第53話「急転」

 子供ヴィヴィオ達が寝静まった深夜、ヴィヴィオはアリシアと一緒にチェント達が持ち帰った資料を見ていた。
 話の様子からだけど、なのは達はラプターの危うさを知っていた気がする。それでも何故進めようとしているのかを考えていた。

「ねぇ…どうしてラプターをそこまでして作ろうとしてるのかな?」

 アリシアに聞く。

「そうね~あくまで私の考えだけどいい?こっちの管理局は人材不足が本当に深刻で乗り気で無くても参加せざる得ない状況に追い込まれちゃってるのかも。」
「参加せざる得ないって?」
「ここって母さんが居ないでしょ。母さん、プレシア・テスタロッサが開発した魔力コアは聖王教会や管理局でも使ってるよね。魔力コアの凄い所は魔力資質を持ってない、凄く弱い人でも優秀な魔導師になれる。魔法力を使い切った魔導師でも魔力コアを使えば魔法が使える。私達から見れば当たり前の話だけど、魔力コアが無い世界と比べたら凄い世界なんだと思う。」
「…そっか、何もラプターを作らなくても…」
「そう、人材不足かは置いておいて私達や子供の私達の世界じゃ魔力が弱い人でも行けるし、極限状態になりにくいよね。」

 魔力コアのストックさえあれば魔力枯渇にはならない。それは生還率にも影響する。

「そんな母さんがProjectFateの研究を続けてるのはヴィヴィオやチェント、チンク達の為で実験はしてない。違法なのを知ってるし何よりフェイトみたいな子が生まれて欲しくないと思ってるから。」
「管理局も聖王教会も母さんに逆らってまでラプターは作らない。コアの応用した方がもっと助かる物も出来るよね。」
「コアがあれば誰でも魔法が使える世界を母さんは作った。母さん、リンディさんやレティさんとも仲良しだし…私達のデバイスだって母さんとマリエルさんの合作でしょ。聖王教会と管理局の仲も良い感じだし。」

 言われて気づく。プレシアの存在がここまで大きいと考えると、ここはそれがすっぽり抜け落ちている。純粋な魔力エネルギーだから出来上がった物をコピーは出来るけれど、基礎構造が判っていないからそれ以上の応用が出来ない。暴発を気にしているのか実験で実際に暴発させているのかは判らないがそこで止まっている。

「ここのヴィヴィオも時空転移が使えたらいいのにね。」

 時空転移のきっかけがPT事件なのだから、彼女が居ない時点でここのヴィヴィオは時空転移が使えない。

「それはどうかな? 使えなかったから…別の道に進んでるのかも、ストライクアーツのミッド代表だって。」

アリシアが持って帰ってきたニュースの1つに彼女が載っていた。

「それに使えていたら…私達が来なくても良かったよね。」
「そうだね。ヴィヴィオの性格なら抱え込んじゃうでしょ。あの子みたいに。」

 寝室の方を向いて笑うアリシア。
 オリヴィエからメッセージを受けたのは私達、アリシアが復帰した時点で彼女を帰しても良かった。でもそれじゃ彼女は納得しないし、彼女の考え方は私達が考えている事件や自分の時間軸ではなくもっと広い視野で何かを見ている気がする。それは彼女が時間軸の主だからだろうか?。
 そんな事を考えている自分がおかしくなって笑う。

「クスッ、じゃあ私達は小さな聖王様のフォローしましょうか。私達が出来る事で。」
「だね」

 互いに苦笑した後欠伸が出て微睡みが訪れたのを知り隣の寝室へと入っていった。 



 翌朝ヴィヴィオはアリシアとチェントと一緒にミッドチルダ北部、ベルカ自治領の海岸に来ていた。

「『作戦に大切な物があるかを確認して欲しい』…って何があるんだろうね?」

 3人とも作戦そのものを教えて貰えず『大体この辺にある筈だから見つけてきて』と送り出された。大人のヴィヴィオとアリシアも作戦前に何か用事があるらしい。
 目の前の海と背後に広がる森林地帯、ここで何を探せばいいのかも判らない。

「とりあえず、上を見回っても無さそうだし海の中に潜って探そう。チェント、バリアジャケット着て。アリシアは私と一緒。いつ何処でジャケットが要るようになるかわかんないから温存で」
「うん」
「わかった」 
「RHdお願い」
【Yes.StandbyReady Setup】

 ジャケットを纏うと

「わぁ~♪」

 アリシアの声が聞こえて振り向く。

「どうしたの…わぁ♪ チェント格好いい~。それどうしたの?」

 声を出した理由が判って彼女を見る。

「わ、私のジャケットです。この前は鎧を全開しなきゃいけなかったから…」

 2人が見て声を上げたのは彼女のバリアジャケット、ブレイブデュエルのセイクリッド、それも濃い紫色、シュテルが使っていたジャケットにそっくりだったからだ。

(あっちもこんな風に繋がってるんだ…)

