AS45「思惑を越えて」

「わ~…すごい人」

 戦技披露会の会場へは先にミッドチルダ地上本部に行ってそこから専用の車で向かう。去年まではスバル達と合流してレールトレインで行くのだけれど、今回は観戦ではなく参加するからでなのは達も一緒だ。そこから参加者用の専用の駐車エリアから会場に入ったところで

「私達は他に用事もあるから待機室で待ってて、扉にヴィヴィオの名前がある筈だから」

 なのはに言われてヴィヴィオは向かうと高町なのは様 高町ヴィヴィオ様と書かれたパネルを見つけて中に入った。
 会場が一望出来る場所にわ~っと驚き窓辺に駆け寄る。窓にベッタリとおでこをつけて周りを見ると観戦エリアにはどんどん人が入っている。

「こんなに沢山の人が見に来てるんだ…」

 ブルッと体が震える。

「ここで模擬戦するんだ…ヴィータさんと…」
「ヴィヴィオ、びびってないよね?」

 振り向くとアリシアとなのは役の少女が入ってきていた。
 2人とも髪を下ろして深めの帽子をかぶっていた。

「待ち合わせ場所で見つけるの大変だったわよ。でも私達が見つかっちゃうと違う騒動起こしちゃうからね。」

 後ろから広報部の彼が現れる。

「すみません。予め場所等をお伝えしていたのですが来場者が多くて見つけるのに時間がかってしまいました…」
「連れてきて貰ってありがとうございます。ごめんね急にお願いしちゃって。」
「いえ、アリシアから話は聞いていたし、広報部から事務所にも連絡があったから。でも…私がセコンドなんて良いの?」

 そう、アリシア達に来て貰ったのはヴィヴィオのセコンドとしてだ。
 最初はアリシアだけに頼んでいたのだけれど『お祭りなんだから盛り上げちゃえ』と言われて彼女からなのは役の少女に連絡し、ヴィヴィオからも広報部を通して頼んだところ2つ返事で受けてくれた。

「いいのいいの、特別席で見られるって思ってくれれば。あと私やヴィヴィオが気づかないところがあれば教えて貰えたらって。私達ヴィータさんに教わってるから何となく癖もわかるでしょ。」
「うん、頑張るから応援してね。」

 そう言うと彼女は笑顔で頷いた。

「アリシア、みんなは?」
「ママ達はチンク達と合流してからこっちに来るって。チェントが迷子になると大変だし、イクスやあっちの3人も一緒、チェントは変身魔法使えないからなるべく変装してくるって、あのウィッグ持ってた。」

 聖王教会側の特別席ってことで頼んでおいた。いつもはスバル達とも一緒の席で見ていたけれど流石に3人がいるとややこしくなるので今回は離れてしまっている。         

「あのウィッグ本当に大活躍だね~」

 笑って言っているとコンコンとドアのノック音がした後になのはが入ってきた。広報部の彼を見つけ会釈すると彼も頭を下げて出て行った。

「こんにちは~、今日はよろしくね。はい3人のパス、首にかけておいてね。」

 関係者用のパスを持って来てくれたらしい。言われたとおりパスに付いた紐を首にかける。

「一応注意だけしておくね。わかってると思うけど沢山見に来てる人が居るからあの魔法は使っちゃ駄目。戦闘エリアと観戦エリアの間には強めの結界があるけど、結界破壊系の魔法も禁止されてる。間違って誰かに当たったら怪我じゃすまないからね。」
「うん」
「色々制限があって相手がヴィータちゃんだから大変だと思う…出るのをお願いしているのに本当にごめんね。」

すまなさそうになのはが言うがヴィヴィオとアリシアは笑顔で頷く。

「大丈夫、なのはママ」
「大丈夫ですよ、なのはさん。ヴィヴィオも私もそんなの判ってますから。その上で特訓もしてきました。勝ちにいきますよ。ねっ♪」
「うん♪ みんなをビックリさせちゃうから楽しみにしてて。」
「…うん、楽しみにしてる。」

