第24話「前哨戦」

「さーてなのは、何を隠してるのか話して貰うわよっ!」
「きゃっ! アリシアちゃん!! ど、どうして知ってるの!?」

 4年1組の教室で授業が終わって放課後、バッグにノートを入れていた時、なのはは背後からアリシアに飛びつかれた。
 クラスも学年も違う彼女が来たのにも驚いたがそれよりも何故隠してるのを知ってるのか思いっきり驚かされた。

「…ごめんね、なのはちゃん…」
「ごめん、なのは…」
「いいのっ! 隠してるなのはが悪いんだから」

 彼女の妹、フェイトから話が漏れたのかと考えたがすずかやアリサもアリシアに話していたらしい。
「ウソが隠せないんだから、それもなのはの魅力だけどね♪ それで何を隠してるの? 言わないとこのままくすぐっちゃうよ。」

 制服の脇から手を入れられ体がビクッと震える。

「キャッ!アハハハッ、まっ待って! 言うから、言う前にくすぐるのダメーっ!! アハハハハッ!」 

 背後から抱きつかれて抵抗できず、アリシアが胸元から足下に変わりスカートに手を入れようとしたところでフェイトに止められてようやくくすぐり地獄から脱した。



「「「「ヴィヴィオ(ちゃん)とアリシア(ちゃん)が来てるっ!?」」」」

 笑い疲れて瀕死になりそうな状態で話すと突然帰ってしまった2人が来てるのを聞いて4人は声を合わせて驚いた。

「何ですぐ教えてくれなかったのよ。アリシアっ」
「りょーかい♪」

 アリサがパチンと指を鳴らすと手をわきわきさせながらアリシアが1歩また1歩となのはに迫る。
 慌てて数歩下がって胸元を庇う。

「前に来た時と違うんだって、あっちの私とフェイトちゃんも一緒に来てるの。それにヴィヴィオちゃんに何かあったみたいで私のベッド使わせてほしいって」
「ベッド?」

 アリシアが歩みを止めて聞く。

「? わかんないけど、何かあって来てるからちゃんとお話聞いてからみんなに話そうって思ってたの。騒がれると大変だから少しだけ黙っててってあっちの私に頼まれちゃったし」
「…そういうことじゃ仕方ないわね。じゃあお家に帰ってからT&Hに集合ね。」  
「はーい♪」

 アリサの話に頷いてなのははみんなと別れて家へと向かった。


「………」
「アリシア、どうしたの?」

 フェイトがT&Hへ帰る途中姉を見る。彼女は胸元で手を広げた状態で

「……今負けててもこれからだよね? うん…これから…」

 何か呟いていたけれどその意味がわからなかった。



「ただいま~…あれ?」

 家に着いたなのはが家の中に声をかける。誰の声も返って来なかった。
確かヴィヴィオ達が居る筈なのだけれど…
 靴もないし何処かに出かけたのだろうか?

「ただいま~」

 部屋に入ると誰も居なかった。でもベッドは誰かが使っていたみたいだし、その横に見慣れないバッグとパジャマが畳んで置いてあった。

「…ヴィヴィオちゃん起きたのかな? あっ遅れちゃう!」

 時計を見て慌てて着替えて再び家を出た。 



「ごめ~ん、遅れちゃった。ヴィヴィオちゃん達は居なかった、お出かけしてるみたい。」

 なのはがT&Hに着くと既にアリサとすずかは私服に着替えて来ていた。彼女たちの方が家は遠いけれど途中から車でお出迎えでここにもそのまま連れてきて貰ったらしい。

「おそーい! って言いたいとこだけど、ヴィヴィオあこに居るよ。でも…」

 もうすぐ毎週お決まりなイベントが始まるからみんな準備している。その中で

『パイロシューターっ!』

 光球を幾つも放ってデュエルするヴィヴィオが中央モニタに映っていた。

「ヴィヴィオちゃん? でも…ジャケットが」
「アバタージャケットはセイクリッドだけどアレって…シュテルと同じ?」

 赤紫色のセイクリッド、そしてアクセルシューターでもディバインシュターでもクロスファイアシュートでもなく、パイロシューター…。何よりシュテルに似た杖状のデバイスを持っている。

