第15話「家族に包まれて」

「遅くなっちゃった。新装備のバルディッシュを持って来た。」 
   
 オールストン・シーに1台の車が到着する。
 ドアが開きアルフが出てくる。修理が終わったバルディッシュを持って来たのだ。待機状態への切り替え前に持って来たのか起動状態のままで大きめのケースに入っていた。リンディが駆け寄る

「フェイトは?」
「中で犯人の1人を追いかけている。」
「!? それじゃぁ…私が届けてくる。」
「普通の魔法が殆ど通じない相手よ、あなたじゃ危ないわ。私が届けてくる。」

 リンディはそう言うとアルフからケースを受け取った。

 
  
フェイトとレヴィは水族館の中から外に出ていた。館内では行く先々で色々壊すレヴィをフェイトが追いかけていて無闇に動けなかったけれど、ここならレヴィが言う様に【良い場所】だ。
 追いかけている間に何となくバルディッシュの違いみたいなものは判った気がする。
 カートリッジシステムが無い代わりに、コアシステムという初めて聞くシステムが入っている。今はどう使えばいいのか判らなくてとりあえずそれらを使わない様にした。
 それでも使い慣れないストレージデバイスよりもバルディッシュの方が反応は速いしフェイトが使わなくてもバルディッシュ単体でレヴィを牽制する為にシューターを放っている。
 ブレイズモードも追いかけている間に何となく感じが掴めたから十分使える。

(アリシアから借りたデバイスだから負けた…なんて言わせない)

 手に持った大剣に力が篭もる。


  
「ここの通路をまっすぐ行って次に右と…」

 一方同時刻、アリシアは水族館へと入り中の通路を走っていた。
 閉館中で正面ゲートから入れず、スタッフ用の出入口を見つけて入った。結界が作られていたおかげで誰も居なくて鍵も開いていたから直ぐに入れた。しかしスタッフ用の通路には案内図は無く大回りでアリサから聞いた場所へと向かっていた。
 閉館中だから真っ暗に近く、非常口と水槽の上から洩れてくる僅かな光に頼るしかない。そんなところで時々全体が揺れる。
 バルディッシュの反応から近くでフェイトとレヴィが戦っているらしい。

「手伝う気は無いけど、巻き込まないでよ~っ!」

 なのはとシュテル、フェイトとレヴィ、はやてとディアーチェ、それぞれを対面させる。戦闘になるだろうが彼女達をそれぞれ会わせないと何が起きるにしても始まらない。
 ヴィヴィオとアリシアはそう考えていた。
 既にヴィヴィオは動いて3体の大型機動外殻は破壊されている。これで邪魔は入らない筈だ。

『フォローに入るね』

 と言っていたから6人の攻防を見渡せる所に居るのだろう。だったらそのまま見ておいて貰ってこっちに【彼女】が現れたら連絡すれば良い。

(全員がここに来てるんだからハズレでしたってっていうのはないからね。)

 アリシアの直感からもあの大型鉱石が永遠結晶、3人は兎も角彼女にだけは先に会っておかなくちゃいけない。

【ドォオオオオン】

 重い音の後に水が流れる音が聞こえてきた。
 どこかで水槽が壊れたのか大水槽の水が減ってきている。上を見ているとさっきまで何も無かった床に水が流れ込んでいた。

「ちょっとぉおおっ! 永遠結晶、地下にあったりしないよねっ?」

 慌てて近くの階段を駆け上がって近くの非常口ランプの場所に行きアリサから借りたマップを見る。バルディッシュが居ればナビゲートも頼めるのだけれど…
「あの2人はも~っ! フェイトは壊したり出来ないだろうから絶対レヴィだね。こっちから回って行けば…また少し遠回りになるけど。いくよっ!」
 悪態をつきながらも行き先を確認して再び走り出す。だがその時これまでで1番大きな衝撃が辺りを震わせた。

「キャアッ!! なっ、なに? フェイト?」

 慌てて手すりを掴んで周りを見る。今のはどっちが放ったものか?
 急に胸騒ぎがした。
  

 
「う、ううっ…」

 身体のあちこちが痛い。何とか意識を保ちながらフェイトは必死に身体を起こそうとしていた。

(…レヴィを…お…怒らせちゃった…)

