As02 不審者騒動

「アリシアさん、今日は1人で帰るのかしら?」
「はい。そうです」

 放課後バッグを持って教室から出ようとした時、アリシアは先生に呼び止められた。

「近所で見かけない人がいるそうだから、気をつけて帰って下さいね。」

 確か先生も近所に住んでた筈…思い出して

「ありがとうございます。先生、ごきげんよう」

 ペコリと頭を下げて教室を出て行った。

 アリシアの暮らす住宅街は聖王教会や関係施設に勤める者が暮らしている。だから何処で働いているか等も皆知っており地域内の結びつきは強いし知らない人が来れば一目でわかるのである。

「不審者か…まぁ大丈夫でしょ。何かあったらすぐに連絡すればいいし、先生に話が来てるなら教会から見回りも来てるよね」

 先生からの言葉を思い出しながら家に向かうと、思った通り修道服を着た人とすれ違った。見回りの人だろう。



「不審者か…ねぇ、私達で捕まえない?」
「ええっ!?」

翌朝、その事をヴィヴィオに話すととんでもない事を言い出した。

「でも危ないし、教会も動いてるから怒られちゃうよ」
「う~ん、でも事件に巻き込まれちゃったら大変だよ。アリシアもチェントも魔法使えないんだし」
「……凄く強い魔法が使えても色んな事件に巻き込まれてる女の子がここにいるんだけど…」

ヴィヴィオの言葉にボソッとツッコミを入れる。

「何か言った?」
「う、ううん、何も。昨日は変な人も居なかったし大人に任せておこうよ」
「…わかった」

不満そうに頷くヴィヴィオを見て

(多分わかってないね…これ)

何かするつもりなのは何となく気づいていた。



 放課後、チェントを迎えに行ってレールトレインから降りて家に向かう最中、妙な視線を感じた。
 立ち止まって辺りを見回すが誰も知った人は居ない。

「ねえさま?」
「ごめん、お家に帰ろ」
「うん♪」

 チェントの手を取って歩き出す。
 だが暫く歩いた所で再び視線を感じた。

(不審者? ホントに居たの?)

 プレシアに連絡しようか考えたが思い込みだけで人違いかも知れない。

「チェント、お姉ちゃんがおんぶしてあげる。」

 屈むと嬉しそうにチェントが背中に乗ってくる。

(これで、角に入ったところで誰か来たら…)

 走ってある邸宅の角を曲がって影に身を隠す。すると感じていた視線は消え慌てて追ってくる足音が聞こえた。
 不審者は本当に居たのだ。

「…ママっ!!」

見つけられない様に更に身を壁に寄せた時。

「動かないでっ! ちょっとでも動くと砲撃魔法撃つよ」

空から叫び声が聞こえた。

「ヴィヴィオっ!?」

思わず声をあげる。そしてすぐ近くから同じく声が聞こえた。

「ヴィヴィオっ!?」
「…フェイトっ!?」
「ええっ!? フェイトママ!?」

アリシアを追いかけていた者の正体、それはフェイトだったのだ。



「ヴィヴィオ、捕まえるの止めようって言ってたじゃない。」

 家に帰ったアリシア達はリビングのソファーに腰を下ろしていた。

「まったく…フェイトもフェイトだよ。駅で見かけたならどうして声かけなかったのよ。黙って後ついてきて…」
「ゴメン、やっぱり心配だったからシャッハにお願いして飛行許可貰って上から見てたんだ。アリシア達の後をつけてた人が帽子かぶってて誰かわかんなかったし。もし不審者だったら捕まえちゃおうって…ホントにごめん」
「ううん、心配してくれてありがと…それよりフェイトだよ。」

 視線を正座して座っている妹に移す。騒ぎを聞きつけて見回りしていた人が何人も集まってきて、人間違いだと判って貰うのに一苦労だったのだ。

「もしかして、最近見かけた不審者ってフェイトだったんじゃないの?」
「ええっ、フェイトママ、そうなの?」

 彼女は執務官服ではなく、黒っぽい服に帽子をかぶった姿。今の格好ならそう思われても仕方がない。
 シュンと項垂れている。
 彼女が不審者なら見回りしていた人達や学院にも迷惑をかけてしまっているのだから。

「ごめんなさい…お仕事が早く終わったから姉さんの所に行こうと思ったんだけど…詳しい場所まで判らなくて…それで丁度いいから姉さん達の後を追いかけて家の場所を覚えようと…ごめんなさい」

 その言葉で納得した。
 フェイトが来たのはヴィヴィオを初めて呼んだ時だけ。あとはプレシアの研究施設か高町家でしか会っていない。

「そんなの私かママに聞けばいいじゃない。ヴィヴィオも知ってるんだし」
「ママ、これ地図だよ」
「ありがとヴィヴィオ…」

 ヴィヴィオがデバイスを使って地図をフェイトに渡した。
 そこでふと気づく。

「フェイト、じゃあ最近来たりしてない…んだよね」
「うん、今日が2回目です。久しぶりに来たかっただけなのにそんなに怒らなくても…」
「!?」

 その言葉にヴィヴィオと顔を見合わせる
 フェイトは本局の執務官。そう簡単に何度もここへ来られる訳がない。

「じゃあ一体…誰が…」

その時爆発音が外から響いてきた。

「爆発!?」
「行ってみよう。フェイトママも行くよっ!」
「は、はいっ」


 
 そこから少し離れた場所で複数の土煙と爆発音が聞こえてくる。
そこには…

「ヒッ、ヒィィイイイイイイ!!」

 必死に走る1人の男、更に

「逃げんじゃねーっ!!」
「お…お前のおかげで私達はっ!!」
「たっ助けてくれーっ!」
「「この恥辱…万倍にして返してやるっ!!」」

 グラーフアイゼンを振り回し彼を追いかける聖祥小学校制服姿のヴィータとStヒルデ初等科の制服でナイフを彼に投げまくるチンクの姿があった。


~~コメント~~
 子供の安全を守る為に不審者の情報を送るサービスがあるそうです。
 昔は悪戯する子供に対して近所の大人が注意していましたが、今はそういうのも不審者として言われかねないのだとか・・・。

 今話はアリシアというよりテスタロッサ家の面々的な話でした。

 

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