「所属マークはグランツ研究所になってるね。どうなってるのかしら」

 3人は揃って首を傾げた。そこにT&Hのエプロンをしたアリシアとフェイトがやってきた。

「なのはにヴィヴィオの事聞かなかったら驚いてたよ。今は八神堂でプレイしてる。でも…」
「名前がヴィヴィオじゃなくて『チェント』になってるの。知ってる?」

 ちぇんと…チェント…ちぇんと??
 何処かで聞いた様な…

「うーん、何処かで聞いた気がするんだけど…」
「えっ! 知ってるの? 何処で?」 
「アリシア、お姉ちゃんってば、騒ぐとみんな見てるから」
「う~ん…う~ん…」

『お姉ちゃんとヴィヴィオ…やっと見つけた…』
『まさか…チェントなの?』

 ヴィヴィオ達が帰る直前に来たヴィヴィオそっくりの少女、彼女を見てヴィヴィオとアリシアがチェントと言っていた。

「あっ…あの子なんだ。」
「えっ? なのは知ってるの?」
「う、うん…でも…あんまりよく知らない。あの子が来てすぐヴィヴィオ達と一緒に帰っちゃったから…」

 あの時何が起きたのかも聞いていない。でも彼女もヴィヴィオ達と来たらしい。

「さっきから見てるけどヴィヴィオやアリシアみたいな無茶苦茶さはないけど相当強いよ。カードは最初の5枚でスキルカードはパイロシューターが1枚だけみたい。それでもグランツのトップデュエリストがさっき負けちゃったから。」
「意外な伏兵ね。」

 アリサがそう言うとフェイトもニコリと笑った。

「そうだね。今日のイベントは楽しくなりそう。」

 思いがけない形で強者が現れた。その事に2人は嬉しそうだった。でも…

(ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃん…どうして出てないんだろう)

 なのはには来ているであろう2人が出ていないことが気になった。



「あの子は先日の彼女ですか?」
「そう、私の自慢の妹♪ …世界はちょっと違うけど。」

 同じ頃グランツ研究所でもイベント準備中に映し出されたチェントの映像を見て響めきが起きていた。トップランカーの1人がスカイデュエルで負けたのだ。それもレアのスキルカード1枚だけで。ユーリに聞かれて胸を張って答えるアリシア。

「アバタージャケットもそうだが、あの動き…シュテルに似ておるな。」
「高速移動中の回避や精密射撃、まだ粗はありますが…強いですね。」

 ディアーチェとシュテルがデュエルの様子を見ながら評価していく。

「ホントそっくり、まるでシュテルんに特訓されたみたい」

 レヴィの言葉にヴィヴィオはなんとなく気づく。
 彼女のバリアジャケットはシュテルと同じ色だった。
 彼女たちの世界には砕け得ぬ闇事件でなのはと魔力共有したシュテルが居る。あっちの私がなのはとフェイトから教わった様に彼女もシュテルから魔法を教わりジャケットを貰ったんじゃないか?

「今日のWeeklyデュエル、全勝…とはいかないでしょうが良いところまで来るでしょう。ヴィヴィオ…は博士から待つように言われてますがアリシアはどうしますか? 未だにヴィヴィオのクリアタイムとノンダメージ記録は破られていませんよ?」

 どうしよう? と悩むアリシアに

「応援してるから行ってきて。もし私より早くなったらまた追い抜いちゃうから♪」
「そう? ユーリ、私のホルダーに入ってたカードって使えますか? ブレイズⅡとかも含めて」
「前のジャケットとカードだけなら使えますよ。時々家に置き忘れたプレイヤーへのフォローなので特別対応ではありません。ですが、さっきのテストカードはこちらで預かりますね。」
「…あんな物あれば我らでも対応出来ん。」
「じゃあ行ってくるね。応援よろしく♪」

 そう言うと軽いステップでイベントへの応募列に並びに行った。

「出られなくて残念だ。」
「ううん、私も応援したいんです。アリシア…凄く強くなってるし…チェントが出るならややこしくなっちゃうでしょ。もし注目されたら私と別人だって説明してくださいね。」
「では司会…は大変でしょうからオペレーションルームで解説役します?」
「いいわね」
「それにしましょう。」
「えっ!? えっ!?」

 言われるままアミタとシュテルに両腕を抱えられ引きずられて行った。



「レヴィ…」

 残されたディアーチェはジッとアリシアの背を見るレヴィに声をかける。

「判ってる…心理戦だよね」

 彼女たちに敗れた後、何度も練習して高町士郎からアドバイスも貰ったのだ。

「今度は勝~つっ!」

 決意を秘めた眼差しにディアーチェも勝たせてやりたいと思うのだった。



「は~い、T&Hの看板娘、アリシアです。今日のWeeklyデュエルはいつもより豪華だよ。さっきメイン画面に出ていた紫のセイクリッドを来た女の子。実はニューフェイスのチェントちゃん。私もヴィヴィオちゃんとそっくりでビックリしちゃいました。本当に別人? そんな疑問を持った子の為に2人とお話ししちゃいましょう、グランツ研究所のヴィヴィオちゃん、八神堂のチェントちゃん聞こえますか~?」

