第09話 「聖夜の戦い」

「…なに…アレ…」

 ヴィヴィオは走っていては間に合わないと思い、RHdを使い市街地まで飛んできた。
 その途中、ビルの屋上で異常な魔力反応に気付いて近くのビルに隠れ様子を窺っていた。

「わぁぁぁぁあああああっ!」

 叫ぶはやての声と共に魔力の反応が増大してゆく。彼女の変わりゆく姿を見て呆然とする。

「アレが…ロスト…ロギア、なの?」
 禍々しいと言うより黒い、漆黒の黒なんかじゃなくてもっと憎しみや悪意が集まった黒さ。
 あんなのが目の前に現れて、私は立っていられるの?
 足が震えていた。

「…我は闇の書、我の力の全てを…」

 変身を遂げたはやて、闇の書が手を上げ、直上に魔力の球体を生み出した。

「主の願い…そのままに…デアボリック・エミッション…闇に…染まれ」
(何か来るっ!?)

 彼女の口が動いたのを見て咄嗟に影に隠れ身を縮ませる。直後、魔力によって起きた暴風が襲った。

「っっっ!!」

 RHdが勝手に周りに虹色の壁を作りヴィヴィオを守る。

(あ、ありがとう。RHd)

 デバイスに話しかけながら、ヴィヴィオにはRHdやママ達も近くにいるのを思い出して再び立ち上がった。
 足の震えは自然に消えていた。



「何が起こってるの?」

 バイオリンの稽古を終えアリサと2人帰宅中、周りの雰囲気が突然変わる。
 さっきまでの人混みが消え、明かりだけが灯る街は不気味に感じた。

「すずか、これどうなってるのよ…何がおきてるのよ」
「私もわからない…」

 ただ、どこかに逃げなきゃここに居ると危ないとすずかの本能は訴えていた。



「急がないともう始まってるっ。なのはちゃんフェイトちゃん」
「うん」
「わかってる」

 同じ頃、なのは・フェイト・はやての3人はヴィヴィオが抜け出した結界の隙間を更に広げてようとしていた。
 だが突如結界が霞のように消えてしまう。
 3人には何故消えたのか感づいた。
 仮面の男に変身していたリーゼアリアとリーゼロッテがこの世界からクロノによって管理局へと送られたのだ。
 そうであれば、既に闇の書は目覚めている。
 アースラに捕捉外に居るのを願いつつも3人はバリアジャケット・騎士甲冑を纏い市街地へと急いだ。

(あの子が結界を作る前に入り込まんと何も出来ん様になってしまう)
「見えたっ! あっち」

 なのはが闇の書を見つけたのと同時にフェイトも叫んだ

「隠れて、アルフ達がこっちに来る!」

 慌ててビル影に隠れる。

『なのはちゃん、フェイトちゃん、こっからは地上を走っていこ。結界内に入れたら後はヴィヴィオのサポートに回りながらアレの準備したらいい』
『うん、わかった』
『そうだね。了解』

 3人で頷いてそのまま地上へと降り始める。
 だがその時、ヴィヴィオからの念話が3人に飛び込んできた。

『ママっ! ママっ! シグナムさん達が魔導書から出てきたっ! どうしたらいいの?』
「「!?」」
「なんやて!?」

 なのは達は驚いて空に浮かぶ人影を振り返る。
離れていて見えにくいが複数人いる様にも見える。

(やっぱりそう言う使い方したかっ)
 はやての中で引っかかっていた物を理解する。
 この時間に来て主と同じ魔力をどこで使うのか? 
 魔力の蒐集に加えるのであればこの時間のはやてが自分と同じ日に入院したのは説明がつかない。
 同じ性質の魔力だから発動を妨害する者を排除する為に一度蒐集した守護騎士を再び生み出してもおかしくはない。
   
『ヴィヴィオ良う聞いてな、あれはイレギュラーやっ! 今のあの子らは私から取った魔力で生み出されてる。私達の時はあの子達は吸収されたままやった…ヴィヴィオっ! ッツ念話が切れた?』

