第65話「仕掛けられた罠」

「クロスファイアァアアシュートッ!」

 セイクリッドクラスターと混ぜて放ったアクセルシューターを高速回転させなのはの前後左右から砲撃魔法に切り替える。なのははそれを上昇して避けたがそこにはヴィヴィオは猛スピードで突入していた。
 両拳に集めた魔力を直接ぶつけようとするが、なのはは杖に変えたレイジングハートで上手く捌かれ直接打撃を与えられない。

「だったら!」

 零距離でセイクリッドクラスターを放つ。

「!?」

 
 数発は当たったがシールド魔法で相殺されてしまった。

「ヴィヴィオ…ごめんね」

 彼女がそう言うと今度は桜色の砲撃がヴィヴィオを襲う。

「ハァアアッ!」

 インパクトキャノンで相殺しようとするが威力が思った以上に高く砲撃をカットして右へと避ける。そこには幾つかの拘束魔法があったがそれを無理矢理破壊する。

(私に攻撃が向いた)

 激戦の中でもヴィヴィオの思考は思った以上に澄んでいた。

(やっぱり空間把握能力は凄い…でも魔力はそこまで高くない。)

 元世界のなのはママを含む「高町なのは」の脅威は魔力資質以外に非常に優れた空間把握能力がある。彼女は目で見えない死角もデバイスのフォローなしで確認出来る、それは色んな世界の彼女と模擬戦をして知っている。
 対AMF兵器、ストライクカノンとフォートレスを破壊した事で彼女は外から聖王のゆりかごを墜とせなくなった。そうなると次に取る方法は内部に入って主動力になっている結晶体を破壊するか玉座で船を操るチェントを抑えるしかない。だがその為には目の前に居る私を倒さなきゃいけない。
 結果さっきまで攻撃を避けながらゆりかごの動向を常に見ていた彼女は私だけを見ることになる。だけど…

(オーバーブーストだけは使わせない!)

 再び周囲にアクセルシューターをばらまき彼女目がけて進む。 


『なのは、大丈夫?』

 ヴィヴィオと戦っていたなのはに念話が届く。

『フェイトちゃん!? カノンとフォートレス消失、外からの砲撃じゃもう落とせない。中に入って駆動炉を壊すか操手を止めなきゃ。』
『うん、私もアリシアと交戦中。私が中に行くっ。フォローお願い』
『了解!』
 


「お姉ちゃん、アリシアがっ!」

 聖王のゆりかごの中でアリシアを支援していたチェントが叫ぶ。

「フェイト…こっちに来るつもりだね。」

 フェイトが戦闘空域をゆりかごに近づけながら少しずつ戦闘速度を上げている。アリシアもついて行っているけれど純粋な魔力勝負になると魔力コア頼みのアリシアには勝ち目がない。

『アリシア、フェイトの動きに惑わされないで。魔力消費激しくなってるよ。』
『判ってる! でも私が抑えるしかないんでしょ!コアはあと10個』
「私が行って…」

 ヴィヴィオが倒れた今、チェントが支援するというのも1つの方法、しかしアリシアはそれを即座に却下した。

「無理、アリシアは幾らか経験あるからまだ追いついてる。チェントじゃ足手まといになる。」

 彼女がどこまで魔法戦が出来るのかは判らないけれど、弱い魔力資質にもかかわらずストライクアーツの全国ランカーになっているヴィヴィオを眠らせ、フェイトと空中戦を繰り広げている。

(母さんが止めさせてって言うのわかるよ。)
『アリシア、戦闘空域だけでも固定して。ゆりかごでも空域絞る支援する。』
『わかった、やってみる! 通信終了!』

 アリシアがそう言って通信を切った直後

『アリシアさん、対AMF兵器を壊しました。これでママ達は中に入ろうとする筈です。アリシアの状況教えて下さい。』

 子供のヴィヴィオから念話が入った。彼女の戦闘状況を見るとなのはに近接戦をしかけている。

(なのはさん…防御に回ってる?)

 その様子を見て2人が何を考えたのか気付いた。

『ヴィヴィオ、フェイトがアリシアの消耗を狙ってこっちに来る。なのはさんはヴィヴィオを足止めする陽動だよっ!』
『…っ! あと何分ですか?』
『あと2分』
『後は私が何とかします。アリシアとアミタさん・キリエさんをゆりかごに送ります。時間軸に影響出るかもなので全員中から出ないで下さい。』
『えっ!? ヴィヴィオっ!』

 時間軸に影響があるって何をするつもりなのかと聞き返すがその返答は返ってこなかった。 


 
(魔力の違いがここまでなんてっ!)