 そう言うとなのははヴィヴィオの頭を撫でてあとでまた来るからと言って出て行った。   
   

    
そうして戦技披露会は始まった。
 戦技披露会は元々管理局内の戦技向上を目的として行われてきた。
 それが新たな魔導師を集める為にと一般公開され、更に管理局の魔導実技のお披露目会として注目されるようになった。
 新しい魔導技術の披露等も行われるが、多くの者の目的は終盤に開催される模擬戦である。
 戦技向上を目的としている為、参加するのは各部隊のトップや教導隊のエース、オーバーSランクのライセンスを持つ者である。
 その中にヴィヴィオは名を連ねたのだ。
 普通の局員であればこれがどれ程の場所かを知って物怖じするのだけれど…

「ヴィヴィオ、どれがいい?」
「これ、アリシアこれ好きでしょ。これママの得意料理なの食べてみて。」
「…本当、美味しい。」

 待機室の窓際、敷いたシートの上に持って来たお弁当箱を開けて3人はハイキングに来たかの様にリラックスしていた。   

「ねぇアリシア、魔力コアってまだ披露会で見せないの?」

 試作機の演習を眺めながらふと気になってアリシアに聞く。

「うん、魔力コアだけじゃ使えないし、デバイスへの組み込み方が決まってテストが終わってからになるらしいよ。早くても来年…位じゃないかな。」

 アリシアはサンドイッチを食べながら答える。
 既に魔力コアについては公開されているし試作デバイスもある。しかしそれらはあくまで試作用。ここでお披露目されるのは実用レベルになった時らしい。

「だから、私達のこれは秘密なんだって。」
「勿体ないよね、凄い発明なのに…」
「でも悪用されたらもっと大変だからね。その辺はママも注意してるって言ってた。」

 実際魔力コアが一因となって変わりかけた世界を見ている。
 その話をしているからプレシア達も含めて皆慎重になってくれている。

「ヴィヴィオ、ヴィータさんに勝つ作戦ってあるの?」

 なのは役の少女に聞かれて少し首を傾げる。

「実は…何にも考えてなかったり…」
「えっ?」
「ヴィータさんって私が生まれるずっと前から戦ってて、ママ達と同じくらい強いんだよね。だから私が考える位の作戦なんて直ぐに見破られちゃうし、逆に利用されたら負けちゃうから…。今の私の全力でぶつかるつもり。」

 ギュッと握りこぶしを作って言う。

「そうは言っても、正面からぶつかって勝てる相手じゃないし…奇襲…作戦は考えてる。その為のセコンドだしね。」
「そういうこと♪」

 首を傾げる彼女に2人ニコッと笑って言った。


    
 それから時間は経って、会場では既に模擬戦が始まっていた。
 ボンヤリと眺めていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえて

「ヴィヴィオ、もうすぐ出番だよ。」

 フェイトが執務官の制服姿になって入ってきた 

「行こう」
「うんっ」
「はいっ!」

 3人は部屋を出て行った。



『陸士隊のトップ同士の地上戦とはいえ白熱した対戦でした。次は特別イベントということで教導隊のベテラン魔導師とエースオブエースの娘との対戦です。戦技教導隊ヴィータ空尉と本局無限書庫高町ヴィヴィオ司書です。』

 司会者の声に続いてオオーっと声が聞こえる。
 転移ゲートで戦闘エリアに飛んだヴィヴィオは手を挙げて答える。

(…ブレイブデュエルでの経験が役に立ったよ…ホント)

