「待って、先に着替えなきゃ。ママ達に気づかれちゃう」
「あっ！？」

　２人が着ていたのは少し厚手のブラウスとロングスカート。エルトリアに居る時、アミタとキリエから昔の着ていた服を貰ったのだ。

「え～っと、あの時の服は制服じゃなくて冬だったから…ＲＨｄ覚えてる？」

　元世界の海鳴市から異世界の海鳴市に飛んだのが約１ヶ月前、事件解決して１０日程居てエルトリアに飛んで、２０日程エルトリアの復興を手伝って戻って来た。流石に色々ありすぎて最初に着ていた服がどれだったかなんて完全に忘れていた。
　デバイスが出してくれた服を見て、そうだったと思い出しデバイスから取り出して

「急いで着替えよう。」

　鍵をあけて２人は家の中に入った。



「ママ、家に着いたよ。どこにあるの？」

　着替えてからリビングでレイジングハートを呼び出す。

『良かった。連絡が無いから何かあったんじゃないかって心配してたんだよ。』
「ごめんなさい。少し寄り道しちゃって…」
『ううん、端末はママ達の部屋のベッドの…』

　通信したまま移動してなのは達の部屋に入るベッド横にある写真を貼ったボードの近くにある端末を見つけた。日本のスマートフォンの形状に似ている。

「これ？」
『うん。それを持って…そうだ、それを持ってプレシアさんの研究所に行って欲しいんだけどレールトレインに乗って』
「？、うんいいけど…」
『じゃあ研究所に着いたら教えてね。』

　そう言うとなのはからの通信が切れてしまった。　
　リビングに戻ると帰ろうとアリシアが立ち上がっていた。

「帰る前に研究所に行って欲しいんだって」
「研究所って…ママの？」
「それも魔法を使わないでレールトレインで…」

　管理局のゲートを使って海鳴市に行ってるから私達は海鳴市に居る事になっている。忘れ物を取りに来るつもりだったから空間転移で戻って来たけれど…わざわざレールトレインで向かう理由がわからない。

「何かわかんないけど、レールトレインで行こう。」

　理由はわからないけれど、言われたとおりレールトレインで向かう事にした。　　　　　

　高町家から駅まで歩き、そこからミッドチルダ北部へ向かうレールトレインに揺られて小１時間、更にそこから聖王協会本部の方へ歩くとようやく研究所が見えてきた。

「ママが何か持って来て欲しい…とかかな？　でも、だったら飛んでいって持って帰ったら今頃帰ってるよね？」

　ここまでの移動中色々考えたけれど全く理由が考えつかない。

「ママに連絡するね。」

　とＲＨｄを取り出した時

「ヴィヴィオ～、アリシア～♪」

　研究所の前で呼ぶ声が聞こえた。見るとシスター服の女性ともう１人…

「セインと…イクス？」

　イクスが手を振っていた。



「どうしたのイクス？　そのバッグは？」

　イクスの横にある大きめのバッグを見る。

「はい♪　色々持っていくつもりでしたけど、これだけにしました。」
「？」

　話がよくわからない。とりあえず言われた通りなのはに連絡する。

「ママ、研究所に着いたよ。イクスとセインが居るんだけど…」
『間に合ったんだね。じゃあイクス様を一緒に連れてきて♪』
「えっ！？」

　驚いてなのはとイクスを何度も見る。イクスはウンウンと満面の笑みを浮かべているが隣のセインとなのはは笑みを浮かべているが頬が引きつっている。
　ダッシュで数１０メートル離れて小声でなのはに聞く。

「ママっ、イクスを連れて行っちゃっていいの？　海鳴市って管理外世界だよね？　フェイトママも近くに居るんでしょ？」

　ミッドチルダで暮らしていたチェントでも許可が出るのに１週間近くかかっていた。イクスヴェリアは大昔の…それこそ複製母体オリヴィエの居た時代の王様で、管理局や聖王協会にとっても大切な人だ。護衛もなしに管理外世界に連れて行ったなんて知られたら…。
　管理局員の末席に居る私でもそれ位は判る。私に判る位だから執務官のフェイトはもっと知っている筈。

『ヴィヴィオ、良く聞いてね。あのね…』
　　
　
　一方で

「セインさんっちょっと来て下さい。」

　アリシアもセインの袖を引っ張ってヴィヴィオと反対方向に離れた。

「何を考えてるんですかっ？　イクス様を連れて行くなんて。何かあったらどうするんです？」
「何かってなのはさんとはやてさんの故郷ってそんなに物騒な場所なの？」
「こことあんまり変わりませんけど…」
「じゃあ安心♪　陛下も前に行ってたって聞いたし。チェントも行ってるんでしょ？　イクス様の方が安全だって。」

　妹と比べたら安全だけど、騒ぎを起こす可能性は明らかにイクスの方が上。　　

「それに騎士カリムとはやてさんやなのはさん達と話はついちゃってるみたいだから私達じゃどうしようもないよ。あっ、それとイクス様は暫くチンク姉の所に遊びに行く事になってるから話合わせてね♪」
「チンクさん…」

　ニコニコ顔のイクスを見、なのは達と通信していたヴィヴィオが疲れた顔で端末を閉じたのを見て全員がイクスの我が儘に巻き込まれたのだと理解した。　　　　

「…そういうことですか。」

　彼女にはどこかで今の一般常識を教える必要がある。そう思いながらもその役が回ってこないことを祈り天を仰いだ。



「じゃあ行くよ。セイン、後はお願いね。」
「了解。イクス様、あっちじゃはやての話をよく聞いて下さいね～。」
「はい、セインも骨折りありがとうございました。みなさんにお土産持って帰ってきますね。」

　バッグを持ったイクスの手とアリシアが背中に捕まったのを見て虹の光を作り出し一気に飛んだ。　　　　　　　　
　　　　　　　　　　

「ただいま～。」

　高町家の庭に転移したヴィヴィオ達は玄関へと回って家に入った。家に入る時に靴のまま上がろうとしたイクスに慌てて話して靴を脱がせたがその様子からこれからが大変だとため息をついた。

「お帰り～、ヴィヴィオお疲れ様。」
「あなたがイクスちゃんね」

　家に入った所で桃子とすずかが顔を見せた。私達が向こうに行っていた間に来たらしい。

「イクスヴェリアです。此度はお世話になります。」

　かわいい～と桃子に抱きつかれているのを苦笑いしながら見ていると

『ヴィヴィオ、アリシア』

　なのはとフェイトから手招きされた。

「「？」」

　私達は首を傾げながらイクスを置いてなのは達の後についていく。
　なのは達はそのまま家の隣にある道場へと向かう、中ではプレシアとはやてが居た。
　ヴィヴィオ達が入るなりフェイトが出入り口を閉める。

「ヴィヴィオ、フィアッセの端末とイクス様を連れて来てくれてありがとうね。それは置いておいて、家に帰るまで何処に行っていたのかな？」
「えっ？」

　ニッコリと笑って言うなのはに思わず焦る２人。

「ちょっと寄り道を…」
「うん、寄り道って何処へ行っていたの？」
「それは…」

　フェイトも聞いてくる。顔は笑顔で声もいつも通りだけれど迫力があった。
　転移時の事を知られている。ヴィヴィオもアリシアも額に冷たい汗が流れる。

「アリシア、ヴィヴィオ、デバイスを出しなさい。」

　ピシャリと言ったプレシアの１言で観念した。

～コメント～
　９月１０月と慌ただしく更新出来ませんでした。
　ようやく元の時間に戻って来たヴィヴィオ達の話です。
　タイトルの冥王というのは…誰かわかりますよね（笑）