第52話「聖王の意思」

「本当にいいんだね」
「うん…」

 ヴィヴィオは頷く。
お昼前、ヴィヴィオは大人ヴィヴィオと一緒にヴァイゼンへとやってきていた。

【ママ達が知っているのかを確かめたい】

 目的はなのは達がこの話を知っているのかという事、もし知らなければ知ってどうするかを聞きたかった。
ここのヴィヴィオから借りた市販端末を使ってなのはとフェイトにメッセージを送り待ち合わせ場所に行く。
 その頃残った大人アリシアはリビングで複数のウィンドウを開いて操作していた。

「何をしてるの?」

 アリシアは後ろから覗き込む。市販の端末で昔のミッドチルダの地図や最近のニュースのデータを幾つも出している。

「ん? うん、この後どっちに動くかわかんないけどその準備。」
「準備? 私も手伝おうか?」
「まだ大丈夫、それよりこれから起きる事をしっかり覚えて…受け止める準備をして欲しいかも」
「?」 

 これから何が起こる? 意味が判らず首を傾げる。大人アリシアはキーを打つのを止め振り向く。

「ヴィヴィオが…ううん、私達が動けば未来は大きく変わっちゃう。もしここの未来でラプターが色んな世界で活躍し始めて沢山の人を助けていたら…ラプターが無くなっちゃった未来ではどうなると思う?」
「それは…」
「勿論そうならない可能性もあるよ。私達が動くっていうのはそういうこと。私達が目指す良い未来が誰にとっても良い未来とは限らない。変えるってことはそれだけの代償があるんだよ。」

『時空転移が使える様になった時はこの魔法で時間を好き勝手に変えるのはいけないんだと思ってた。だって私が好き勝手に変えちゃったら…もし私が嫌いな人が居たら消しちゃえって簡単に出来ちゃうんだよ。私は神様じゃないんだから過ぎた力だって。』
『でも今はそうじゃなくて、もし私の魔法で良い世界に出来るなら変えていきたい。きっとこの魔法を作った人が王様になったから聖王って呼ばれる様になったと思うから。』
『だから、ここに遊びに来ようって思った時から未来が変わるのは判ってた。でも変わるなら良い世界にでもできるよね?』

 ブレイブデュエルの世界でヴィヴィオが言った言葉を思い出す。
 私自身、世界が変わるのはチェントの時に知った気でいた。あの時は変わってしまった世界を元に戻す為で自身の動きで変わるという事の実感は無かった。
 でも…
 唾をゴクッと飲み込む

「わかった…」

 ここに来たのはただついて来たかった訳じゃない。
 ヴィヴィオと一緒に居ると言うことはそういうこと…目の前の異世界の私はそれをもう知っている。

「じゃあ…そうだな~、ちょっとお使い頼んで良い? チェントと一緒に図書館でJS事件のデータを集めてきて。メディアに出た物だけでいいから」

 今度こそ何を考えているのかとチェントと一緒に首を傾げた。



 ヴィヴィオ達はなのは達と合流した後でカフェに来ていた。カフェと言ってもオープンテラスではなく5人以外は居ない個室タイプ。
 特務6課の部屋ではヴィヴィオが2人居るのを見て騒がれるし、立ち話で済ませられる様な話でもない。そこでヴィヴィオは以前はやてに見つかった時を思い出して個室式のカフェを提案した。
入って飲み物を頼んでスタッフが持ってくる迄はたわいの無い話をしていたが、スタッフが出た後3人に対してラプターの廃棄された写真とレポートを見せ目的を話した。

「これだけの捜査能力、うちにも欲しいな…って冗談は置いといて、ヴォルフラムや実験施設への不法侵入、十分逮捕案件やね。前に言ってくれたら協力するよって話したの忘れてる?」

 一通り話した後、はやてが言う。口調は笑っているけれど目は鋭く光っている。

「言ったら許可してくれましたか?」
「…まぁ…無理やね。ラプターについては実験中やし廃棄理由の報告は受けてた。でも魔力結晶体は初めて聞いたな。これ本当に異世界の技術?」
「魔力コアはアリシアが持って来てた物じゃないかって考えてます。彼女が魔法を使ったのはルールーの世界での練習…」
「私達もあそこに居たけど持ち出してない。勿論ルーテシアやヴィヴィオ達もそう。」

