第15話 「好きな物は好きな物」

「チェント、何見てるの?」

 テレビに釘付けになった星光・雷刃とチェントを何とか連れ出して服等身の回りの物を一通り買った後、色々見て回っているとチェントがふいに立ち止まる。

「チェント?」

 何かを見つけたらしい。手を繋いでいたアリシアも一緒に立ち止まった。

「アリシア、どうしたの? …あっ」

 ヴィヴィオも気になって戻ってくると彼女の視線の先にあった物をみて思わず笑みが溢れる。3人に気づかず歩いているなのは達に駆け寄って

「なのは、旅行の後でお店手伝うから少しお金貸して」
「え、良いけど何か欲しい物あるの?」
「うん、ちょっと…」
「ヴィヴィオ、リンディ提督からヴィヴィオが何か欲しいって言ったら渡してって預かってるんだ」

 フェイトがそう言って封筒を差し出す。 ここのお金が入っているのだろう。この際好意に甘える事にする。

「ありがとう、ちょっと待ってて」

 フェイトから受け取った封筒を持ってそのまま走り出した。



「チェント、はい。私を助けてくれたお礼。ありがとう」

 数分後、チェントに差し出したのは首に大きなリボンが巻かれたウサギのぬいぐるみ。目を輝かせてヴィヴィオから受け取るチェント。受け取った彼女はぬいぐるみを大切そうにギュッと抱きしめる。

「ありがとうヴィヴィオ。でもどうしてこれって判ったの?」
「うん…ちょっとね…」 

 ヴィヴィオ、初めてなのはから貰った物がウサギのぬいぐるみだった。あの時はそれしかなかったからずっと持っていたけれど、チェントの嬉しそうな顔を見てもっと心の中で好きな物が同じなのかと思っただけ。

「ねぇ、チェントってピーマン苦手だったりしない?」
「ううん、好き嫌い無いよ。どうして?」

 単にチェントの好みだっただけらしい。

「ううん、ちょっと思っただけ。」



「魔法世界…私達の知る世界とはずいぶん違うようですね」
「うん。みんな笑ってる。楽しそう」

 ヴィヴィオがチェントにぬいぐるみを渡しているのを見つめながら星光と雷刃が呟くのをなのはは聞く。

「うん、ここはこんな感じだよ。」
「いいですね。私達や騎士達・管制システムが出た世界はいつも戦乱の中でした。主は権力や力を闇の書に求めて人の命を弄ぶ。守護騎士達は主に抗えず心を殺して仕えました。しかし時を置かず主の横暴に守護騎士の心は壊れそうになり、私達は彼女達を守る為に記憶を消すしかありませんでした。」
「だから僕達は考えたんだ。そんな世界で誰かに仕えなきゃいけないなら、ずっと闇の中で居た方がいいって」
「でもはやてはそんな子じゃない。昔何があったかなんて関係ない。今は家族の一員だって思ってる。」
「フェイトちゃん…私もそう思う。ヴィータちゃんやリインフォースさん、シグナムさん、シャマルさん、はやてちゃんと一緒の時笑ってるもん。ザフィーラさんが笑ってるかはわかんないけどきっと同じだと思う。」

 その言葉を聞いた星光と雷刃は頬を崩す。

「ザフィーラは無口だから」
「そうですね。高町なのは、今朝の言葉を取り消します。私達もこの世界で一緒に居させて貰えませんか。あなたにはずっと負担をかけて続けてしまいますが…」
「僕も…闇の中よりこっちの方がいい」

