第10話 「聖夜のおくりもの」

 目の前でフェイトが消えた…
 私を助ける為に…庇って消えた…
 私は間違ったの…?
 フェイトママは消えちゃうの?
 消した闇の書に対する怒りが心の奥底から暗い澱みを生み出した。

「うわぁぁぁぁぁあああっ!!」

 ヴィヴィオから魔力の溢れ暴れ始めた。


 
「フェイトちゃん…ヴィヴィオ!?」

 ヴィヴィオの叫びでなのはは我に返った

「ヴィヴィオしっかりして。エイミイさん!!」
『何この数値…状況確認。フェイトちゃんのバイタル確認。闇の書の内部に閉じ込められただけ。助ける方法…現在検討中っ!』
『ヴィヴィオから魔力がっ…まるで…』

 まるでジュエルシードの様だとなのはは一瞬言いかけたが止めた。
そこに誰かの念話が飛び込んでくる。

『ヴィヴィオっ、どうしたの? ヴィヴィオ』
(ヴィヴィオを知ってる人? もしかして…ヴィヴィオのお母さん?)
『ヴィヴィオが大変なんです。フェイトちゃんがヴィヴィオを庇って闇の書に取り込まれちゃって』
『!? お願い、ヴィヴィオを落ち着かせて。間違ってない、ママ達は大丈夫だって』
『わかりました』

 どこかで聞いた声。でもこの際今はどうでも良い。

「ヴィヴィオ、落ち着いてっ。間違ってない、お母さん達大丈夫だからって」
「わぁぁぁぁあああああっ!」
「ヴィヴィオ!」
「!?」

 なのはの声にヴィヴィオの瞳がなのはに向いた。

「大丈夫だよ。お母さん達大丈夫だって、間違ってないって」
「……うん」
『ヴィヴィオ聞こえる? 間違って無いよ。それでいいのママ達は大丈夫だから。』
『…うん…』



(なのはママと思った…)

 なのはの声を聞いてヴィヴィオは我に返った。
 そしてフェイトからの念話を聞いて心を落ち着かせる。   

「ゴメン…もう大丈夫…ありがと」
「フェイトとはやてを取り戻して…ちゃんとこの分お返しさせて貰うから。」
「なのはお願い、シグナムさん達を抑えてて。私は…あの駄々っ子を止める!」

 そう言い再び闇の書へ距離を詰め近距離で砲撃魔法を放ち一気に海上へと追いやった。



「局員到着、戦闘区域外の火災を鎮火します」

 ランディからの報告を受けてリンディは戦闘の様子を見つめていた。
 ギリギリの所でヴィヴィオがなのはとフェイトを助けてくれた。
やはり彼女はこの機会を待っていたのだ。
 しかし今前線で戦っている3人全てが子供。

(第1級ロストロギアを相手に…不甲斐ない大人達ね…)
「無理しないでなんて…言える雰囲気じゃなかったわね」

 せめて彼女達の暮らす町に被害を及ぼさないように…
 現地に入った局員に通達をだした。


 
(5人まとめてだったからわかんなかったけど…やっぱり強い!)

 海上で闇の書を相手に戦うヴィヴィオも打つ手が読まれ徐々に焦りが生まれていた。

「ヴィータちゃん、シグナムさん、目を覚ましてっ!」

 一方少し離れた海上でなのはも守護騎士4人を相手に苦戦を強いられていた。
 主を守る為に作られた守護騎士プログラム。4人で攻防のバランスが完全に取れている。
 バスター・シューターをメインとするなのはの戦闘スタイルでは4人を相手にするには分が悪い。

【Master. Call Me ExelionMode】
「!ダメだよ、あれは本体を強化するまで使っちゃだめだって。私がコントロールに失敗したらレイジングハート壊れちゃうんだよ」
【Call Me Master. Please Call me…】

 レイジングハートも命を賭けて応えてくれようとしている。なのはも覚悟を決める。

「わかった、いくよレイジングハート…フェイトちゃんとはやてちゃんを助けよう。…レイジングハート、エクセリオンモードッ…ドライブっ!!」



(アレはなのはの…エクシードモード!?)

 闇の書との戦闘中、桜色の柱が海に立つのをヴィヴィオは見た。
なのはが持っているレイジングハートの形は…エクシードモードに似ている。
 なのはの決意が伝わった気がした。
 そして、ヴィヴィオも願う。

「私ももっと力が欲しい…フェイトやはやて、みんなを助けられる力を…もっと強い力を…せめて目の前の子を抑えられるだけの力をっ!」

 彼女の強い願いが彼女の中のデバイスに届いた。
【ドクンッ】と言う強烈な鼓動の後になのはと同じ様に虹色の柱が立ち上った。

(これは時の庭園で感じた鼓動と同じ…だったらお願いっ)



「戦闘区域から非常に強い魔力値を確認、レイジングハートではありません。まだ上昇しています。」

 戦闘区域を監視していたアースラのセンサーが異常な値を示している。

(ヴィヴィオさん…まさか)