 途中でヴィヴィオとの念話が切れた。

「結界かっ! ヴィヴィオっヴィヴィオっ…」

 途中で念話が切られそれ以上ヴィヴィオとの念話を繋げられなくなってしまう。
 出て行けないのが歯がゆかった。はやてにとっても、なのは、フェイトにとっても…



『はやてさんっ! なのはママっ! フェイトママっ!!』
 闇の書が結界で辺りを覆った瞬間、はやてとの念話が切れてしまった。
 何度呼び出そうとしてもはやてもなのはとフェイトも見つからない。
 空の上ではなのはとフェイトにユーノ・アルフを加えた4人と闇の書に守護騎士を加えた5人の戦闘が始まっていた。

(元の魔力以下になってて…もしかしてシグナムさん達弱くなってる?)
 
 シグナム達の動きがおかしい。
 すぐに勝負が決まる程の戦力差があって良い筈なのに、そこまで大きな差はないみたいだ。
 それでも闇の書だけが一線を画している。

「私は、私は…どうすれば良いの?」

 イレギュラーな守護騎士の出現。
 でも今出ていったらなのは達にヴィヴィオ自身の姿を晒してしまう。
 どっちに向かっても未来が変わる。

【きっとこの先今聞いた様な事が起きる。だから今のはその時の為のテストや。】

 はやてが前にヴィヴィオに向けて言った言葉を思い出す。

「今がその時なの…」
【ヴィヴィオはどうしたいんや?】
【ヴィヴィオは何がしたいの?】
【ヴィヴィオはどうするの?】

 頭の中ではやてが、あの時その場にいなかった筈のなのはが、フェイトが問いかけてくる。

「私はザフィーラを助けたい。でも、今は…」

 闇の書と守護騎士が止まった。そして

「…咎人達に滅びの光を…」
「まさか、あれはなのはの…」

 集まる桜色の光と

「星よ…集え…全てを撃ち抜く光となれ」

 守護騎士4人による環状魔方陣。

「アルフっ、ユーノっ!」
「あいよっ」

 フェイトが真っ先に気付いてなのはを抱き一気に遠ざかる。落とされない為に距離を取って耐えきるつもりらしい。

(でも、あの魔方陣は増幅か結界破壊。…ダメっ!)
「スターライト…ブレイカー」

 放たれた集束砲が環状魔方陣によって加速・増幅されなのは達が居る方向へ一直線に伸びた。




『フェイトちゃん、アリサちゃん達を』

結界内に逃げ遅れた人が居た。
 しかもそれがすずかちゃんとアリサちゃんだったなんて…2人になのはとフェイトの姿を見られてしまった。
 でも、今のなのはに驚いている時間は無い。

「2人ともそこでじっとして」

 結界魔法と私とフェイトちゃんのシールドで守りきってみせる。
 爆風の様に迫り来るスターライトブレイカーに向けて盾を作る。
 次の瞬間嵐の様な風と巻き上げスターライトブレイカーが襲ってきた。

『なのは、なのは大丈夫』
『アリサちゃんとすずかちゃんが取り残されてるの。!シールドにヒビがっ』

 受けている中、ユーノの念話に答えたなのはの目にシールドの亀裂が入る。

『フェイトちゃん、アリサちゃん達を連れて後ろに逃げてっ。シールドが』
『なのは? まさか結界破壊!』

 言っている間にも亀裂が増えていく。

『急いでっ2人を巻き込んじゃう!!』

 シールド全体がもう崩れると思った時、突然スターライトブレイカーの軌道が変わった。
 何があったのかと首をかしげたのと同時に念話が飛び込んでくる。

『なのは、フェイト。遅れてゴメンね』
『『ヴィヴィオ!?』』
『ただいま♪』
 
 予想していなかった者の声に2人同時に闇の書の方を向く。視線の先、そこには白い服の魔導師がいた。



 ヴィヴィオはスターライトブレイカーの発射に意識を集中していた5人に向かって直下から環状魔方陣をインパクトキャノンで破壊し、乱れた瞬間を狙って闇の書めがけて帯電させた拳で直接殴って吹き飛ばした。

