第60話「見参、時と運命の担い手」

『フォートレスからの映像転送します。』

 八神はやてがヴォルフラムの艦橋で砂嵐が流れるメインモニタを睨んでいた時、シャーリーから連絡が届いた。シャーリーは今朝まで特務6課に居たが、聖王のゆりかごの報告を受けた直後フェイトの支援をして貰う為に一足先にミッドチルダ地上本部に向かわせた。
 デアボリック・エミッションの効果の1つ、通信機器等への遮断効果によって聖王のゆりかご周囲の状況が全く判らなくなってしまい何か手はと考えていた直後に彼女は対AMF装備フォートレスにあるセンサーと繋いで内部の映像をこっちに送ったのだ。
 短時間でそこまで頭が回るのは流石だと思いながら映るのを待つ。

「映像データ来ます。」
『風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。レイジングハート セットアップ!』
(レイジングハート…ヴィヴィオ、本当にそれでいいん?)

 紡がれた言葉に耳を疑う。

『部隊長、シャリオです。』

 シャーリーからプライベート通信が届く。

『シャーリー、ありがとな。映像こっちでも見てるよ。』
『ナカジマ3佐の命令でフェイトさんが出撃しました。それと2人の所持デバイス情報を取りました。2機のデバイス名は【レイジングハートセカンド】。大人の女性の魔力はSS、少女の方を確認しようとしたところで魔力計が振り切れ壊れました。デバイスの強制停止コード発令できます。』

 魔力値SSと計測不能…AMFの中でその数値は驚異だ。しかしデバイスを使っているならそのデバイスを強制的に機能停止させてしまえばいかに優れた騎士でも力を失う。そこにフェイトや教導隊、首都航空隊がゆりかごに入れば…だが。

『停止コードは発令出来ん。ここまで事態を読んでる相手や、コードの事位知ってると考えた方がいい、わざわざデバイス名を見せつけてコード送ったらカウンタープログラムを仕込んでる可能性もある。レイジングハートとレヴァンティンが止められる可能性もある。』

 事態の先を読める策士、それがデバイス情報なんて物を残しておくとは思えない。寧ろ何らかのメッセージだと思う。

(メッセージの意味は…何や?)

 まだそこに辿り着くには何かが足りない気がする。
  


(…首都航空隊と教導隊…ザフィーラさん達がどう動くかだけど…)

 はやてから策士と思われているアリシアはヴィヴィオとチェントの魔力を制御しながら近づく集団を注視していた。デアボリック・エミッションを見て警戒してくれたらいいけど、そのまま突っ込んできてこっちに来たら対処方法が無い。
 イクスが来てくれたおかげでこっちも奥の手が使えた。これでヴィヴィオもシグナムと対等以上に渡り合える。それに彼女達の会話も…

(シグナムさんとの会話だと彼女はこっちの計画に気づいてる。その上で試そうとしてるならなのはさんとヴィヴィオより早く勝負がつくかも…ううん、可能性で考えちゃいけない。もっと広く見なきゃ。)
『アリシアっ、後続部隊の到着時間教えてっ! 大体でもいいからっ!』

 大人ヴィヴィオから通信が届いた。
 聖王のゆりかごを動かし、デアボリック・エミッションで周囲に結界を作りその上でレリックを使ってユニゾンしたヴィヴィオ、彼女は対AMFフル装備のなのはを相手にしている。彼女にこれ以上負荷をかけられない。

『わかった。この速度ならあと15分。ゆりかごも速度上げてるからもう少し遅くなるかも』
『了解! 2人とも、フルドライブで30分持たせてよっ!』
『任せて!でも焦らないで、シグナムさん本当に強いよ。』
『わかってるって♪』 

 頭に血が上っている訳ではないらしい。彼女の応答に安堵を覚えながらもこれ以上戦闘を長引かせるのは難しいと感じていた。

「アリシアさん、忙しい所すみませんが注意して下さい。」

 唐突にイクスから声をかけられる。この忙しい時にまだ何かあるのか?