 何も知らずに歓声を受けていたら緊張していつもの様に動けなかっただろう。
 続いて現れたヴィータもグラーフアイゼンを起動させて挙げる。

『ゲストには2人の関係者ということで八神はやて司令と高町なのは一尉に来て頂きました。よろしくお願いします。』

 挨拶する2人。はやてがゲスト席に来ている。それを見て予想通りだと小さく頷く。

『尚、高町司書のセコンドには…おおっ!』

 メインモニタにアリシア達が映る。          

『ヴィヴィオのセコンドとして来ました。支援は任せて下さい。』 
『ヴィータさんは私達の先生ですけど、今日は勝つ為に応援します。』

 さっきまでの私服から撮影で着ていたなのはとフェイトの服に着替えていた。
 いつの間にとも呆れたけれど、こういう時はTV映りというかモニタ映りが良いなと思ってしまう。

『セコンドは先日公開された闇の書事件で高町なのは役、フェイト・テスタロッサ役の2人です。そして八神はやて役を演じたのは高町司書。チームワークはバッチリですね。少し話は変わりますが八神指令、高町一尉、撮影で以前のご自分を演じられたのは如何でしたか?』
『なんや懐かしいな~とも思いましたが、少し恥ずかしかったですね。』
『そうですね。私は更に前から一緒でしたけれど昔の私達が目の前に居る気がして懐かしかったです。』

 なのはとはやてとアリシア達が笑顔で頷く。

『それではもう一方のセコンドも呼んでみましょう。ヴィータ空尉のセコンドは…

 司会者がそう言うと

『私達が支援します。』
『我らに負けはない、だがヴィヴィオにも期待している。』
『リインフォースツヴァイ司令補とシグナム空尉がセコンドです。特別イベントだけにセコンドも含めて撮影関係者です。』
(そういうことか…)

 ヴィヴィオは何故ここまで戦技披露会に呼ばれたのか理由が判った。
 闇の書事件の記録映像は多くのメディアにも取り上げられて有名になっている。
 その撮影直前にヴィヴィオは空戦Sランクを取った。しかも試験官のヴィータに勝つという形で。
 更に広まったのは管理局で出していたヴィヴィオとリインフォースとの激戦映像。
 教導隊としてはヴィヴィオの本当の実力を見てみたいと考えたのだろう。

 広報は広報で戦技披露会に何かしらのイベントを組み入れて管理局を宣伝したいのだろう。
 戦技を披露する会で組み入れるなら模擬戦が1番良い。しかしなのは役・フェイト役の2人は民間人・聖王教会に所属していて危険なことをさせられないし、何より2人とも魔法力が弱く経験も少なく、何より未公表のデバイスを使っている。
 しかしもう1人、はやて役を演じたヴィヴィオは管理局の司書で、家族は教導隊員-エースオブエースの娘。
 空戦Sランクを取った時の情報を流した上で再戦となれば話題にもなる。

 そしてこの予想は多分周りの大人はみんな判ってる。

「そんなにしなくてもいいのに…」

 そう呟きながら周りを見る。  
 シャマルは負傷時の救護ルームに居るし、その側にザフィーラも居た。

(アリシア…)

 セコンド席の方を見ると彼女も頷いている。
何処の誰が何を考えたのか知らないし知るつもりもない。私は私の【理由】を貫けばいい。

「いくよ…RHd…わたし」
  
 
『お待たせしました。会場も用意が調いましたのでバトル開始です。レディ~…ファイトっ!』
「レイジングハートセェエエットアァップ!」

 開始の声の直後、虹色の光の中で白色ベースのバリアジャケットが体を包んでいく。
 力が溢れる感じは無いけれど今まで以上に馴染んでいる。     

「ヴィータさん、いきますっ!!」

 ヴィヴィオは正面からヴィータに突っ込んでいった。


 
『えっ?バリアジャケット?』
『ウソやろ!?』 

 ゲスト席で見ていたなのはとはやては身を乗り出し驚いていた。

『どうかしましたか?』
『ヴィヴィオのデバイスは先日修理して騎士甲冑がベースになっているんです。従来のバリアジャケットも入っていますがフレームや強化術式は全く無いので、只のバリアジャケットです。』
『それに…魔力値がAAで止まってます。騎士甲冑を使えばSからSSになるのに、何を…』
『つまり…弱いジャケットでヴィータ空尉と対戦しているということですか?』
『はい、そうです』