 地上戦だったらまだもう少し戦えていた。コアを使った飛行魔法でここまで速度を上げたのは初めて。フェイトのライオットⅡに対応する為に消耗の激しいブレイズモードからソニックフォームに切り替えている。だがそのジャケットも何度かの交戦で何カ所か破れている
 でもそんな言い訳が通じる時でもないしするつもりもない。

「タァアアアッ!」

 不幸中の幸いはブレイブデュエルの世界で恭也と美由希に教えて貰った技、一瞬だけ時間がゆっくり動く様になる感覚。膝を壊しかねない程の高速で動けないと使えないものだと思っていたけれどそうではなく、動かなくても集中すれば一瞬だけ見えた。
 お陰でフェイトの攻撃を寸前で避けるか防御が出来ていたけれど…

「ブレイブデュエルよりきっついね…」

 呟きながらも何とか金色の光の後ろを追いかける、だがその光は急に反転してこっちに向かってきた。

「!?」

 飛行魔法の進路変更が間に合わない。彼女が私の魔法制御能力を知ってしかけてきたのだ。

「ァアアアッ!」 

 両手に持った小太刀を構え速度を上げようとするが

「!!」

 フェイトとの間に生まれた虹色の光球に飛び込んでしまった。


「ごめん、アリシア」

 アリシアの魔力制御は年相応、それに気付いたフェイトは急制動出来ない所まで速度を上げさせ自らは急制動をかけて反転しカウンターを狙った。魔力ダメージの砲撃をぶつけて終わらせゆりかごへ! そう考えていた直後、彼女との間に虹色の光球が生まれ

【ドゴッ!】

 腹部への強烈な衝撃を感じ

「ごめんなさい…フェイトママ」
「ヴィヴィ…」

 何があったのか気付く間もなく、虹色の光を受けて意識を飛ばされた。



「ァアアアアッ!! えっ!? わっ!!」
【ゴンッ!】

 視界が開くとそこは部屋の中だった。急制動をかけるが間に合わず壁に直撃した音が室内に響く。

「…イタタタ…えっ? ゆりかごの中? 何で戻って…!!」
「お姉ちゃんっ!」

 咄嗟に庇った腕を摩り、埃をパンパンと払いながら立ち上がるとチェントが駆け寄ってくるのを見る。

「ヴィヴィオーっ!」

 あの状況で転送出来るのは1人しか居ない。彼女がフェイトとの戦闘に割って入ったのだ。

「アリシア落ち着いて、フェイトはヴィヴィオが倒したわ。今転送した。ヴィヴィオ、アリシア回収完了。」

 モニタに映るヴィヴィオが頷く。

『了解、少しだけなのはママの進行を抑えて下さい。次はザフィーラと教導隊を飛ばします、ザフィーラはわかんないけど、他はコアを持ってる筈です。』
「わかった。準備する。タイミングはこっちでいい?」
『はい。聞こえてたら…アリシア、ヴィヴィオとフェイトママを止めてくれてありがとう。後は私が何とかするから。』

 そう言うとモニタの中から姿が消えた。

「何とかって…」
「全員倒すつもりよ…1人でね。」      
「1人でって…無茶苦茶だよっ!」

 大人アリシアに駆け寄る。
 聖王のゆりかごを動かし、結界魔法で空域を包むだけでも今までの彼女では考えられない。そこにまだなのは達を全員倒すつもりって…

「無理させてるのは判ってる…でも」
「無茶ではありませんよ。」
 その声に思わず振り返る。
 聖王のゆりかごはベルカ聖王家の血筋、ヴィヴィオとチェントしか動かせない筈。でも玉座に居たのは
「…イクスさま?」
「の中に居るオリヴィエ王女」
「「!?」」
「アリシアさん、間もなく都市部中央に入ります。」

 一体何が起きているのか?

