第08話 「クリスマス・イブ」

「遅くなっちゃった、急いで戻らないとっ!」

 図書館で本に熱中している間になのはと約束していた時間が大幅に過ぎているのに気付いてヴィヴィオは家へと走っていた。
 先日、すずかとアリサと一緒に案内して貰っている間、ヴィヴィオもはやてに何かプレゼントしたいと思って小さなウサギのぬいぐるみを買ってすずかに預けた。
 今頃すずかとアリサはなのはとフェイトと一緒にはやての病室へ行った頃。
「ヴィヴィオ!」

 向こうになのはの姿が見えてヴィヴィオは駆け寄った。気になって迎えに来てくれたみたいだ。

「なのはママっ!! ごめんなさい」
「ううん、まだ大丈夫。それより急いで戻ろう」
「うんっ!」

 なのはと手を繋いでヴィヴィオは家に向かって急いだ。


「ヴィヴィオ」
「フェイトママ、はやてさん、遅くなってごめんなさい」
「ううん、ヴィヴィオに何かあったのかって心配してたんだよ。」
「まぁこれで全員揃ったから。先に打合せしとこうか」



 同じ頃、海鳴大学病院の一室では

【コンコンッ】
「こんにちは」
「あれ?すずかちゃんや♪ はーいどうぞ」
「「「「こんにちは」」」」
「!?」
「今日は皆さんお揃いですか」
「はじめまして」
「ああっ!」
「!!」

 なのはとフェイトははやてと一緒に居る者達を見て驚いて思わず声をあげてしまった。
 フェイトも立ち止まっている。そこに居たのは夜天の魔導書の守護者、シグナム・シャマル・ヴィータの3人だった。

「あっ、すみません。お邪魔でした?」
「あ、いえ…」

 まさか、魔導書の所有者がはやてだったなんて…
念話を妨害された中、事態は急速に進み始めていた。



「何も変わってなければ、今夜【夜天の魔導書】は発動する。ヴィヴィオ、今日すずかちゃんがなのはちゃんとフェイトちゃん、アリサちゃんと一緒にクリスマスプレゼントを渡しに行ったな?」
「うん、今日放課後にみんなで行くって言ってたからそうだと思う」

 ヴィヴィオは力強く頷いた。

「ヴィヴィオ、ママ達はこの世界でみんなの前に出られないの。昔の私やフェイトちゃん、はやてちゃんが居るから」
「うん、わかってる」
「でもママ達はみんなでヴィヴィオやみんなのサポートをするから。」

 第1級のロストロギアと相対するかも知れない恐怖とママ達が見ていてくれる安堵感がヴィヴィオの中で争っている。
 でももう立ち止まっていられない。

その時、突然辺りの風景が変わった。

「何っ!」
「これは…結界っ!」
「しまった!!」
『何者かは知らないが』
『このまま暫く静かにしていて貰おう』

 声が聞こえなのは達が気がついた時、4人を家ごと包む結界が何重にも張り巡らされていた。

(迂闊やった…何やってんねん!)
 はやては自分を罵った。リンディからこの家を借りていたのだからこの場所が管理局内部からは知られていてもおかしくない。それに、これまで何度もなのはとフェイトが転移魔法を使っているのだ。
 別世界から追跡していればこの場所を知られていてもおかしくなかった。
 知られていないのではなく、泳がされていたのだ。

「コレ作ったんはやっぱり」
「リーゼさん達だろうね。」
「目的は、発動するまでの時間稼ぎ」
(完全な足止め作戦やな…)

 かなり強固にプロテクトまでされている。
 手段はあったが、【ソレ】は最後まで取っておきたい。

「さて…あの2人に気付かれず、どこから抜け出すか…やね」

残された時間はあまりない。



(シグナムもヴィータもどうしたんや?)

 病院の一室で、この世界のはやては夕方の事を思い返していた。
 すずかちゃん達がお見舞いとクリスマスプレゼントを持ってきてくれた。
 本当にサプライズ、石田先生やおじさん以外の人から初めて貰ったプレゼントが本当に嬉しかった。
 帰り際にすずかから「あの子から」と包みを受け取った。
 中にはウサギのぬいぐるみとクリスマスカードが入っていた。カードには「はやく良くなってまた図書館で会おうね」 とヴィヴィオの名前と共にメッセージが添えられていた 
 すずかちゃん達が帰ってすぐにシグナム達は用事があるからと家に戻ってしまった。もっと色々話してたかったのに
 その時の表情はシグナムとシャマルは辛そうで、ヴィータも泣きそうな顔をしていた。何でも無いと言っていたけど…

(何でもなければあんな顔するわけ無いやん…一体何があったんや?)

