第35話「ヴィヴィオの居ない日」

「テスタロッサさん~、提出してくれたクラスの企画だけど…」
「えっ、はい。ごめん、先に行ってて」

 屋上でリオとコロナとお弁当を食べているとシスターがやってきてアリシアは呼ばれた。

「うん、頑張ってね」
「何か手伝える事があったら言ってね。」
「ありがと~後で色々お願いするね。」

 お弁当箱をササッと片付けて駆け足でシスターの所へと向かった。

 
 
 

 アリシア・テスタロッサの朝は比較的ゆっくりだ。
 朝はリニスが起こしに来てくれた後着替えてプレシアやチェントと一緒に朝ご飯を食べ、チェントと一緒に学院に行って彼女を幼年科に送った後少し駆け足気味で初等科に向かう。
 登校した後はヴィヴィオやリオ、コロナとお喋りを楽しんで時間になると授業が始まる。
 時々授業の合間の休憩時間やお昼に闇の書事件の映像を見た子が来てヴィヴィオと一緒に少し話したりする。そして授業が終わると先に幼年科に行ってチェントを連れヴィヴィオ達と一緒に寄り道して遊ぶ。研究所に戻ってからはプレシアの仕事が終わるまでチェントと一緒に待って帰る。

しかし、学院祭のクラス代表になってヴィヴィオがあっちに行った日からガラリと生活が変わった。朝はフェイトが私達を送ってくれるから少し楽になったのだけれど、妹はママが恋しいらしく元気がない。なるべく1人にしないように心がけていたけれど、学院でも様子が変わってしまったらしく幼年科のシスターにも聞かれて『母は仕事で少し離れた場所に居るんです。』と話してフォローして貰っている。
 そして初等科でも準備期間に入ってクラスでまとめ上げた企画書を提出した後で使うモノが他のクラスと色々問題を作ってしまいアリシアはその矢面に立って1クラスずつ説明と納得をして貰う為奔走した。
 幾らソレがあっても使いこなせなければ意味は無いし、そもそも使う目的も違うのに…
 思いながらも結構好き勝手に色々提案して

(ヴィヴィオが居たら…)

 何度かそんな事を思いながらも彼女がいない心細さを何処かで感じていた。



同じ頃…

「……官」
「………」
「……教官」
「……」
「……おい、なのはっ!!」
「イタッ!!」

 コツンと後頭部を何かで小突かれてなのはは我に返った。振り返るとグラーフ・アイゼンを向けているヴィータが居た。

「さっきから何度も呼んでるんだ。返事くらいしろっ!」
「…ごめん、考え事してた。」

 何度も呼ばれていたのに聞き流していたらしい。素直に謝る。

「…ああ、それより来週からの教導、打ち合わせに行くぞ。」
「えっ!? もうそんな時間」

 時間を見ると1時間以上経っていた、慌てて椅子から立ち上がる。愛機を待機状態に戻すヴィータと一緒に部屋を出る。今回久しぶりにヴィータと一緒に教導官を努める。本当ならもっと嬉しい筈なのにどうしてもある事が頭から離れない。

「ヴィヴィオの事、ずっと考えてただろう?」
「うん…」
「私達は教導隊なんだ。目の前の任務をおろそかにすると誰かが犠牲になる。」
「うん…」

 武装教導隊の教導は受ける方もそうだがする方も気を抜く訳にはいかない。気を許せば受けた者かその者の部隊に被害が出る。その被害は部隊だけでなく民間人も巻き込むかも知れないのだ。
 なのはもそんな事は彼女に言われるまでもなく判っている。でも…

「集中できないならこの教導から外れろ。私達が迷惑する。」
「…ごめん」

 厳しい口調のヴィータに再び謝る。

「……はやてが言ってた。『私達がヴィヴィオの為に出来るのは信じて待つ事。もし私達の力が欲しい時は彼女から話がある、その時まで待つしかない。』ってな」

 ヴィヴィオが巻き込まれている事件について、プレシアから聞いた話ははやてに話していてヴィータにもそれが伝わっているらしい。 
 彼女の言葉通り、今の自分が悩んでも何か出来る訳でもない…だったら彼女が手伝ってって言った時に全力で手伝える様にする。それには今目の前の教導をこなし、アリシア達と一緒に待つ。

「…そうだね。うん! ありがとうヴィータちゃん。あっ話してたら打ち合わせに送れちゃう、急ご♪」

 小走りで打ち合わせ先に向かうなのはだった。

「…悩めるのは母親の特権だって言ってたけど…今のあいつに言っても仕方ねぇか…」

 苦笑交じりにヴィータも彼女の後を追いかけた。  
 

 
 そんな感じでヴィヴィオ不在の日々が1日、また1日と過ぎていった。
 数日後の夕方 

「…それで、どうして私?」

アリシアは目の前の状況に思わず呟く。
 夕暮れ時、買い物に付き合ってとフェイトに頼まれて一緒に出かけたのだけれど、彼女は何時ものショッピングエリアに向かわずあるカフェに入った。

「すみません、遅くなりました。」

 そう言って先に来ていた初老の女性の前の席に座り、隣に促されアリシアも腰を下ろした。
 彼女はファーン・コラードと名乗り、ヴィヴィオの研修を担当していると話した。
 ヴィヴィオ本人から彼女については聞いていたから凄い人だと知っていたけれど1目見てもよくわからない。知っている教会のシスターに雰囲気が似ているかなと思った程度。
 何故自分が呼ばれたのか判らない。