 戦いながらも彼女に話しかけていた。言葉や行動から見てもレヴィは素直な子、戦わずに終わらせられるかも知れない。そう思って彼女を説得し続けていた。
 でも私は言ってはいけないことを言っちゃった… 

 レヴィは『私をやっつけろ』と命令されてここに来ている。
 今は知らない人でも、いつかレヴィと出会うかも知れない、大切な人になったりするかも知れない。人に迷惑をかけたり、物を壊したりすることは悪いこと。
 それが【誰の命令】であっても…       

 説得する時は相手の気持ちに寄り添わなくちゃいけない。悪いことをしていてもどうしてそれをしたのか言葉にするのではなく相手に気づかせて緩やかに方向を変えていく。
 そうしないと今の彼女の様になってしまう。

 悪いことを命令した人は悪い人、暗に彼女が命令された人は悪い人だと決めつけてしまった。彼女達の信頼関係を軽く見たことで彼女を激昂させてしまった。
 ふらつきながらも何とか立ち上がる。

「……!」

 だがそこにはトドメの1撃とばかり伸びた光の刃を持つレヴィが待っていた。フェイトの顔が恐怖に慄く。

「バイバイ、フェイト。走破、極光斬っ!!」

 無慈悲に笑みを浮かべたレヴィがバルニフィカスから大剣を私めがけて振り下ろした。
 まだ避けられる程動けない。防ぐ程の魔力も持っていない。
 ギュッと瞼を閉じた瞬間暖かいものに包まれた。

「リンディ…さん…!」

 リンディが庇う様に抱きしめていた。そしてその奥に見えた光景に言葉を失った。

「うぐぐぐぐ…なんだよこれっ!!」

 水色の魔力刃から2人を守っていたのはシールドだった。
 待機状態に戻ったバルディッシュが前に出てシールドを作っていたのだ。攻撃を受けると思っていたリンディもその様子に驚く。

「母さん…」
「プレシア…」

 シールドを見て2人は呟く。
 目の前に輝く紫色の魔法色…
 決して忘れることがないその色…。
 それを見て私は気づいた。アリシアのバルディッシュを誰が作ったのか…

 レヴィの攻撃は2人に届くことがなく水色の刃が消える。バルディッシュには亀裂が入りそのまま地面に落ちた。

「私…守って貰ってたんだ…、母さんや姉さん…リニスに…。」

 同じ名前のデバイスでここまで相性が良いのが不思議だった。バルディッシュを通して2人が助けてくれていたのだ。
 リンディの腕の中から立ち上がって動かなくなったバルディッシュを拾う。

「バルディッシュ…ありがとう、私達を守ってくれて…母さん、姉さん」

 彼女の近くに転がっていたケースに手を翳す。
 ロックが解除されて私のパートナーが姿を現した。手に取るとボロボロになったブレイズモードのジャケットは失われ、代わりに着慣れたバリアジャケットが私の身体を包む。
 力を失ったペンダントは数度光った後輝きは失われた。心の中でありがとうともう1度言って大切にしまう。

「フェイト…」

 リンディが声をかける。
 悲しそう…怯えた様な寂しそうな表情、彼女の腕の中から出てバルディッシュを拾った私が彼女を拒絶したのかと思う。
 私は笑顔を作って彼女に答える。

「大丈夫、私にはこんなにも素敵な母さんがいる。それも2人も…もう大丈夫。あの子を説得してくるから、行ってきます。母さん」

今までどうしてこんな事で戸惑っていたのだろうって思う位自然に口に出来た。
『母さん』と…

 涙混じりの笑顔になった母さんを背に私は再び飛び立ちレヴィの前に降り立った。
 
「そんな魔法聞いてない!ずるーい!」
「ごめんね、お待たせ。レヴィ」
「待ってないし、そもそも何だよっ! 卑怯者っ! 仲間の助けを借りるとかズルっ子だし!」
「レヴィもロボット使ってたし、おあいこ」

