第50話「ナカジマジム」

「ふぇ~…」

 アリシア達と別れて高町家に行ったヴィヴィオは今日何度目かの感嘆の声をあげていた。

『とっておきの場所に連れてってあげる♪ 絶対驚くから』

 この世界のヴィヴィオ達にそう言われて向かった所は何処かのスポーツジム…と思っていたけれど、【ナカジマジム】という名前を見て言われた通り思いっきり驚かされた。

「ノーヴェがストライクアーツの先生っていうのにも驚いたけど、こんな大きなジムを作ってたなんて…」




 
元世界の彼女はスバルと一緒に管理局の港湾レスキューにいる。

(アインハルトさんの時も思ったけど、ストライクアーツがあるだけでこんなに変わっちゃうんだ…)

 それからは驚きの連続だった。
 アインハルトやヴィヴィオは全国レベルの選手になっていて

「わぁ~っ!、本当に小さなヴィヴィオだ~っ♪」
「えっ…ミウラ!?」

 振り返るとスラリと背が伸びたミウラが手を振っていた。

「休みなのに急に来てなんて言うから秘密練習するのかって思ってたけど、ビックリです」
「でしょでしょ~。ヴィヴィオを知らない人が見たら大騒ぎになっちゃうけど、アインハルトさんとミウラなら大丈夫。」
「う、うん…」

 数年後の自分自身やリオ達に囲まれて小さく頷く。

「でも、秘密練習…っていうのも間違いじゃないよ。」

 リオがニコッと笑って言うと続けてヴィヴィオが

「ヴィヴィオ、これから私達と練習しない? トレーニングウェアも持って来たよ♪」

 バックから青地のスポーツウェアを取り出す。

「…え?」

どうすればそういう話になるのか判らないけれど、どうやらここでは振り回されるしかないらしい…。



 それから着替えて1時間ほど経った頃

「ハァッ、ハァッ…も、もう…休憩~」

 ヴィヴィオは床にバッタリ倒れ込んでいた。
 後で来たアインハルトも一緒に柔軟と基礎練習に加わったのだけれど、元々運動系は苦手でアリシアの様にランニングもしないヴィヴィオにとって彼女達の基礎練習だけでもハード過ぎてついて行けず…醜態をさらしていた。

「ヴィヴィオ~運動不足じゃない? これから本番なのに…」
「ヴィ…ヴィオ…達が凄すぎ…るんだよ」

荒くなった息を整えながら答える。
 全国レベルになっているなら相当鍛えているとは思っていたけれど…

「急な運動は体にも良くありません。ヴィヴィオさん、見学していてください。」

アインハルトに支えられてベンチに腰を下ろす。

「ありがとうございます。」

 アインハルトに礼を言うと彼女は笑みで答えて練習に戻った。

(アインハルトさん…)

 彼女とは何度か会っているし最後に会った時から数年経っているけれど、最初に会った時と比べて何処か余裕というか凄みを感じた。



10分ほどで息を整えてヴィヴィオはアインハルト達の所に戻った。

「もういいの?」
「うん、それより…凄いね。」

 ヴィヴィオに聞かれて頷いた後視線を戻す。アインハルトとミウラがロープで囲われた中で模擬戦しているのを見る。
 魔法を使う素振りは全くなく、素手の格闘戦の様に見えるけれど知っているレベルの格闘戦技じゃない。

