第34話「魔法使いとして~2~」

 事件収束から10日後、

「う~んっ!、これで準備できたね♪」
「ヴィヴィオ、お疲れ様」
「アリシアもね~。みんなもおつかれさま~」

 ヴィヴィオは背伸びをしながら答える。アリシアは大きく欠伸をして部屋を出て行った。
 彼女のねぎらいの言葉に頷く。あとは実際に動くだけ…

「ちょっと休憩してから管理…」

 休憩してから管理局に連絡しようかと言おうとした時

「ヴィヴィオっ! 大変!! アミタさん達今日帰るって!! キッチンにメモが置いてあった!!」

 アリシアが部屋に駆け込んで来た。

「ちょっ!?」

 メモを見ると『アミタ達の見送りに行って来ます。』と書かれていた。

「ど、どうしよう…」
「とりあえず追いかけよう。そっちも準備よろしくっ!」
「う、うん、わかった! アリシアっ!」
 
 2人で家を駆けだしそのままバリアジャケットを纏って空へと上がった。
 同じ頃

「なのは、あなたとの再戦が叶わなかったのは残念です。」
「また会えるよきっと、その時は思いっきりね」

 シュテルはなのはと握手する。
 彼女は数日前に退院し、海鳴に戻って来た。けれど彼女の愛機レイジングハートはフォーミュラーシステムの改修中でもう暫くかかると言われていた。
 代替デバイスでの模擬戦も出来たが、シュテルの希望が全力で彼女と勝負することだったので、今は諦めていた。
 
 レヴィもフェイトと、ディアーチェもはやてと話している。
 そこへリンディやアミタ達が到着し、キリエはイリスを連れてきた。
 イリスは事件の首謀者ということもあり、裁判が終わるまで帰れないそうだが、アミタ、キリエ、ユーリ、シュテル、ディアーチェ、レヴィは状況的に事件に巻き込まれた立場で事件協力のおかげもあり先にエルトリアに帰る許可が出た。
 


「みなさん、色々ありがとうございました。」
「待って~っ!!」

 アミタが頭を下げたところで声が聞こえてきて全員が振り向く。


「ちょ、ちょっと待って!! ま、間に合った~!」

 ヴィヴィオとアリシアがバリアジャケット姿で降り立った。

「アミタさん、キリエさん、帰る前に教えて下さいってお願いしてましたよね? キッチンのメモを見て本当に慌てたんだから」

 肩で息をするアリシア。

「はい? ヴィヴィオさん、アリシアさんも見送りありがとうございます。2人にも色々ご迷惑をおかけしたのにお礼も言えずすみませんでした。」

 頭を下げるアミタ。
 近くに居たエイミィが思い出したように手を合わせて会釈している。…どうやら彼女が伝え忘れていたらしい…
 2人でジト目で彼女を見た後、全くもぅと息をつきながらユーリの方を向く。  

「見送りじゃないって、ヴィヴィオ♪」
「うん。ユーリ」
「はい?」
「私は夜天の書には出来ないことの1つ…時間に干渉する魔法が使えるの。だからユーリやアミタさん達が叶えられなかった可能性を持ってる。」
「…もしかして、研究所のみんなが死なないように…」
「ウソッ! そんなこと出来るの?」

 ユーリとイリスが身を乗り出す。

「ごめん、それは出来ない…ううん、出来るかも知れないけど、それをしちゃうとユーリやイリスがここに来る原因が変わっちゃうでしょ。あの事故…事件があったからユーリもイリスもアミタさんやキリエさんもここに居る…だから、変えられない。」
「…そうですか…」