 頬を膨らませるレヴィ、母さん達に守られているってわかって心が落ち着いていた。こんな場所で戦っている相手なのに、どうしてか彼女と話すのが楽しいとも思えてくる。

「レヴィとお話するの楽しいな。王様やシュテルん?」
「それはボクだけが言っていいあだな、シュテるんはシュテル!」
「シュテル達ともみんなで一緒にお話したいな。」

 レヴィは本当にまっすぐで素直な子なんだろう。
 だからこそ王様やシュテルは彼女を大切にしているし、彼女も2人が好きなんだ。そう思えたらさっき怒ったのもわかった気がした。
 きっと私もなのはのことを同じ様に言われたら怒ったに違い無い。
 戦いが終わったらきちんと謝ろう、レヴィとレヴィの友達に…そして友達になれたらいいな

「無理だね。何故ならここでボクがキミをぶちころがすからだ!」
「じゃあそうならないように、頑張るよっ!」

 その為にもここは譲れない。返事と同時に魔力を解放し動き出す。  



 フェイトは知らない…
 フェイトを通じて2機のバルディッシュが互いに意思を交わしていたことを…
 キリエとの戦闘時、アリシアが纏っていたバルディッシュに対しフェイトのバルディッシュから幾つものデータが送られていた。
 それは幼い頃のフェイトが上手くバルディッシュを使えなくて苦労していた時バルディッシュが調整したもの。アリシアに合わせたが為に同じ問題が起きているのに気づいて送った。アリシアのバルディッシュも戦闘中にも関わらず指摘されて取り込んだことで出力不足が緩和された。
 アリシアの判断から離れ再合流した時、アリシアのバルディッシュは礼を言うつもりだったが、フェイトから修理しているという話を聞いて自身が代わりになりたいとアリシアに伝え、彼女もそれを許した。
 フェイトがアリシアのバルディッシュを使ってもそれ程違和感なく使えていた理由はここにあった。
 そして再び2機が逢った時、アリシアのバルディッシュから残された魔力であるプログラムが送られた。フェイトのバルディッシュが代わりに守ってくれた礼を伝えようとするがその時には既に停止していた。かの機の意思を汲んでバルディッシュがプログラムを取り込んだ時、変化が訪れる。

 フェイトの攻撃スタイルは高速近接戦、レヴィと何度もぶつかっていく。
 その中でバルディッシュがそれを起動させる。
【penetrate】相手にぶつかった瞬間に防御を越えて衝撃を与える。アリシアが美由希から教わり練習する中でバルディッシュが独自に作り出したプログラム。まだ未完成だが、防御の薄いレヴィと彼女のデバイスには十分過ぎるほどの効果を見せ始めていた。
 発射するシューターが激突する瞬間、刃同士がぶつかる瞬間、その都度プログラムが動き衝撃を叩き込んでいく。ぶつかる毎にダメージは蓄積される。
 そして遂にレヴィのデバイス、バルニフィカスが起動出来ないレベルに届いた。

「いくよレヴィ。受けてみて、私とバルディッシュの全力全開っ」
「ホーネットジャベリン、ファイアアアアッ!」

 新たな姿と力を得て、主を守り共に戦う。
 直撃を確認しレヴィが落ちていくのを助けた時

【Thanks a lot.】

 主のポケットで眠る同機に敬意と友愛を込めて言うのだった。

~コメント~
もしヴィヴィオがなのはRefrectionの世界に来たら?
今話はフェイトVSレヴィの話と思わせつつ、バルディッシュ達の回でした。
(フェイトの活躍シーンが見たかった方は劇場版BDをお楽しみ下さい)
このシーンについてはフェイトの出生と家族のあり方が変わっていくシーンだったのであまり変えたくなくて、それでもASシリーズ、特にアリシアとの関係を加えるのに悩みました。 
そして、1番悩んだのが最後の彼の言葉です。
主を守る寡黙なデバイス同士がどういう風に話せば意思が伝わる? その時、言葉として何と言う? 色々考えて出たのが最後の言葉でした。 
(主を取られたと思って拗ねるバルディッシュも少し見てみたかったですが、流石に大人げないですよね)

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