第07話 「ニアミスぱにっくなの(その2)」

「リイン、2人にお茶を入れてあげて欲しいんだけど」
「はいです。アルフさんもシグナムも座って待ってて下さい」
「あ、うん…」
「ああ…」
(さて、どこから話したらいいだろう?)

 シグナムとアルフを前にしてユーノはそう考えつつも、2人がどうしてここに来た理由から話し始めた。
 なのは達が行った世界は予想がつく。
 きっと闇の書事件のまっただ中、ザフィーラが消えない様に助けようとしているのだろう。

 
 なのは達が昔の自分に会ってしまえば何が起こるか判らない。
 でも、ヴィヴィオとはやてなら想像はつくだろう。97管理外世界にもよく似た物語があるのをはやてから教えて貰ったユーノだからそういう心配はしていなかった。

「シグナムさんもアルフもはやてとフェイトのリンクが切れたからここに来たんだろう?2人とも今日はやてとフェイトがなのはの家に遊びに行くのを聞いてたから」

 守護騎士・使い魔の違いはあっても主とのリンク方法にそう違いは無いだろうと一番高い可能性を示す。
 リインがはやてとのリンクが切れたと言っていたのもその信憑性が高いことを示している。

 ユーノの言葉で、聞く体制に変わったらしくシグナム達はそのままソファーに腰を下ろした。

『なのは達は今寝室で眠っている。フェイトもはやても、ヴィヴィオもね。でも、きっと今はバイタルがここに無いはず。眠っているけどどうやっても目を覚まさない。』
『どうして念話を? ユーノ、主…いや、4人に何があったんだ?』
『これから話すのは凄く突拍子も無い話で、ごく一部の人しか知らない話なんだ。リインには教えられないから念話で話すね。あのね、4人は今過去の世界に行っている』

 ユーノがリインフォースⅡを別の部屋に出した理由、それは彼女は人格を持ったデバイスだ。
 定期メンテナンスで記憶領域に触れることも出来る彼女が知っていてはいつどこから洩れるか判らない。それを防ぐ為。
 でも、シグナムとアルフは違う。
 それぞれが主もおり、誰もが容易く深層意識に入り込めない者達だ。

『まさか、そんな事ある訳ない』
『ユーノ! こんな時に冗談を言うなど、いくら主やフェイトの友人だからと言っても…』

 冗談だと思った2人がそれぞれ呆れ・怒りを露わにするが、それを無視して続ける。

『じゃあアルフ、思い出してみて。昔…僕達が会った頃の事。なのはとフェイトの他にもう1人女の子がいなかった? その女の子はフェイトと一度戦って勝っている』
『女の子、そんな子いた? …あ、思い出した。そうそう名前は…!』

 アルフの表情が驚きに変わる。気付いてくれたらしい、その女の子ヴィヴィオの事を。

『ヴィヴィオ、そうだよね? アルフ』
『ああ、でもどうしてヴィヴィオが?』
『僕にも詳しくは判らない。でも、彼女の生まれは特殊だから…』
『…それは、本当の話なのか?』

 シグナムはまだ疑いを捨てきれないらしい。でも、行った世界を考えると

『もしかするとシグナム達も会ってるかも知れない。13年前、あの事件の時に。』

 彼女達も何かで会ってるかも知れない。ユーノはそう思っていた。

『すまない…覚えていない。だが、私達はどうすれば』
『待つしかないんだ。帰ってくるのを…』

「おまたせしました~♪ アレ? みんなどうかしましたか?」

 お茶を運んできたリインの声がユーノには嫌に現実離れした声に聞こえた。
 


 ユーノとシグナム達がそんな事を話しているのも知らず、過去にやってきたヴィヴィオははやて達から『24日までゆっくりしてて良いよ』と言われて久しぶりに図書館以外の場所に来ていた。
 いくら本好きだと言ってもやっぱりそこは女の子、ショッピングをしたりお喋りしながら前に来た時に行けなかった所へ行ってみたい。
 そう思ってすずかに連絡したところ「うん、いいよ♪」と快く案内を引き受けて貰った。
 町を案内してくれるという事で待ち合わせの駅前にやって来ていた。

