第16話 「とりまく想い」

(どうして私達はここにいるのでしょう?)

 闇の書に異常があった時だけ呼び出される構造体プログラム。姿形を持たず心を殺し続けてきた筈なのに…
 ベッドで横になりながら横を見ると妨げた少女が眠っている。あどけない寝顔を見つめどこにそんな力があったのか不思議に思う。反対側を振り向くと自身の基になった少女が身を寄せている。
 忌み嫌われた存在だと思っていたのに何も言わずに迎え入れてくれたのが不思議でならない。

(この気持ちは…何なのでしょう?)

 胸に手を置いて自身の存在を確認する。闇の書を蘇らせられなかった時点で消えていた筈なのに…どうしてここにいる? そして他のマテリアルや守護騎士達と共に居た時とは違う何か暖かい気持ちは何なのだろう。

「私達もこの世界で一緒に居させて貰えませんか。あなたにはずっと負担をかけて続けてしまいますが…」

 なのはとフェイトに言った言葉を思い出して反芻して呟く。あの時自然と出た言葉

(私は…何を言いたかったのでしょうか?)

 思い浮かぶのは全て自身への問いかけの言葉。初めての戸惑い。
 でもこれから知ればいい。時間はあるのだから。
 そう…これから知れば…

「時間はあるのです…これから」

 そう言い聞かせ星光は再び瞼を閉じた。



(帰りたかった場所なのに…どうしてここを選んじゃったんだろう)

 暖かい闇の中、あの中にいれば辛い思いも悲しい思いもしなくていいと思っていたのに、どうしてここの方が良いと感じたのか?
 フェイトもフェイトの家族も皆優しいし、クロノのドギマギする様は見ていて楽しい。そんな空気とは裏腹に自分でどうしてここを選んだのか判らずモヤモヤした気持ちが残る。
 布団から出て立ち上がるとフェイトとアリシア・チェントが眠るベッドを見下ろす。
 3人ともスヤスヤ眠っている。
 少し前まで敵だった者、この世界を壊そうした者が目の前に居るのにどうしてここまで無防備でいられるのだろう?
 彼女達だけじゃない。会った人全てが無防備だった。警戒すらしていない。

「闇の書、名前だけでも怖がられたのに…」

 闇の書の名前は2つの感情しか生み出さなかった。与えられる力への欲望と恐れ…なのにここはそんな様子を微塵も見せない。
 フェイトもそうだ。契約を書き換えて魔力を全て奪われるとは思ってないのか?
 机のペン立てに立てられていたナイフ状の物を取り再びベッドの前に立つ。
 もしこの無防備さが作られたものなら…殺気を込めてフェイトへ迫る。

「………」

 しかしフェイトは寝息をつくだけで瞼を開けようともしなかった。

「…バカみたい…寝よ寝よ」

 ナイフを元の場所に戻して再び布団の中に潜り込んだ。
 闇の書の中とは違うけれどここも暖かい。
 今はそれだけでいい。
 今は…



「子鴉風情が、我に片付けなどさせてからに…」

 アイスを巡ってヴィータに追いかけられたのを思い出しながら誰も居なくなったリビングでくつろいでいた。
 紅の鉄騎があれほど感情を表に見せたのはいつ以来だろう。
 片付けの時、悲しそうな顔をしながらも全幅の信頼を寄せているのが判る。彼女だけでなく管制システムや他の騎士達までもがだ。

(久しいな…将の笑顔など忘れておった)

 知る限りここまで完膚無きまで闇の書が破壊された覚えはない。構造体や思念体が顕現出来たのはいつ以来だろうか。
 脳裏に一瞬だけ虹彩異色の戦士の姿がかすめる。

「あやつも人のためになぞぬかしておったな…」

戦士の姿と戦った子鴉の姿が重なった。闇の書が作り出した思念体は魔力の糧として最初に取り込んでいた。だが実際に戦った彼女は思念体を上回りあと少しで蘇る筈だった闇の書を封印しマテリアルを倒してしまった。
 そして魔法もろくに使えない子鴉も…捉えた時とはまるで別人。そこまで出来る意志の強さ
 はやてと守護騎士を残し自らが闇の書として消えるのを覚悟した管制システムの気持ちが伝わって来たように思える。

「祝福の風リインフォース…か…」

 大それた名前だ  

「あ、見つかっちゃいました。」

 廊下から顔を出したのは小さなリインフォース。ただ口に出しただけなのに見つかったと思ったらしい。

(子鴉の融合機か…そういえばこやつもリインフォースだったな)

 融合機らしいが彼女からは管制システムや守護騎士達とは違い闇の書・夜天の魔導書の力は感じない。

「何用だ、子鴉の使いが」
「子鴉の使いじゃないです。リインにはちゃんとリインフォースっていう名前があるんですっ!」
「騒ぐと皆が起きるぞ」

 慌てて口を手で押さえると近づいてきて

「ちゃんとリインと呼んでください」

 小声で怒った様に言うのが可笑しかった。

「リイン、呼んでやるからうぬの世界の話を聞かせよ」

 暇つぶしのつもりで聞いてやる。

「どうしてそんな態度…って言っても無駄ですね。リイン達は未来から来ました。闇の書の復活させない為に。って言ってもリインは未来のはやてちゃんに言われてヴィヴィオに付いてきたです。」
(ヴィヴィオ…あの子鴉か。時空転移…虹色の魔法。そうか…あやつはベルカ聖王縁の者か)

 3人で攻勢に出た時ヴィヴィオを守った盾の正体に気づく。何度か闇の書の主と敵対した聖王家縁の者が虹色の魔法を使っていたのを思い出す。時空転移もそうだ。
 脳裏をかすめた戦士の姿と彼女が重なった理由もそれで納得がいった。
 はやてを新たな管制システムとして闇の書を作りだそうとした時、彼女を消さずに闇だけを消せたのも合点がいく。
 であれば1つだけ気になる事がある。書の記憶を辿ればおのずと行き着く問題

「リイン1つだけ教えろ。うぬの世界に我らはいるか?」
「いいえ、リインの世界では闇の書事件で消えましたです。完全に」



「リイン1つだけ教えろ。うぬの世界に我らはいるか?」
「いいえ、リインの世界では闇の書事件で完全消滅しましたです。」

 はやてと似ているけれど闇統の高圧的な言葉遣いがリインには好きになれなかった。
 しかし、聞かれた事を答えると

「そうか…夜も更けた。うぬも休め」

 彼女はそう言って何も言わずリビングを出て行ってしまった。

「何を聞きたかったのでしょうか?」

 1人残されたリインは首を傾げて彼女の後ろ姿を見送った。


「う…あ…忘れてた、これだけ送っとかなきゃ」

 寝ぼけ眼のまま片手で端末を開いて中にあるデータを送る。
送信したメッセージが出たのを見て

「これでOK…後は頼んだよ~マリィ…」

受け取ったデータを見て彼女が狂喜乱舞して喜び、この後ミッドチルダ式とベルカ式を組み合わせた魔法体系【近代ベルカ式】が確立される布石となり、又新たな風の鼓動が生まれた時だった。


~コメント~
 今章ではマテリアル3人娘が話に関わってきます。闇の書と守護騎士・マテリアルとの関係がゲームではあまり語られていなかったので勝手な解釈をしています。
 新しいゲームの方で星光(シュテル・ザ・デストラクター)・雷刃(レヴィ・ザ・スラッシャー)闇統(ロード・ディアーチェ)と名前が付きました。
 話上では星光・雷刃・闇統と書いていますが、呼称時に愛称(シュテル・レヴィ・ディア)と書かせて頂いてます。ややこしくてすみません。

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