 フェイトの返事にヴィヴィオも頷く。

「うん、私もママ達を疑ってないよ。1つだけ心当たりがあるの。ルールーの世界に行く前、ヴィヴィオとアリシアが誘拐されたでしょ。私も詳しく聞いてないからわかんないけど、あの時使っていたら…」

 ヴィヴィオが彼女の所に着いた時、誘拐犯は全員アリシアが倒していてこっちのヴィヴィオが縛られていたのを外していた。アリシアも彼女と同じ様に縛られていた筈、AMFの中で彼女はどうやって拘束を外したのかと考えた時その可能性に辿り着いた。 

「判った、そっちは私の方で調べるよ。だから…」 
「コアについて調査は不要です。それより、今の話を聞いてもラプターの実験を続けますか? ラプターが正式採用された後、未来がどうなるかはさっき話しました。」

 大人ヴィヴィオがはやての言葉を遮る。

「でもそれはあくまで可能性だよね? 何もそうなるって決まった訳じゃないよね?」
「ヴィヴィオ達の話も判るけど私達が注意すればいいんじゃないかな」
「そうならないなら私達は来ていません。違いますか?」
「それは…」
「………」

 彼女の言葉になのはとフェイトが言い淀む。

「そっちのヴィヴィオは経験したことない? 事件でもう少しで手があれば解決できた、あと少し力が手があれば助けられたって。

 極地の局員ほどそういう経験は多くなって後悔に苦しんでる。ラプターは事件や民間人だけやない、局員を救うにも必要なんや…。」
「でもっ!」
「ヴィヴィオ達が心配してるのも判るよ、でも…止められへん。」
「…はやてさん、それ…本気で言ってるんですか? 」

 隣で座っていた大人ヴィヴィオの目に鋭さが増し、拳をギュッと強く握る。

「はやてさん、なのはママ、フェイトママっ!」

 ヴィヴィオもはやてが何を言ったのか直ぐに理解出来なかった。
 頭の中では事情を話せば判ってくれる、少なくともラプターはこれ以上作られない、そう考えていた。でも彼女は…違った。

「……これは私達だけの意思で止められない。もっと…管理局全体にも関係しているし、はやてちゃんが言った通り民間人や局員を助ける為にも必要なんだ。」

 フェイトが私の目を見て言う。彼女の表情から真剣だとわかる…でも

「それが未来のフェイトママやエリオ、スバルさん達…の人達が辛い目に遭うってわかっていても?」
「…うん。でも今ママ達はヴィヴィオから未来にこうなっちゃうっていう話を聞いた。だからそうならない様にする。それだけでも未来は変わるんじゃないかな。ヴィヴィオ、私達を信じて。」
「………」

 なのはに言われて答えられず悩む。大人ヴィヴィオの方を見ると彼女もこっちを向いた。

「……母さん達の考えは判りました。私達ももう少し調べてみます。ヴィヴィオ…行こう」

 そう言って私の手を掴んで席から立ち上がる。ヴィヴィオも連れられて立ち上がり扉の方へと歩く。

 「ねぇ…みんなどうしちゃったの? 私を助けてくれた時のママ達は何処に行ったの?」
(ヴィヴィオ…)

 部屋を出る前に彼女の目尻に浮かんだ滴が落ちるのが心に残った。



「……ごめんね、辛い役目を押しつけちゃって」

 2人を見送った後、なのはがはやてに言う。

「ええんよ。あそこまで調べてきてるのは予想外やったし…私もラプターの開発協力受けた時からずっと心のどこかで思ってたから。」
「…それでも進まなくちゃいけないんだよね。」

 なのはもはやてもフェイトも2人の気持ちは痛いほどわかっていた。わかっていたけれど…それでも進むしかなかった。
 彼女達もそうだが、特務6課の全員が何処かで同じ思いをしているのを知っているから…

