第68話「星の激突」

「流石にきついか…」

 ヴィヴィオとなのはの戦闘をゆりかごの中で見ていた大人ヴィヴィオは立ち上がる。

「アリシア、チェント、コアリンクまだ使える?」
「ヴィヴィオ、無茶だよっ!」 

 チェントがその意味に即座に気づいて叫んだ。

「…出るつもりなら姉として使わせる訳にはいかないわ。今リンクしちゃったらヴィヴィオの魔力ダメージがチェントに跳ね返ってくる。その怪我でまともに戦えると思ってる?」
 こういう時にも冷静さを失わない親友に心底脱帽する。

「でもこのままだとヴィヴィオが負ける。母さんはヴィヴィオの消耗に気づいてペース配分始めてるけどヴィヴィオはずっと全力で動いてる。アリシアにも判ってるよね?」
「…それは…」
「私が行って…」

 小さいアリシアが手を挙げるが大人ヴィヴィオは首を横に振る。

「アリシアはもう出られない。コアを全部壊しちゃったから出た瞬間に魔法が使えなくて飛べなくなる」

 ゆりかごの中ではまだ形を保っているが外に出た時点でコアは自己崩壊する。その為にヴィヴィオが彼女をここに飛ばしたのだから。

「チェントもこの戦況では出せない、アリシアもコアを壊してるから外に出たら同じ…イクスには船をここで止めて貰わなくちゃいけない…。参謀どうする?」

 アリシアは途中から気づいている。その上で何も言わないのはヴィヴィオの決意に気づいて彼女の意思に任せようと考えたから。

「アリシア、チェント…これは私達がヴィヴィオとアリシアを巻き込んじゃった事件なんだ。偶々2人を巻き込んでヴィヴィオが聖王のゆりかごを動かせてここまで出来た。私達がここで見てるだけで良いの?」
「ヴィヴィオ、方法はあるの? 魔力ダメージだけじゃなくて身体もそんなボロボロなのにそれで行って何か出来る?」
「…正直わかんない。でもまだ動けるのに見ていたくない。母さんがストライクスターズを撃つ前に行かないと今のヴィヴィオは気づいてない。消耗しきったところでアレを食らったらいくらヴィヴィオでも落ちちゃう。だからっ…」
「!? 待って! なのはさんはストライクスターズを使おうとしているの?」

 私が行かなくちゃと言おうとした時小さいアリシアが口を挟んだ、少し苛立つがここで怒っても仕方がない、彼女の方を向いて答える。

「そうだよ。レイジングハートのダメージレベルじゃもうスターライトブレイカーは使えない。攻勢に回ってる様に見えてるけどヴィヴィオの魔力を消耗させる為。」

 そこまで聞くとアリシアは強く頷いてから胸のペンダントを取り出して

『ヴィヴィオ聞こえる?』

 念話を送った。



「ハァッ、ハアッ…流石にそろそろっ!」

 息を整えながらヴィヴィオはなのはを見る。彼女の魔力が幾ら高くてもそろそろ限界に近いはず。
しかし彼女は全く息を荒げておらず、むしろヴィヴィオの方がきつくなってきている。
無理を承知で色々している、心当たりがありすぎるから今更と思えば今更だ。

「RHdまだいける?」
 頼みの綱の相棒も負荷をなるべく分散させてダメージコントロールしている状態。つまり余裕はあまりない…
 でもレイジングハートのダメージもかなりきてる筈。

『ヴィヴィオ聞こえる?』

 再びなのはに向かって行く最中、念話が飛び込んだ。ここで念話を使ってくるのは彼女しかいない。

『何っ? 今凄く忙しいんだけど!! 切るよ』
『切らないでそのまま聞いて…なのはさんは…』

 なのは目がけて何発目か判らないクロスファイアシュートを放つ。だが彼女はそ
れをギリギリ当たらない距離で動き避けた。

『だから作戦を伝えるね…』

 その話を聞いて呆れかえると同時に親友の作戦に乗った。



『ディバィィイイン、バスタァァアッ!』

 砲撃魔法を放った直後数発のアクセルシューターを追随させヴィヴィオを狙う。そろそろ彼女は限界に近い。魔法力を使い切る前に落とす。
 そう考えているとさっきまでアクセルシューターを殴って壊していたのに初めて避けた。

(今っ!)

