第27話「更けていく夜に」

「こんな位でいい?」

 その日の夜、ヴィヴィオは八神家のキッチンに立っていた。
 フェイトとなのは、アリシアとチェントは高町家に行った。
 急に押しかけたお詫びと前に来た時のお礼、アリシアは練習に参加するつもりだそうだ。ヴィヴィオも一緒の方がと思ったが5人でしかもそっくりな2人が揃うと色々大変そうだと思って、T&Hではやてに話すと2つ返事で迎えられた。
 ただお世話になるのは申し訳ないので、はやてが作る夕食を手伝っている。

「うん、ええ感じ♪ このまま弱火にしてな。ヴィヴィオちゃん料理上手やね、家でもしてるん?」
「あ…あんまり…」

 時々お菓子を作る事はあるけれど、ご飯はなのはが作ってくれるからあまりというか殆どしていない。
(…マズイ…このままじゃ私もあっちの私と同じになっちゃう。)

 異世界の大人の私は料理が得意じゃないからチェントが家事を仕切っていた。後の事を考えても料理は出来る様になりたい。

「そうなん? せや、帰った時つくってなのはさんとフェイトさんを驚かそう。美味しいって言ってくれたら嬉しくて次はもっと美味しく作れるようにって思うよ。後で八神セレクトのレシピ教えるな。」
「うん♪」

 味見で褒められただけでも嬉しいのだからなのはやフェイトに喜んで貰えるならと思うと自然と頬が緩んだ。



 同じ頃、グランツ研究所のリビングではユーリがシュテル達と一緒にヴィヴィオとアリシアのデュエルのデータを見ていた。2人の勝つ為の作戦会議と銘打っているがお昼のおやつ同様、夕食後のディアーチェ特製デザートを堪能する会である。普段なら堪能しながらの至福な一時だけれど今日ばかりは違った。

「やっぱりブレイブデュエルだと細かなデータが無くて調べるのは難しいですね。」

 プロトタイプシミュレーターであれば詳細なデータが取れるが、ゲーム側では同じデータを取ろうとするとデータ量が大きくなりすぎる為、最低限必要なデータ以外は全て捨てている。
 ユーリはオペレーションルームから2人がデュエルする直前に少しでもデータを取るように設定したのだけれどそれでも限界があった。

「映像だとアリシアは動き出してヴィヴィオのパンチを受ける迄4コマしか映ってません、目で追える速度じゃないです。でもヴィヴィオはアリシアが消える直前に腕を振り始めています。」
「あやつに似た少女…チェントがデュエルで試していたのを思えば何かを感じる類いなのかも知れん。流石にそのデータは残っておらぬか…」
「そう言えば…昼に父さんの部屋でヴィヴィオさんが言ってました。『アリシアが恭也さんから教わったみたいに私も士郎さんから教えてもらってるから効かない』と…それがディアーチェの言った『感じる類い』なのでしょうか?」

 食事後のコーヒーと冷えたプリンカップをトレイに乗せて持って来たアミタが思い出しながら呟いた。

「そうか! だったら僕たちも教えて貰ったら勝てる!」

 レヴィが瞳をキラッと光らせて叫ぶ。

「無理だな」
「そうね~難しいんじゃないかしら」

 しかし即座にディアーチェとキリエがトレイからカップを取りながら否定した。

「え~っ、どうして?」
「多分あれはあやつらの剣術の必殺技…の様なものだ。アリシアとヴィヴィオに教えた理由はわからぬが我等も同じと言うのは無理だろう。」
「そうですね、2人が来た時になのはが言ってました。『まだ私も使えないのに…』と。ヴィヴィオが何を教わったのかはわかりませんが教わった理由はアリシアが現実でアレを使わせない為でしょう。」
「? 今日なんて何度も使ってるよ?」
「それはブレイブデュエルの中だからです。ブレイブデュエルの中であればどれだけダメージを受けても実際の体はかすり傷1つしません。アリシアの剣技はスキルカードやジャケットに付加したスキルではありませんから現実の世界でも使える筈です。同様に彼女達の世界、魔法が現実にある世界でも…」
「現実の世界では負傷もすれば死ぬこともあります。そこでブレイブデュエルの様に使えばどうなるか…」
「足に負担がかかって…あっ!」

 ユーリはシュテルが何を言おうとしたのか気づいた。シュテルは頷く。

「相当なトレーニングをして足腰を鍛えていないと歩けなくなります。ですからヴィヴィオに対策を教えたのでしょう。こちらでは誰かが目を光らせておけますが元の世界に戻ってしまえばアリシアが現実で使ってしまうかも知れません。その時にヴィヴィオが止められる様に。話が逸れましたがその様な理由が考えられますので、私達は教えて貰えないと思います。それに…」
「それに?」
「私達はブレイブデュエルのテストプレイヤーでありショッププレイヤーです。他の誰よりもブレイブデュエルを知っています。アリシアは驚異ですが、彼女もブレイブデュエルのゲームルールに則って遊んでいる以上、戦略とスキルを駆使して勝たなければ面目が立たないと思いませんか? その為に沢山練習もしてきたのですから?」

 ニヤリと笑う。
 同じ土俵に立つのではなくあくまでブレイブデュエルのデュエリスト、ショッププレイヤーとしてゲームで戦って勝つ。ブレイブデュエルで使えるスキルカードを使って。あれからまだ2人とはデュエルしていない。相手を軽んじるのではなく相手を分析し対策を考えた上でブレイブデュエルの特性を生かせば良い。