 いきなり話を振られて慌てるヴィヴィオ

『はい八神堂の八神はやてです。今日初めてブレイブデュエルで遊んだチェントちゃんです』
『は、はじめまして。チェントです…よ、よろしくお願いします。』

 思いっきりドキマギしながら答えている。オペレーションルームの中でモニタを操作しているユーリが

「ヴィヴィオさん、こちらも映りますね。3・2・1、はい。は~い、こちらはグランツ研究所のユーリです。私も2人を見て驚きました。ヴィヴィオさんもそうですね?」

 いつの間にかユーリが滅茶苦茶司会慣れしている。それに驚きながらも

『は、はい。こんにちは。ヴィヴィオです。今日はアリシアの応援でこっちに来ました。久しぶりにブレイブデュエル、みんなの活躍を応援したいと思います。チェントも頑張って!』

 そう言うとグランツ研究所でもどよめきが起きる。T&Hでもそうだったらしくメインモニタが再びアリシアが映った。

『ねっ、ビックリしたでしょう♪ で、さっきヴィヴィオちゃんが言った通り、今日はアリシアちゃんが参加しています。ヴィヴィオちゃんのレコードタイムを破るのが目的らしいのでみんな頑張ってね。』
『は~い、グランツ研究所の司会、アミタです。ルールはいつもと同じ、10戦連続で勝利したプレイヤーが勝利者、8勝、6勝、4勝のプレイヤーにもレアカードがゲット出来るからみんな頑張ってね。』

 若干ルールが変わったらしい。まぁ8勝すればショッププレイヤーが出てくるのだからそうなるだろう。

(チェントとアリシア…どうだろう?)

 手元の端末を触って参加者一覧を見る。ショッププレイヤーの筈のフェイトやレヴィ、アリサの名前があった。他の者は8勝後に出てくるのだろうか?

「ユーリ、私達が帰った後ブレイブデュエルで何か変わった所ある?」
「そうですね~…幾つかありますが、より体の動きとシンクロしリアル感が強くなったかも知れません。さっきアリシアが動きやすいって言ってましたよね。運動が得意な子がよりその能力が発揮出来る様にされてます。勿論、苦手な子は例えばシュテルの精密射撃みたいに集中すればより当てやすくなったりとか…」
「…凄いね。」
「なのはやなのはの家族にデータを取らせて貰った結果です。味覚エンジンも出来て中で美味しいお菓子が食べられたりもするんで楽しみにしててくださいね。」

 仮想空間が現実に近づいている。嬉しそうに話すユーリにここは良い未来を進んでるんだなと思い嬉しくなった。



「なのはさん、フェイトさん…どうしましょう…。私、司書だから模擬戦なんて数える位しか…」

 一方で八神堂のチェントは半ば無理矢理参加させられたデュエルに狼狽えていた。

「練習だと思えばいいよ。パイロシューターだけでも十分だし、いざとなったらアレがあるでしょ。さっき練習した通りに出来ればいける。」 
「基本は素早く考えて素早く動く。応援してるよ、私とアリシアの妹なんだから自信持って。もう順番みたいだよ。頑張って」
「は、はいっ!」

 そう言うと握り拳を作って頷いて並んでいる列に加わった。

『大丈夫です? 練習も含めて数回しかデュエルしてませんけど?』

 2人の座った横にいるうさぎのぬいぐるみ(のろうさ)から声が聞こえた。シャマルが出かけてしまってはやては管制室で色々と忙しいらしい。
 そう言いながらもチェントをイベントに参加させたのは彼女だったのだが…。

「大丈夫ですよ。指導した人が良いんでしょうね、十分基礎は作られてます。ヴィヴィオみたいに色んな事はまだ出来ないでしょうけど、基本通りにすれば良い経験になります。ここでの経験は後に生きます。」
「教えたのなのはじゃないの?」
「似てるけど違う、でも教導隊の誰かなのは確か。きっちり基本から作られてるから良いところまで行くんじゃないかな。」
  
 彼女に基本を教えたのは誰だろう?
 そんなことを考えながらもなのははさっきグランツから伝えられたメッセージが気になっていた。

『ヴィヴィオ君は思った通りスキルカードが使えなくなっている。彼女自身が使いたくないと思っているならブレイブデュエルで遊びながら心の壁を壊すきっかけを見つけられないだろうか?』

 魔法とスキルカード…効果が似ているからだろうか?
 なのはにもそれは答えられなかった。

~コメント~
 久しぶりのWeeklyデュエルです。海聖小学校のなのは達を描くと楽しいです。
特にアリシアは書くの追いつかないくらい。
 

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