「注意って何ですか? 周りに注意しなくちゃいけないものばっかりなんですけどっ!」
「そうではなく…新たな…私も知らない魔方陣が生まれています。結界の下の方…」

 魔方陣? 端末を操作すると確かに見た事もない魔方陣が現れていた。

『ヴィヴィオ、結界下方に未知の魔方陣。何が起きるか判らないから注意して。』



「クロスファイアァアシュートッ!!」
「ディバインバスターッ!」

 聖王のゆりかごの近くではヴィヴィオとなのはの激戦が繰り広げられていた。
 砲撃魔法同士がぶつかって爆発を起こす。次の瞬間、放った2人の姿は肉薄していて

「ハァアアアッ!」
「!!」

 魔力を込めた拳をなのははフォートレスのシールドで逸らす。横からレイジングハートの飛行ユニットが拘束魔法を仕掛けるがヴィヴィオはそれを文字通り一蹴して無効化した。

「ヴィヴィオっ、ヴィヴィオ達の思いは判った。私、ううんミッドチルダや管理世界の人もきっと考える機会になるっ。だからこれ以上危ない事しないで!」

 中型シールドから放たれた砲撃魔法を紙一重で避ける。

「そうじゃないっ! 私がここで退いたら管理局がラプターの事を隠しちゃう。だからママ達が退いてっ、クラナガンの上空に行けば私達は帰る。街には被害を出さない、お願いっ」

 彼女の背後に回したアクセルシュートを集束してクロスファイアシュートを放つ。しかしなのははそれを見えていたかの用に背後に右手を振って装備した大型シールドで受けきった。

(対AMF装備堅すぎるっ!)
「JS事件で聖王のゆりかごを知ってる人は怖いって思っちゃう、怪我した人も思い出しちゃう。それでも被害が無いっていうの? 目に見えるものだけが被害じゃないよっ!」

 再び中型シールドから放たれた砲撃を今度はインパクトキャノンで相殺する。

「それも判ってる、判ってるよ。それでもしなくちゃ人とデバイスの関係が壊れちゃう。デバイスはただの物じゃない! ママもレイジングハートも判ってるでしょ!」
 セイクリッドクラスターで拡散弾を放ち大型シールドを壊しにかかるが、それを守る様に中型シールドと中型シールドがシールド系魔法を広げ拡散弾を防ぐ。
(フォートレスっ!)

 ブレイブデュエルの世界で使っていたけど、滅茶苦茶堅い。

「そんな世界にはしない、私達がさせないよっ!」
「ならないなら私達はここに居ないっ! ママ達を倒したくない。お願い退いて、退いてくれないんだったら…倒さなきゃいけなくなるっ。」 
「…わかった…終わらせてちゃんとお話しよ。私は引けない。私はゆりかごを止める。」

 ストライクカノンをゆりかごに向けようとするなのはに何度目か判らないクロスファイアシュートを放った。その時

『ヴィヴィオ、結界下方に未知の魔方陣。何が起きるか判らないから注意して。』

 通信で大人アリシアからの声を聞こえた。
 下の方、なのはの奥に魔方陣が見えた。

(ミッド式やベルカ式じゃない…何? でも何処かで見た覚えが)



「ハァアアアアアッ! 今だっ!!」

 ザフィーラは魔力を集束した拳で虹の壁を殴り1時的な突入口を作る。

「対AMF装備者は結界内に突入。それ以外の者は周囲に散開し結界の解除にあたれ。」
「「「「了解!」」」」

 ザフィーラと教導隊の8人が内部に突入する。



『ヴィヴィオ、ザフィーラさんと教導隊メンバー8人が結界内に入った。真っ直ぐこっちに向かってる。推定』

 それに気づいたアリシアが状況を伝える。

『あっちのヴィヴィオは?』
『なのはさんと激戦中。こっちは…まだ勝負はわかんない。10分くらいで接触予定、全員対AMF装備持ってる』
『わかった。終わらせて早く向かうから牽制お願い。』