「うむ!」
「そうですね。」
「うん♪」

 ディアーチェ、ユーリ、レヴィはその言葉に強く頷いた。



 八神家・グランツ研究所、それぞれがそれぞれで充実した時間を過ごしていた頃、高町家の客間では…

「私もその方法は考えたけれど難しいんじゃない?」

 アリシアが難しい顔をしてフェイトとなのはに言った。
 シャマルの話を聞いたのはついさっき。
 ヴィヴィオがフェイト達を傷つけてしまうと思ってしまったのが原因だろうと言うのは私にも理解出来た。だからフェイトとなのはがヴィヴィオを圧倒すればいい。隙をつくのではなく正面からぶつかってというのもわかる。
わかるけれど…

「どうして?」
「難しいよ。でも私もそれしかないって思うんだけど」

 2人が聞いてくる。その様子をチェントも見ている。

「その作戦での絶対条件はフェイトとなのはさんがヴィヴィオに勝つことでしょ。勝てるの? 言っちゃ悪いけど、ヴィヴィオ、ブレイブデュエルで1番強いよ。ゲームなら兎も角模擬戦になって勝てる?」
「それにフェイトとなのはさんと本気でデュエルする? いくら怪我しないって言っても本気でデュエル出来ないんじゃない?」

 アリシアの場合、ヴィヴィオをイベントに引き出そうとしてイベントをかき回した。だから彼女は本気で止めに来た。でもこれはアリシアだったからで、フェイト達が同じ方法を使おうとすると『ママ達…どうして?』と理由を考えるだろう。
 その時原因がヴィヴィオ自身だと気づきかねない。
 言った後続けてチェントが口を開いた。

「うん、私もお姉ちゃんと同じで難しいと思います。ヴィヴィオが全力でデュエルしてくれなきゃ成功しないし…デバイスを持ってません。なのはさんとフェイトさんが勝ってもデバイスがあればって考えちゃったら…効果は出ないんじゃないでしょうか?」

 その可能性もあったかと気づく。

「…そうだね…RHdが無いとヴィヴィオも全力出せないよね…」

 なのはとフェイトは項垂れる。

「う~ん…だったらどうしよう?」
「お姉ちゃん、何か良い方法ない?」

 フェイトとチェントが聞いてくる。

「う~ん…」

 流石のアリシアも代わりにいい方法があるかと聞かれ考え込む。

「ヴィヴィオに話してヴィヴィオが自分で解決してくれれば1番いいんだけど…それが出来ないなら…、そうだチェント、あっちの私達はここに来られたりしない?」
「「あっちの私?」」

 なのはとフェイトが首を傾げる。

「うん、あっちヴィヴィオが海鳴に行く前の夜にチェントと一緒に来てたの。でもその日の内にRHdの足りないパーツを取りに行っちゃったんだ。見つけて戻ってRHdを修理して持って来てくれたら解決するかなって。」

ヴィヴィオを治すのではなく、RHdを通じて体内に溜まった魔力を放出させる。RHdがこっちにあればフェイト達の案も現実味を増すし、上手くいかなくてもヴィヴィオが倒れた原因はなくなる。でも…   

「お姉ちゃん達? ヴィヴィオの方が時空転移上手く使うけれど…ここを狙って来るのは無理だと思う。私がここに初めて来られたのも偶然だったし、今日来られたのもお姉ちゃんとお母さんが手伝ってくれたから…。みんなで戻ってもう1回来る?」
「その方法も考えたんだけど…RHdが直ってるのが判ってないと難しいんだよね。」

 ヴィヴィオの時空転移で彼女がイメージを送るだけで願った世界に飛んでいたからそれが普通だと思ってたけれど、異世界の2人では出来ない凄いことらしい。
 全員で1度帰ってとも考えたけれど、RHdの修理が終わっている保証は無く最悪ヴィヴィオが再び倒れてしまう。それだけは何としても避けたい。
 とりあえずこのまま話していても埒がない。

「あっちの私がこっちの状況に気づいてくれてたらいいんだけど…、話が逸れちゃった。今のところはフェイトとなのはさんの方法が1番良いと思うので、ヴィヴィオに勝てる位になったら相談して。練習相手が居ないんだったら…シュテル達に『マスターモード』でデュエル出来ないか聞いて。どんなモードか判んないけど管理者だけが使える凄く強くなる方法らしいから。チェントも2人を手伝ってあげて。」
「その間私はヴィヴィオの近くになるべく居るようにする。お互いに何かわかったら連絡するってことでいいかな。そこで聞いてるなのはもね」

 振り返って障子の方を見る。

「…アハハ…見つかっちゃった。ごめんなさい」

 開けて入ってきたこっちのなのはは素直に謝った。
 全くとため息をつく。

「全然気づかなかった。いつから?」

 チェントが私を驚いた顔で見る

「私が難しいって言った時から聞いてたよ。隠しても仕方ないかなって、それに変に聞かれてヴィヴィオに話されちゃうとややこしくなるし…。なのは、今聞いた事ヴィヴィオもそうだけどみんなには内緒だからね。」
「う、うん。」

 強く頷くなのはを見ながらも、ヴィヴィオが気づくまではそれ程時間が無いだろうと思うのだった。

~コメント~
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 今話はそれぞれの家でということで八神家・グランツ研究所・高町家での夜を書いてみました。
 
 さて、少し話は変わりまして昨年のコミックマーケット93に参加された皆様お疲れ様でした。
 年末年始やまとまった休日はなかなか時間が取れなくて後で色々教えて貰うのですがどうも報告役の静奈君が体調崩してダウンしている?みたいですので元気になったら聞かせて貰おうと思います。
 昨年は2人とも仕事やプライベートの都合で前半は殆ど活動出来ず、後半に集中してしまったので、今年は定期的に動ければと思っています。

 
 

Comments

Comment Form

Trackbacks