『なのは、フェイト。遅れてゴメンね』
『『ヴィヴィオ!?』』

 知られてしまったから後には戻れない。
 あのままではなのはやフェイトが落とされていると【ヴィヴィオが判断】しヴィヴィオ自身の意志で動いたのだ。
(後悔はしないっ) 

『ただいま♪』

 そう念話を送ると、目の前で体制を立て直した闇の書と守護騎士達に視線を戻す。
 まさか他にも魔導師が居て、隠れているとは思っていなかっただろう。

(あの一撃でもっとダメージ与えられたと思ったのに…)

 すぐに立て直したあたりやはりそこは強力なロストロギアらしい。

「【聖王の血族】か…」

 彼女の呟きに頷く。

「闇の書…夜天の魔導書さんでいいのかな? あなたも古代ベルカのロストロギアみたいだけど、それは私も同じ。」
「…だから…手加減しない。本気でいくから」

 言うのと同時に用意していた砲撃魔法と魔力弾を5人に向けて一気に放った。



「ヴィヴィオ決めたんだね。1人で」
「そうみたい。でも…」
「なんちゅう無茶苦茶な戦い方や…」

 ヴィヴィオが飛び出す少し前、なのは達も闇の書から撃ち出されようとしたスターライトブレイカーの異変に気付いて近くまで来ていた。
 いざとなったら砲撃魔法を撃って守護騎士達か闇の書を動かしてしまえば軌道がずれる。
 でも、なのは達が砲撃魔法を撃つ前にヴィヴィオが動いた。
自分で考え自分の意志で

「ううん、はやてちゃん。ヴィヴィオはよく考えて動いてる。5人がかりじゃ囲まれちゃった時点でおしまい。だからヴィヴィオは魔力弾でシグナムさん達を牽制しながら直接リインフォースさんを攻撃してる。そうすればシグナムさん達は全員で主…リインフォースさんと中のはやてちゃんを守らなきゃいけないから迂闊にヴィヴィオを攻撃で前に出られない」
「それに、エイミイがアリサとすずかを転移させたらすぐになのは達が戻ってくる。それで大差は無くなる」
「なるほどな…」

 なのはははやてが納得したのを見て

「でも、危なくて無茶苦茶なのは当たってるんだけどね。私だったらシグナムさん達を1人ずつ誘い込んでバインドをかけちゃうかな」

 そう言って苦笑いした。



「ここは…学校?」

 静寂に包まれた町の中をアリサと2人で付近を探したが人気が全くなくて、突然空に光が見えた。

「私達…一体」

 その光が何だか危ない物だと思いアリサに手をとられ遠くへ逃げようとした時

「アレ…なのはとフェイトだったわよね?」
「うん、そうだと思う」

 なのはとフェイトが空を飛んできて何かからか守ってくれた。

(一体あれは何だったの? それに…)

 なのはが作った盾みたいなのが壊れかけた時、光のあった場所に別の人影があった様な気がする。

(あれ…もしかして…ヴィヴィオちゃん?)

 この町で今何かが起きていてなのは達が戦っている。
すずかの中で何か言いようの無い不安が渦巻いていた。 



(シグナムさん達、やっぱり遅い…でも5人相手は無理だよっ!)

 なのは達が待機しているのを知らずヴィヴィオは1人で必死に戦っていた。
 今のヴィヴィオでも5人相手はきつすぎる。そう思っていると隙が生まれヴィータに背後を取られた。
 しかし、ヴィータに桜色の魔法球に襲いかかり彼女は後退した。

「ヴィヴィオっ!」
「なのはっ、フェイト」

 直後ヴィヴィオの周りに広がった他の守護騎士と闇の書にも魔法球と金色の刃が向かい5人とも距離を取る。

「ユーノとアルフは?」
「アリサちゃんとすずかちゃんを守ってくれるように頼んだの。2人とも中に入ってたから」
(あの場所で受けた理由はそれだったんだ…)
「すずか達は?」
「さっきエイミイさんが転送してくれた」
「ヴィヴィオ、どうしてここに?」

 フェイトが聞く。

「そんなの後っ! なのはとフェイトでシグナムさん達を何とかしてくれたら押し返せる…と思う。全員を海上まで移動させたら…市街地に残ってる人たちを避難と復旧にアースラが入れる」
「うん」
「わかった」
『なのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィヴィオちゃん。クロノ君から連絡、闇の書の主、はやてちゃんに投降と停止を呼びかけてって』
(投降を呼びかけてって通じるの?)

