね。カプセルの中に入ってください。」

 セットされたカードを取り出すとパーソナルカードと異世界のヴィヴィオとクリスが描かれたカード、紫電一閃とアクセルシューターのスキルカード、そして何も描かれていないカードが1枚。
 シュテルに促されてアリシアとそれぞれカプセルの中に入る。

「行きますよ~。ブレイブデュエルスタンバイっ」

 久しぶりの仮想空間へと飛び込んだ。



「ここは前のデュエルした…」

 ヴィヴィオは周りを見ながら呟く。浮遊島が幾つか見える。ここはシュテルとデュエルした場所らしい。

「ヴィヴィオ、変な感じはしない?」
「うん、平気。アリシアは?」
「特に何にも…」
『2人とも準備はいいですか? パーソナルカードの後でリライズしたカードを読ませて最後に白いカードを読み込ませてリライズしてください。』
 言われた通り2枚のカードを読み込ませた後真っ白なカードをブレイブホルダーに読み込ませる。

「いくよっ」
「カードリリース!」
「「ドライブ、リライズアーップ」」

 ホルダーから生まれた光の中、アバタージャケットが体を包み込む。

「…これって。セイクリッド? ママのエクシードモードとフォートレスに似てる…」

 胸のリボンは無く、金属状のパーツがある。ジャケットも前のセイクリッドより少しベルカ風になっている気がする。

「見てみて~♪、私のも凄いよ。ブレイズモードから更に進化したって感じこっちの方が動きやすそう」
「わぁ♪」

 アリシアのジャケットを見て思わず笑みが零れた

『ヴィヴィオのはセイクリッドのエクセリオンを、アリシアのもストライクのブレイズをそれぞれ改良したタイプです。テスト結果が良好でしたら他のジャケットも進めていく予定です。』
「そうなんだ、シュテル~これって変わったのジャケットデザインだけ? 凄く動きやすいんだけど?」

 アリシアが聞く。
 私もそうなのかなと思って腕を動かしたりジャンプするがあまり実感がない。

『君達のアバタージャケットはそれぞれの特化した能力を更に発揮出来る様になっているんだ。セイクリッドはより防御と砲撃能力が上昇し、ストライクはより機敏性と近接格闘戦に向けられる様になっている。』
「でも、それって強いジャケットを着れば更に強くなるって事だから…プレイヤー間で差が出ませんか? アリシアやフェイト、レヴィが更に速くなって、シュテルとなのは、私も防御力が上がって砲撃が強くなるんですよね?」

 着たアバタージャケットによって差が生まれるということ…

『はい、ですからリライズから更なるリライズしないと使えないジャケットになります。』
「?」

 シュテルの説明にいまいちよく判らず首を傾げる。でもアリシアは手をポンと叩いて言った。

「あっ! ジャケット着るのにカードを使うから、持てるカードが減るんだ!」
『そうです。ジャケットにもそれぞれ備わっているスキルがありますが、元のジャケットで使えたスキルは使えなくなります。ホルダーにセット出来るカード枚数は5枚、パーソナルカードとリライズ、更なるリライズで3枚使うと使えるスキルは最大3つになります。そして、一旦使えばデュエルが終わるまで解除出来ません。』

 スキルやアイテムを強化出来る代わりに使えるバリエーションが減る。レアなカードを多く持って居ないプレイヤーにとっては有利になる。

『色々試してみてください。2人のデータは他のジャケットの改良にも役に立ちますから』
「「はーい♪」」
「ヴィヴィオ、対戦してみる?」

 嬉しそうに言うアリシア。

「それも良いけど先に色々テストしたいかな。RHdっ」
【………】

 相棒の名前を呼ぶが返事はない。元々修理中で持って来てないのだから仕方ない。

「あっ! バルディッシュ、居る?」
【Yes Sir】

 アリシアのデバイスはこっちに来たらしい。

「じゃあダンシングソードでっ!」

 アリシアは両手に短剣を作り出して浮き島の1つに向かった。

「えっ! 待ってよ~」

 慌てて私も彼女の後ろを追いかけた。



「アリシア君、動きが更に良くなっているね。」

 グランツはシミュレーターから出てくるデータを見ながら満足げに頷く。

「高町さん一家のおかげですね。」
「なのはちゃん、アリシアちゃんも凄いと思ってましたが士郎さんと恭也さん、美由紀さんはあり得ない数値叩きだしてましたからね…」
「あんなの私達がマスターモード使っても出せないわよ。」
 アミタとキリエの呟きにユーリは苦笑いする。常人の反応速度の数十倍なんて感度はブレイブデュエルに持ち合わせていない。実際恭也と美由希がガーディアン代理として参加した時のデータを調べたらシステム側が追いついていなかった程だ。   

『少し本気で動きますっ。』

 中のアリシアが言った直後、彼女の姿が消えた。

『っと! ホントに動きやすくなってる…博士、これ凄いです!』 

 次に現れたのはさっき居た場所から50m程先の場所。

「前より反応速度上がってますね。恭也さん達よりは遅いですが、軽い分移動速度が速いです。」

 冷静にデータを取るユーリの横で

「ウソ…全然見えなかった…」

 レヴィは唖然として 

「…あやつも人外家族の仲間入りだな。」
「……私達は彼女にとんでもない武器を与えてしまったのかも知れませんね。」

 ディアーチェとシュテルも言いながら頬を引きつらせていた。

「さて、ヴィヴィオ君の方は……?」

 アリシアが色々動いて試しているところから少し離れた場所に居るヴィヴィオにカメラを向ける。彼女もジャンプしたり、少し空を飛んだり動いているけれど…

「…スキルカードを使いませんね。ヴィヴィオ~スキルカード使ってみてもらえますか? アクセルシューター入ってましたよね?」

 ユーリがヴィヴィオに聞く。しかし…

「はい、さっきから使ってるんですが全然出なくて…やっぱり八神堂のホルダーじゃないと駄目なんでしょうか?」
「えっ?」
「ヴィヴィオ君、悪いがもう1度全部のカードを終わらせてアクセルシューターを使ってくれないか?」

 ユーリの横からグランツが頼むと言われた通りカードを出して読み込ませている。

「…アクセルシューターのロードとアクションは出ています。博士…これってジャケットの異常でしょうか?」
「………判らない。ユーリ、2人に1度戻ってくるように伝えてくれ。ヴィヴィオ君のジャケットについては少し調べてみるよ。アミタ、シュテル、ヴィヴィオ君には原因が判るまでスカイデュエル、特にスキルカードを使ったデュエルはさせないように伝えてもらえるかな。他のゲームは遊んでもいいと」
「は、はい」
「わかりました…?」

 グランツはそう言うとシミュレータールームから出て行ってしまった。

~コメント~
 再びのブレイブデュエル。
 本家の方がサービス終了ときいて少し寂しい気持ちもありますが、業界は日進月歩、今はやりのゲームと比べて古い感は否めないので仕方ないのかもしれません。
(PSVRでなのはやフェイトと対戦! とか出来たら面白いなと思いつつ勝てる気がしませんよね。)




 

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