 思わず変な所で納得するヴィヴィオだった。

「さ、先に行きますっ!」

 顔を真っ赤にして走って海に飛び込むチェントが可愛くて頬が緩む。

「クスッ、じゃあ私達も行くよっ♪」

 アリシアの手を取って後を追いかけ海に飛び込んだ。



(……アリシアさん、何を一体探せばいいのかな?)
『海ってあんまり潜った事ないんだけど綺麗~、光がキラキラしてるし魚もいっぱい』

 周りをキョロキョロしているアリシア

『綺麗だけど、遊びに来たんじゃないよ。早く見つけなきゃ』
『探してるよ~、でもこういうのも楽しまなきゃね』
『クスッ、お姉ちゃんらしい』

 チェントが笑う。

『も~っ、見ていてもいいから私から離れないでね』

 そう言って少し速度を上げた。
 最初は綺麗だった海もどんどん沖から更に深い場所へと向かうと魚も減っていく。

(私達、何を見つけたらいいのかな?)

 ヒントとなりそうなのは大人アリシアの

『大丈夫、ヴィヴィオとチェントが居れば見つかるから♪』

 笑顔でそう言っていたけれど捜し物が判らない以上見つけた物が当たりだと言えない気がする。
 海に注ぐ光が少なくなっていき逆にヴィヴィオが自分とアリシアを守る為に作っている聖王の鎧が灯りの代わりになっていく。その中で

『ヴィヴィオ、私もジャケット着たいんだけどいい? ちょっと寒くなっちゃった』

 普通の服姿のアリシアが体を震わせた。
 でも聖王の鎧の中でいきなりバリアジャケットになるのも少し不安でここまで深いと…

『チェント、1度戻ってアリシアのジャケットを…』
(…何?)

 戻ってジャケットを着てと言おうとした時、底の方から何か感じる。もっとずっと奥の…

『ごめん、アリシア少しだけ我慢して。チェント、飛ぶからこっちに来て』

後ろをついてきていたチェントが近づく

『見つかったの?』
『ううん、何だかわかんないけど変な感じがする。チェントはしない?』
『えっ? 私は…まだ何も感じないけど』
『場所はもっと深いみたい、一気に飛ぶから鎧の中に入って』
『う、うんっ』

 チェントが入ってきてアリシアが私にギュッと捕まったのを見て悠久の書を取り出す。

(お願い…私達を今感じてる場所へと連れて行って)

 直後ヴィヴィオ達の姿は光と共に消えた。
 


「っと…ここは?」

 トンッと足音を鳴らして降りたのは真っ暗な中だった。でも海水は無く空気がある。それに…何処か知ってるような気もする。
「明かり明かりっと…」
 アリシアがリュックの中からライトを出して辺りを見回す。

「ここ凄い広い部屋だよ…そうだ! ヴィヴィオの魔法で照らせられない?」

無茶な注文をしてくる彼女に

「やってみる。10個くらいなら…」

 魔法球を作り出して部屋の大きさを測りながら徐々に大きく回転させていく
でも…そこは…

「…………」
「…ウソ…」
「…ここってまさか…」

 そこはヴィヴィオもアリシアも…そしてチェントも知っている場所だった。



 一方で大人ヴィヴィオと大人アリシアも動き出していた。その中で

「チェントからメッセージが来てる。『探し物は見つかった。動くまで3~4日くらいかかる』って」

 念話じゃないから誰かに見られても良いように考えたらしい。話を聞いてヴィヴィオは少し驚く。

「本当にあったんだ…。じゃあ私達のリミットは特務6課の動き次第だけど今日と明日くらい?」
「うん、十分でしょ。」
「じゃあ行くよっ!」

 そう言うと詩編を紡ぎ生まれた虹の光に飛び込んだ。



「はぁ…」

 翌日、高町なのはは特務6課でトーマ達の教導をしながら溜息をついていた。
この前ヴィヴィオに言われた事が引っかかっていた。
 自我が無い物だけを選んで使うのは本当に正しいの?
 デバイスは道具? じゃあレイジングハートやリイン、ラプターも道具?
 魔導師とデバイス、人と物の違いって何?
 答えが簡単に出る訳でもない問題だけれど、彼女に言われて余計に考えこまなくてはいけなくなった。
その時

『緊急呼集、緊急呼集。高町教導官、ハラオウン執務官は至急部隊長室まで来て下さい。』

 突然のアナウンスを聞いて振り返る。

「スバル~、少し行ってくるから少しの間よろしくね。」

 トーマ達と一緒に練習していたスバルに声をかけて小走りで隊舎へと向かった。



「失礼します。遅くなりました」

部隊長室に入ると既にフェイトとティアナ、シャーリーが待っていた。空気が張り詰めているというか全員の顔が強ばっていた。

「何かあったの?」
「うん、シャーリー悪いけどもう1度最初からお願い。」
「わかりました。」

 シャーリーは頷くと端末を開き話し始めた。
 先程、特務6課宛てに荷物が届いた。受け取った局員は宛先は特務6課としか書いていなかった為念の為中身を確認して開封するとそこにはデータメモリと小瓶が入っていた。
 流石に何かのウィルスの可能性も考えた局員はその手に詳しいシャーリーに声をかけ荷物を渡した。
 受け取ったシャーリーがデータメモリの中身を…それはウィルスではなかったが彼女を震撼させるには十分過ぎた。