 2人はそう言うとなのはとフェイトに手を差し出す。

「うん、ウンウン。もちろん!!」
「これからよろしくね。」

 その手をなのはとフェイトが取る、それが本当の意味で契約が交わされた時だった。


『力を借りたい。』

 丁度その時、星光と雷刃に念話が送られてくる。

「闇統からです。力を貸して欲しいと言っているのですが、彼女に何があったのでしょう?」

 その言葉を聞いてフェイトと一緒に笑う。

「あのね実は…ゴニョゴニョ…」

 ヴィヴィオから聞いた八神家の惨状を教えると『ああ』と納得したらしく

『ディア、あなたが散らかした物をあなたが片づけるのは道理です。』
『片付け頑張れ♪』
『なっ、お前達あの子鴉からっ! ヤツめーっ!!』
『応援していますよ。』

 そう言うと念話を切った。

「子鴉めと怒っていました。」
「おまたせー、どうしたの? みんな笑って」

 子鴉と例えられたヴィヴィオが戻ってきて4人はクスクスと笑うのだった。



「艦長、どうしてヴィヴィオとはやてが…いえ闇の書のマテリアルを助けたのですか?」

 エイミィが自室で熟睡しフェイト達が買い物に出かけた後、クロノはリンディに問いかけた。
 闇の書の残滓が現れた状況においてはあの時の現場最高指揮官としてのリンディの命令が尊重される。闇の書が蘇る可能性を残すのはクロノ自身にとっても気がかりであり、同じ様に彼女もと考えていたからだ。
 管理局で拘束する事も方法によっては再封印も出来たのにあの場で1番危うい方法を支持したリンディの考えがクロノには判らなかった。

「そうね。3人を引き受けたヴィヴィオさんとはやてさんが同じ答えを出したのが1番の理由かしら。私達、いいえ管理局は過去のロストロギア事件から強力なロストロギアが封印された後にも続いて事件が起きるのは通説として知っていたわ。そして闇の書は第1級指定のロストロギア。でも私達は警戒はしていても対策を講じていなかったわ。今回の事件で私達が出来たのは結界を張ることだけで事件を解決していない。最大の功労者は彼女達よ」
「確かに…しかし闇の書のマテリアル…彼女達を残せばいつか同じ様な事件が起きる可能性も」

 確かに彼女の言う通り何も出来なかった。クロノにしても事件発生時に調査に向かい、向かった先で残滓が作った思念体の自身と戦い時間稼ぎをしただけ。
 だからと言って闇の書を復活させる要因を残すべきではない。

「それに私達は闇の書を消したと思っていた。でもはやてさんの心の中に眠っていた。事件が起きなければ誰にも判らなかったでしょう。残された管制システムやマテリアルは【鍵】だと思うの。今後もしはやてさんの心が闇に染まれば新たな闇の書が生まれるでしょう。でも、だからこそ鍵は鍵の意志で彼女の闇を作らなければいい。クロノそう思わない?」

 彼女から闇の書が生まれるなら周りが作らせない様にすればいい。
 その為にはマテリアルを消すのではなく管理外世界や管理局を含む管理世界に馴染んで貰った方がいい。いつか彼女の心の闇が生まれてもその時は彼女達がフェイトやなのはと力を合わせて助ける力になる。

「ええ、ならば僕や艦長が魔力供給者として手を挙げても良かったのでは」

 クロノがそう言うとリンディはクスリと笑い

「フェイトさんのマテリアルに嫌がられたのをまだ根に持ってるのね。私達よりなのはさん、フェイトさん、はやてさんの方が適任よ。3人とも困ってる人を放っておけないでしょう」
「根に持っていません。だからと言って…」
「それに彼女達がいるとなのはさんとフェイトさんは身を危険に置いてまで無茶をしないわ。彼女達が長期的に魔力を使い切るのは魔力の送り先であるマテリアルの命を奪うのと同じ。はやてさんは守護騎士が居るから判っているでしょうけど、2人とも…無茶するでしょう?」
「それは…はい、疲労から魔力運用が滞れば魔導師は無力になります。」

 魔力を限界ギリギリまで使い切る、後先考えずに突き進むのは伸び盛りであるなのはの長所でもあるし闇の書事件もジュエルシード事件でもそれが幸いして事件解決している。
 だからと言って毎回同じ様に進むとは限らない。
 それぞれが自身と同レベルのマテリアルと契約すればより高度な魔力運用が求められる。それはデバイスとは違う意味で更なる力にもかけがえのないパートナーにも安全装置にもなる。
 そこまで考えが至っていなかったクロノはリンディに脱帽した。

「コーヒーおかわりどうですか?」
「ありがとう、頂くわ」

 クロノの一声が先ほどまであった冷たい空気が変わった瞬間であり、ヴィヴィオが当初願っていた物を言い当て、未来を変えた時であった。


~コメント~
 新年明けましておめでとうございます。なのはAsでシグナム達守護騎士の記憶がどうして新たな主に呼び出される度に消されてしまうのか? もしマテリアルがそれに携わっていたらと言う話でした。
 ヴィヴィオのウサギ好きは実は複製母体が好きだったからとかだと面白いですね。(愛らしい好きか好物の好きかは判りませんが…)



 
 

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