第26話「ユーリ奮闘す」

 Weeklyイベントも終盤になった時、八神堂のはやての携帯に連絡があった。シャマルからだ。オペレーションルームで操作中の為、ヘッドマイクを繋いで彼女の電話を取った。

「はい、はやてです。」
『シャマルです。教授から専門の教授に連絡取って頂いて話を聞いてきました。なのはさん、フェイトさんに代わって貰えますか?』

 彼女が話を聞いてくれたらしい。だけど…

「今2人ともグランツ研究所に向かってる最中でな。ちょっとこっちで色々あって…」
 タイミングが悪かった。もう少し早ければ彼女達を呼び止めていたのに…

『ヴィヴィオちゃんに何かあったんですかっ!?』
「ちゃうちゃう、アリシア…あっちのアリシアちゃんが色々無茶してな…」

 はやてはそう言ってWeeklyイベントで速攻していたアリシアをヴィヴィオがスキルを使わずに勝ったのを伝えた。

『……グランツ研究所に行ったのでしたら丁度良いです。ヴィヴィオちゃんに内緒でなのはさんとフェイトさんに伝えて下さい。彼女の心の壁の原因は……、何度も使えない方法ですが…』

 その方法を聞いてはやては目を見開いて小さく感嘆の声を発した。
 確かに何度も使えない方法だけど、上手くいけば問題は解決出来る。 

「ありがとな、私からグランツ研究所に連絡するよ。多分、みんなの協力が必要やし」
『はい、私もすぐに戻って手伝います。』

 そう言うとシャマルからの電話は切れた。
 イベントの進行を見る。八神堂では何人かが6戦まで来ているが、大体のデュエリストは終わって観戦モードに入っている。司会はT&Hのアリシアがしているからこのまま任せてもいいだろう。
 イベント用のシミュレーターの数台を通常用に切り替えながらグランツ研究所に連絡した。

「八神堂のはやてです。グランツ研究所、オペレーションルーム聞こえますか?」
『はい、グランツ研究所、オペレーションルームのユーリです。何かトラブルですか?』

 右側のモニタにユーリの顔が映った。近くにヴィヴィオはいるのだろうか?

「ユーリ、ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんは?」
『それが…さっきアミタが2人を連れて博士の部屋に…今頃アミタのお説教じゃないかと…』

 苦笑いしながら答える。あんなことをすればアミタも怒るだろう。
 ユーリはヴィヴィオの事について知っているのだろうか? 知らないのであれば彼女を巻き込んだ方がいい。そう考えて

「丁度いいな。ユーリ、ヴィヴィオちゃんの怪我の治療一緒に手伝って。」
『はいっ? …え、ええ…私でよければ。』

 小首を傾げたユーリにヴィヴィオの事とシャマルから聞いた話をより具体的に話した。


「凄い人だね。」

 八神堂から小走りで向かったからかなのは達がグランツ研究所に到着した時はデュエルスペースにはまだイベント開催中なのか沢山の子供が居た。入ってアリシアとヴィヴィオを探そうと周りを見ていた時

【クイックイッ】

 袖を引っ張られそっちを見ると、ユーリのチヴィットが居た。

「私に用?」
【コクコク】

 頷くとフワリと飛んで、動き始めた。途中で止まると振り返る。

「ついてこい…って?」

 フェイトと顔を見合わせながらもチヴィットの指示のまま2人はユーリチヴィットの後を追いかけた。

「こんにちは、なのはさん、フェイトさん」

 案内された部屋入る。そこはブレイブデュエルのオペレーションルームだった。
 全てのデュエルがモニタに表示され、その下のモニタに文字の羅列が流れている。その角にユーリが立っていた。

「めーちゅ、ご苦労様案内してくれて、戻っていいよ」

 そう言うとユーリのチヴィットが部屋を出て行った。

「ユーリちゃん、私達に何か?」
「はい、はやてからヴィヴィオの事聞きました。それとシャマルさんからなのはさんとフェイトさんに伝言を預かっています。『ヴィヴィオの怪我の原因は…』」

彼女の口からある方法が伝えられた。

「私も何度も使える方法じゃないと思います。でも十分可能性はあります。」

 それを聞いて私達は微笑む。

「ありがとう、私達もそれしかないかなって…ここに来ました。」
「アリシアも…それしか無いって考えたからあんなことをしたんだと思います。」
「それでお願いがあるんですが、私達にプロトタイプシミュレーターを使わせて貰えませんか?」「あと、今から言うスキルカードも…」
「はい、私が全力で支援します♪」  
 

「アハハ…いっぱい怒られちゃったね。」

 イベントが終わる前にヴィヴィオとアリシアはグランツ研究所を出てT&Hに向かっていた。
 八神堂にはなのは達が行っていたけれどT&Hには行っていない。イベントにアリサとフェイトが参加していたならこっちのなのはも一緒だろう。

