第51話「オリヴィエからのメッセージ」

『アリシア、今いい?』

帰宅後、ヴィヴィオと一緒に居ても届いたメッセージの事が頭から離れなかったヴィヴィオは意を決してアリシアに念話を送った。
 遠く離れていたりすると使えないし、デバイス間の通信の方が便利なのだけれどここでデバイスを使うのは色々憚られるところもあるし念話だと彼女が話さなければ聞かれる心配もない。
 外に出て念話を飛ばす。

『うん。チェントと一緒に夕食作ってるところだけど大丈夫。そっちはどう?』


 
 
 いつもと変わらない感じでホッとする。

『さっき大人の私達から明日朝帰って来てってメッセージが届いたんだけど…何か知ってる?』
『う~ん、こっちにはメッセージ来てないよ。チェントも知らないって。まだ2人とも帰ってきてないんだけど、連絡してみようか?』

 彼女達も知らないらしい…

『ううん、何かあったのかなって気になっただけだから。あっそれとこっちの私達すっごく強くなってるよ。魔法なしの格闘戦じゃ全然適わいんだからビックリしちゃった。』
『へぇ~、凄いね。事件が終わったら一度模擬戦したいね。』
魔法なしならば私よりアリシアの方が圧倒的に強い。彼女もそれが判っているからちょっと腕試ししたいと考えているらしい。
『アリシアもこっちに来ようよ?』
『話を聞いて行ってみたい気もするんだけど…、もうちょっと我慢。私達の事はまだ秘密にしてて。』
「ヴィヴィオ~、一緒にご飯作ろ~♪」

 リビングから窓を開けてヴィヴィオが声をかけてきたのを聞いて 

「は~い♪」
『じゃああっちの私達に『わかりました。明日朝に帰ります』って伝えて。』
『はーい』

 何か起きたのかと思ったけれどそうではなかったのを知ってホッとするヴィヴィオだった。



 翌朝、こっちの私が登校するのに合わせて家を出たヴィヴィオはそのままマンションへと向かった。

「ただいま~」

 外から声をかけると、中で足音がしてドアが開いた。

「おかえり。急に呼び戻しちゃってゴメンね。」

 顔を見せたのは大人アリシアだった。

「ううん、何かあったのかなって心配してたんだけど…」

 そう言うと彼女は少し悲しそうな顔をして

「まぁ…何かあったのはあったんだけど…その話を今からしようと思って呼んだんだ。ここじゃなんだから入って」

 何か判ったらしい。ヴィヴィオは頷いて部屋へと向かった。



「全員揃ったから始めるね。その前に…ヴィヴィオ、アリシア、2人にはとても辛い話になると思う。ここまで巻き込んじゃってだけど、2人で帰ってくれてもいい…」

 椅子に座った途端、大人ヴィヴィオが私とアリシアを見て言った。

「意味わかんないんだけど、それってどういう事? 私が勝手についてきたから? 私達が子供だから? 邪魔って言いたいの?」

 アリシアが大人ヴィヴィオをにらむ

「ううん、そうじゃないの…ごめん。言い方が悪かった。じゃあ話すけどきちんと受け止めてね。」

 そう言うと大人ヴィヴィオと大人アリシアは話し始めた。

「私達は昨日カレドウルフ社の実験施設に潜入してきた。プレシアさんが言ってた特務6課と共同開発してるラプターについて調べるのが目的。ラプターを調べたのは私達の探してる原因とは無関係だって判ればこっちの母さん達やはやてさんに協力して貰えるって考えてたから。潜入してデータとかも色々入手出来た。その中にこのデータは…あったんだ。」

 そう言って見せたのは何かの集まりとも思える画像だった。
 見た瞬間バッと口を覆うアリシア、ヴィヴィオは最初は何かの山と思って凝視する。その中で見えたのは人の手らしきものと少し大きめなヘッドデバイス。  

「これは実験途中に廃棄されたラプター…だったものの残骸。廃棄理由は自律プログラムの異常でシステムに馴染めなかったから。」

 うめき声を出しかけてヴィヴィオも口を塞ぐ。

「…酷い…システムに馴染めなかったって?」

 眉を細めながらもチェントが聞く。

「母さんがラプターには存在矛盾があるって言ってたでしょ。考えてみて、自律プログラムがインテリジェントデバイスやユニゾンデバイスみたいに固有の自我を持っていて、自分と同じものからデータが送られてくるんだよ。見たり聞いたり感じたデータが何人も…何十人もから送られて来たとしたら耐えられると思う?」

 小さく首を横に振る。どんな状態になるのかすら判らないけれどとてもじゃないがそんなモノが頭の中に流れ込んできたら…耐えられない。
 私は本当に私自身なのか? 別人じゃないのか? 考えた末に心が壊れるだろう。  

「でも、ラプターも実験中だからこういうのも…仕方ないっていえば仕方ないのかも知れない。でも…ラプターの設計資料のラプター間の同期をさせるシステムがこれ…」

さっきの写真を消して次に出したのは設計図。でも何をしているものかは全くわからない。大人ヴィヴィオがその図を拡大させてある部分を見せた。ヴィヴィオとアリシアの目が大きく開かれ、体が震える。