(すずか、良いところあるって何処に連れて行ってくれるのかな)

ワクワクして待っていると、

「すずか、どうしたのよこんな所で。今日用事があるって先に帰ったんじゃないの?」

 後ろから聞き覚えのある声が聞いてヴィヴィオは振り向く。
 その先にいたのはアリサ・バニングス。彼女を見てヴィヴィオの心拍数が一気に跳ね上がった。

「あっごめんなさい。てっきり友達だと…」

 ヴィヴィオが振り向いて別人なのが判るとアリサは慌てて謝った。

「う…ううん、いいよ。私も気にしてないから」

 ヴィヴィオは今、カラーコンタクト、髪を蒼く染めて彼女から借りた服を着ている。まだ気付かれてないようだ。

「本当にごめんね。でも…あなた何処かで会った事ない?」
(ギクッ!ごまかさなきゃ)
「ないよ。初めて。そう、きっとそう!! ウンウン」
「でも、その服…どこかで見たことあるのよね~そうそう、去年の誕生会!!」
(アリサ、どうしてそんな時の事覚えてるの!?)
「そ、そうなんだ…」
「本当に初めて?」

 ヴィヴィオの顔を覗き込むアリサ。流石に変装してるのばれちゃう!?と思ったとき

「ゴメンね~ちょっと、遅れちゃった」
「「すずか!!」」

 走ってくるすずかがヴィヴィオには天使に見えた。すずかの後ろに回りアリサから隠れるヴィヴィオ。

「すずか、アリサに正体ばれちゃいそうなの。助けてっ」
「うん、まかせて」

 今の状況を理解したすずかはニコリと頷き

「紹介するね。月村雫ちゃん。私の親戚でちょっと前から遊びに来てるの」

 何も打合せしていない所にすずかが言ったものだから、ヴィヴィオももう合わせるしかない。

「し、雫です。」
「すずかの親戚? 私初耳なんだけど…」
「海外でずっと暮らしてたんだけど、日本に戻ってくる事になって雫ちゃんが先に戻ってきたの」

 すずかの言葉に併せて力強く頷くヴィヴィオ

「フーンそうなんだ、それでその服だったのね。雫…でいいかな? 疑って悪かったわね、私はアリサ・バニングス。すずかの友達。よろしく」

 どうやら隠し通せたらしい。
 少しホッとしたヴィヴィオはアリサと握手した。



「すずかと雫はこの後、何か予定あるのよね?」

 挨拶を交わした後、ヴィヴィオ・すずかに付いてきたアリサがすずかに聞いた。

「うん、はやてちゃんが入院したって聞いたから明日のお見舞いに何か持って行けないかな~って、ヴ‥雫ちゃんと一緒に探しに行くつもり」
「そうなんだ…私も一緒に探していい? もうすぐクリスマスだし…そうだ、はやてにみんなでプレゼントしない? サプライズプレゼントってイブに持って行ったら」
「うん♪ はやてちゃん喜ぶよ。きっと」
(アリサと一緒…私がヴィヴィオだってばれないかな)

 すずかとアリサのやりとりを聞いていたヴィヴィオはふとそんな一抹の不安を覚えていた。
 すずかがふと思いついた名前が、後々新たな親戚につくことになるのだが誰も知る由はなかった。



 同じ頃、この世界のなのははクロノに呼び出されてフェイトの家を訪れていた。
 勿論フェイトも一緒。

「さっき無限書庫のユーノから最初の報告があった。少し前に無限書庫を使った者が調べたまま散らかしっぱなしにしたらしくて、整理に時間がかかったらしい」
 
「クシュンッ!!」
「雫、風邪?」
「ううん、大丈夫」
 当の本人がクシャミをしているのとは関係なくクロノは続けた。


「正式名称は【夜天の魔導書】。元々はある魔導師が自分の魔法を残すために作った魔導書らしいんだが、その後の所持者に改変されたらしい。魔導師のリンカーコアから魔力を吸収、集めていくのが主な機能だ。あの騎士達は主と魔導書を守るために組み込まれたプログラムらしい。」
(ヴィータちゃんがプログラム)