 再び彼女目がけて砲撃魔法を放ちその上下左右に拘束魔法をしかけた。

「ウァアアアアアアッ! !?」

 同じ様に力業で壊されていくがその中の2個がついに捕らえた。だが次の瞬間再び破壊される。
なのははそれにも構わず再び砲撃魔法と拘束魔法をしかける。そしてヴィヴィオの両腕を完全に固定させた。

「レイジングハートっ!」
『Yes』

 既に読み込んでいた魔法を起動する。なのはを中心に12個の魔法球が現れ細い線の様な砲撃魔法を放つ、それはヴィヴィオを囲むように放たれ移動出来ない様に阻む。

「ストライクっスタァアアアズッ! !?」

 そのまま直射砲撃を放とうとした瞬間、拘束されていた筈のヴィヴィオが

「ほしよぉぉぉおおおおお!!」

 周囲の拘束用砲撃をかいくぐった射撃弾と主砲撃を同時に放った。

(押し切るっ!!)

 なのははカートリッジを2回交換し出力を上げた。



『切らないでそのまま聞いて、なのはさんはヴィヴィオを魔力ダメージでノックダウンさせようとしてるけど、レイジングハートのダメージからスターライトブレイカーは使えなくなってる。だからなのはさんが使おうとしてるのはストライクスターズでもうチャージに入ってる。』

 そう言われてクロスファイアシュートで牽制するとなのはは迎撃せずに避けた。魔力を残そうとしている証拠だ。

『ストライクスターズを使うにはヴィヴィオの動きを1時的に止めなくちゃいけない。これからの攻防で拘束魔法をいっぱい使ってくる筈。それがなのはさんのチャージ完了の合図だよ。』
『だから作戦を伝えるね。』
『避けた後、拘束魔法を幾つか残してわざと引っかかってから壊して。その後でまた拘束魔法を受けるからその時はヴィヴィオが自分の魔法で両腕を拘束して。』
『こっちのなのはさんのストライクスターズはヴィヴィオのと違って先に逃げられないようにシューターが囲ってから主砲撃が来る。主砲撃が出た瞬間にヴィヴィオもストライクスターズで迎撃して。それで勝てるよ、絶対!!』
(アリシア、本当に凄いよ…)

 感心しながら桜色の囲いを待った。作戦を聞いた時にヴィヴィオもチャージを始めてもう終わっている。 

「ストライクッ」

 構えたレイジングハートの先に一際大きな光が見えた瞬間、両腕の拘束魔法を切ってプログラムを起動

「スタァアアアアズ!!」
「ほしよぉぉぉおおおおおお!!」

 射撃弾と砲撃を同時に放った。だがそれだけだとストライクスターズ同士のぶつかり合いになる。
 その前にヴィヴィオは動いた。


 ヴィヴィオは砕け得ぬ闇事件でなのはとフェイトとの模擬戦でストライクスターズがブラストカラミティとぶつかり引き分けになった時からカスタマイズしていた。
 スターライトブレイカーやラグナロク、ストライクスターズに代表されるオーバーSランクの高魔力砲撃は術者が砲撃地点から動けなくなるという欠点がある。
 それは発射時に使用者が魔力を著しく消耗させてしまい動けなくなるのと、砲撃魔法同士の激突になった時追加砲撃で押し切る為に威力を強化させるからでもある。
 しかしヴィヴィオは押し合いになる前提を崩す方法を見つけていた。
 それは…

 ストライクスターズの主砲撃を放った直後、ヴィヴィオは空間転移でその場を離れる。次に現れたのはなのはの放ったストライクスターズの目の前。

「これがっ私の全力だぁあああああっ!!」

 そこで左拳に光を集めて思いっきり殴る。ただ殴っただけじゃない、その拳には聖王の鎧を凝縮した光-魔力無効化の特性を持たせている。
 無効化の光を直に受けて桜色の光が霧散する。
 直後霧散する光を吹き飛ばす様にヴィヴィオをすり抜け通り過ぎたのは先程放ったヴィヴィオ自身のストライクスターズ。
 押し合いになる前に相手の砲撃を【消した】時、そこには動けない相手だけが残る。 