 動かない足がはやての苛立ちと不安をかき立てていた。



 同じ頃、もう一人のはやても苛立っていた。
 流石教導隊の手伝いをするだけはある。今からでも欲しい位だ。
 フェイトとなのは、はやても結界を破壊する手段は持っているけれど、ここで使ってしまえば、いざと言うときに支障が出かねない。

「私が…」
「いや、ヴィヴィオは待っててな。むしろ寝ててもいいよ。後でその分頑張ってな♪」
「…うん…わかった」

 心配するヴィヴィオに微笑んで再び気合いを入れた。
 3人が何をしているかと言えば、結界の一部分にだけ干渉して結界を維持したまま抜け出せる場所を作っているのだ。
 結界魔法を破壊してしまうと、リーゼ達が気付くかもしれない。再び邪魔をされたら今度はきっと…間に合わない。

「あともうちょっとや…」



「はやてっ」
「はやてちゃん!」
「やっぱり来ちゃいましたね。」
「ヴィータ、お前教導任務が」
「そんなの後だっ。はやてはどこだ? シグナム」

 シグナムとアルフに一通りの話を済ませた後、リビングでじっと待っているとドアが開かれた。それも壊れそうな音を響かせて。

「シグナム、リイン。はやてちゃんは?」
「2人とも落ち着いて、リインもう一度2人の分と僕達の分のお茶頼めるかな?」
「はいです♪」
 ユーノがそう言うと、リインは再びキッチンへと飛んでいった。

『ヴィータとシャマルに先に聞きたいんだけど…昔…なのは達と会った頃にヴィヴィオって名前を聞いた事ない?』
『何で念話なんだ、それよりはやては?』
『はやてにも関わる大事な事なんだ。思い出して』
『ヴィヴィオってなのはちゃんが養子にした…』
『じゃなくてもっと前』

 ユーノの念話に押された様に落ち着きを取り戻して、唸るヴィータと考えるシャマル

『ヴィヴィオ…ヴィヴィオ…なぁシャマル、はやてが図書館で会ってた子にそんな名前の子居なかったか?』
『…あ! そうそう、居たわね。でも…ここに居るヴィヴィオちゃんとは違って蒼い髪ですずかちゃんにそっくりで…』
『そうそう、思い出した。2人とも本が好きで私一度間違えちゃって…』
『シャマル、それはいつの話だ?』
『リンカーコアを蒐集していた頃だから、私達がはやてちゃんの家に来て半年程経った頃じゃないかしら…そうそう、シグナムは遠い世界まで出かけてた頃よ。でも、それがどうかしたの?』
『はやてと何か関係あるのか?』

 シグナムも2人の言葉で信じたらしい。

「みんな紅茶でいいですか~♪」
「うん、あと何かお菓子あれば一緒に頼めるかな」
「はい、探してみます」

 少しだけ時間を稼げたようだ。

『うん。今なのは達は4人とも過去の世界に行ってるんだ。でも、これはごく一部の人しか知らない。他に洩れるといけないからリインには伝えてない。』
『…まさか…』
『きっと2人が会ったのは今過去に行っているヴィヴィオだと思う』
『何の為にそんな…』
『確証は無いけど、きっともう1人の守護騎士…ザフィーラを助ける為に』
『『『『!!!』』』』

 先に来ていたシグナムとアルフも驚きを隠せなかった。
 しかし、ユーノにはそれ以上に気にかかる事があった。
(シャマルさんやヴィータはヴィヴィオの事を知っている。もしなのは達が失敗したら…この世界も影響を受けるのか?)
 ユーノにもそれは判らない。



「…ッ、悪魔め…」
「悪魔で…いいよ…悪魔らしいやり方で話を聞いて貰うから」
 ヴィータの呟いた言葉はなのはの胸に深く突き刺さった。
(ちゃんと話をしたいから、戦わなきゃいけないなら…迷わない)