 司会の局員に2人は同時に頷いた。  
 インパクトキャノンを放つが出力が弱い為かヴィータのグラーフアイゼンで潰されてしまった。それでも向かっていく。 

 
 セコンドに居たシグナムも、救護テント近くで見ていたシャマルとフェイトも、そして何より対戦相手のヴィータが驚き動きが一瞬遅れた。

「インパクトキャノン!」

 ヴィヴィオから発された虹色の砲撃魔法を間一髪で避ける。

「ハアアアッ!」

 拳をグラーフアイゼンで受け止める。

「お前っ!何を! 甲冑はどうしたっ!」
「アレは使いませんっ」
「それで私を…なめるなぁあああっ!」

 虹色の拳を弾いた後、振りかぶってそのままヴィヴィオの腹部を狙う。
 直撃コース、バリアジャケットでは庇いきれない。
 しかしその攻撃はグラーフアイゼンに籠もった魔力毎打ち消されて弾かれた。

「ハアアアアアッ!」

 ヴィヴィオは右足を振り上げてヴィータを蹴ろうとするがヴィータは先の攻撃が消えた理由がわからず数メートル下がった。



『姉さん、ヴィヴィオにバリアジャケットじゃ危ないって伝えて。手加減して勝てる程ヴィータは弱くない。』

 アリシアにもペンダント経由で念話が届く。フェイトからだ。

『大丈夫、ヴィヴィオも私も手加減なんてしてないよ。むしろ本気でヴィータさんに勝つつもりで考えてる。それも怒ってとかそういうのじゃなくて本気のヴィータさんに』
『何を…』
『忙しいから切るね』

 念話を切った後、ヴィヴィオに

「ヴィヴィオ、今攻めたら本当に奇襲になっちゃう。ヴィータさんの体制が戻るの待ってから動いて」
『わかった。』

 ヴィヴィオから念話がインカムに入ってきた。

「アリシア、さっき奇襲って…」
「うん、そういう奇襲じゃないの。ヴィヴィオは大丈夫から応援してあげて」

 なのは役の少女に笑って答えながら再び戦闘エリアを見る。        


    
「何か隠してんな…それを含めてぶっ叩く。」

 ヴィータは10個のシュワルベフリーゲンを放つ。

「クロスファイアシュートっ!」

 ヴィヴィオも10個の光球を作って迎撃態勢を取るが双方がぶつかると思った瞬間、光球が全てよけてヴィータに迫り直後砲撃魔法に変わった。

「!?」

 ギリギリで避ける。しかしヴィヴィオにシュワルベフリーゲンは迫る。直後大爆発が起きた。

「直撃…じゃねぇえ!」

 爆煙が収まらぬ中、ヴィヴィオがまっすぐヴィータに向けて突進してきたのだ。


  
「…何が起きたんや?」

 はやての呟きに

「全部叩いて壊した…10個全部」

 なのはが答える。

「ヴィヴィオ…そうか、バリアジャケットだとRHdもヴィヴィオも魔力を使わないから軽いんだ。でも…防御は…」

 騎士甲冑の魔力ベースはヴィヴィオにある。いくらベースを移したと言っても魔力負荷は相当なものだ。でもフレームも強化プログラムも全て外したバリアジャケットはヴィヴィオの魔力量から言って殆ど使っていないのも同じ。
 しかし防御は…ラケーテンハンマーどころか通常攻撃にも耐えられない筈。       

「まだ何か考えてる…」

 そう呟くなのはは大型モニタをジッと見つめていた。

~コメント~
 ヴィヴィオvsヴィータのバトル開始です。
 文庫版に少し追加しています。


Tittwerを始めました。
 https://twitter.com/ami_suzukazedou
 SSについてとか活動についてとかを呟けたらいいなと思います。


 

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