「アインハルトさんもミウラも必殺の1撃を持ってるからね~。そろそろじゃない?」

 時間を見ながらリオが言った直後、ミウラが大きく後ろにジャンプして1回転しそのままアインハルトめがけて飛び出す。

「空牙っ!」 

 だがアインハルトもそれを予想していたらしく

「覇王、断空拳!!」

 右拳から放たれた光がミウラの攻撃とぶつかり

【ガキッ!】
「!?」

 激突音と衝撃波がヴィヴィオの居た場所まで届いて思わず耳を押さえた。
しかし

「っとありがとうございました。」

 アリンハルトの拳を受けたミウラはその威力を相殺させるように後ろに飛んでクルクルっと回って着地した。

「ありがとうございました。」

 アインハルトも突き出した拳を下ろしてペコリと頭を下げる。

「…2人とも凄い…」

 その様子を見て手を下ろしながら呟くのだった。



「次はヴィヴィオさん達、どうですか?」
「は~い♪」
「わ、私!?」

 いきなり声をかけられて驚くヴィヴィオ、こっちの私は聞く迄もなくそのつもりだったらしい。

「あっ、でも私運動はそんなに…」
「当たったら痛いけど怪我はしないし大丈夫♪」

 何が大丈夫なのか判らない。
 怪我しないと言われてもあんなモノをまともに食らうならまだ何処かの砲撃魔導師やバトルマニアと言われた彼女達と競った方がいい。

「そ、そういう事じゃなくて、痛いのもやだし…あっ、そうだアインハルトさん」 

話を変えようとアインハルトの所へ走り寄る。

「はい、私でしょうか? よろしくおねがいします。」

 構えようとする彼女に慌てて首を振る。

「いいえ、そうじゃなくてさっきの断空拳って足から何か出た感じがしたんですけど…」

 真似をしながら聞く。

「足先から練り上げた力を宿す技が断空です。」

 目の前でスピードを落として見せる。彼女の仕草を見ながらヴィヴィオも真似をするかの様に拳を繰り出す。

(断空…うまくできれば…)

 使えるかも知れない。

「ヴィヴィオ~」
「は~い、今行きま~す。アインハルトさん、ありがとうございます。何か…掴めました。」

ペコリと頭を下げた後、ヴィヴィオ達が待つ場所へと戻った。



(…断空から何を掴んだのでしょうか?)

 アインハルトはリングから出てミウラやリオ達が居る場所へと移動した。
 異世界のヴィヴィオはこっちの彼女と比べても幼く、こっちの様な日々のトレーニングをしていないのはさっきの基礎練習で判った。
 魔法を使うなら判らないけれど魔法なしでヴィヴィオ同士がスパーをしてもこちらの彼女には勝てない位の差はあるだろう。
 実際始まってしまうとラッシュについて行けていないしクリーンヒットを何発も受けている。

「あちゃ~」
「これはちょっと…」

 リオとミウラが思わず呻く位差があった。

「アクセルスマーッシュ、ダブルッ!」

 ヴィヴィオの連続パンチが見事に決まって吹っ飛ぶヴィヴィオ

(これ以上は…)

 互いの為にならない。そう思って

「これくらいで…」

 言おうとした時、吹っ飛ばされた筈のヴィヴィオがクルッと回って着地し何事も無かったかの様に立ち上がった。

「え…?」

 負傷はしていないがアレだけのパンチやキックを受けたら相当な痛みが来ている筈だけれど、そんな素振りはない。

(打点をずらしていた?)
「次は私からいくよっ。」

そう言うと彼女は右手を左の腰に触れさせたまま前に屈んだ。

(あれはミカヤさんと同じ…)

随分昔、特訓でお世話になったミカヤの構えに似ている。
 という事は

 ―彼女は接近して戦うインファイトタイプではなく―

「ハァァァアアアアッ!」

腕でガードし体制を低くしながらダッシュするヴィヴィオ、もう1人のヴィヴィオが断空を真似て力を練り上げる。

 ―1撃必殺の刃を持つ存在―

「っ! ヴィヴィオさんっ!!」
「!?」
「!! 紫電一閃っ!」

 アインハルトが叫びを聞いてヴィヴィオはスピードを緩めた。一方のヴィヴィオも一瞬放つのが遅れ手刀を振り切ったところで右に回り込んでいたヴィヴィオが腕をガッチリと掴んだ。

「び、ビックリした。」
「アインハルトさん急に大声を出さないで下さいよ~っ。」

 アインハルトの方を向いて言うヴィヴィオに同意する。しかし彼女は無言でロープを潜ってやってくる。

「すみません。ですがヴィヴィオさん、断空を乗せようとしませんでしたか? 先ほど振り上げに断空が乗っていたらヴィヴィオさんは切られていました。」
「え…」

 ヴィヴィオが驚いて手を離す。

「痛みが伴っても怪我をしないのは中が魔法で守られているからです。ですがそれを超えた力は怪我では済みません。自らを高める為の研鑽は重要ですが同時に相手を思いやる気持ちも大切です。ヴィヴィオさん、先程のあなたの拳にはそれがありましたか?」
「……ごめんなさい…」

