第66話「ヴィヴィオとなのは ~1~」

「っと、着地♪」
「ここが船の中ですか。凄く広いですね~。」

 虹の光球アリシアの近くに現れその中から2人がトンっと足音を鳴らして降りた。

「アミティエさんとキリエさん? ブレイブデュエルの魔法がこっちでリアルに使えちゃうんですね」

 アリシアが聞くと2人は首を傾げ
「ブレイブデュエル?」
「アリシアさん…でしたか? アースラでもヴィヴィオさんの近くに居た。」

 アースラと聞いて一瞬どうしてその名前を知ってるのかと疑問符を浮かべたが彼女達と違う彼女達を思い出す。

「あっ! もしかしてユーリの時の…」
「はい。トーマとリリィを送りに立ち寄りました。まさかまた会えるなんて思ってませんでした。」

 アミタが笑顔で言った。



 フェイトが倒されヴィヴィオがその場から消えた後、なのははまっすぐに聖王のゆりかごに向かう。
 その中ではアミタとキリエ、チェントが抑えようと外に向かいかけるがアリシアが止めた。

「待って、ヴィヴィオが来るから…なのはさんと戦う為に…」

 その言葉を聞いてアミタとキリエが苦笑して止まった。その直後ヴィヴィオがなのはの前に現れ立ちはだかった。

「ヴィヴィオ、後は任せたよっ!」



「これで…あとはママだけだね。」

 ゆりかごへ向かうなのはの前に飛ぶ。彼女は驚くが何も言わず険しい眼差しでレイジングハートを構える。

「ヴィヴィオ、みんなは?」
「ヴォルフラムに送った、怪我はしてるかも知れないけど全員無事。シグナムさんだけ残ってる…邪魔しないって約束で」

 視線の先にこっちに向かう影が見える。なのはにもシグナムが見えたらしい。

「これからどうするつもり?」
「聖王のゆりかごはもうクラナガン全部に攻撃出来る場所に着いた。1つの月だけでも全部壊せる。」 
「…そうするつもりなの?」

 ヴィヴィオは少し間を置いて静かに首を横に振る

「ううん、私…私達はクラナガンに何かする気はない。ここに居るのはラプターや未来に似た技術が出来た時に管理局が決めるんじゃなくて管理世界全部で決めて欲しいだけ。でも私達がどれだけ広めても私達が言うだけの力を見せなかったらママ達…管理局が声を消しちゃうでしょ? …ママ達と戦ったのは私達に力があるのを見せる為。」
「…そんな事の為に…フェイトちゃんやヴィータちゃん…ヴォルフラムまで…怪我した子も居るんだよっ!」
「知ってるよ。でも…船と船がここで戦っちゃったらそれで済まないのもママなら判るよね?」
「それは…」

 なのはが言いよどむ。
 聖王のゆりかごとヴォルフラム…どちらかがクラナガン落ちた結果を考えたのだろう。

「わかった…もう1つだけ教えて、これからどうするの?」
「シグナムさんと一緒にヴォルフラムに帰ってくれたら結界消して暫く止まったままにする。私達の言葉が全部の管理世界に届いたらゆりかごと一緒に帰る。」

 それはミッドチルダ地上本部と特務6課の完全な敗北を認める事になる。そろそろヴィータを含めヴォルフラムに送った数人は目覚めて状況を話しているだろう。

「帰らなかったら?」
「…ママを倒してミッドチルダ地上本部とクラナガンを攻撃する。ゆりかごが壊されないように」
「…それがヴィヴィオの気持ちなんだね?」
「うん」
「…そう…わかった…ヴィヴィオ、痛いの我慢してね。レイジングハートっブラスター1!!」
「………。クロスファイァアアアアシュートッ!」

 再び2人の戦いの火蓋は切られた。

 
 
「………なのはさん、どうして? 退いてくれたら終わったのに…」

 チェントが2人の会話を聞いて呟く。しかしアリシアは首を横に振って彼女の言葉を否定する。

「ううん…ヴィヴィオはわざとなのはさんを挑発したんだ。なのはさんがヴィヴィオを倒してゆりかごを止めるしかないって考えさせる為に…」
「えっ?」

 驚いたチェントはアリシアの顔を見た後大人アリシアを仰ぐ、彼女も静かに頷く。

「なのはさんはヴォルフラムに退けない…退いちゃったらミッドチルダの防衛を放棄したって事になる。でも…こんな方法をここで取るなんて予想外、まるで…。」
「私達みたいでしょ。母さんはわざと負けられない。聖王のゆりかごで攻撃するってヴィヴィオが言ったから…母さん、何もしてないなら信じなかったと思うけどフェイト母さんが倒されるのを見ていたら信じちゃう。」

 アリシアの後ろから声が聞こえて驚き振り向くと寝ていた大人ヴィヴィオが起き上がっていた。

「!!」
「大丈夫?」
「うん、アリシアがちっちゃい私と話してる時に目が覚めた、動ける様になったのはついさっきだけど…。チェント手当してくれてありがと、ちっちゃいアリシアも応援行けなくてごめんね。無事でよかった。」

