第36話「Two Weeks Later ~それから~」

 ヴィヴィオ達が海鳴市から去ってから2週間が過ぎた。
 管理局本局ではまだ事件の事後処理や裁判の準備等で慌ただしかったけれど、現場となった海鳴市はいつもの日常に戻っていた。
 そんな中、なのはとはやては一緒にハラオウン家に来ていた。
 八神家では賑やか過ぎて3人で落ち着いて話せないのと…全員が入院や聴取、事件の後片付けに奔走していたこともあり、夏休みの宿題を既に終えたアリサとすずかに追いつく為の勉強会でもあった。
 
「終わった~! 私が1番やね♪ ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃん、今頃何してるんやろな~。」
 はやてが広げていた課題帳を閉じてん~っと背伸びをしながら言う。

「少し前にエルトリアから帰ったんだって。この前レヴィが教えてくれた。私も終わった。2番」
「えっ!? うそっ! 急ぐから待って」
「ゆっくりでええよ、私も王さまから聞いたよ。2人の帰った先ってどうなってるんかなって思ってな。」
「事件の後で何度か食事作るの手伝ってくれたんやけど、ヴィヴィオちゃんの料理、私に似ててびっくりした。」
「なのはちゃんとフェイトちゃんも似てるところいっぱいあったやろ?」
 
 思い出しながらはやてが言うとなのはとフェイトはペンを置いて頬を崩して頷く。

「ヴィヴィオちゃんのバリアジャケット、私のにそっくりだった。」
「アリシアのバリアジャケットもそうだった。バルディッシュも凄く馴染んでた…」
「フォートレスもすっごく強かった。宇宙に出た時、私のが壊れちゃった後ずっと守ってくれた。」
「バルディッシュが後で教えてくれたんだ。アリシアのバルディッシュが居なかったら壊れていたって。」

 口々に言う2人にはやても思い出して言う。

「紫電一閃とデアボリックエミッション、これだけ揃ってたら間違いないんやろうね。あの言葉も」
「うん…」
「そうなのかも…」

 ヴィヴィオが去る間際に言った【なのはママとフェイトママ】という言葉。
 デバイスや魔法は兎も角、彼女達の行動は偶然では片付けられない。

 何処かで少し違っていたら重傷者どころか死者すら出たかも知れなかった大変な事件。それを負傷者を出した位で解決出来た。
 本当に奇跡に近い…。
 でも彼女達が未来から来て、昔起きた事件を知っていて辿っていたら…そう思えば殆どのことが納得出来る。
 

 事件の最中、なのはとフェイトが治療とデバイス改修で本局に行っていた時、指揮船の中でヴィヴィオがディアーチェやシュテルと一時険悪な雰囲気になったと聞いていた。
 でも事件が終わった後、みんなでオールストン・シーに行っても3人は特に気にしていない様に見えた。
 あの時、既に4人が知っていたのなら…。 

「うん、ヴィヴィオがユーリに言ってた。時間に干渉する魔法が使えるって。だったら…」
「ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃん、本当に私とフェイトちゃんの子供だったのかも…」
「あっ! そうそう、ヴィヴィオちゃん達が未来から来たって証拠…に近いもの見つけたよ。」

 はやてがそう言って彼女のデバイスから夜天の書を取り出してあるページを開く。

「ヴィヴィオちゃんが衛星砲を壊した魔法、調べたら夜天の書にあった。『フレース・ヴェルグ』、今の私じゃ魔力も足りんし制御も難しすぎて使えんかった。でも、未来の私なら…」
「ヴィヴィオちゃんにまた…会いたいな。今度はもっとお話したい。」

 なのはがそう言うとフェイトとはやての笑みが引きつる。

「なのは…退院したばっかりなのにいきなり模擬戦するつもり?」
「えっ? どうして?」
「えっ? 今ヴィヴィオに会ってもっとお話したいって? はやてもそう思ったでしょ?」
「私がお話したいって言えば模擬戦なのっ? ひどいよ~!」
「あっズルい、はやてだけ逃げるなんて!」
「フェイトちゃん、そんな事言うなんて…もうキライっ!」
「そんなつもりじゃ…」