「ラプターの動力は内燃バッテリーだけどそこの動力に使われているのは高魔力結晶体…魔力コアのコピーだよ。」
「魔力コアの設計者はプレシアさんだけどここにはプレシアさんは居ない…PT事件で亡くなっているからこれは作れない。でも魔力コアはここにある…」
「………私が前に来た時使ったのが原因…」

 この世界が魔力コアを手に入れられた機会は2回ある。
 1回目はヴィヴィオが消えてアインハルトが探しに来た時にアリシアが使ったもの。
 2回目は夏休みに2人で遊びに来た時、空になったコアを誰かが回収した。

「私達が時空転移を使ったから…」

 一瞬視界が暗転しかけたが、頭を振って何とか意識を残し隣で震えるアリシアの手をぎゅっと握る。

「少し休憩する?」

 流石に動揺して青くなった顔色までは隠せずチェントが聞いてくるが

「ううん続けて。」

 静かに首を振って答えると大人アリシアが頷いて話し始めた。

「わかった…ラプターの魔力コアだけなら対応策はあるんだ。私、偽りの魂を弄ぶなってメッセージをオリヴィエさんは送ったんだろうってずっと考えていた。偽りの命じゃなくて魂…弄ぶって言葉にも凄く引っかかってた。でも、ラプターの廃棄原因を見て判ったんだ。」
「私達が持ってるデバイス、リインさんやアギトさんの様なユニゾンデバイス、シグナムさん達の様な守護騎士プログラム、ヴィヴィオやフェイト、チンク達の様な人造魔導師や戦闘機人…私達が人や友達、パートナー…他人って思えるのは何処からだと思う?」
「姿形が単一だから? それだとデバイスやヴィヴィオ達は違うよね。自分と会話や意思疎通が出来るから? できなかったら違うの? 1人1人、1つのデバイスがそれぞれの個性を持っているからなんだと思う。」

 どこで誰と認識するか? デバイスは見た目が同じだし声も同じのも多い。それぞれが固有の特徴、個性があるから話が出来て友達になったり喧嘩したりもする。
 ヴィヴィオとチェント、アリシアとフェイト…見た目が殆ど同じでも性格が違うから別人と見分けられるとも言える。それはヴィヴィオ自身が今まで行った世界で同じ人物を見ていても別人だと理由だと思う。

「そう考えた時ラプターって凄く怖い存在じゃないかって考えたんだ。個性…自律プログラムが全体…システムに馴染めなければ廃棄される。これって何もラプターだけじゃないよね。インテリジェントデバイスでもユニゾンデバイスでも…人造魔導師でも戦闘機人でも…人間でも当てはまる。」
「ラプターが正式採用されて、その考えが発展していって境目が無くなっちゃうと…廃棄されるものはラプターじゃ無くなるんじゃないかって。そのきっかけがラプターだっただけじゃないのかってそう思ったんだ。」
「あくまでも可能性…でもそんな世界にならない様にオリヴィエさんが教えてくれたのだとしたら…『偽りの魂を弄ぶな』ってメッセージにならない?」
(そういう考え方もあるんだ…)

 ヴィヴィオは大人アリシアの話を聞きながら思わず納得していた。でも

「でも可能性だよね? この先ラプターが使われるかどうかも判らないのに考えが飛びすぎてない?」

 話が変わって動揺が少し落ち着いたのかアリシアが聞き返す。

「うん、アリシアが言ってるのも当たってるし飛躍しすぎてる。でも考えてみて、オリヴィエが未来に起きることを知っているなら私達はどうしてここにいるの? ラプターに使われちゃった魔力コアが原因だったら私達に『魔力コアを回収しなさい、使えなくしちゃいなさい』とかヴィヴィオ達に『自分の世界の技術を持ち出すな』みたいなメッセージだけで十分でしょ。」

 確かにラプターが原因になるなら作られる前の魔力コアを使えなくしてしまうか、夏休みに行った後に行けばいい。

「なのに、ラプターが実験段階まで来てる世界を示してここに来た。多分ラプターだけを止めても駄目なんじゃないかな…」
(…止められるかもわかんないし、止めても原因が無くなる訳じゃない…か…)

 ヴィヴィオは目を瞑って考える。 


『偽りの魂を弄ぶな』…どうしてそんなメッセージをオリヴィエさんは送ったの?
私が会った時、この世界には1度来ていたし魔力コアもその時知っていた筈なのに…
それでも…アリシアさんが話してくれた様にラプターはきっかけだから?
魔力コアが使われて私達が時空転移を怖くなって使わなくなるって思った?
何か違う…もっと何か大切な事を私達に教えようとしてるんじゃないの?
まだ何か…私が知らない…知らなくちゃいけない事がある…じゃあそれは何? 
 
 
「ヴィヴィオはどうすればいいと思う? ううん、どうしたい?」

大人ヴィヴィオに聞かれる。アリシア達も私を見る

「私は…」

 ヴィヴィオは静かに口を開いた。

~コメント~
 今話はヴィヴィオ視点の会話中心になっています。
 これから一気に話は進みます。



 

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