第01話 「はじまりは突然に」

「嘘、だって私…一緒だった」

 呟いたヴィヴィオ言葉に周りの者は何も言えなかった。


 話は2時間程遡る。

「ヴィヴィオ~アリシアちゃんがきたよ~」

 ミッドチルダ郊外にある邸宅で女性の声が響き渡った。
 声の主は高町なのは。この家の主で時空管理局では厳しい指導で有名な彼女、だけど…

「は~い♪」

 娘のヴィヴィオにとっては優しい母親だった。

「これ、ママからです。みんなでどうぞって」
「あ…ありがとうね、アリシアちゃん」
「ごきげんよう、アリシア。なのはママ…」

 玄関に迎えに行ったヴィヴィオの目には会釈をするアリシアとは対称に、まだどこか身構えているなのはの姿

(まだ、時間はかかるよね…慣れるのに)

 つい最近ヴィヴィオの通う学院に転校してきた少女=アリシア・テスタロッサ、彼女はもう一人のママことフェイト・T・ハラオウンの姉である。
 細かい事を気にする者であれば、伯母と姪の関係。
 しかし当の本人、ヴィヴィオはそんなのを気にせず新しい友達が出来て嬉しかった。
 先日はアリシアがヴィヴィオを家に呼んでくれたから、今日はそのお礼も兼ねてアリシアを家に招いたのだ。

「ヴィヴィオ、もうすぐフェイトちゃんやはやてちゃんが来るから一緒に食べようね。」
「うん♪ 私の部屋に行こ」

 お邪魔しますと言う声と共にアリシアはヴィヴィオの後をついていった。


 そして、その1時間後…

「こんにちは~」
「なのはちゃーん。来たよ~」
「ごきげん・・じゃなかった、いらっしゃい。フェイトちゃん、はやてちゃん」

アリシアとお喋りしていると、フェイトとはやてが来たらしい。

「ヴィヴィオ、【はやてちゃん】って【八神はやてさん】?」
「うん、ママ達の親友、アリシア、はやてさんに会った事あるの?」
「ミッドチルダに引っ越した時、ママと一緒に」
「そうなんだ」
「この靴、誰かお客様?」
「うん、今アリシアちゃんが遊びに来てるの」
「そ…そうなんだ…」
(フェイトママもなんだ…)

 フェイトの声がアリシアの名前が出た途端に狼狽している。
アリシアにも彼女の声は聞こえたらしくアハハと苦笑していた。

『ヴィヴィオ、フェイトちゃん達が来たから一緒にお茶しない?』
『うん、アリシアにも聞いてみる』
「アリシア、なのはママが一緒にお茶しようって」
「いいよ♪」
『アリシアも行くって』
『うん、それじゃ降りてきて。待ってるから』
『はーい』

いつもの様に呼べば良いのにと思いつつ、フェイトやはやての前で恥ずかしかったのだろうと勝手に解釈してアリシアと共にリビングへと向かった。


「えー!! はやてちゃん、プレシアさんとアリシアちゃんが来た事知ってたの?」
「まあ…丁度カリムに呼ばれてて聖王教会に行ったら2人に会ったんよ。ジュエルシード事件については後で聞いてたし、そっくりなアリシアちゃんを見て驚いたよ」
「驚いたなんてものじゃないよ。だって…まさかもう一度会えるなんて思って無かったから」
「はやてさん、あの日学院に来ていた理由って」
「ヴィヴィオのビックリした顔見たいからに決まってるよ♪」

 なのはが入れてくれたハーブティーを飲みながら、なのは達はアリシアについて話していた。
 「驚くの判ってたら先に教えてよ!」とヴィヴィオもはやてに言いたかったが、ヴィヴィオ自身なのはとフェイトにアリシアとプレシアについて何一つ話さずに彼女達の下を訪れフェイトを驚きの余り気を失わせた事もあったのだから、人に言える立場じゃなかった。

「ねぇアリシア、ここに来るまでどこに居たの?」
「私? 助けて貰った後、海の近くにある家を借りて3年くらいいたの。ママが病気だったから…あ、ママはもう治って元気です。」
「海の近く? 私やはやてちゃんも海の近くにヴィヴィオ位の頃に住んでたんだよ。フェイトちゃんもちょっとだけ一緒の町で居たよね」
「一緒の所だったら良いですね。管理外世界で、美味しいクッキーとかシューがあるお店もあって」
「そうなんだ、私も美味しいクッキーとかお菓子を作る人知ってるよ。今度一緒に行こうか?」
「はい、是非♪」