「まったくもう…?」

 グランツ研究所でもう少しデュエルを見てようかと思ったけれど、ユーリから

『アリサに謝った方がいいんじゃないですか?』

 と言われアリシアと相談し行くことにした。

「うん。きっと…絶対もう1回勝負よ!って言われると思うけど…」
「だね♪」

 ため息をつきながらも彼女が私の事を考えて動いてくれたのは嬉しかったからそれ以上言おうとも思わなかった。

(アリサさんとアリサ、すずかさんとすずか…ママ達…1日で子供と大人の2人に会うなんて変な気分。)

 そう思いつつ私達はT&Hへの歩みを早めた。



 同じ頃

『ユーリ、アミタとキリエの姿が見えぬが何処に居るか知ってるか?』

 オペレーションルームに戻ってきて席に座るなりディアーチェから通信が届いた。

「はい。今…あっ、ちょっと博士から頼まれてプロトタイプの所に居ます。」
『そうか、イベントももう終わる。そろそろデュエルスペースに来て欲しいのだが…』
「わかりました。私から連絡します。」
『頼む』

 ディアーチェとの通信を切って、プロトタイプシミュレーターに繋ぐと4人は既に中に入っていたがデュエルはまだしていなかった。

「アミタ~、イベントが終わりそうなのでそろそろ戻って欲しいそうです~」
『もうそんな時間ですか、わかりました。私だけでいいですか?』
「はい」
『キリエ、後をお願いします。イベントが終わり次第戻って来ますので先に始めていてください。』

 アミタに連絡を取ってフゥっと息をついた時、今度はシュテルから通信が届いた。

『ユーリ、アリシアとヴィヴィオのデュエルでヴィヴィオが何をしたのかわかりましたか?』

 ヴィヴィオはジャケットに付加したスキルを含めて何も使わなかった。でも彼女はその状態でアリシアに完勝した。何をしたのかユーリもさっぱり判らなかったがイベントの最中であり、はやてから話を聞いた後2人をプロトタイプに連れて行ったりしていたから後回しになっていた。

「ごめんなさい、気になっていましたがまだ見れていません。データを取り出しておくので後でみんなで見ましょう。」
『お願いします。彼女とデュエルするなら対策を練る必要がありますので…』

 そう言うと通信は切れた。
 ブレイブデュエルの管理端末の1台を触ってアリシアとヴィヴィオの入っていたシミュレーターとデュエル時のデータを纏めて個人用の領域にコピーする。後で調べるときにこうしておいたほうが何かと手早く出来るからだ。
 コピーがそろそろ終わるかと言う時、レヴィから通信が入った。

『ユーリ~~~、6勝した子がローダーからカードが出てこないって~。調べて~!この子塾があるからもう行かなくちゃいけないんだって。』
「はい~、少し待って下さい。」

 言われてカードローダーのエラーと6勝したデュエリストのIDと同じものを見つける。イベント中でカードローダーがイベント報酬用に変わっていなかったのが原因だとわかった。
 監視スタッフに事情を話して切り替える許可を貰って再び端末を操作し切り替える。

「レヴィ、その子にもう1回ローダーを使って貰って下さいと伝えて下さい。」  
『うんっ! …あっカードが出てきた。ありがと~!』

 そう言うと通信は切れた。再びフゥっと息をついて椅子の背に体を預けた。

「何でもこなすユーリはDMSの縁の下の力持ちだね。」

 スタッフの1人に言われて

「はいっ♪」

 嬉しくて満面の笑みで頷いた。
 


「アリシア~っ!」

 T&Hに着いてなのは達を探そうとキョロキョロしていると背後から凄い勢いでアリサが突撃してきた。

「あなた~よくもやってくれたわねっ!」
「アリサっ!?」

 怨念が籠もった声にヴィヴィオは驚き振り返ってその表情を見て更に驚き数歩下がった。
でもアリシアは手を合わせて直ぐに謝る。

「アリサ、さっきはごめんね。八神堂から私とデュエルした子はもう1回参加させてあげてってお願いしてたんだけど…」
「あ……あ~っもうっ!」

 アリサは振り上げた握り拳を震わせていたが、やがて力を落とした様に下げた。
 周りに居た子達はアリサの声と振り上げた手を見てケンカになるのではと見ている。彼女はショッププレイヤーでもあるがそれ以上に周囲の目もわかるらしい。

「久しぶり、アリサ」
「…うん、久しぶり」

 謝って手を差し出したアリシアに対して彼女は拳を下ろし握手した。それを見てヴィヴィオはホッと胸をなで下ろした。


  
「でさ、さっきのアリシアのはわかったけどヴィヴィオはどうして途中で止めちゃったのよ? あれだけ強かったら10連勝位余裕でしょ?」
「私も気になってた。」

 アリサがやって来て少し後になのはとすずかが追いかけて来た。ショッププレイヤーが集まっていると色々周囲の目も集まる。ヴィヴィオ達はエントランスからカフェに移動した。
 5人全員でテーブルを囲ってすぐアリサとなのはが聞いてきた。