 なのははレイジングハートをヴィータに向けカートリッジをロードする。


 
「開いたっ! ヴィヴィオ、先に行って!!」

 3人がかりでもかなりの時間を要してしまった。急いで向かわないと間に合わない。

「でも…」

 全員で向かった方が良いんじゃないかとヴィヴィオは思い、躊躇った。

「市街…図書館の近くまで行けばわかるから。もうこっちの私は戦い始めてるの。後でママ達も追いかけるからっ」
「ヴィヴィオ、前に言うたな。『ヴィヴィオがどうしたいかちゃんと考えて動く時が来るって』。失敗したら私ら3人で頭を下げたるっ!!」
「ヴィヴィオ、昔私を助けてくれたんだから大丈夫。ザフィーラを…みんなを助けてあげて」
「う…うんっ!」

 なのは達の開けてくれた結界を何とか通り抜け、ヴィヴィオはそのまま走り始めた。

「RHd封印解除」
「リミットシステム、完全解除」

 ヴィヴィオが走り出したのを見てなのはとはやてが彼女の枷を解いた。



「対象区域の通信妨害、消滅」
「映像…来ます」

 宇宙空間から海鳴全域を監視していたアースラにアラーム音が響き渡った。
 通信妨害が起きてから数十分、何が起きたのか?
 映像とセンサー系が生き返って、リンディは驚愕して立ち上がった。
 他のと比較…比較出来ない巨大な魔力値が1つはっきりと見えたのだ。

(あれは…)
「!! …クロノは?」
「既に現地に飛んでいます。」

 クロノももう動いている。そして小さな光点が3つ。なのはとフェイト、そしてもう1つはきっと…
 アルカンシェルを地上に向けて撃つ事だけはなんとしても避けたい。見ているしか出来ない自分が恨めしかった。



(何で? 何で奪うん? なのはちゃんもフェイトちゃんも…この世界のみんなも)

 数分前、病室に居た筈が突然ビルの屋上に連れてこられたはやては信じられない物を見た。捉えられグッタリしているヴィータと側に倒れているザフィーラの姿。そして2人とはやてを上から見下ろすなのはとフェイト。

「なのはちゃん…フェイトちゃん、何やこれ?」

突然今迄以上に胸が苦しくなる。

「-君は病気なんだよ。闇の書の呪いって言う病気-」
「-もうね、治らないんだ。-」
「-闇の書が完成しても、助からない-」
「-君が助かる事は、無いんだ-」

 冷たく告げる2人の言葉がすぐに理解出来ない。

(何を言ってるん? 闇の書の呪いは前に聞いた。)
それでも助けたい家族は居る。自分の命より大切な家族を

「…そんなん…ええねん。ヴィータを話して。ザフィーラに何したん…」
「-この子達ねもう壊れちゃってるの。私達がこうする前から-」
「-とっくの昔にね壊された闇の書の機能をまだ使えると思い込んで、無駄な努力を続けてた-」
(それが何やって言うん? 壊れてても関係ない)
「…っシグナムはっシャマルはっ?」

 あの子達は何処に行った? はやての脳裏にまさかという考えがよぎる。
 フェイトに促され後ろを振り向くと、そこには2人が着ていた服が散らばっていた。

(まさか…そんなん嘘や…)
「-壊れた機械は役に立たないよね-」
「-だから壊しちゃおう-」
「やめて…やめてぇぇええっ! 何で何でやねん!! 機械やなんてそんなん!」

 2人に向かって引きずって叫ぶ。だが、なのはもフェイトもそれを一瞥し手を振り下ろした。苦悶の声をあげ消えるヴィータに続いて手を伸ばせば届きそうな場所のザフィーラも消えてしまう。
 その瞬間、はやての中で何か黒い物が蠢いた。

「うぁぁぁあああああああっ!!」

 ビルの屋上にはやての声が響き渡った。


~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやってきたら? というのがこの話のコンセプトです。
 2人のはやてと、ヴィヴィオ、なのはと視点がコロコロ変わり読みづらいかもです。本当にすみません。
 はやてと守護騎士達の主従を越えた暖かい家族関係。なのはAsでとても重要な要素だと思っています。もしそれが、壊されたら? しかも友達によって。 一部ではなくアニメのシーン全部をそのまま組み込むのに抵抗がありましたが、ここだけは外せませんでした。
 これからほのぼのからシリアスへ一気に進みます。このまま書き終えられるか少し心配です。

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