「あらあら、本当に昔のフェイトにそっくりね。あなたの子供…という訳ではなさそうだけど。」
「はい、詳しくはお話出来ません。」

 笑顔を絶やさないコラードとは違いフェイトはすこし緊張した面持ちで言葉を選んで話している。

「じゃあ彼女が『天才魔導師の娘』ね。」
「!?」

 私を見る目が一瞬変わって思わず構える。その様子に再び笑顔に戻る。

「教え甲斐がありそうね。ヴィヴィオとあなた…昔の貴方達そっくり。」
「お願いします。」

 コラードの言葉と頭を下げたフェイトを見てもまだ私が何に巻き込まれているのか判らなかった。ただ辛うじて判ったのはどうやら私も教導を受けなければいけないらしい…



「フェイト…どうして私が教導受けなきゃいけないの?」

コラードとは彼女が近くに来るのに合わせて顔合わせするのが目的だったらしく、少し話をした後別れた。その後予定していた買い物を済ませ帰路についたアリシアはフェイトに聞く。
 学院祭の準備も慌ただしくなってきていて、プレシアと話せず寂しがっているチェント宥めながらヴィヴィオがどうなっているのかも気にかかっている。

「フェイトも今の状況判ってるよね? 私、魔導師ランクも持ってないし教会側の人間だよ?」

 こんな時に元とは言え管理局の教導に参加しなきゃいけない理由がわからなかった。撮影に協力したりシグナムやヴィータに魔法を教えて貰ったけれどアリシアは完全に聖王教会側だ。
 半分責める様に言った時、それまで黙っていたフェイトが振り向いて言う。

「姉さん、前に飛び込み過ぎてる。気づいてなかったんじゃない?」
「そんなこと…」

 言い返そうとしたが彼女を見て迫力に気圧された。
 普段の優しい眼差しが全く感じられない。

「私、あっちの世界でなのはと一緒にグランツ研究所で姉さんのデュエル全部見せて貰ったんだ。最初は初めて遊ぶブレイブデュエルを楽しんでるって思ってた。でも…恭也さんと美由希さんのキャンプの話を聞いたら直ぐに行きたいって言ったり、歩けなくなるかも知れない技…教えて貰ったりしたでしょ。前の姉さんならヴィヴィオのサポートはしても姉さんが前に出るような事はなかった。違う?」
「うん…でもっ!」
「ヴィヴィオの隣で歩きたいから…、でも姉さんは何処までが安全で何処からが危ないのか足を踏み入れられるのか気付いてない。さっきも先生が見るまで気付かなかった。このままじゃ姉さんは絶対怪我しちゃう…ううん怪我じゃすまない。」
「ヴィヴィオは多分…今までの事件で判ってる。何処から危険で何処まで安全か…。だからブレイブデュエルでも相手の事を考えて動いていた。でも姉さんは違う…相手を誘い出す風にしか動いてないし危険な距離にも気づかずに踏み込んでる。その違い…わかるよね?」
「それは…」
「あの世界はゲームの中だったから? じゃあこっちなら無茶しない? ううん、きっとする…判ってたから士郎さん…なのはのお父さんはヴィヴィオに見せた。」
「グランプリの決勝でヴィヴィオは姉さんが疲れるのを待って反撃しても良かった。でもそうしなかった。どうしてかわかる?」
「………」

 言われてみて思い出す。
 グランプリの決勝であの速さは長時間使えない。騎士甲冑を纏った彼女が完全防御に徹すればアリシアは疲れ動けなくなるからそこまで待てば無理しなくても確実に勝てた。でも彼女はそうしなかった。

「使ってる最中のアリシアに勝たなくちゃ姉さんはあの技に魅せられる。対抗できる方法を持ってるって姉さんに見せつける為にヴィヴィオはあの時に勝つしかなかったんだ。」
「話を戻すけどコラード先生には私からお願いした。姉さんは踏み入れちゃいけない場所を知らなくちゃいけない。」

「姉さん、姉さんは知らなくちゃいけない。姉さんがここで生きている意味を。」

 心に突き刺さる言葉。街頭の明かりに映ったフェイトの瞳からアリシアは視線を離せなかった。

~コメント~
 今話はヴィヴィオがForce世界に行っている間の元世界の話です。アリシアとなのはの心境変化とブレイブデュエル編で見たアリシアを危惧するフェイトでした。

 フェイトは以前自分を生み出したプレシアがどれ程アリシアを想っているのか知っています。ヴィヴィオの時間移動魔法のおかげでプレシアとアリシアが一緒に暮らしている今の時間がどれだけ大切なのかもプレシアと同じ位感じている1人です。
 そんな中で異世界のアリシアの状況を知った時、もし同じ未来がここの彼女にも起きるのであれば…と考え、ヴィヴィオに並ぼうとしているアリシアに気づかせる為の方法としてかつての恩師コラードに依頼しています。

 少し話は変わりますが、来週中に無事退院できるそうで胸をなで下ろしております。半分水みたいなお粥から離れて早く普通のご飯を食べたいです。
(差し入れでリリカルマジカル21で頒布された本を貰いまして10年経ったなのはの世界はまだまだ続いているんだなと嬉しかったです。) 

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