 5人が集まっている方を見てなのはとフェイトが念話を送った。 

『はい、はやてちゃん、それに闇の書さん止まって下さい。ヴィータちゃんを傷つけたの私達じゃないんです。』
『シグナム達と私達は…』

 念話に答えるように闇の書は一度動きを止める。

「我が主はこの世界が、自分の愛する者達を奪った世界が悪い夢であって欲しいと願った。我はただ、それを叶えるのみ。主には穏やかな夢の内で永久の眠りを、そして愛する騎士達を奪った者達に永久の闇を」
『じゃあどうしてあなたは主…はやての家族だった騎士達を出して戦わせてるの? 無茶苦茶だよ!』

 ヴィヴィオははやてが闇の書を起動させた所からしか見ていない。それまでに何があったのかも判らない。でも1つだけ言える。

『そんなに大切な人達をどうして戦わせるの?』
『闇の書さん!』
「…おまえもその名で呼ぶのだな…」

 ヴィヴィオの投げかけに答えず、闇の書は何かを起動した。地面が震え道が割れていく。

「なのは、フェイト掴まって」

 そう言うと両脇になのはとフェイトを抱えて一気に高く飛んだ。
 さっきまで3人が居た所から爪の付いた紐状の物が次々と現れる。

(吸収した魔力の持ち主の能力が使えるんだ…だからなのはのスターライトブレイカーを‥)

 さっきのシューターで散り散りになっていた守護騎士も闇の書の元に戻る。

「それでもいい…私は主の願いを叶えるだけだ…」

 ヴィヴィオはその言葉に怒りを覚えた。

(あの…あの優しいはやてがそんな願いする筈ないっ!)
『夜天の魔導書…あなたやっぱり闇の書、それで十分だよ。はやてがそんな願いすると思ってるの? あなた一緒に居たんでしょ。願いを叶えるだけのただ道具? はやてはあなた達をそんな風に扱ってたの? 答えてよっ!!』

 その声になのはがこっちを向いている。

「我は魔導書、只の道具だ…」
『だったらどうして、どうして涙を流してるの!? はやての事が好きだったら…はやてが嫌がることするなぁぁぁああっ!』

 ヴィヴィオははやてだけじゃなくシグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラの事が大好きだ。
 だから余計に許せなかった。
 勝手に願いを曲解して解釈し、それを叶えようとする闇の書が
 なのはとフェイトを置いて闇の書と向かい一気に距離を詰める。拳に魔力を集めてもう少しで届くと思ったその時、地上から伸びていた蔦の様な物に動きを止められた

「しまった!!」
「…お前も我が内で眠ると良い…」

 だが闇の書の攻撃はヴィヴィオに届かなかった。

「これで…おあいこ…」
「フェイト…フェイトっ!!」
「フェイトちゃん!!」

ソニックフォームに変わったフェイトがヴィヴィオを庇ったのだ。
 光になって魔導書に呑み込まれていく。蔦を切ってフェイトの居た場所に手を伸ばしたが金色の光は彼女の手の中で霧散してしまった。



~~コメント~~
 高町なのはがなのはAsの世界にやってきたら? というのがこの話のコンセプトです。
 クリスマスイブの戦いが遂に始まりました。
 聖王vs闇の書 というロストロギア頂上決戦 みたいな物も書いてみたいと思いましてこんな形になりました。
 この話を書いている時、フェイトの代わりにヴィヴィオが取り込まれたらどうなるのかな? というパターンも考えていましたが、フェイトが中で見た夢がなくなると…永遠にハラオウンの名前がつかないので(もしかすると、クロノの奥さんって感じで入るかも)こんな形で治まりました。
 Anotherフラグで書いてみても面白いかも知れません。

Comments

Comment Form

Trackbacks