 ヴァンデイン・コーポレーションの専務取締役ハーディス・ヴァンデインが今まで行ってきたエクリプスウィルスとレプリカウエポンの違法製造や実験データ。更に先日爆発したルヴェラの遺跡での研究内容やそのデータが入っていたからである。
 データの中には彼が直接指示したメッセージやその時の会話を含む映像まであった。
 そしてそのメッセージには彼がエクリプス適応者であり、ECウィルスを無効化する物として小瓶を同封し、小瓶の中身についての製法も記載されていた。

 聞いた瞬間なのはも表情を強ばらせる。
 ECウィルスを開発した黒幕の存在とそれを立証できる証拠、そして解毒方法までが揃って送られてきたのである。
 どれも特務六課で捜査中、研究中な物ばかり。

「一体誰がこれを…」
「わからん…本物かどうかもわからんから小瓶の方はシャマルに渡して調べさせてる。こっちのデータも幾つかの裏付けが取れればヴァンデインへの捜査令状やハーディスの逮捕出来る。こっちの裏付けは終わったから今本局に確認取ってる。」
「特務6課が1番忙しい日になる、確認出来たら直ぐ動くよ。全員出動準備」


 一方、同じ頃ヴァイゼンの森林地帯に身を潜める飛空挺フッケバインの中でフッケバインの首領、カレンの前に1人の女性が立っていた。
 2人は頷き女性は手に持った小瓶を彼女に渡し2~3話した後消えた。



 その日、特務6課は昼には慌ただしさの中にあった。
 先日のデータの裏付けと小瓶の中身の検証、ヴァンディン・コーポレーション全社への家宅捜索、ハーディスの逮捕・拘束を同時にしなければならなかった。
 複数の次元世界に渡る前代未聞の事件において証拠を消される前に動かなければならない。
 特務6課の権限や人員だけでは難しくフェイトから上司へ依頼し各世界へ急遽執務官が派遣され、その中継役としてティアナとウェンディ、ギンガ、チンク、ディエチが本局へ戻り、彼女自身もヴァンデイン・コーポレーション本社の強制捜査と取締役ハーディスの逮捕に向かった。
 その傍らで対ECウィルスの確認が急ピッチで行われ適応者とされたハーディスに投与された。
 
 スバルやエリオやキャロ、トーマやアイシス、リリィ達もそれらの警備で走り回りその状況は翌日陽が昇った頃にようやく落ち着き、一旦隊舎に戻れたのは昼前だった。


 
 だがその直後特務6課に急報が飛び込んできた。

「はやてちゃん! 本局より命令書が届きました。」

 執務室に戻って来たばかりのはやてにリインが飛び込んでくる。

「最優先指令、現在の全ての任務を停止しヴォルフラムを伴いミッドチルダへ緊急帰投せよ。」
「無茶苦茶や! こっちは今1番重要な時間なんや、猫の手も借りたい位忙しいのに全部停止してミッドチルダに戻れって? 誰やその命令出したん!」

 その命令を聞いた直後、はやては激高した。流石のリインも彼女の怒り具合に身を竦ませる。

「それが…レティ・ロウラン提督です。」
「…!!」

 開いた口が塞がらなかった。

「【ミッドチルダで緊急事態発生、特務6課の総力を以て制圧せよ】だそうです。映像データ来ます。!?」
「………うそやろ………」

 その時、はやては次の指示を出せないでいた。それは…目の前で起きていることが信じられなかったからだ。

「はやてちゃん…これって…」
「……そうや……古代ベルカのロストロギア…」
「……聖王のゆりかご……」

見間違える筈のない巨大な船、聖王のゆりかごがミッドチルダの空を進んでいたのである。

~コメント~
 ようやく最終章突入です。
 元の話はなのはForceの後半付近なのですが、思いっきり変わってしまっています。今まで大人ヴィヴィオと大人アリシアの異世界コンビでの行動は1回だけでそれも情報収集でした。今話2人は本気モードになっています。

 ヴィヴィオの時空転移は悠久の書にイメージを送るか、悠久の書自体がある程度意思みたいなものを持っていてそのイメージ先に転移します。
 ですので結構曖昧だったり無茶ぶりもしています。(逆に知らない場所に飛ばされたりもしましたが…)

 大人ヴィヴィオの時空転移は刻の魔導書にイメージを送り、返ってきた詩編を口にしなければ飛べませんし、ズレも起きます。でもその辺は長くつきあってきた分だけある程度調整できるのかなと…
   
これから展開が慌ただしくなります。



 

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