「スキルが使えなくてグランツ博士からデュエルはしないように止められてるの。あっでもスキルカードを使わないデュエルだったらしてもいいって。ブレイブホルダーとかも忘れて来ちゃったから借り物だしね。」

 そう言ってテーブルにブレイブホルダーをテーブルに置く。  

「これ、グランツ研究所でテスト中のでしょ?」
「うん、私とアリシアのジャケットはシュテルとレヴィと同じタイプだったから。それより私達が帰った後の話教えてよ。」

 前に来た時からそれ程時間は経っていないと思うけれど、ブレイブデュエルもバージョンアップしているから少しずつ変わっている筈。特にT&Hは前回あまり立ち寄らなかった分聞きたかった。

「そうね…」

 すずかが何があったか思い出そうとした時、カフェスペースのスピーカーから

『Weeklyデュエルしゅうりょ~、今回の勝利者はっ♪』

 こっちのアリシアの声が聞こえた。イベントが終わったらしい。

「それよりも、アリシアつきあいなさい。デュエルを仕切り直すわよっ!」

 アリサが椅子から立ち上がってアリシアの腕を掴む。

「えっ!? わ、わたしっ?」
「当然でしょ。謝られても私の気持ちが治まらないもの。イベントも終わったからショッププレイヤーとして待つ必要もなくなったし。ヴィヴィオまた後でね。」
「行ってらっしゃい~♪」
「ヴィヴィオ止めてくれないの~っ!?」

 手を振って見送る私にアリシアは悲痛な声をあげながらアリサに引っ張られて行ってしまった。 

「ヴィヴィオちゃん…アリシアちゃん助けてほしかったみたいだけど…いいの?」
「うん」

 見送った後すずかが恐る恐る聞いてきたから頷く。
 色んな世界のアリサを知っているヴィヴィオにとって彼女があんな無茶をそのまま見過ごす訳がない。特にここの彼女はショッププレイヤー、一瞬で負けてプライドも崩れたし勝っていればその後のデュエルで他のデュエリストが巻き込まれることも無かった。
 アリサは責任感も強いから落としどころを作りたかったのだろう。それにゲームに連れて行かれただけなのだから危険もない。

「それよりお話聞かせてよ。」

 それから2人が戻ってくる1時間程3人はおしゃべりを楽しんだ。



 一方、グランツ研究所のプロトタイプシミュレーターの前でアミタとキリエ、シュテルとレヴィがモニタを見ていた。
 モニタに映っていたのはデュエル中の大人のなのはとフェイト。

「ここまでとは…マスターモードでも勝てそうにないです。」
「うん…凄い…凄すぎてどこが凄いのかわかんないくらい…」
 シュテルとレヴィが感嘆の声をあげる。
「私達も幾つかレクチャする位しか出来ませんでしたね。」
「ヴィヴィオやアリシアもそうだけどあっちの子は凄いわよね~…ゲージ固定してるからスキル使い放題だし、最初から全部のスキル同時に使っちゃうし…」

 アミタとキリエも苦笑いしている。
 それ程なのはとフェイトのデュエルは凄かった。
 なのはは高速で飛行するフェイトに対してエクセリオンバスターとアクセルシューターを織り交ぜて放っている。2つと1番多い系統のスキル、しかしその使い方が凄かった。フェイトの移動先を読んで放ったシューターと誘いこむ為のシューター、そして彼女の移動方向を阻むシューター…全部で40個以上のシューターを操作しながら読んだ先に彼女が入った瞬間にエクセリオンバスターを放っている。
 その1つ1つが細かな精密射撃、それを移動しながらするのはシュテルには出来なかった。
 フェイトもフェイトでなのはの攻撃を全て避けながら彼女の隙を作る様な動きと生まれた隙を狙って急接近して攻撃している。
 フェイトが使っているのはSonicMoveだけだが時々同時使用の上限に達している。
 その速度を出す方も捕捉出来る方もシュテル達から見てもレベルが違い過ぎる。そう思いながらも更なる高みへ上る為になのはとフェイトの一挙手一投足を見つめていた。

~コメント~
 DMSの中でプレイヤーよりスタッフに近い立場のユーリ、みんなから頼りにされる縁の下の力持ちです。
 
 さて話は変わりまして先ほどイラスト担当の静奈さんから入稿したとの連絡がありました。
 コミックマーケット93 3日目く-36b「鈴風堂」でサークル参加します。
 新刊は現在掲載中のAdventStoryAfterがアフターサイド1として文庫化します。ヴィヴィオ達の活躍を是非ご期待下さい。

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