「アリシアまだ終わってないよ。私はゆりかごの制御で手いっぱい。ヴィヴィオに何かあったらアリシアとチェントに行って貰わなくちゃいけない。」

 端末のキーを高速で叩きながらモニタから目を離さない大人アリシアの言葉に

「うん…」

 深く頷いて気を引き締めた。



「ごめんね…」

 力が抜けたフェイトの体を抱え手元に光球を作り出して中に入れる。

「フェイトちゃん!!」

 なのはの声が聞こえる。追いかけて来たらしい。彼女がそのままゆりかごに行ってしまうと思い時間稼ぎを頼んだのだけれど無用だったらしい。

「ヴィヴィオ、フェイトちゃんはっ?」
「ヴォルフラムに送ったよ。」

 そう言うとその場から消えた。



「準備完了、ヴィヴィオっ」

 キーをタンッっと打ち終わった大人アリシアはヴィヴィオへ通信を送る。

『いつでもっ!』

 その声を聞いて直ぐ様トリガーを引いた。
 次の瞬間、ミッドチルダ、管理局本局、ヴァイゼン、管理世界のいくつかの地上本部やその周辺で次々とある異変が襲った。
 それはヴォルフラムでも起きた。船体の残骸を運んでいたラプターが次々と倒れたのだ。
 ほぼ同時にデアボリック・エミッションの周囲に居た首都航空隊の数人の飛行魔法が消え落ちていく。 

 プレシア・テスタロッサの開発した【魔力格納多層構造結晶体】。
 通称『魔力コア』や『コア』と呼ばれている結晶。過去の遺産や現在の技術では為しえなかった『魔法力を出力制御機能ごと組み込まれた結晶体』は魔法文化を根底から覆す程の影響力を持っていた。
 どんな便利な機械や道具でも悪意のある者の手に渡った場合悲劇が起こる可能性を秘めている。
 プレシアは開発時からそれを既に想定し出力制御機能の中に組み込んでいた。それがコアの自壊プログラム。
 武装隊や教導隊員は当然この結晶を持っており、ラプター間の通信制御にも組み込まれていた。それらがプログラムの起動によって一斉に壊れたのだ。
 この世界に来る前にアリシアはプレシアから自壊プログラムの起動キーを渡されていたのである。だが闇雲に壊してしまえば魔力コアを使うアリシアに影響する為使えなかった。ヴィヴィオはそれを使う機会が今だと考えてアリシアを安全なゆりかごの中に飛ばした。

 
「どうしたっ! ガッ!!」

 アミタとキリエと戦闘中だった教導隊員にもその影響は来た。振り返ったザフィーラは詰まった息を吐いて顔を歪ませる。

「おぃっ!」

 教導隊員が近づこうとすると力なく崩れた体が落ちていきそのまま虹の球体に吸い込まれる。彼の居た場所には1人の少女

「お前は…」

 彼もそこまで言ったところで意識を失った。



「ヴィヴィオ…」

 背後に気配を感じ振り返る。

「シグナムさん、私を止めますか?」
「いや、レヴァンティンを壊されて止める力もない。だが誰かを殺めるつもりなら盾にはなれる。」
「…でしたら不要です。シャマル先生にごめんなさいって伝えて下さい。」

 そう言うと再びその場から消えた。
  


 所変わってヴォルフラムの医務室では

「なっ、何!? はやてちゃん!!」
「お、おいっ!!」

 シャマルが悲鳴をあげヴィータがベッドから飛び起きる。
 それもその筈、部屋の中に虹色の球体が出来たと思うと誰かが転送されてくるのだ。フェイト、ザフィーラ、ヴィータも知っているミッドチルダで教導中の同隊の面々…。

「な、何?」

 トーマとリリィ、アイシスが応援に来た時には部屋内のベッドは全て埋まり数名は壁に背を預けた状態になっていた。

~コメント~
 週末に予定があるので早めに掲載しました。(珍しすぎますね)
 戦闘も終盤戦、今回は滅茶苦茶冷静なヴィヴィオです。
 魔力コアの自壊プログラムについては何度か大人アリシアが使うタイミングを考えています。「コアだけなら何とか~」みたいな台詞がそうです。
 この話を考えていた時に静奈君から「トロイの木馬」というのを教えて貰いました。ギリシャ神話で「トロイアの木馬」は知ってましたがパソコンのウィルスの代表的な物の総称らしいです。名付けた人のネーミングセンス良いですよね。
(ウィルス感染した人から見れば憎さ100%でしょうが)
 
 本日、AdventStory全話書き終わりました。少し修正や追記はあるでしょうがもう少しお付き合いくださいませ。
 …あと1冊で収まるのでしょうか…(汗)

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