第35話「魔法使いとして~3~」

【ドォオオン…】

 光が土煙を上げて藁山に落ちた。

「イタタタタ…この転移は」
「なかなか過激です。」
「2回連続で落ちるとは思いませんでした。」
「今のは私のせいじゃないからね…」
「すみません…人数が多すぎたみたいです。」
「荷物は無事ですか?」
「大丈夫だ。それよりも…アミタ、キリエ、迎えが来ているぞ」

「おかえり、みんな♪」

 出迎えたエレノアは抱きつくアミタとキリエ、ユーリに頬を崩した。        


 
 エルトリアに着いたヴィヴィオ達は早速4つのチームに分かれた。

 グランツとエレノアの病気を診て治療するチームには大人シュテルと2人のユーリとキリエが、
 エルトリアの現状を調査するチームについては大人ヴィヴィオと大人レヴィと子供のシュテル達3人と案内役としてアミタが、
 死触対策として持って来た機材の組み立てとテスト、調査チームからの情報を解析を行うのは2人のアリシアと大人シュテルとユーリが交代で入る。

 そして、全員の食事等は大人ディアーチェとヴィヴィオが担当することになった。
 但し自由に瞬間移動する「空間転移」が使えるヴィヴィオは何かあった場合の為にと日中はアミタ達に同行した。
 
 シュテルが持って来た薬を使うと命の炎を保つのが精一杯だったグランツの意識が戻り、エレノアもみるみる内に症状が和らいでいく。
一方、初動調査で予想通りの結果が出てきたアリシア達は完全体レリックの魔力を使い自然消滅型の小型魔力コアを大量に作り出して調査チーム全員でフリーリアン農場を中心とした半径20kmに範囲に散布した。
 エルトリアではフォーミュラー等の技術は発展していても魔導が未知の扱いだった。
 ユーリの魔力に反応して緑が蘇ったのは偶然ではなかったのだ。
 惑星再生委員会もそれには気づいていてユーリが使った古代ベルカ式魔法が死触に何らかの影響があるところまでは見つけていた。
 それを起点に周囲の魔力素子が少なすぎる事を調べ上げ、死触の直接原因『魔力素子の枯渇』を導き出した。

 土地は半ば強制的に魔力を補給されて活性化したがその反動でサンドワーム等の地中に眠る凶暴な動物が目覚めて暴れはじめてしまう。
 だがその対策も練られていた。

「暫く大人しくしていてください」

 散布を手伝っていた大人シュテルが拘束魔法でサンドワームをグルグルに包み動けなくすると大人レヴィがひょいと担いで飛び立った。
 目指すのはフローリアン農場の近くに作った広場。

「ユーリ~お願い~っと、えいっ!」
「は~い」

 広場で待っていた大人ユーリの前にぽいっと投げる。軽い地響きを立てて落ちたサンドワームは更に暴れようとする。ユーリを襲うサンドワーム。
 だがユーリは笑顔を浮かべたまま魔方陣を描いて背から黒い翼を生み出す。
 魔力を食らう羽、魄翼だ。
 ユーリの様子にサンドワームは一転、逃げようとしたが時既に遅く、翼から大きな手に変わり捕まれてしまい急激に魔力を奪われグッタリとなった。大きさも10メートル近くあったのが10センチ位まで小さくなってしまった。

「これで大人しくなりました。」

 小さくなったサンドワームはユーリの手によって近くの畑に放すと地面に潜っていった。

「次行くよ~」
「は~い、どんどん連れてきてください♪」

 
 数日間、そんな事が起きていたがやがて凶暴化する動物が減り始めたのを見て大人シュテル達は散布範囲を一気に広げながら次の計画を実行した。

 エルトリアから脱出した者は宇宙空間にコロニーを作り生活拠点を移した。その時に空気や動植物だけでなく、水も大量に持ち出していた。
 そもそも大規模な干ばつなどの自然現象で水が貴重になっていたエルトリアでは有効な取水方法が地下水だけになっていた。
 絶対的にエルトリアの大地には水が足りなかった。

 大人アリシア達からエルトリアの状況を伝え聞いていた4人はもう1式の機材を持って来ていた。水だけで出来た管理世界に行き教導隊の長期任務時に使う大型格納ユニット数個に大量の水を入れて持って来たのだ。それを使い人工的に雲を作り出して雨を降らせた。
 
 地面の状況に合わせて降る雨は小川を作り、干からびて湖底がひび割れていた湖が蘇る。
 魔力が満ちて、豊富な水と雨上がり暖かな陽の光に照らされた荒れ地に苔や草が芽生えていく。
 草木が自身で維持出来る環境が整うと、今度は夜天の書の守護者ユーリの力の見せ所だった。
 
 大人ユーリが集めたサンドワームから奪った魔力を受けて自身の魔法で木々が成長していく。木々から林を、林から森を作る。
 成長した木々は根を深くまで下ろし乾いて固くなった土は砕かれそこに更に魔力と水が浸透していく…荒れた岩山が数日の間に新緑の山へと変わっていく。
 直ぐにフローリアン家の近くは見違えるほどの緑に覆われた。


「この技術が40年前にあれば…あの惨劇も起きなかったのに…」

 緑が蘇った地を見てユーリは悲しそうに呟く。
 ヴィヴィオは答える。

「うん…悲しい事件…でもこれは最後まで諦めなかったみんながいたから出来たんだよ。ユーリやグランツさんエレノアさん…惑星再生委員会のみんなが諦めずに集めてくれたデータがあったからここまで出来た。私達はそれを後押ししただけ…」

 回復の兆しを見届けたヴィヴィオとアリシアは後を大人ヴィヴィオ達に任せて先に帰った。
 他の6人とは違い偶然巻き込まれた事件だったから長居する訳にはいかなかった。

 その頃にはグランツは体を起こせるまで回復してきていた。
 2人が帰った後、大人ヴィヴィオ達はアミタやキリエ、ユーリ達に機材や薬の使用方法について伝え、活動範囲はエルトリア全域まで広げていた。
 壊れて止まっていた歯車は直した。後はこの地に住む者達が動かすべきだと。
 
 凶暴化した動物は減り、木々や湖が蘇った事で細々と生きていた虫や鳥、小動物達が増えていく。
 更にそれを食べる大型動物が増えていけば自然のサイクルは戻り、人が手を加えなくても勝手に回復を始める。
 1ヶ月後、惑星エルトリアの回復を見てから大人ヴィヴィオ達6人もエルトリアを後にした。


 
 そして…それから半年程経って…
 草花が風に揺れる丘に2人の男女が立っていた。 

「あなた、覚えていますか。キリエが大好きだった絵本の話を」
「覚えているよ。…本当に居たんだね…奇跡を起こして…助けてくれる魔法使いが…」
 
 一面に広がる緑と湖、どこからともなく聞こえる小鳥の囀りと優しい風を感じながらグランツとエレノアは肩を寄せ合い眺めるのだった。


~コメント~
 9月は予定が色々入ってしまっているので同日掲載です。
 Detnationがトゥルーエンドだとすれば、ヴィヴィオは更に良い未来、ハッピーエンドを目指します。アミタとキリエが願ったエルトリアの再生とグランツ・エレノアの回復もその中には含まれます。
 タイトルになっているのはそんな願いを叶えてくれる存在でした。
 Detnationだとここで終わりますが、ASシリーズはヴィヴィオが主人公の話ですので、もう1章続きます。

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