 リンディの脳裏をよぎったのはヴィヴィオのデバイスに入っているジュエルシードの暴走。

「次元震の兆候は?」
「今のところありません。」
「そう…」

 ジュエルシードが暴走を始めた訳ではないらしい。何が起こるのか固唾を呑んで見守る。


 同じ様に海鳴市街から海岸付近へ戦闘場所を移動したなのはの目にも入った。
 明らかに異常な魔力。さっきの暴走なんて比じゃない位の

「なのは、レリックが暴走したんじゃ…」
「…大丈夫…きっと…大丈夫。あの子はヴィヴィオはそんなに弱くないよ。フェイトちゃん」



 2人の心配する中、虹色の柱が消え中からヴィヴィオが現れた。様子は何も変わっていない。

(怒りにまかせちゃダメ、RHdをっレイジングハートを信じるの)
 RHdにはレイジングハートのシステムコピーが入っている。だったら今戦っているのがどんな相手なのか、どうすれば良いのか知っている。
「単調な攻撃が何度も通ると思ってか」
「言ったよね…貴方はロストロギア…古代の遺物だけど私もそうだって…油断しないでね」

 静かにそう言うと瞬時に闇の書の直前へと移動した。
反応出来ていない彼女の目の前で両手を合わせ砲撃魔法を撃ち出す。 

【ドォォオオオオン】

 辺りを揺るがす爆発に一瞬なのはとシグナム達の動きが止まった。

 煙が流され、さっきまで2人がいた所に現れたのは、闇の書と純白と漆黒のジャケットを纏った騎士の姿。

 ゆりかごの中で精神操作され怒りに任せ戦った時の騎士甲冑は不安定な彼女の心が生み出した物だった。
 RHdに入っていた黒いバリアジャケットはなのはとフェイトが組み込んでくれた物だった。
 次にヴィヴィオが纏った白いバリアジャケットはジュエルシードを組み込む際にリンディが組み込んだ物だった。
 しかし、今は違う。
 ヴィヴィオとレリック・ジュエルシードの3つが完全に同調し彼女自身が生み出した騎士甲冑。
 これが彼女の願いであり力の形。

「…刃を以て、血に染めよ…穿てブラッディダガー」

 闇の書から無数の刃がヴィヴィオに向かって伸びる。しかしその刃は彼女が何かをする前に全て虹色の壁によって遮られた。

「プラズマ…スラッシャー…」

 続けてフェイトの魔力を吸収して取り込んだ魔法を放つ。
 だがそれも、彼女のかざした手に生まれた虹色の盾によって完全に防がれた。

「砲撃魔法は周りに被害を与えちゃうから、コントロールが難しいの…でも、虚像を消すくらいのダメージは通るよね。」

 そう言うと今度はヴィヴィオが砲撃魔法を闇の書へと放った。闇の書はそれを軽く受け止めてしまう。しかしそれはヴィヴィオにとって予想範囲内。

「真似するの、貴方だけの能力じゃないってところ見せてあげる。」

 砲撃魔法を放っている間に生み出した20個の魔法球、それを一気に集束・加速させて撃ち出した。

「クロスファイアッシュートッ」

 機動六課に、ティアナに教えるんだとなのはが練習していたのをヴィヴィオはこっそり覗いていたのだ。
 煙が風に流され再び現れる闇の書。流石に防御・相殺出来なかったかダメージが通っているのがヴィヴィオにも見て取れる。

(これでもちょっとしか通らないか…)

 しかし通るのは通ったのだ。
 ヴィヴィオは考える間もなく動いた。フルコンタクトで打ち倒す。あの駄々っ子が言った【聖王の血族】として、全力で止める為に。
 ヴィヴィオが動いたのと同時に闇の書も動いた。



「なにこれ…」
「……」

 エイミイが呟く。
 アースラに映し出された映像を見てリンディも息を呑んだ。
 ヴィヴィオと闇の書の戦闘。

(これがロストロギアを持つ物同士の戦い…)

 全力だと思っていた星の庭園でのヴィヴィオの力、しかしあれはまだ雛鳥が飛び立てぬのと同じ様に彼女が自分自身の力を扱えていなかっただけ。
 これが全力、もしかするとまだ更に上がある。
 認識が甘かった。
 高速でぶつかる虹色と白色の魔力光、手の出せるレベルじゃない。
 魔力同士の衝撃波だけでもいつ次元震が起きてもおかしくない規模。それが起きていないということはどちらかが、衝撃波に干渉して次元震を起こさぬ様にしているのだろう。

 同じ様になのはも、突然守護騎士達が姿を消えてしまいヴィヴィオの応援に入ろうとしたが、手の出せる世界ではなく見守っている。
 そして、ヴィヴィオの世界のなのはも見守る、2人の戦いを。

「ヴィヴィオ…」
「ヴィヴィオ…」

 2人のなのはは高速で激突する光を目で追うしか出来なかった。



~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやって来たら? というのがこの話のコンセプトです。
 贈り物というより作りだした物じゃないのと思いましたが、細かい所は気にしないで下さい。
 やっぱり書いてしまいました。ロストロギア頂上決戦。後悔はしていません。
 なのはAsではなのはが1人闇の書と戦っていましたが、今回なのはは守護騎士4人を相手にしています。
 ヴィヴィオが守護騎士4人を相手にすると躊躇してしまうのではないか?と思ったからなのですが。4:1ってどんな風に戦ったんでしょうね。

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