 楽しそうに話しているなのはとアリシアのどこかずれた会話

「あ…私、なんか判っちゃった…」
「私も…」
「ここ…突っ込んでいいとこ?」

 ヴィヴィオの能力を知っていて、管理外世界に信頼できる友人がいて、管理局の人事に影響を持ち、聖王教会にコネクションを持つ者…
ヴィヴィオ達の脳裏にはある者の姿が映っていた。
 きっと今もあの飲み物を飲んでいるのだろう。

「ねえ、はやてさん。シグナムさん達は」

 合っているのかずれているのか判らないなのはとアリシアが話しているのを余所に、ヴィヴィオは聞いた。

「シグナム達? 元気にしてるよ。アギトもシグナムと一緒にいるし、ヴィータは今機動六課のあった部署で教導してる。シャマルは地上本部の医療班で頑張ってるしな。リインもアルフや私の補佐してくれるしな」
「アルフ、頑張ってるよね。」
「うん、最近は休暇中もユーノ君の手伝いとかもしてるらしいんよ」
「休むのも任務だって言ってるんだけどね…」

(え?)

【ガチャン】

 ヴィヴィオは思わずティーカップを落としてしまった。
割れたカップの欠片の中に入っていた琥珀色の液体が飛び散る。

「ヴィヴィオ動かないで。ちょっと待ってて拭く物持ってくるから」

 パタパタとダイニングに向かうなのはや、欠片を拾うフェイト達は視界に入っておらず、彼女の視線ははやてに向いていた。

「ヴィヴィオ、私何か変なこと言った?」
「ねぇ……フィー…は?」
「何?」
「ザフィーラは? どうしたの?」

 その名前を聞いて驚くフェイトとはやて。

「ヴィヴィオ、どうして…どうしてその名前を知ってるの? なのはに聞いた?」
「お待たせー、あれ? どうしちゃったの」
「なのはちゃん、ヴィヴィオにザフィーラの話…したん?」
「ううん、どうして?」
「ねぇヴィヴィオ、フェイトママやはやてに判るように教えて。どうしてヴィヴィオがザフィーラを…知ってるの?」

 ここに来て、なのはもヴィヴィオが何を言ったのか察したらしく、真剣な眼差しでヴィヴィオを見つめている。

「!!」
「なのはママ、ザフィーラ…どうしたの? 教えて」
「ヴィヴィオ、ザフィーラって?」
「……フィーラは、ザフィーラは昔居なくなっちゃったの。ママやフェイトちゃん、はやてちゃんを守って…」
「家族…だったんや」

 頷くフェイトとはやて
 それはヴィヴィオにとって衝撃だった。
 機動六課にいた頃、ずっと一緒に守ってくれてJS事件で六課が襲われた時も倒れるまでヴィヴィオ達を守り続けてくれていた。
 その彼が一体何故?

「主を守るのが守護獣の使命…ザフィーラが最後にアルフに言ったんだ。それでアルフは私だけじゃなくてみんなを守る、ザフィーラの分までって六課で大怪我してまで守ってくれて…」
「嘘っ! 私ザフィーラと一緒に居たもん! 機動六課でずっと見守ってくれてたもん!」
「それはきっとアルフの…」
「違う、ザフィーラ。アルフも遊んでくれたから間違えないよ!」
「……」

 この世界にはザフィーラが居ない。
 今日聞くまで知らなかったのに、知ってしまったら大切な何かが抜け落ちた気がた。


「フェイト、ザフィーラって誰なの?」

 静寂を破ったのはアリシアの言葉だった。
彼女にすれば【ザフィーラ】が昔居た位は話から判っただろうが、それが何処の誰なのかさっぱり判らない。
 フェイトが答えようとするのを遮りはやてが代わりに答える。

「【盾の守護獣ザフィーラ】私の家族の1人でな…13年前になのはちゃんやフェイトちゃん、私を庇ってな…。だからもう…きっとヴィヴィオの勘違いと…」
「違う、絶対に違う!!」

 アリシアは頷くフェイトと首を振り違うと良い続けるヴィヴィオを見て少し考えた後

「う~ん…じゃあ、ヴィヴィオとフェイト達の過去が違うんじゃない?」
「「「「!!!」」」」
「えっ、何か変な事言った?」

彼女の言葉が全員を振り向かせた。

 
『うん、大体事情は判った』
「それで、どうかな?ユーノ君」

 アリシアの言った【ヴィヴィオとなのは達の過去が違う】という言葉、それでヴィヴィオもハッと気付いた。
 13年前の海鳴でヴィヴィオは過去を変え新しい未来を作ろうとし、再び元に戻している。それがもし、完全に戻っていなかったとしたら…
 可能性は十分にあった。
 なのはは無理を通して無限書庫にいるユーノを呼び出し、今の話をかいつまんで話した。