「そうやね…なのはちゃん、フェイトちゃんも頼むな♪。」

 無理な笑顔を作って言う彼女を見て、なのはもフェイトと顔を見合わせ

「「うん」」

強く頷いた。



一方で

「ごめんね…あんまり悔しくって、出てきちゃった。」

 大人ヴィヴィオが私の手を離して言う。少し歩こうかと言われて隣についていく

「いいよ。私も同じ気持ちだったし。」
「私もね…はやてさんや母さん達が言った意味もわかるんだ。もう少しで助けられた、あと少しで何とかなったって思った時は何度かあったから…もしあの時ラプターが近くに居ればって。だから作らないでって言えなかった。だけど…止められないって直接言われてちょっとショックだった。」

 彼女の顔を見る。前を向いているけれど少し悲しそう…

「私は…あんまりわかんない、『あと少し~』っていうのは私もわかる。でもその時感じた悲しさや辛さがあるから私はここに居るんだって思ってる。悲しいことも辛いこともあるけど、楽しい事や嬉しい事も沢山知って私はここに居るんだって。」

 答えると彼女は前に回り込んで私の顔を見る。

「それで…誰が死んじゃって…それを目の前で見ててもそう言える?」

その言葉がグサリと胸に刺さる。

「…うん。それが時間を、未来を変える理…だと思う。」 

 頷く。

「強いね、ほんと強いよ…私よりずっと子供なのに…」
「………ん? ひど~い! ヴィヴィオから見たら子供だけど…胸もあんまり大きくないし…でも毎日大きくなってるんだから、ほんの少しずつだけど…」
「アハハハ♪ 誰も胸の話なんてしてないでしょ。しっかり食べて寝て勉強や色んな事に頑張っていれば自然と大きくなるよ。私がそうだったんだから。」

 お腹を抱えて笑う彼女に頬を膨らませる。

「ありがと、ちょっと気分紛れた。これからどうするか作戦考えよう」

再び差し出された手を握って悠久の書を取り出しその場から飛んだ。



「おかえり、ヴィヴィオ」
「あっ、おかえり~♪」

 ヴィヴィオ達が戻ってくるとアリシアが2人で出迎えてくれた。

「あれ? チェントは?」
「お買い物。アレ、1人分しかないし。」

 アリシアに【アレ】と言われて何か判らなかったけれど頭にかぶるジェスチャーを見て持って来たウィッグを付けて行ったらしい…
 私とチェントはここのヴィヴィオと見間違われないように変装しないといけないのだけれど

(本当に大活躍だね♪)

持って来て良かったと思う。

「帰ってきたら先にこれからの事相談しようか。」
「そのつもり」
「えっどうして!?」

 何も話してないのに大人の2人が何も言わずに意思疎通しているのを見て思わず2人を見る。

「ヴィヴィオだからね~」
「アリシアだからだね♪」

既に判っているらしい。凄いと驚く。

「? はい、喉渇いたでしょ♪」

 もう1人のアリシアはコップにジュースを注いで持って来た。

「まぁこれもある意味で以心伝心だね。アリシアありがと」
「クスッ♪そうね」
「ありがとアリシア」 

2人に言われて少し嬉しいヴィヴィオだった。



 それから1時間程経って、チェントが買い物から帰ってきて再びこれからどうするかを相談する。
 最初に私達の話はここのなのは・フェイト・はやてに断られたのを話すと

「ヴィヴィオ、私をフェイトのとこまで送って! 今から行ってお説教しなきゃ!」

 激怒したアリシアが立ち上がって言った。

「そんな事しても意味ないわよ。」
「私も…そう思います。」

一方で大人アリシアとチェントは椅子に座ったまま答える。

「どうしてよ。」
「先ずは落ち着こう。ヴィヴィオが言ったでしょ、ラプターは管理局が進めているから局員としてフェイトもはやてさんもなのはさんも止められないって。あなたが行って止められるなら2人が行った時点で止まってるでしょ。そう思わない?」
「………」