 なのはとフェイトがじゃれ合うの眺めながら

「アハハハ…また会えるよ、いつかきっとな…」

 はやてが窓から見える青空を見て言うのだった。



 一方同じ頃、新宿の管理局日本支部では

「今日の昼食は~っ!」
「「さんせーっ!」」

 局員恒例の現地視察が始まっていた。
 ようやく通常の勤務シフトに戻ったのだ。
 局員の声を執務室で聞きながらクロノがフゥっと息をつくとエイミィがお茶をトレイに乗せて入ってきた。トレイの横には2つの包みが並んでいる。
 ここで一緒にお弁当を食べるつもりらしい。

 2人が対面して座れるソファーへと移動し彼女の置いた湯飲みを手に取る。
 風味で何故か落ち着くこともあり好んで飲んでいる。

「さっきアミタちゃんとキリエちゃんから通信があった。本局に来ていたみたい。ヴィヴィオちゃん達のおかげで凄い早さで緑が広がってるって♪」
 
 アミタ達は裁判の為何度かの聴取でこっちに来ていた。その時に大きいヴィヴィオ達が持って来た薬でグランツ達が元気になっているそうだ。
 文明干渉するのはどうかと思うところもあったが、結果的に良かったと思う。
 今日行く店が決まったらしく局員の1人がドアをノックして入ってきてエイミィに留守番を頼んだ。彼女が快諾するとそのまま部屋を出て行った。
 その様子を見てフゥっと息をつく。

「大変な事件だったがようやく終わりだな…。ヴィヴィオとアリシアが居なければ結果はもっと悪い方に向かっていたかも知れない。彼女達に感謝しないといけないな。」

 2人が居て本当に助かったと思う。
 ヴィヴィオは大型機動外殻を壊し、ユーリとの対決では正面に立ってくれた。おかげで武装局員をイリスの拠点捜索に集中させられた。
 そしてフェイトそっくりな少女、アリシアも…彼女が居なければクロノ自身ここに座っていられたかどうか…命の恩人と言っても良いだろう。

 そんな時、エイミィがニコッと笑って1枚のディスクを取り出して見せてきた。

「見る? アリシアちゃんから残さないでって言われた秘蔵映像♪」
「秘蔵映像?」
「見てもみんなには内緒だよ。特にフェイトちゃんとなのはちゃん、はやてちゃんには…」
「フェイト達に内緒?」

 どういう意味だろうと思っている間にそう言って端末に入れるとウィンドウが現れ映像が流れ始めた。エイミィが強引に隣に座ってきてため息をつきながら横にずれる。そうしている間に映像が映った。
 
『ユーリ…今までユーリが居てくれたから闇の書の主になった中でも助けられた人も居たと思う。…今度はユーリを助けたい。私は…泣いてるユーリより…みんなと一緒に笑ってるユーリの方が好きだから。』
『だから…痛いけど少しだけ我慢してね。…遠き地にて…虹に染まれ』

 それは先の事件時のヴィヴィオとユーリの戦闘映像だった。
 デアボリック・エミッションで結界を作った後、彼女は赤い結晶を取り出すと胸に抱く様に取り込んだ。直後虹色だった魔法色が一気に輝きを強め白色に染まった。
 そこからはユーリとの激戦だった。その中でヴィヴィオは多くの魔法を使う。
 射撃魔法から集束させて砲撃に切り替えたり、帯電させた拳でユーリの武装を破壊し、白色の槍状の魔法は武装に突き刺さった直後に石化した。
 巨大な武装を振り回すユーリとの激戦はやがてヴィヴィオの攻撃をユーリが防御するだけの一方的な戦いになっていく。
 
「……な……なんだこれは…」

 湯飲みを持っているのを忘れ思わず前のめりする。

「アリシアちゃんに『壊れるから』って言われて魔力センサーはカットしちゃったから魔力値は不明。でも後でなのはちゃん達とユーリちゃんが戦った時と比べてダメージレベルを計算したらSSSランクを軽く超えてた。」
「SSSランクっ!?」