 周囲をまばゆい光に包まれてなのはの意識は落ちた。

「ママッ!!」

 爆風で吹き飛ばされたなのはをヴィヴィオは再び転移して受け止めた。

「…本当にごめんなさい…ママ」

 そう言いながら落とさない様にしっかり抱きしめた。



「やった!!」

 聖王のゆりかごでアリシアは握り拳を作る。その横で大人ヴィヴィオと大人アリシア、チェントはフゥッと息をつく

「アリシア…あなた、こっちのアリシアより凄い参謀になれるよ…間違い無く。」
「一瞬であんな作戦思いつくんだから…驚いたよ。」 
「そうね、ヴィヴィオの話を聞いただけでなのはさんの拘束魔法を1度受けてから自分で自分を拘束するなんて、それにあのストライクスターズも…こんな無茶苦茶な戦い方私じゃ思いつかないわ…」
「ヴィヴィオが少し前のなのはさんからストライクスターズを教わってから変えているのは知ってました。だからストライクスターズ同士の撃ち合いになったらヴィヴィオが勝つって考えたんです。あとはなのはさんがどうすれば疑念を持たずに使ってくれるかってだけでヴィヴィオがスターライトブレイカーは使えなくて魔力を残す為にペースを考えてるって教えてくれたから…」

 3人から褒められて照れながら答える。

「それで…これからどうするんです?」

 アミタが聞くと

『ヴィヴィオです。作戦完了、なのはママに勝ちました。ママをヴォルフラムに送ってから戻ります。』

 大人アリシアが笑顔を浮かべて通信を開く。

「ご苦労様、魔力…身体は大丈夫?」
『ちょっときついけど平気です。アリシア、さっきの作戦ありがと。やっぱり凄いよ。私じゃ思いつかなかった。じゃあまた後でっ♪』

 そう言うと通信は切れた。

「チェント、操船を代わって貰えませんか? ヴィヴィオが帰ってくる前に元の世界に戻ります。」

 玉座に座っていたイクスがチェントを呼ぶ。

「えっ? でも…」
「ヴィヴィオの傷では辛いでしょうし、月の魔力を受けているのでその場で浮かぶだけなら魔力も使いません。何もせず座っているだけで大丈夫ですよ。」

 先程まで笑顔だったアリシアは真剣な表情に変え

「イクス様、どうしてイクス様が聖王のゆりかごを動かせるのか…学院祭でチェントがイクス様をオリヴィエって言った事に関係あるんじゃないですか? 本当はオリヴィエさんじゃ?」
「アリシア、私はあなたの世界のイクスヴェリアです、平和な日々に喜びを覚えヴィヴィオやチェントの健やかな成長を見続けたい。私が望むのはそれだけです。」
「……ヴィヴィオに言うつもりはないんですか?」
「あなたが話すのであれば私は止める資格はありません…ですが何故彼女がヴィヴィオに託したのかを考えてください。彼女は言ったのではないですか? 『聖王でも高町でもないヴィヴィオとして生きて欲しい』と」

 そう言うと彼女は虹の光の中へと消えた。慌ててチェントが言われた通り玉座に座る。だがアリシアは彼女がさっきまで居た場所から視線を離せないでいた。
 イクスが残した言葉…それをアリシアもオリヴィエ本人がヴィヴィオに言ったのを聞いていた。

『ヴィヴィオ…あなたはあなたの願う未来を進んでください。ゆりかごの聖王…ベルカ聖王の末裔という枷に捕らわれず、私に話してくれた転移の始祖の思いを持って…1人のヴィヴィオとして…』
「やっぱり…オリヴィエ…だったんだ…」

 それは彼女がイクスの姿をしたオリヴィエ本人だと改めて認識するには十分だった。
 そんな彼女に大人ヴィヴィオは頭をポンと叩く。

「ヴィヴィオ…」
「アリシア、本物と魔法技術で作られたコピー…本物が現れたら虐げられるのはどっちか判るよね。彼女もそれを判ってるんだと思う。だからこの話は私達だけの秘密。」
「…あ…」
「そういうこと。」
『ヴィヴィオとチェントの健やかな成長を見続けるには自分がオリヴィエの意思を受けていると知られてはいけない。』

 ただ見続けたいという願いがどれ程難しい事なのだろうか…と彼女の気持ちを知って心がチクりと痛んだ。

~コメント~
 本日2話連続の掲載です。(本来は今話が今日掲載予定でした…)
 ヴィヴィオvsなのはがやっと終わりました。
 ヴィヴィオ版ストライクスターズについては数年前から考えていて何度か使っています。
(AdditionalStoryでルーテシアから壊して良いと聞いた岩山を爆発させたのもこれでした。)
 砲撃魔法にはより強い砲撃魔法で対抗するみたいなセオリーがあるならセオリーごと潰してますよね。

ようやくエンディングが見えてきました。

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