『ザフィーラがなのは達を守って消えたのは僕もその場に居たから覚えてる。でも、ヴィヴィオが言った話が嘘とも思えない。だからこれから言うのはあくまでも可能性の話。いい? あの事件…【闇の書事件】ははやてが助かったのも奇跡だったんだ。
 今までの管理者が次々と命を失い、その度に世界のどこかで悲劇が起ていた。
 あの場所で起きた奇跡が少し、ほんの少しだけずれていたらザフィーラも僕達助かっているかも知れない。』

(そう、きっと私が狂わせちゃったから、ザフィーラは消えちゃったんだ)
「それって…」
「つまり、ザフィーラは」
「消えなくてもいい…」
『そう』
(でも、でも違った未来をまた作ってしまう…)

 もう一度過去へ行けばザフィーラを助けられる。なのは達の期待が増すのとは逆にヴィヴィオは恐怖を感じていた。
 体が消えかけた怖さ、なのはやフェイトの居ない世界を作る怖さ。それはあのロストロギアを、あの魔法を使う怖さを感じるには十分過ぎた。

「だったら変えれば良いじゃない」
「え?」

 今までじっと聞いていたアリシアがヴィヴィオに突然言った。

「だったら変えれば良いじゃない、過去を。私やママ、プレシア・テスタロッサもそれで助けて貰ったんだから」
「でも…私、魔法は…」
「みんなと違うから? ヴィヴィオにはヴィヴィオにしか出来ない事があるんだよ。だったら胸を張って使ってよ。それが何なのって。私だけじゃなくて私だから使えるんだって」
「アリシア…」

 ヴィヴィオを見つめ言い切るアリシア。

「アリシアちゃん…強いね。すごく」
「やっぱりフェイトちゃんのお姉さんや…」
「うん…ヴィヴィオ、行くならお願いがあるんだ。私も…フェイトママも一緒に連れて行って欲しいの」
『ちょっと、フェイト!』
「フェイトちゃん!」

 慌てて止めるユーノを無視してフェイトは続ける。

「止めても聞かない。もう決めたから…お願い。今度は助けたいの、私達を守ってくれた人を」
「誰も止めへんよ。私も行くって言いたかっただけや。家族を助けるのに理由は要らんやろ?」
「そうそう♪ なのはママもはやてちゃんもザフィーラを助けたいの。ヴィヴィオお願い」
『ちょっと待って、ヴィヴィオにはまだ…それにさっきも言った通り、闇の書事件は本当に偶然が重なって…』
「ユーノ君、だったらここに変えられる可能性があるのも偶然の1つちゃう? なのはちゃん」
「うん」
『ちょ・・ちょっと・・』

はやての意を受けてなのはは端末を問答無用に切ってしまった。

 ザフィーラを助けたい。でも、代わりに誰かの未来を変えてしまうかも。それがなのはやフェイトだったら…ヴィヴィオは怖かった。
 見えない場所で歴史が変わっていくのが…
 だが、アリシアの言葉はそれを打ち消すに十分だった。ヴィヴィオにしか出来ない事をヴィヴィオだけが助けられるのだ。
 それに今度はなのはママ達も一緒

「…うん。アリシア…後、お願いしていい?」
「うん、いってらっしゃい。戻ってくるの待ってるから」

 アリシアは笑顔で答える。

「ママ…」
「うん、RHd封印解除、それとコレ。時間は…13年前のクリスマス…ジュエルシード事件から半年くらい後の世界」
「それで良いと思う」

 手渡された1冊の本。

 願うは遠い過去、

   再び海鳴へ

     時は雪の舞う季節、

       望むは大切な友達

「我の願う時へ…」

 そう呟いたヴィヴィオを中心に光が広がり、消えた時4人は意識を失ってその場に倒れていた。

「ヴィヴィオ、頑張って…」

 眠ったように倒れ込んだヴィヴィオの頬を撫で、アリシアはもうすぐ飛び込んで来るであろう人を待つことにした。


~~コメント~~
 この話はリリカルなのはAnotherSide、もしくは鈴風堂で頒布しているリリカルなのはAntherStoryの続編にあたります。
 もし興味を持って貰えましたら、先に読んでもう一度この話を読んで頂けるとより楽しめると思います。

 1期があればAsも描いてみたいと、思わず書き始めてしまいました。
 唐突ですが、ザフィーラファンの皆様ごめんなさい。
 ヴィヴィオにとってAsからの新メンバーで誰が一番好きかなと考えたら、きっとザフィーラでしょう。(子供に大人気)

 キャラクターが多く判りにくい部分も出てくるかと思いますが、その辺は暖かい目で見て上げて下さい。


 

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