 そんな凄まじい魔力値は聞いたことがない。

「凄いでしょ、時間移動魔法と凄い魔導制御能力と帯電系統魔法と古代ベルカ式魔法。…あっちの管理局でもトップレベルの魔導師…じゃなくてベルカの騎士じゃないかな。
 ヴィヴィオちゃんがこの姿になった時、アリシアちゃんが言ったんだ。『この姿になったらヴィヴィオちゃんに敵う人は居ない、本物のベルカ聖王以外は』って」
「本物のベルカ聖王以外はって…」

 唖然となる。ベルカ聖王家は既に滅んでいるから彼女に誰も敵う者は居ないと言っているのと同義なのだ。
 大昔の伝承や夢物語と言われた時間移動魔法を使えるのなら…本当なのだろう。

「シュテルちゃん達に聞いたら、この時シュテルちゃん達3人とユーリちゃんを回復させながら戦ってたんだって。ユーリちゃんを操っていたフォーミュラーに負荷をかけ続ける為に。」
「!?」

 4人を回復させながらも優勢に戦うヴィヴィオの姿。
 高町ヴィヴィオという名前とバリアジャケットのデザイン、スターライトブレイカーからなのはの娘と言うのは予想できたし、帯電系魔法からフェイト、デアボリック・エミッションやミストルティン、紫電一閃を使ったことではやてやシグナムとも繋がっているのは見て取れた。

「……なのはの子供が古代ベルカ式の魔法が使ったら、ここまでになるのか…。」
「ヴィヴィオちゃんのフォートレス、アイギスって呼んでたけどアレも凄い特別製。」
「あれも?」

 ユーリやフィル、衛星砲を護衛していたイリスの砲撃を全部防いでいた。
 そういえば報告書でなのはのフォートレスは同じ攻撃を受けて破壊されたと書かれていたがヴィヴィオのフォートレスは同じ攻撃を受け続けながらも最後まで動いていた。

「マリィに見せたら研究中のものに似てるんだって。まだ小型の魔力発生体が作れないから研究段階で止まってるらしいけど…」

 映像はユーリの武装が拳を繰り出すがアイギスが完全に防いでいた。直後ヴィヴィオがアリシアの背後に瞬間移動して白色の剣で武装を縦に切り裂き

『ほしよぉおおおおおおっっ!』

 武装を完全に消し去った後瞬間移動し、レヴィ達の同時攻撃がユーリに直撃したところで映像は終わった。
 彼女が叫びながら放った一撃はなのはのエクシードブレイカーを遙かに上回っている。

「…一体未来…彼女達の世界はどうなってるんだ…」

 フゥっと息をつきながらソファーの背に身体を任せる。
     
「色々驚かされたけど、楽しみじゃない?」
「楽しみ?」
「ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃん、2人が笑っていられる世界、見てみたいと思わない?」

 事件と正面から向き合って最善の方法を見つけて向かう。
 言葉では簡単に言えるけれど、実際にするとなればその場の感情で振り回されてしまう。でもヴィヴィオとアリシアは常に冷静だった。
 それは2人が今回の様な事件を多く経験しているからであり、その上でも笑っていられる環境が周りにあるということ…。つまりはそういう未来なのだ。

「そうだな。その為にも頑張らないといけないな、彼女達が笑える世界にする為に…」
  
 未来に彼女達が居るのなら
 彼女達が笑える世界を残す為に
 概ね平和な世界を守っていく、
 1人の魔導師として…未来へ託す者として…

 クロノは改めて心に誓うのだった。

~コメント~
 Detnation側のエピローグ&ヴィヴィオ達がエルトリアへ行き、エルトリアから元世界に帰った後の話です。
 もしDetonationの後の世界…例えば、このままStrikerSへ続いた時どんな世界になっているのか考えたら楽しそうです。




 

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