 そう答えながらも彼女もまだ一進一退の状況なのは見て判る。

「ここが正念場か…」



 突き進むザフィーラ達の前に突如魔方陣が出現した。

「ザフィーラっ!」

 ザフィーラの肩に乗ったアギトが叫ぶ。目の前に現れた魔方陣、ミッドチルダやベルカの物じゃない。

「判っている。」

 ザフィーラも動きを止め構えた。

「未知の魔方陣を確認、警戒」

 教導隊員も止まって警戒する。



「子供相手に大人が集まっちゃって格好悪い~KOK♪ 」
「これ以上は行かせません!」

魔方陣の中から人影が現れる。
 赤い髪と青を基調にした服を着た小銃使いと
 桃色の髪と髪より少し赤みかかったピンク色を基調とした服を着た小剣使いの女性。

「何者だ? お前達は?」
「手足は鋼、身体は機械でも優しい心は宿ります。同胞として、あなた達の行いは許せません。」
「同胞? どういう意味だ?」

 2人は手に持った小銃と小剣をザフィーラ達に向ける。

「ギアーズ姉妹、時の操手と」
「運命の守護者があなた達を止めさせて貰います!」



『聞こえる? 聖王ちゃん♪』
『ギアーズ姉妹、アミタとキリエがお手伝いしますっ!』
「アミタさん、キリエさんっ!?」

 いきなり通信に流れ込んで来た声に驚いた。

【Master.emergency】

 ヴィヴィオの居た所へ大型の砲撃が放たれた。慌てて離れて軌道を変えながら魔法弾を20個放ってストライクカノンの砲撃体勢を取らせない様にする。  

「どうしてここにっ?」 

 ギアーズ姉妹と言ったからブレイブデュエルの彼女達…じゃない。

(まさかユーリの時の?)

 アミティエ・フローリアンとキリエ・フローリアン。
 彼女達は砕け得ぬ闇に眠る永遠結晶エグザミアを望んで異世界の海鳴市にやって来た。だがその転移に他の時間軸のヴィヴィオとアインハルト・トーマとリリィが巻き込まれてしまった。
 結果、複数の時間軸が絡み合い衝突しそうになってヴィヴィオの時間のプレシア・アリシアとペットのリニスが消滅しそうになり、ヴィヴィオ達は彼女達を助ける為衝突の原因の異世界に向かって現地で起きた起きた事件に巻き込まれてしまう。
 ヴィヴィオはそこでアンブレイカブルダーク-砕け得ぬ闇から1人の少女を助けた。2人の姉妹もプレシアとシャマルから贈られたエルトリアの復興方法と姉妹の育ての親である病床の博士への薬を持って元の世界に帰って行った。
 
『トーマとリリィを送って来ました。まさかまた会えるなんて、私達も驚いてます。』
(そうか、トーマさんとリリィさんはここから来たんだ。)
『機械の体にも心はあります。ヴィヴィオの気持ち、凄く嬉しいです。作戦を教えて下さい』
「はい、ありがとうございます!。」

 まさか再び会えるなんて思ってなくて、彼女達の言葉に背を押された。
 


「痛く…ありませんか?」
「はい、大丈夫です。イクスさん、ありがとうございました。」

 同じ頃、ノーヴェ・ナカジマ宅でイクスの治療を受けていたアリシアは椅子から立ち上がって数度軽くジャンプして膝の様子を見ていた。
 筋肉や筋が切れていたらしいからあのままにしていたら走れなくなっていただろう。それにしても…

「あの…イクスさんってイクスヴェリア様ですよね? マリンガーデン、海底遺跡で眠っていた。」
「はい。それが何か?」

 キョトンとした眼で私を見るイクス。

(イクスとイクスさん…全然雰囲気違うんだけど…これも時間軸の違いなのかな?)