 なのはは信じられなかった。初めて襲われた時も、その後も彼女はなのはに向かって感情をぶつけてきていたのだから。

「魔導書の総ページ数は666ページ。全て集まった時、所有者によって膨大な魔力が開放され周りに被害を及ぼすんだ。滅んだ世界も幾つかある」
「そんなに…」
「ねぇクロノ、その魔導書を封印しちゃえば?」

 フェイトの問いにクロノは静かに首を振った。

「既に膨大な魔力が蓄積されていると予想できる。もしここで消滅させてしまえば周りにどんな被害が出るか判らない。それに…」
「所有者を渡り歩くの。そんな膨大な魔力に耐えられる魔導師は居ないから、開放されちゃった時今迄の所有者は全員亡くなってるの。あと、魔導書にも回避プログラムみたいなのが入ってて、危なくなったら所有者を取り込んで転移するらしいの」

 端末で先日の戦闘で記録したシグナム達の映像を引き出しながらエイミイが続ける。

「管理局も8年前にあと一歩という所まで追い詰めたんだが…逆にこっちが被害を受けてしまった」
「とにかく、夜天の魔導書はそんな感じ。あとは、フェイトちゃんとなのはちゃんを襲った仮面の男。」

 近隣世界でヴィータに砲撃魔法を放ったのに、突然現れて完全に防がれた。同じ頃にフェイトも背後を取られてリンカーコアを吸収された。
 全力で撃ったのに容易く防がれたのはなのはにとってもショックだった。

(遠距離転移とシールド、それにフェイトちゃんに気付かれない程速く動ける。私の魔法…通じるの?)

「僕達はこれから捜査本部をアースラに移して捜査に入る。フェイトには悪いんだが、暫くはこっちの世界で待機していてくれ。魔力もまだ戻ってないだろう?」
「うん…」
「あの、私は?」
「なのはも一緒に待機していて欲しい。何かあったら呼ぶから」
「はい」

 ヴィータに直接話を聞いてみたいと思っていたなのはは少しだけ落ち込んだ。



「折角、今年はみんなで初めて迎えるクリスマスやのに…」

 海鳴大学病院のある一室ではやては窓から外を眺めていた。
 自慢の腕を振るった料理を並べて家でみんなと一緒に祝えたらと楽しみにしていたのに、今は少し動いただけで胸に激痛が走ってしまう。

(あの子達に心配はかせさせへん…絶対に)



『こっちのデータは以上よ。お役に立ってる?』
「ええ、ありがとう。助かるわ。」
『ねぇ、今日はこっちに顔を出すんでしょ?』
「うん、アースラの件でね」
『時間合わせて食事でもしようか? あの子の話とか聞きたいし』
「あの子って?」
『ほら、あなたが預かってる。養子にしたいって言ってた子』
「ああ、フェイトさんね」
『そうフェイトちゃん。元気でやってる?』
「うん、事件に付き合わせちゃっててちょっと申し訳ないんだけど、仲良しの友達と一緒だし、なんだか楽しそうにやってるわ。」 

 アースラの艦長室でリンディはレティ・ロウランと話していた。
 忙しいのはお互い様なのに、フェイトにまで気にかけてくれるのがレティらしく、リンディは嬉しかった。
 許可が下りて実装されたとは言え、出来れば使いたくない。
アルカンシェルを
 もうすぐクロノ達も戻ってくる。ここからが正念場だ。

(そういえば、ヴィヴィオさん達は元気にしているかしら?)

 頼ってはいけないが、リンディにはここぞと言う時に彼女が力を貸してくれるような気がしていた。

12月20日、事件が起きるまであと4日。


~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやってきたら? というのがこの話のコンセプトです。
 前話「ニアミスぱにっくなの(その1)」でヴィヴィオとすずかというなかなか組み合わせない2人のやりとりに続いて、アリサ登場です。
 「雫」という名前は原作から引用させて頂きました。誰の名前か興味を持った方はwikiなどで調べてみて下さい。

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