 肩を落とす2人

「でも…これからの可能性…未来なら作ってあげられる。座標固定完了。いつでもいいよ♪」

 ウィンドウを出して彼女達に伝える。

『わかった♪ いつでもいいって!』
『了解♪』

 それだけ言うとウィンドウは消えてしまった。

「ヴィヴィオちゃん、今のは?」

 なのはがヴィヴィオに聞こうとした時、ウィンドウから声が聞こえた直後上空に虹色の光が現れて

「ちょっ!」
「うそっ?」
「キャアッ!」
【ドスン】

 と何かが落ちてきて土煙をあげた。

「イタタタ…」
「も~っ、転移下手すぎ…もっと練習してよ」
「本当です…」
「これは帰ったら特訓だな」
「魔導制御の基礎から叩き込む必要がありますね。スケジュールを取りましょう。」
「イタタ…そんなこと言ってもこれを使うの2回目なんだから仕方ないでしょ!」

 落ちてきた彼女達が口々に言う。

「「「「「………」」」」」」

 それを見ていたヴィヴィオとアリシア以外の全員の目が点になって固まってしまった。

「…私…ですか?」
「おっきなボクが居る?」
「我が…もう1人だと?」
「私もです。」
「「「「「ええぇぇぇぇっ!!」」」」」

 一同の驚く声が公園内に響く。
 ユーリがパンパンと埃を落として立ち上がりユーリの前に立つ。

「…初めまして、私。私はユーリです…と言っても世界も時間も違う所の私です。」

 落ちてきたのは6人、大人ヴィヴィオと大人アリシアそして
 彼女達の時間軸に居るシュテル、レヴィ、ディアーチェとユーリ…
 成長した6人が現れてヴィヴィオとアリシアを除く全員は相当な驚きようだった。

「ユーリが渡してくれた違う世界、エルトリアとの通信、あれのおかげで私達もあっちの…異世界の私達と通信が出来たんだ。それで来て貰った。」
「…どうして…?」
「魔法を使ってみんなをお姫様にはしてあげられないけれど新しい可能性…願いを叶える為にね♪ねぇ持って来てくれた?」
「ああ、どちらも十分な量を用意した」

 ディアーチェがニヤッと笑うと。シュテルとレヴィが大きなバッグを見せた。

「何ですかそれは?」
「グランツさんとエレノアさんの病気を治す薬です。エレノアさんから症状は聞いていますのでまず間違い無くこれで治せると、私達の主治医にも確認して貰っています。駄目な場合でも直ぐにデータを送って調べてくれるバックアップ体制も作ってきました。なので彼女には今回留守番を任せています。」
「学院もそんなに長く休めないし、後で色々と機嫌を取らなくちゃいけないんだけどね~」

 大人ヴィヴィオが苦笑いする。
 今回はバックアップとしてチェントが残っているらしい。

「こっちはエルトリアの試食…じゃなくて死触をなくす機材一式。散布用のベースも見つけてきた。探すの結構苦労したんだよっ!。」
「……うそ…」

 アミタとキリエは信じられないと言った風に口元を手で覆い震える。

「ヴィヴィオとアリシアに渡して持っていくだけでもいいと思ったのですけど、信じて貰うには私達4人が一緒に行った方がいいということになりまして、6人で休暇を取って来ました。」


 
 これがヴィヴィオ達が事件後に八神家で篭もっていた理由だった。

 大人ヴィヴィオ達の世界に起きた砕け得ぬ闇事件、そこでアミタとキリエに渡したエルトリアの荒廃原因と死触の対策とグランツの病についてエレノアに聞いた。
 それを偶然繋がった異世界の大人の自分達に伝えた。そして彼女達の未来を変えたいと。