 駆け寄るチェントとアリシアを見て大人アリシアは一瞬頬を緩ませるが気づいて気を締め直し彼女に聞く。

「それで、私達みたいって?」
「うん、私達が…っていうか私が教えた。」



~それは聖王のゆりかごを動かす前日の夜~

「ねぇ…ヴィヴィオ」

 近くで荷物を片付けていた大人ヴィヴィオはヴィヴィオから声をかけられた。
 彼女は玉座の間の近くに立てたテントから顔を見せていた。
 ヴィヴィオは聖王のゆりかごを動かす鍵で彼女は最初に玉座に座ったからなのかレリックを持っていないと魔力を全部奪われるレベルで取られているからとなるべく玉座付近から動かないようにしていた。
 彼女が大きく動けない以上、暫くの生活拠点を移すしかなく、それならルヴェラの山小屋にあったテントとシュラフを借りてきた。アリシアとチェントは他の部屋を見回っている。
 小さいアリシアはついさっきまでここに居たが明日に備えて前に使っていた部屋にヴィヴィオが送って行って彼女はついさっき帰ってきたところだ。

「なぁに?」
「…ヴィヴィオはママ達と戦えちゃうの?」

 アリシアの話した作戦、力を示す為に特務6課とぶつかる。その結果フォワードチーム、なのはやフェイト、シグナム、ヴィータとの戦闘は必至。彼女はそこを迷っているらしい…

「母さん達と戦うの…嫌?」
「…出来れば戦いたくないよ。私がそう思うんだからママ達が事情を知ったら戦ってくれるかな?」

 ヴィヴィオは自分の気持ちよりなのはとフェイトの気持ちを考えていたらしい。本当に優しい子だ。

「ヴィヴィオは優しいね…でも、今は優しさだけじゃ駄目。アリシアの作戦を成功させるなら母さん達とは戦わなきゃいけない。それも勝つんじゃなくて倒すつもりでいかないと戸惑った方が母さん達やここの私にも影響する。」
「どういうこと?」

 ヴィヴィオは首を傾げる。彼女には少し難しかったらしい。

「今のヴィヴィオは無限書庫の司書だよね? まだ色んな人に見えない所で守って貰ってるからわかんないんじゃないかな。」

 そう言うと彼女は頬を膨らませる。それを見てクスッと笑って続ける。

「聖王のゆりかごを動かせば管理局が、クラナガンに近づけば首都航空隊が必ず出てくる。ラプターの話が管理世界全部に伝わっても誰も何もしないって状態にはならないよね。そんな所で母さん達が私達の説得されて帰ったらどうなると思う?」
「…被害が出てないんだからそれでいいって…違うの?」
「母さん達が何もしないで帰っちゃったら特務6課は解散させられて、特にフォワードチームとはやてさんは何らかの罰を受ける。最悪管理局を辞めさせられちゃうとか逆に逮捕されちゃうかも…、そうなるとここの私も司書で居られない。」
「えっ!?」
「管理局は管理世界を法と秩序で平和を管理する組織。なのにクラナガンに聖王のゆりかごが来てて何もしないで戻ったら何の為の組織だって声は出てくるし、局内でもそういう話は必ず出てくる。」
「只でさえ私達がラプターの話を伝えたら共同開発をしていてECウィルスを追いかけてる分色々不味い状況になるから解散させるなら全部責任を押しつけちゃえってね。」
「でも別の任務遂行中にも関わらずヴォルフラムで向かおうとしていた時に攻撃されて船が動けなくなってても母さん達が来て…結果倒れちゃったってなると話が違ってくる。」
「守らなかったというのと守れなかったというのは結果は同じでも意味が全然違うんだよ。」
「……」
「勝つだけじゃなくて母さん達を倒さなきゃいけない。それも全力の母さん達を…。母さん達は退かない、でも全力じゃないかも知れないから引き出さなきゃいけない、例えば『聖王のゆりかごがポイントに着いたらクラナガンを攻撃する』…みたいに。全力になったらなったらで母さんのストライクスターズを破るのは大変なんだけどね~。」

 ストライクスターズの恐ろしい所は回避場所を抑えられた上での主砲撃、スターライトブレイカーでならぶっ飛ばせるけれど集束時間が作れない。何か対策を考えておかないと…と思案する。でも彼女は…

「…うん、わかった。」


 もしかするとその時から彼女は決めていたのかも知れない。
 聖王のゆりかごが目的の場所に着いて最後の作戦だけが残った時…ううん、最初から全部受け止める覚悟を…


「ヴィヴィオ凄いね…で、玉座に座ってるの…誰?」

 険しい眼差しで睨む大人ヴィヴィオに大人アリシアは

「何度も話すの面倒だから説明してあげて…」

 溜息をつきながら言った。

~コメント~
 ASシリーズのヴィヴィオもそうですが、なのはは本編全てで「~を倒して」ではなく「誰かを助ける為に」戦っています(その誰かの為に文字通り突撃したり、問答無用でカートリッジ入れ替えて壁抜きして吹っ飛ばした人も居ましたが…)
 ヴィヴィオ(大人ヴィヴィオ)が再三なのは達に「退いて~」と言っていた理由とその反応に驚かずに進めたのは今話が理由です。

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