 大人アリシアが諭すとアリシアは無言のまま再び椅子に座った。

「…でもっそれじゃどうするの? このまま無理でしたって帰るつもり?」

 アリシアに言われて大人アリシアは手を口元に持っていって考える。

「そうね~、ラプターだけを止めるのは簡単なのよね。でもこれから先に似た技術が出来たら同じ事の繰り返しになる…ヴィヴィオ、どうする? 私達の方法でしちゃう?」

 彼女は隣に座った大人ヴィヴィオの方を向いて聞く。

「私は…ううん、私よりヴィヴィオ、ヴィヴィオがどうしたいか教えて。」
「えっ?」
「いいから、ヴィヴィオ教えて」

 大人ヴィヴィオは対面に座った私を見て聞いた。その様子に大人アリシアを含む3人が少し驚いた様に見えた。突然振られて少し驚いたけれど考えながら話す。

「私は…どうすればいいかわからない。わからないけど、失敗品のラプターが積まれていたのと同じ様に人造魔導師やProjectFateみたいな技術で生まれた人達がなっちゃうのだけは絶対に止めさせたい。そうなっちゃったらきっと…ううん、絶対未来は酷くなる。」

 何をどうすればといった具体的な方法は全くわからない。でも…絶対見たくない未来はある。

「アリシアさんが言ったみたいにラプターを止めるだけじゃ終わらない。もっと…」

 管理局が…管理局だけを止めても駄目。もっと何か…そう考えていると何故か以前アリシアが言った言葉を思い出す。

『闇の書事件やはやてさん達って本局内でもまだ悪い印象持ってる人が多いんだって。だから民間からの声大きくしてその考えも少しずつ変えていきたい。その為には前以上に沢山の人に見て貰わなくちゃいけない。』
(…あっ…そうか…)

 闇の書事件でのはやて達の印象を変える為、リンディは局内から変えるのではなく外の声を大きくしようとした。管理局は次元世界を法の下で管理しているだけに過ぎない。管理世界の住人の声を無視は出来ない。

 同じ様な事がこっちでも出来れば

「もっと…もっと沢山の人に知って貰えたら、それでどんな未来が良いか選んで貰えればいい。」
「それでも同じ未来に進んじゃったら?」
「その時は…それがここの世界が選んだ未来、でも…私はそんな未来を選ばないって信じてる。」
「………」
「私も同じ気持ち。アリシア、これで作戦出来る?」
「わかった。明日まで待って。あと少しでまとまりそうだから。」

 大人アリシアが笑顔で頷いたのを見て

(…あ…なにか判った気がする)

 頭の中にあったモヤモヤが少し晴れた気がした。



「あっちのヴィヴィオ、凄いね~」

 夕食の準備を子供達3人に任せてヴィヴィオはアリシアのデータ整理を手伝っていた。その最中彼女が話しかけてくる。

「でしょ。やっぱり私だね。」
「誰もあなたを褒めてないし」
「ひどーい!」  
「酷くない。あの年であんな考えができるんだからあっちの私が暴走するのも判るわ…その辺、こっちのヴィヴィオの方が楽よね。」
「さりげなくそれも酷くない? 私いじめられてる?」
「酷くない、暴走のサポートも大変って言ってるの。それより、考えた作戦なんだけど…先にこれだけ潰さないと終わったら野放しになる。ここは私達だけで出来る?」

 モニタにでた作戦案を見て思わず吹き出しそうになる。
 ここまで荒唐無稽と言うか破天荒な作戦を立てられる彼女は正直怖い。
 でも彼女が指で示した1点を見て…笑みが消える。

「うん…これは私達だけで潰そう。やられっぱなしにはするつもりないからね。」
「よしっ! じゃあ後は…アリシアの持って来たデータから欲しいの見つけられたらいけそう。」

ニヤリと笑う彼女にパートナーで良かったと心から思うのだった。


~コメント~
 本話は推敲段階で1番悩みました。
 でも実際に話してみるとすんなり言葉が出てきました。
 ヴィヴィオと異世界のヴィヴィオ、アリシアと異世界のアリシア&チェント 考え方の違いがASシリーズを経てきたヴィヴィオの考えなのかなと思います。


さて話は少し変わりまして今後のイベントについてです。
先日コミックマーケット91の当落発表がありました。

 31日東ヌ-36a「鈴風堂」です。

新刊情報は随時掲載いたします。
※決して●●ニクルやホラ●●ンと勝負するつもりはありませんので安心下さい。 

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