 険しい眼差しのまま静かに言う彼女の言葉にヴィヴィオは謝るしか出来なかった。
 彼女は練習もしていない断空をいきなり自らの技に混ぜて試そうとしたことに怒っている。
 ここはブレイブデュエルの中じゃない。実際に攻撃が当たれば痛いし怪我もする。目の前の自分を只の的として見ていなかったか? と言われたら…否定できない。
 
「あ、アインハルトさん…2人とも大丈夫だったんですし、それ以上は…」
「すみません。ヴィヴィオさん…、あっ異世界のヴィヴィオさん。向こうで私と練習しましょう。断空の力の練り方を教えます。」
「お願いします。ヴィヴィオ…ごめんね」

 ヴィヴィオは頭を下げて礼を言った後、彼女の背中を追いかけた。   


「アインハルトさん…怖かったですね。」
「もうどうなるかってヒヤヒヤしてた。」

 もう1人のヴィヴィオは2人の背を目で追いながらリオとコロナの言葉にコクコクと頷く。

「紫電一閃ってシグナムさんの技ですよね?」

 彼女は断空拳の威力を紫電一閃に乗せようとした。成功していたらきっととんでもない威力になっていただろう。

「うん…でも初めて断空拳を使って成功するなんて、アインハルトさんの心配…」

 心配しすぎだと笑おうとした時

【ゴトッ】

 近くにあったコーナーポストが突然倒れた
 それは丁度紫電一閃を放つ前に私が居た真後ろ…

「……ウソ…」
「………」
「………」
「………」

 アインハルトが叫ばなければ、切られていたのはコーナーポストではなく…
4人はリングの外で練習している2人の姿を見ながら背筋を凍らせた。



「本当にゴメンね…」

 日が暮れて家への帰り道、ヴィヴィオに謝る。
 ミウラが前から空牙の練習で脆くなっていたのかもとフォローしてくれていたけれど、コーナーポストはどう見ても紫電一閃の余波で綺麗にスッパリ切れていた。

(ユニゾンしたら山を切っちゃったんだし…気をつけなきゃ)
「当たらなかったんだし、でもアインハルトさんが気づいてくれてよかった~。あれってシグナムさんに教えて貰ったの?」
「うん、完成には程遠いんだけどね~無理に焦ったら体壊しちゃうしシグナムさんみたいに剣が使えないし…。」

 あの時はユニゾンまでした全力だったからあの威力が出たと思っていたけれど、そんなものだけでは無いらしい。後でアインハルトに教えて貰った断空のコツ…みたいなモノが少しだけ乗ってしまったのだろうと勝手に解釈する。

「ホント、魔法アリの全力で使ったら山が切れちゃう位の威力なの忘れてたよ。」
「…そんなに凄かったんだ…アレ…」

 苦笑いして言うと目の前の彼女は笑顔を浮かべながらも頬を引きつらせていた。

「でも今日のでわかった。私はヴィヴィオみたいに格闘メインじゃなくてリオやコロナみたいに魔法も使えた方がいいみたい。威力も加減できるし。目標はなのはママとフェイトママ!…かな」
「そこは同じ~♪ 頑張ろうね」
「うんっ♪」

拳を軽くつきあわせる。

 きっと元の世界でどれだけ時間が進んでも目の前の私が過ごした時間や経験は私は出来ない。
 それでも、一緒に競っていける。
 そんな気がしていたのだけれど

【明朝、戻って来て V.T&A.T】
 
 家に帰った直後、RHdに届いたメッセージを見てここが事件のまっ只中にあるという現実に引き戻された。

~コメント~
 49話時のヴィヴィオSideの話でした。
 VividStrikeの放送が始まったので今話はナカジマジムのお話です。VividStrikeが想像以上に面白いので毎週楽しみに見ているのですが、丁度今話の舞台になったナカジマジムの話も色々出てきていたので拝借させて頂きました。


 

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