 彼女の仕草からするとアリシアより少し年上っぽい雰囲気がする。でも元世界の彼女は…もっと、大人びている。でも、こっちではストライクアーツがメジャーなスポーツになっているけれど元世界にはそれはなく、そういうのも違う理由なのかも知れない。

「いえ、私が知ってる人と似てないなって思って」
「クスッ、『よく似てるね』じゃなくて『似てないね』なんですね♪」
「あっ、おかしいですね。似てないなって。」

言われて顔を赤らめた。

「それで…アリシア、これからどうするんだ?」

 ノーヴェに聞かれる。

「それは…」

今のヴィヴィオ達の所に行っても足手まといになる。そもそも対峙しているミッドチルダ上空までは残りのコアを使っても厳しい。
 その時テレビがミッドチルダ地上本部から高速で飛び出した光を映した。
テレビの前に駆け寄る。

「嘘…フェイトっ!!」

 ミッドチルダのメディアはデアボリック・エミッションで聖王のゆりかごの状況が判らなくなった上空とミッドチルダの主要箇所を中継しており、フェイトの出撃を再び映した。
 大人アリシアの作戦では彼女は出てこられないと考えていた。何故ならアリシアがプレシア・テスタロッサの娘で騒動の張本人だと名乗り出たからだ。そうなればフェイトは酷く動揺し、管理局もプレシア・アリシアと関係があった彼女の出撃は許可しない。
 …しかし彼女の読みが外れた。

(どうすれば…止めなくちゃ…)

 一方その頃、ヴィヴィオ達が不在の元世界では

「それで、あのねっ、それでねっ♪」

高町家のリビングで楽しそうに話すチェントとその話を聞いているプレシア、なのは、フェイトの姿があった。
 今日、彼女は学院で出来た友達の家にお呼ばれしてきたのだ。
 母親のプレシアからしてここ数年間はとても社交的とは言えない環境で暮らしていて、そんな場所で預かった彼女は同じ年位の子供と遊ぶのはStヒルデが初めてだった。
 お呼ばれの話を聞いて周囲の母親以上に狼狽えてチンクに頼みナカジマ家で1日預かって貰っても大丈夫かと心配したのだけれど、迎えに行った時に娘の友達の母から

『挨拶も出来て礼儀正しい子ですね。これからもよろしくお願いします。』

と褒めて貰って心配しすぎというかどれだけ親バカだったかと恥ずかしくて穴を掘って入りたい気分だった。
 兎も角、この件で色々相談に乗って貰ったチンクやナカジマ家にもお礼を言ってなのはとフェイトには食事しながらでもと言うことで来ていた。

「ヴィヴィオもStヒルデに行った時から友達沢山作って毎日行くのが楽しかったみたいです。チェントの方が人見知りだって思ってたんですけど、その辺はお姉ちゃんの影響でしょうか。」
「そうだね。」

 なのはとフェイトも彼女の話を聞きながら頷く。 
 そろそろ夕食の用意をと思いなのはが立った瞬間

「ねえさま?…………」

 今まで楽しそうに話していたチェントが辺りをキョロキョロと見回したかと思うと急に笑顔が消え無表情になった。

「「?」」
「チェント?」

 そのまま彼女はソファーから立ちあがる。何か機械の様な動きをする彼女にプレシアは何が起きたか判らないながらも彼女の前に来て顔をのぞき込む。次の瞬間、胸にかけていたペンダントから蒼く目映い光が溢れ出しリビングを包み込んだ。

「チェント!?」 
「何っ?」

 何が起きたのか判らない3人は何も出来ずその光に飲み込まれる。だが光が治まった後には

「かあさま、どうしたの?」

 不思議そうにプレシアを見つめるチェントの姿があった。

「…い、いえ、何でもないわ。そうだ、今日はチェントの好きなご飯にしましょう。何が食べたいかしら?」
「えーっとね、じゃあ♪」

 瞳をキラキラさせて言う少女の周りで本当に何が起きたのか判らない3人は今までの様な笑顔では居られなかった。



「フェイトを止めなくちゃ…」

 虹に包まれた中で何が起きているのかアリシアには判らない。でも、なのはとシグナム、ザフィーラと教導隊が入ってしまった以上形成は不利になっている。
 ここで彼女まで行けば私達の計画は失敗する。

「でも…どうすれば…私に転移魔法が使えたら…」

 胸のペンダントが浮き上がって目映い青い光を発した後

「アリシア?」

 彼女の姿が部屋から消えた。

~コメント~
 聖王のゆりかご付近に戦いが集中してきています。
その中に更に登場したのはなのはGODからのアミタとキリエのギアーズ姉妹です。


 

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