 聞いた異世界の2人は早速動いた。
 ヴィヴィオは医療班のシャマルに病気の症状を伝えて薬を用意して欲しいと症状やデータを送って頼む一方でアリシアはエルトリアの荒廃と死触について調べた。
 子供のヴィヴィオとアリシアから昔来たアミタとキリエが持っていたデータからプレシアは魔力密度が減ったことで起きていたという話を聞いて、遠方に出張中のプレシアに子細を伝えて今度も同じ可能性が高いと回答を得た。
 であれば現地で自然消滅型のコアを大量散布すればいい。
 次に問題となるのは魔力コア生成の大元になる魔力結晶をどうするかだ。
 使いやすいのは完全体レリックとジュエルシード…ジュエルシードは全て集められているから管理局から借りるしかない。
 そこでアリシアはプレシアの名前を借りて研究所と聖王教会を通じて自身とヴィヴィオ、シュテル・レヴィ・ディアーチェ・ユーリ6名の10日間の休暇申請書を作った。
 理由はまだ見つかっていない完全体レリックを探す為、ユーリとヴィヴィオと放課後にチェントが調べ、見つけた候補地をシュテル・レヴィ・ディアーチェが探せる様にする為である。
 全員状況を理解するとユーリとヴィヴィオは無限書庫に入って古代ベルカのエリアを探索した。2人ともベテランの司書だ。1日も経たずに数カ所の候補地を見つけた。連絡を受けたシュテル、レヴィ、ディアーチェが候補地へと探しに向かった。
 まさか彼女達と魔力共有契約をしているなのは・フェイト・はやてにも状況が伝わっているとは思っておらず。時間を作って3人+ヴィータ、シグナム、ザフィーラ、アギトも探索に加わってくれて、2日目に1つめ、翌日に2つめの完全体レリックを発見した。
 2つ見つけたのは1つを報告した裏で1つを隠してエルトリアに持っていく為である。
 ディアーチェは発見した完全体レリック1個をそのままはやてに渡し、彼女を経由して遺失物管理部に報告と提出した。
 併行して大人アリシアもプレシアとマリエルの指導を仰ぎながらレリック結晶体から魔力コアを生成するユニットを作りあげた。

 皆が動く為にはより詳しく正確な情報が必要になる。
 グランツとエレノアの病気もそうだし、死触の情報はあればあるほど良い、でもエルトリアと大人アリシア達の時間軸とは直接通信が出来ない。
 そこでヴィヴィオとアリシアは2つの世界を繋ぐ中継地になった。
 病気の事はヴィヴィオとアリシア、大人アリシアも判らない事も多かったので聞かれた内容をそのまま伝えるという方法をとったけれど、死触対策についてはエレノアから惑星環境学というカリキュラムデータを受け取って必死になって頭に詰め込んだ。
 間違った情報を送ってしまったらその時点で失敗する。
 初めての分野だからと言い訳できるものではなくエレノアと大人アリシアのやりとりを支援した。
 これらが全て10日間に行われたのである。

 

「ユーリ、悲しい過去をなくすことは出来ません。」

 そう言うとユーリはヴィヴィオをチラリと見たのに気づいて笑顔で頷く。

「でも楽しい未来を作ることは出来ます。私達もそんな未来を貰ってここに居ます。みんなで一緒に頑張りましょう♪」
「……はいっ!」

 嬉し涙で頬を濡らしてユーリは頷いた。



「人数が増えてしまいましたが、転移出来ますか?」
「それは…できます。安全確実に転移して見せます。」
「それじゃ私達も一緒に行くから。お世話になりました。フェイト、バイバイ♪」
「うん…アリシア…」
「なのは、はやて、みんなもありがとうございました。」
「ヴィヴィオちゃんも元気でな。」

 そう言うとアミタの所に集まる。
 そこで転移術式が動き出すのを狙って手を挙げ

「なのはママーっ、フェイトママーっ、またね~っ!!」

 そう言うと転移の光と共に消えてしまった。


 
「…なぁ、ヴィヴィオちゃん…最後に何て言った?」
「えっと…なのはママと…」
「フェイトママ…」

 なのはとフェイトが互いの顔を見、残った全員の視線が2人に集中する。

「「「「「ええーっ!!」」」」」

 額を押さえるクロノとエイミイ、クスッと笑うリンディ以外の全員の声が響いた。

~コメント~
 ヴィヴィオとアリシアは砕け得ぬ闇事件時のエルトリアの死触対策について知っています(AffectStory~刻の移り人~より)。そんな彼女達だからこそDetnationでは出来なかった事が出来ます。

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